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バーで客がワインの知識を聞いてくるが、正直アルバイトには荷が重い

一年程ダイニングバーでバイトをしていた時期がある。オシャレな店でカッコよく働き、友達にドヤ顔で「あー俺?バーで働いてる。そう、バーで働いてっけど?」と自慢したいがためにやり始めた。

それまでは普通に派遣やコンビニのバイトでしか働いていなかったので、背伸びというか自分の「シックさ」を向上させようと目論んでいたのだ。姑息にも企んでいたのだ。

そして無事面接に合格し、コンセプトがいわゆる隠れ家という個人経営の店にて働くことになった。

お酒とか~ワインとかの種類とかにも興味があってぇぇ~~~」と合格したいがために面接時に発言していたのだが、働き始めていきなり酒の知識を叩き込まれるという事はなかった。

というか無理だった。

店の設備や酒の基本的な作り方、グラスの名前など覚えることが多く、最初は知識の方に割く時間などはなかったのだ。

大変ではあったが、割と望んでいた通りの働き方をすることができたので、僕の心は脳みそにワインでもぶち込まれたのかと思うくらいには酔いしれていた。

「今の俺、イケてね?お盆にワイン乗せて歩いてるぜ、イケてね?」と一歩一歩に自信をみなぎらせ、勤務中は常に僕のドヤ顔が店中にまき散らされていた。

ちなみに分かる人は分かるかもしれないが、地味に今でも自分で凄いと思っているのが、

フルートグラス割ったことないという事である。

結構すごくないですか?あのアスパラのっぽことフルートグラスを働いてて割ったことない人間などそうはいないのではないだろうか。

とはいえ、失敗もありつつそこそこ順調に働いていく。ほかのアルバイトの子達と店長の愚痴で仲良くなり、仕事終わりに飲みに行く。

そんなバイト生活を送っていたのだが、その中で僕にはいつも一つの懸念が存在した。いや一つではなくもっと存在したが、特にどうしようかと悩んでいた問題がある。

ワインの説明である。

普通のカクテルのことを聞いてくる客はほぼいない。海外ビールもあったがそこまで数は多くなかったのと、僕自身一番ドリンクで興味を持っていたのである程度なら客にも説明できていた。

しかしワインだけは別だ。

奴は、いや奴らは別なのだ。


とても対応しきれるものではない。客にバイトたる自分でも初めて見るような文字列を指さして「これどんな風味なの?」と聞かれても「え、あ、や。店長に聞いてみます」と全てを丸投げにしていた男である。

だって知らないもん。その頃はワインの知識に関して勉強していたわけではないし、店長に教わっていたわけではないのだ。

そもそも数が多すぎではないだろうか。同じような名前のワインがメニューにずらりと載っているのは分かるが、カタカナ過ぎて正直素人がいきなり覚えようとしてすぐできるものでもない。英和辞典を読んでる時と気分は一緒である。

後名前も長すぎるのではないだろうか。プロセッコだったりシャルドネだったりソーヴィニヨンだったりと、単語で覚えるならまだしも

『ローズマウント ブレンド トラミネール・リースリング』

え、覚えれる?

こんなのただのアルバイトには覚えようがないはずである。この名前一個覚えるだけで下手したら一日のシフト終わるまである。

これと同じ長さの名前のワインが何十個とある中だと、逆に一個も覚える気をなくしてしまう。それくらいの勢いではあるはずだ。

もちろん何度も注文されている銘柄くらいは流石に覚えるが、それ以外のワインに関しては正直なんの知識もない。

人気な銘柄以外のワインに関する情報はほぼゼロという、これがアルバイトの現実である。

と、少なくとも僕のバイト先ではそのような感じだったのだが、他はどんな感じなのだろうか。

意外と皆記憶していたりするのだろうか。お酒というジャンルには結構中毒性があるらしく、ハマった人たちはこぞって色々と知識を仕入れていたりする。


しかしバイトとして普通のモチベーションでやってる人たちは基本的に僕と同じような感じなのではないかと思うのだ。

客の注文を受け、ワインクーラーから聞いたこともないような銘柄のワインを取り出すときなんかは、いかに素早く見つけられるかが重要となってきたりする。「やべ、ない……。どこだー?うーーーんないないない…………………。てんちょーーーーー!!ちょっといいですかああああ!?」と最終的に自分で見つけられない事態も全然起こり得ていた。


時間がかかってしまうと店の循環も悪くなり、客も「おせぇゴルァ!」としびれを切らしてしまう。判断は常に一瞬を迫られるのだ。

知識や名前を覚えるどころか、置いてある場所を覚えることから始める必要があった。



やはりワインは難しい。
ソムリエの合格率は2018年で26%らしいです。

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