我が家のキッチンに住むオバケ
我が家の台所には、時々オバケが出る。
このオバケ、「うらめしや~」と言いたいらしいのだが、どうにも上手く舌が回らないらしく、「うらしや~」だの「うろめや~」だのと呟いてはこう聞いてくる。
「ねぇ、こわい?こわいでしょ?!」
こわいでしょ。
こう聞いてくるオバケを怖がれるほど、私は純粋な人間ではない。ごめんね、息子。もとい、ごめんね、オバケ。
このオバケ、キュウリが大好物である。今夜の我が家のメニューは冷やし中華だった。私としては、キュウリを千切りにしたいメニューである。
ガサゴソという音に反応して、オバケ登場。
「あっ、キュウリ!!おてつだいしてあげるね!」
オバケがキュウリを食べやすくしてくれた。オバケなりの精一杯で。
冷やし中華を諦めて、モロキュウでも作れば良いですか……?
ありがたいお手伝いをしてくれた後、オバケはいつものように呟いた。
「うまめしや~」
何それ。ちょっとそそられる。旨い飯屋なら喜んで行きたい。
「こわいでしょ?!」
いえ、むしろ美味しそうです。
そんな本音はひた隠し、笑いを堪えてこう答える。
「怖いなぁ。お母さん、オバケ怖いんだよなぁ」
それを聞いたオバケは、待ってました!とばかりにシーツを剥ぎ取り、きらきらのドヤ顔を見せてこう叫ぶ。
「オバケじゃなくて、ちびでしたー!!」
…………。うん……知ってたよ……。
何ならキュウリかじったり折り曲げたりしてる時、ちゃんと顔見えてたし。
「あぁ、良かった!オバケじゃなくて安心したよー!」
「もう、おかあさんはこわがりなんだから。しょうがないなぁ。オレがまもってあげるからだいじょぶだよ!」
いや、オバケ装って怖がらせようとしてたの、むしろ君じゃん……。
「ありがとう!優しいなぁ」
「まぁねー!!」
夏休み中の母は、毎日演技力を試されている。まだまだ未熟な私だが、来月までには劇団○○わりに入れるくらいに鍛えあげられているかもしれない。
皿洗いをしている間。ご飯を作っている間。このやり取りを何度繰り返しているのか、もはや数えることすら面倒である。
オバケは時々、妖怪にもなる。動物にもなる。想像力の翼を羽ばたかせ、小さな息子は何にでも変身出来るようだ。すこぶる羨ましい。
我が家のオバケは今日も元気です。そんなオバケを眉毛を下げながら眺める兄貴も、変わりなく元気です。
夕飯はあれをどうにかこうにか千切りにして、無事に冷やし中華を頂きました。おいしゅうございました。
平和だなぁ。
子どもたちが笑っている。この光景を、来年も再来年も、ずっとずっと守っていけますように。
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