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不惑の子育て

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子育てにまつわる短いエッセイです
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猫と子

猫と子

2013年に猫を引き取ってから、もう8年になる。体も小さく、目と足の悪い子猫はなかなか貰い手がつかなかったようだ。が、最終的には我が家に腰を落ち着けた。その後、わたし自身が離婚をしたり、再婚をしたり、海のそばへ引っ越したり都内へ戻ったり、妊娠して出産したりと、慌ただしい人生を送っていた間も、猫はずっとわたしの家にいた。

心配していた片目の濁りは生活するぶんには困らず、弱々しかった後ろ足はすっかり

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君はぜんぶ忘れてしまうんだろう

君はぜんぶ忘れてしまうんだろう

先日、娘が2歳になった。2年前のあの日、あんなに小さく弱々しかった生き物がもう2歳だなんて、信じられない。娘は生まれた瞬間、肺気胸でNICUへ送致になり、しばらく母子別離が続いた。その間、夫が2つの病院(産婦人科のある病院にはNICUがなかったのだ)それぞれに通い、娘の様子を教えてくれていたが、どこか他人事のような、現実感のない話を聞いている気がしていた。

先に娘が退院し、同じ病院で数日を過ごす

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「心理的ご近所さん」を作ろう

「心理的ご近所さん」を作ろう

物理的ご近所さんができたといっても実家の話。

現在、両親がそれぞれ入院をしていて、実家が人間不在のためこまめに帰って犬の世話や掃除や頼まれごとをしているのだけれど、きのう帰ったとき、お向かいさんが出てきて「ご両親どうかされましたか?」と尋ねてくれた。

聞けば両親は思ったよりご近所づきあいをきちんとしているようで、お惣菜をおすそ分けしたり、車のライトがつけっぱなしだったのを知らせたり、まあそうい

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家族らしいことをする

家族らしいことをする

今日はお昼を外食して、そのまま荻窪タウンセブンの屋上「あおぞらぱーく」へ家族で出かけた。
「あおぞらぱーく」は入場無料の屋上スペースで、遊具があり広場があり休憩所があり、子供連れにはうってつけの場所だ。混雑するエレベーターに乗って屋上へ着くと、走り回る子供たちがたくさん見られた。

我が子はまだ1歳7ヶ月なので、設置されている遊具で遊べるほどでもなく、広場をよちよち歩いていると鬼ごっこをしているお

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「ちゃんとした」女の子

「ちゃんとした」女の子

「ちゃんとしたお嬢さんね」と言われるのが、小さい頃好きだった。近所の人から、親戚から。両親はめったに褒めてくれなかったし、母は持病で入院がちだったから、コミュニケーションをとる機会があまりなかった。

両親との接点が薄い少女がおのずと評価を求める対象は「親以外の大人」になった。どうしても褒められたかった。存在価値を認めてほしかった。褒めにはいくつかバリエーションがあって、「しっかりしたお姉ちゃんね

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親子イベント『パパママ銭湯』に思うこと

親子イベント『パパママ銭湯』に思うこと

9/15(日)に高円寺・小杉湯で開催しました『パパママ銭湯』第2回にご参加いただいたみなさん、ありがとうございました!共同企画にコンテンツプランナーの小沢あやさん、共同開催を「銭湯ぐらし」のみなさんにご協力いただきました。

どういうイベントだったかというと、小杉湯という銭湯で11時〜14時の間を『パパママ銭湯』タイムとしていただき、通常営業と並行して子連れ歓迎の銭湯タイムを設けて、「銭湯ぐらし」

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あなたとわたしのよろけ縞

あなたとわたしのよろけ縞

娘、1歳1ヶ月、だいぶ幼児っぽさが出てきた。大人と同じものを食べられるようになったし、まだ歩きはしないけれど、つかまり立ちと高速ハイハイでどこまでも進む。「あうあう」とか「だぁー」などの喃語しか話せず、「パパ」「ママ」と呼ばれることはないが、どうやらこの人たちは自分に近しい人間だ、というのは認識しているように見える。そしてなんだか「自分の意志」みたいなものを感じることが増えた。

たとえば手につか

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一升餅とカメラロール

わたしには幸せな原体験がある。祖父の家で、毎年のお正月恒例だった、親族の集まりだ。父方の祖父は明治うまれの厳しい人で、箸の持ち方が悪かったり足を崩して座っていると、重くて硬い煙管で頭をコツンとされた。でも近所のお祭りや正月の初詣には必ず連れて行ってくれて、いろんな話をしてくれた、孫に優しいおじいちゃんだった。

お正月には祖父の家に息子(わたしの父)と娘と、孫たちが集った。父は末っ子で、わたしは遅

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娘、1歳。母親、1周年。

 娘が1歳になった。当日は保育園にお休みをもらい、わたしたちも仕事を休んで、朝から晩まで、娘のためだけに時間を使って過ごすぞ!と意気込んで出かけた。とはいえ、実際のところ、初めての遊園地、初めてのボールプールにギャン泣きし、ほうぼう連れ回された娘は帰宅とともに夕食も食べずに翌朝までぐっすり寝てしまい、わたしたちの張り切りも尻切れトンボになったのだが、それもまたよい思い出になったと思う。

 娘の誕

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きみで充電

娘、もうすぐ0歳8ヶ月。抱きしめるとやわらかくて、いい匂いがする。シャンプーや柔軟剤の匂いとは違う、まだ小さな生きものの、すっぱくて甘い匂い。娘はまだ小さく、両腕の中にすっぽりと入る。そんな彼女を正面から抱きあげると、わたしの肩に手を乗せてくれる。時にはぎゅっと服をつかむ。その力の強さに成長を感じて、ハッとする。

頬と首筋にやわらかい感触がふれて、娘の背中に手を回す。優しく力を込めてぎゅっと抱き

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