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「僕はPDFです。スー母さんの息子です」

昨日の朝、地方に住む知り合いから連絡があった。以下はその人から聞いた話だ。

外が何やら騒がしかった。家から出てみると、家の前の道を何人もの男たちが歩いていた。銃を持った兵士や警察官たちと私服の男たちが一人の青年の腰にロープを巻き、引き回していた。幼さがまだ残る青年は叫んでいた。
「僕はPDFです。スー母さんの息子です」

PDFとはPeople's Defence Force(人民防衛隊)の略称で、武器を持ってミャンマー軍(国軍)と戦うグループだ。だが、本当に彼がPDFの一員かどうかはわからない。兵士に銃を突きつけられたら従うしかないからだ。実際にPDFとは全く関わりのない人たちがこの町で何人も逮捕されたり殺されている。

「スー母さん」というのはアウンサンスーチーのことを指している。彼女を慕うミャンマー人は敬愛の念を込めて「アメースー」(スー母さん)と呼んでいる。そのスー母さんの息子だと無理やり青年に言わせているのだ。ちなみに、軍はアウンサンスーチーを蛇蝎のごとく嫌っている。

兵士たちは青年を引き回して市場へと向かった。市場の中でも青年は繰り返し叫んでいた。
「僕はPDFです。スー母さんの息子です」

その後、彼は町外れに連れて行かれ射殺された。彼が倒れた場所のすぐ近くにはなぜか墓地があったという。意図的に墓地の近くで殺害したのだろうか。

私はこの町に行ったことがあり、通りも市場も知っている。青年はこの町を引きずり回され、自分の意思とは違う言葉を叫ぶしかなかった。後に死が待っているは予想していただろう。彼はどんな気持ちで歩き叫び声を上げていたのだろうか。彼の気持ちを考えると辛くなる。

ミャンマー軍はこういう見せしめを頻繁に行っている。軍に逆らうとひどい目に遭うぞという国民への脅しだ。恐怖を見せつけることで、軍への抵抗をあきらめさせようとしているのだ。

しかし、国民の心は軍の思惑とは違った方向に進んでいる。国民に恐怖を見せつければ見せつけるほど、軍に対する憎悪をつのらせていき、武器を手に持って軍に抵抗する人たちが増えている。

強大なロシア軍に抵抗するウクライナ人の気持もきっと同じだろう。ミャンマー国民の多くはもはやミャンマー軍をミャンマーの軍隊とは見ていない。「イヌ」と呼んだり「テロリスト」と呼んでいる。軍はネーピードー(ミャンマーの新首都)からやってきた侵略者でありテロリストなのだ。その侵略者から家族や友人を守るために武器を手にする若者が日に日に増えている。

ところで、武器も貧弱で経験の少ないPDFに対してミャンマー軍は圧倒的な武力を持つ。あっという間にPDFは駆逐されてしまうだろうと、当初は私も思っていた。しかし、なぜかミャンマー軍は弱い。大きな原因はミャンマー軍の士気が低いためだ。まるでロシア軍だ。既に2,000人3,000人以上の将兵と6,000人以上の警察官がCDM(市民的不服従)として逃亡し、そのままPDFに加わる者も多い。

遠く離れたミャンマーとウクライナ、巨大な敵に立ち向かう戦いが今日も続いている。

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