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キリンビールなんて好きじゃなかった

お酒が飲めるようになってからずっと、「ビールはキリンビール、一択だ」と思っていました。

 外で飲むときも、家に買って帰るときも、他の選択肢はありえない、というレベルでキリンビールを選んでいたのですが、先日ふと「あれ?なんで、キリンビールなんだっけ?」と気付いてしまったのです。ものは試し、と、違うメーカーのビールを選んでみたのですが、じゅうぶんおいしかった。別に味の好みで選んでいたわけでは、なかったんですね。(キリンビールも、じゅうぶんおいしいです。好きです。)

じゃあなんでだろう?と思いつつ、なんとなくそのままにしていたんですが、今回、実家に帰ってきて、ああ、父親がキリンビールが好きだったからだ、と改めて思い出しました。

 わたしが子供の頃、週末は近くに住む祖父母宅におじゃまして、そのまま一泊する習慣があったんですが、そのときの晩酌に出ていたのが、瓶のキリンビールでした。また、うんと小さい頃に住んでいた家には、酒屋さんがケースで瓶ビールを持ってきてくれていて、それを夕食後に父が1本だけ飲むことが、たまにありました。

そのときのことを断片的に覚えていて、祖父と父が瓶ビールを酌み交わしているそばをうろちょろして、あの小さくカットされた、金色や銀色の包みでキャンディのようにくるまれたマグロのおつまみとか、サラミとか、お刺身のきれはしとか、そういう大人たちのおやつのおこぼれをもらうのが、好きでした。黄色い明かりの食卓で、祖父と父が、わたしたち姉妹がはしゃくのを楽しそうに見ていてくれるのが好きでした。テーブルに並んだビール瓶のラベルに描かれた麒麟のイラストを指した父が「この中に「『キ』『リ』『ン』の文字が隠れているんだよ」と教えてくれ、わたしや妹と一緒に探してくれるのが好きでした。「ここに『キ』があった!」と見つけると、すごいねえ、とよく褒めてくれるのが好きでした。

 わたしはお酒好きを自称しているんですが、たくさん飲むのが好き、というわけではありません。また、お酒のいわれに詳しいとか、うんちくを楽しむタイプでもありません。ワインの種類もざっくりしかわからないし、飲んだ日本酒の名前はメモをしておかないと、すぐに忘れてしまいます。
ただ、お酒がある場のくつろいだ感じをとても愛していて、それはもしかしたら、父の晩酌の記憶がベースにあるのかもしれないな、と思ったのでした。とここまで書いてみて、なんかこの話、昔も書いたような記憶があるんですが……、まあせっかく思い出したので、もういちど書いておきます。

 父はだいぶ高齢のため、お酒はほぼ飲まなくなってしまいました。なので、一緒に晩酌を……ということはもうないのですが、たまにわたしが買って帰る甘いものを喜んでくれており、それをコーヒーと一緒におやつにする時間を大切にしなきゃな、と思った次第です。


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