徹也の風景 説得  023

 ある日、徹也は山崎に呼び出された。教団本部からはずいぶん離れた指定の喫茶店に、待ち合わせの時間どおりに訪れると、山崎はすでにそこにいた。徹也が注文をする間もなく、一口水を飲むと山崎は話を切り出した。
「徹也くん、眼を覚まそう。沖縄計画は白紙に戻すべきだ」
「山崎さん?。どうしたんですか、何てことをいうんですか」
 徹也にとっては驚いたどころの話しではない。沖縄計画は教祖が神から授かったまさに最重要とも思われる神託である。その御言葉に反することを教団のナンバー2が言いだしたのだから、山崎がおかしくなってしまったのではないだろうかと徹也は本気で訝しんだ。
「おかしいでしょう、どう考えたって」
「いえ、おかしくなどありません。山崎さんこそ、なにをいってるんですか。範彦様の仰ることに今まで間違いがありましたか?」
 自分自身の作り出した虚構のカリスマが、これほどまでに信者たちの思考能力を奪ってしまう事に、山崎ははじめて恐怖を感じた。
「アセンションは精神が向上して次元上昇が起こることを意味しています。つくられた破壊で人類の精神がジャンプするわけがないんですよ。
 教祖のいっていることは、宇宙の真理からかけ離れてしまっています」
「山崎さん、あなたこそおかしくなってしまったんじゃないんですか? 教祖のお言葉に反した行動をしようなんて、それこそ宇宙への反逆ですよ」
 悩める人々の心に付けこんでこの教団は勢力を伸ばしてきた。信仰という名にすりかえられた依存心を巧みに利用して、心の底までをゆだねきる徹也のような人間を、いったいどれだけ生み出してしまったのだろうかと想像して頭を抱えた。
「私は教団を抜けます。とにかく沖縄計画だけは阻止しなければ」
「なぜ? 突然なんてことを言うのですか」
「徹也くん、一緒に教団をやめましょう。
 そして、ほんとうの神の望む道を歩みましょう。沖縄を破壊する権利なんて、私たちは持ってないんです。人を傷つけて、それで魂が磨かれるはずがないんだ」
 それから何度も何度も、山崎は徹也に声をかけた。徹也だけではなく、ほかの多くの信者にもそのことをいい続けた。
「考え直せ徹也くん。その仕事は、君がするべき仕事ではない。真実を見つめ直すんだ」
 その言葉が、山崎が徹也に告げた最後の言葉だった。数日後、山崎は忽然と姿を消し、教団関係者は二度と山崎の姿を見ることはなかった。

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春名尚子

惑星のかけら 2004

どうして世界はこんなにも歪んでしまったんだろう・・・すべてのひとがしあわせに生きられる世界はどうすれば創ることができるんだろう・・・ 世界が滅びる夢を見つづけてきた少女の旅の物語。 20年ほど前に書いていた物語です。古い設定もそのままに発表します。
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