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フォレストリップ‼︎ 〜日本全国、訪れてほしい森のカタログ〜 その①

今度の休日の目的地がまだ決まっていない皆様へ。
魅惑の森を訪ねる旅はいかがでしょうか。

この記事では、僕が歩いた森の中でも、特におすすめしたい!と思った魅力的なスポットを2回に分けてご紹介したいと思います。
選考基準は、

①遊歩道がしっかり整備されている
②森を探索する際の歩行距離がそれほど長くない
③遊歩道上に難所、危険箇所がない
④森林景観が美しい
⑤植生が興味深い
⑥全体的に、景色が綺麗

の6つ。
エリア、森林タイプ(落葉広葉樹林か照葉樹か…)はバラバラで、少々雑多なラインナップとなってしまったことをお許しくださいませ。あと、この記事は書き溜め消化に投稿したモノで、時期的な考慮ができておりません。冬季閉鎖になる森をこの時期に紹介する形となってしまったことも、ご了承ください…(泣)

でもまあ、気に入った森があれば、ぜひ訪ねてみてください〜

それでは、スタート。

1 八幡平(岩手県/秋田県)


八幡平(はちまんたい)は、奥羽山脈にある標高1614mの山と、その周辺の高原の総称。岩手県と秋田県にまたがっています。

八幡平アスピーテラインというドライブウェイが岩手側から秋田側まで貫通しており、車で楽に山頂直下までアクセスすることができます。

↑八幡平アスピーテラインからは、雄大な奥羽山脈の眺めを楽しめる。

八幡平の山頂付近の植生は、亜高山帯針葉樹林。東北の亜高山帯の代表樹種であるオオシラビソが広大な樹海を作っています。オオシラビソは、斜面の傾斜が緩い土地を好む樹種。山頂付近に広大な平原が広がる八幡平は、彼らにとってまさに「理想郷」なのです。

高台からオオシラビソの樹海を見おろすと、その迫力に圧倒されます。
濃緑な針葉をびっしりと茂らせたオオシラビソたちが、広大な平原を覆い尽くしている光景は、なかなか壮観。行ったことがないけれど、北極圏を想起させられます。


↑八幡平山頂の木造やぐらは、格好のオオシラビソ・ウォッチングスポット。異常に葉を密生させた枝葉は、なんだかエイリアンの手足みたい。キモさ・可愛さ両方感じさせてくるなんて……にくいなあ…。
胸キュンが止まらん。

多くの人は、低地に住んでいるため、日常生活の中では広葉樹が優勢な景色としか出会わないでしょう。実際、僕の家の近くの裏山を覆っているのも、専らコナラやクヌギなどの落葉広葉樹。スギの植林地を除けば、針葉樹の森というのは殆どみられません。

もこもことした樹冠の広葉樹林に目が慣れてしまっているものだから、八幡平のオオシラビソ大樹海を見たときの衝撃はヤバい。おお、こんなに壮大な森、刺激が強すぎるぜ…と、いい意味で呆気に取られてしまいます。

普段なかなか見ることができない原生針葉樹の大樹海を見ることで、「高い山に来たなあ〜」という非日常感を味わう。これが、八幡平の森歩きの醍醐味だと思います。

↑見よ、この壮大な景色を…‼︎ジャックロンドン「野性の呼び声」の世界観。源太森からの景色


↑深い深い、オオシラビソの大樹海。普段見慣れたブナ林ではみられない濃緑な林冠に、ワクワク感が止まらない。八幡平の針葉樹林を歩くことは、まさしく樹海を「泳ぐ」作業なのである。

オオシラビソの樹海は、八甲田、森吉、蔵王など、奥羽山脈上の主要な山にいくつか存在します。しかしその中でも、僕は八幡平の樹海が一番好きです。
地平線が出来上がるほどの広大な平原が標高1600mの山の上にある、という地形の特性上、八幡平の樹海にはかなりの”奥行き”があります。高台に登って樹海を見おろすと、どこまでもどこまでもオオシラビソの森〜という光景を拝めます。そんな景色を見た時に感じる、「ここ本当に日本かよ…シベリアじゃないよね…」というエキゾチックさが、たまらんのです。

また、オオシラビソの樹海をはじめとする亜高山帯針葉樹林は、”日本で最も人間の影響を受けていない森”であると言えます。亜高山帯針葉樹林は、人間が居住できないほど寒冷な地域に成立するからです。今自分が眺めている大樹海は、きっと数百年前から、同じ姿のまま、この場所に広がっていたんだよな…。これを感じた時のロマンもヤバい。

そして、そんな森に車で簡単にアクセスできる、という八幡平の立地も最高。

タイムトリップさせてくれたり、シベリア旅行気分を味わわせてくれたりと、普段滅多にできない体験をさせてくれる、オオシラビソの大群。彼らにフォレストリップをコーディネートしてもらえば、夏のお出かけが楽しくなること間違いなしです。


↑八幡平のオオシラビソは、豪雪のせいで幹がぐねる。センスある幹使いで、個性豊かなダンスを披露してくれるサービス精神、さすがです。


↑オオシラビソ群落を歩くと、甘い香りが鼻をつく。この香りは、オオシラビソご本人の葉やヤニの香り。この香りには、穢れや魔物を払う効果があると信じられており、東北のマタギ(猟師)は山に入る前、
オオシラビソの枝を燻してその煙を浴び、身体を清めたと言う。


↑八幡平にはいくつかの湿原が点在しており、そこにニッコウキスゲ、チングルマ、ワタスゲ、コバイケイソウなどが咲き乱れる。こういった高山植物の花々を愛でるのは、八幡平ハイクの定番の楽しみ方だけれど、やっぱりイイ。


↑沼や湿原の周りを、深い深いオオシラビソの樹海が縁取る…。すごく絵になる光景。人間の手垢はついていない風景には、不思議な魔力がある。開放感あふれる景色を全身で楽しみながら、自然の深みにはまってゆく…。豊潤な時間です。

<八幡平>
所在地  秋田県鹿角市/岩手県八幡平市
車でのアクセス  
(青森方面から)東北道・鹿角八幡平ICから国道340号・県道23号(アスピーテライン)経由で37km、1時間
(盛岡・八戸方面から)東北道・松尾八幡平ICから県道45号・県道23号(アスピーテライン)経由で26km、30分
公共交通機関でのアクセス
盛岡から岩手県北バスが、田沢湖から秋北バスが出ています。詳しくは各社のHPへ。
駐車場
あり。頂上レストハウス前の駐車場は有料ですが、そこからアスピーテラインを少し岩手県側に下ったところにある広い駐車スペースは無料。
遊歩道の整備度 主要ルートを歩くだけなら、運動靴で可。安比岳等、八幡平から周辺の山域に入る際は、登山装備が必要
遊歩道の体力度 八幡平内に、危険な箇所はなし。急勾配はあり。
冬季の立ち入り アスピーテラインが11月中旬〜4月中旬に閉鎖されるため、不可。ガイドツアーに参加すれば、樹氷見物に行くことができる。

2 月山南麓のブナ林(山形県)


月山(がっさん)は、山形県中部・出羽山地に聳える標高1984mの火山。湯殿山、羽黒山とともに出羽三山のひとつに数えられており、古来から山岳信仰の場として神聖視されてきました。羽黒山、月山、湯殿山を順に回ると、現在、過去、未来を巡ったことになり、「生まれ変わりの旅」が実現する、という言い伝えは有名で、現在でも多くの人が出羽三山巡礼を行っています。

そんな月山の南麓・山形県西川町に、素晴らしいブナの天然林があります。

西川町は、2019年に積雪量日本一(6m)を記録したこともある、日本有数の豪雪地帯。スキー場は7月まで営業しています。町内の自然博物館のおじさんが「冬場は雪が多すぎてスキーどころじゃなくなるんだよね。スキーができるのは4月からだよ」と教えてくれた時には、さすがに驚きました。

↑ゴールデンウィークの時点でこの積雪。

ブナは、豪雪の山にこぞって進出し、森を作る樹木。それほど雪が降るんだったら、きっとブナ林も素晴らしかろう……。期待を膨らませながら、ブナ林の遊歩道がある山形県立自然博物園への山道を登っていきました。


↑国道112号から自然博物園へ登る山道(旧国道112号)の途中には、見事なブナ二次林が広がる。
写真は弓張平のブナ林。この時点で、ブナの色気にノックアウトされてしまった。

いざ自然博物園に到着すると、ゴールデンウィークなのにもかかわらず、周囲は2mを超える積雪。5月の時点でこれって、真冬の時期はいったいどうなっちゃうんだよ…。迫り来る雪の壁に戦々恐々としながら、ブナ林の周遊路(といっても雪に埋まっていますが)を歩き始めました。

雪の上についたスノーシューの足跡を辿りながら歩いていると、程なくしてブナの天然林に突入。

ブナの得意技、お色気誘惑が始まりやがったぜ……。ブナ林に行くと毎回思うけど、なんで君たちはそんなにもセクシーなんだい?
雪の重みのせいか、月山のブナたちは皆幹をくねらせているのですが、それがまたイイ!幹のくねりが、ブナの色気を何倍にも増幅させ、艶めかしい空気が森全体に放出されるのです。ブナ林は、樹木マニアからしたらガールズバーのような場所なのです。



↑透き通るような美肌の幹に、艶美なボディライン……。惚れました。

春の夕暮れの、柔らかな日差しを下地に、幹と枝を使って優雅な曲線美を描くブナたち。踊っているかのような幹の伸び様に、思わずため息がこぼれます。すべすべ美肌に、その振り付けは反則だよ…。お前ら、色気で僕を誘惑して帰さないつもりだな…。



この森に行った日はちょうど新緑開始時期だったらしく、ブナの枝先では展葉が始まっていました。
白い雪原の上で、みずみずしい緑色の若葉が炸裂。このコントラスト、もはや芸術とも呼べるレベルの美しさです。自分はいま、季節の境界線上にいるんだなあ、というのを実感できます。

この光景は、あまりの豪雪ゆえに、雪解けが春に間に合わないという、月山特有の気候条件が作り出したもの。自然博物園のガイドさんによると、雪は初夏まで残ったままらしく、6月ごろには残雪の上でブナが旺盛に葉を茂らせる様子が見られるんだとか。その光景も、いつか見てみたいなあ。


↑展葉が始まったばかりの時期だったので、どのブナの葉も、まだ芽吹いたばかり。それゆえ、林冠に緑の粉がふりかけられたような、淡い新緑を堪能できた。「緑の爆発」とも例えられる、初夏の過激な色合いの新緑も好きだけれど、早春特有の、朧げな色使いの新緑も好き。
繊細なブナの枝の端々に、緑の灯りが仄かに灯る……。グリーンシーズンが、いよいよ始まります。


↑一際目立っていた、ブナの巨木。雪が溶けて下草や低木が伸び始めると、そいつらに視界が遮られ、ブナのお色気むんむんボディが全然見えない〜なんていう事態が発生する。誰にも邪魔されずに、ロマンチックなムードの中ブナとのスキンシップを楽しむのであれば、早春の残雪期が一番なのかもしれない。

日本のブナ林のほとんどが、拡大造林政策によって杉や檜の植林地に植え替えられてしまったいま、セクシーなブナと好き放題遊べる天然林は本当に貴重です。
しかし、月山界隈にはまとまった規模の天然林がしっかりと残っている印象があります。帰り道、月山を貫く国道「月山道路」を走ると、峰々に広大なブナ天然林が広がっている風景を拝めました。こんな景色が幹線道路沿いから見られる場所なんて、そうそうありません。あまりの豪雪ゆえに植林がそれほど進まなかったのかなあ。

西日のホリゾントライトを浴び、新葉を黄金色に輝かせるブナの大群を見ていると、太古の昔、原始の森が延々と広がっていた頃の東北にタイムスリップしたような気分になりました。

<山形県立自然博物園>
所在地 山形県西川町
車でのアクセス  山形道・月山ICから国道112号旧道を経由して8km、20分
公共交通機関でのアクセス  西川町営バス「志津野営場前」停留所から徒歩10分
駐車場 あり。無料
遊歩道の整備度  運動靴で可。ただし、残雪期は遊歩道が雪に埋もれるため、スノーブーツが必要
遊歩道の体力度  一部に急勾配・階段あり。残雪期の斜面の登り降りに注意。
冬季の立ち入り  博物園の開園期間が5月1日~10月31日までのため、不可。

その②へ続く

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