怖い話_00

注*虫が苦手な方は絶対に読まないでください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「この時間って
 イヤなんだよな~」

部活を終えたあとの帰り道。

昼と夜が入れ替わる、
明るくて暗いこの時間帯は

なんだか知らない世界と
混ざり合ってしまいそうな不安に襲われ、
俺はいつも早足になる。

「あ…」

前方。電柱の陰。

白い野球帽をかぶった少年が立っている。

「ずいぶんレトロな格好だな…」

デニムのショートパンツ、
いや、
ホットパンツっていうのか?

丸出しの太ももに
何故だか俺が恥ずかしくなる。

そういえば
父親の子供の頃の写真に、
似たような格好でバットを持ち
誇らしげにポーズを取ってるのがあったな。

そんなことを考えているうち

パッ、と
少年と目が合ってしまった。

慌てて視線を落とすと、
少年が何かを大事そうに持っているのがわかった。

よく見ると、
小さな丸い缶だった。
アメでも入っているのだろうか。

「ま、いいか… 別に」

通り過ぎようとした俺に、
少年が。

スッと、その缶を差し出した。

「かわいいでしょう?」

蓋を開けた缶の中には…

ウヨウヨと動き回る、

白い虫が、

何匹も。

「うわあああああああ!!!!!!!!!!」

思わず叫んで、
後ろに転びそうになった!

「蚕っていうんだよ。知ってる?」

「か・・・、カイコ!?」

ああ、蚕か!
繭になる、あの蚕ね!

「あ、ああ、うん、
 知ってるよ!蚕だろ!?」

作り笑いをしながら必死に答える。

そういえば、この辺りは昔
養蚕業を営む家がたくさんあったらしい。

今では面影すら無いけど。

少年は、ズイっと缶を差し出して、
俺に言った。

「ねえ、かわいいでしょ? 
 かわいいよね?」

俺は…

「ゴ…ゴメン!
 俺、ダメなんだ!こーいうの!」

缶を振り払うようにして
一目散にその場から逃げた。

後ろで
「カラーン」と
缶が落ちたような音が聞こえたが

俺は振り向かずに
ただ
「早く!遠くへ!」と走り続けていた。


次の日。

「…って事があったんだよ。
 マジ気持ち悪りィ」

教室で、
昨日の出来事を友達に話した。

「ってか、その男の子ヘンじゃね?」

「そうだよなぁ」

イマドキあんな格好の子も珍しいけど、

蚕って…

新手のマニアか?
流行ってんの?

けれども
時間が経つとともに、そんな事も忘れていった。

昼。

給食で配られたうどんが。



皿の中で動いた。





にゅる。

    


「うわああああああああああああっ!!!」





学校中に響き渡るほどの叫び声を上げた俺は、
机をなぎ倒して思いっきり尻もちをついた。

「ど、どうしたんだよ!」

「か・・・蚕が!蚕がぁっ!」

皿からこぼれ落ちたうどん、
いや、

何匹もの蚕が

ビチャビチャと教室の床を這いまわっている。

「何言ってんだよ! 
 蚕なんていねえぞ!?」

「やめてよ!
 気持ち悪くて食べられないじゃない!」

は!?

他の奴らには見えないのか!?

「ここに!ほら、ここに…
 あれっ!?」


うどんが。


目の前には、
皿からすっかりこぼれてしまった
うどんがあるだけだった。


まったく、
散々な午後になってしまった。

女子たちには怒られるし、
男子たちには笑われるし。

担任は

「ちゃんと掃除しておくこと!いいわね!?」

…容赦ゼロだ。
当たり前だけど。


ちくしょう!昨日、あんな…

蚕なんて
気持ちの悪いモンを見てしまったばっかりに。

「クソ!なんなんだよ、あのガキ!」

思い切り石ころを蹴飛ばした帰り道。

昨日と同じ電柱の陰に。

「うわぁ、またいるよ…」

俺を見つけた少年は
嬉しそうに駆け寄って来た。

「ねえ、かわいいでしょ?かわいいよね?」

そう言いながら、
何匹もの蚕が蠢く缶を、俺の顔の前に差し出す!

「やめろ!来るなよ!」
 
振り払った手が缶に触れた。

少年の手から離れた缶は、
カラーン、
と乾いた音を立て、道に転がった。

蚕たちがわらわらと道に広がる。

「あ… ああ…」

泣きそうな顔で蚕を拾い集める少年に
ますます腹が立った俺は


グシャッ


一匹、踏みつぶした。

「キモイんだよ! バカじゃねーの!?」

そう言い放って
真っすぐに家へと駆け出した。


その夜。

「なんだよ…」

「なんなんだよ…!!」

自分の部屋に入った。

はずだった。

のに。

真っ暗で何も見えない。

とにかく何かにつかまろうと
必死で手探りしていると


ぬめっ

「うわあっ!」


柔らかく
ぬめぬめした感触のものが手に触れた。

しかもなんだか…
動いている!?

「ぎゃあああ!!何かいる!!」

完全にパニックになり
涙も鼻水も垂れ流しながら
とにかく出口を探そうと
這いずり回る。

と。

ふいに、
上から光が差し込んできた。

「かわいいね… かわいいね…」

あいつが覗き込んでいる!

でも何か変だ。
妙に…デカい!

まるで俺が小さい缶の中にいるような…

は…?

まさか…

いや、そんな…

背中に汗が流れる。

「かわいいのが ひとつ増えた…」

ニヤッと笑って
そいつが缶の蓋を…

閉めようとしている!!!

「待てよ!! だ、出してくれ!!」

光が

消え…


「いやだあああ!!!」

「閉めないで!!
行かないでくれよおおおお!!!」

1ミリの先も見えない
真っ暗闇。


ズル…ズル…


ピチャ…


ネチャ…
ズズズ… 


たくさんの「何か」が

一斉に俺に近づいていた…



       ・・・完・・・

ありがとうございます。