見出し画像

「小学校の科目に発酵があったら面白い」#発酵ツーリズム~発酵から再発見する日本の旅~を見て

GWから7月頭まで、渋谷ヒカリエで開催されている通称「発酵ツーリズム」に行ってきましたので、レポートします。地方や伝統に関心がなくても、老若男女・国籍問わず楽しめて、しかも頭を使わず勉強にもなる展示でした。ファミリーでも、デートでも、友だちとでも楽しめます。特に「地方創生・ローカルビジネス・ツーリズム」に関わっている人は必見です!

発酵は、ローカルの解像度を上げる

発酵について、深く考えたことがない人は多いと思う。ちょっと立ち止まってみると、深く考えてみるまでもなく、発酵は食生活の多くにかかわってきている。

思いついて、自宅の冷蔵庫を開けてみた。醤油・味噌・酢・漬物・ヨーグルト・日本酒etc。1人暮らしの男性宅にもある食材には、発酵が欠かせない。

日々の生活をそんな風に支えている発酵だが、自分を形作る「縦軸(歴史)」と「横軸(地域)」がどのように形成されているかを理解するきっかけにもなる。それに気が付かされた体験が、2019年5月現在、渋谷ヒカリエで開催されている通称「発酵ツーリズム」の展示だった。

普段の食文化に根差している要素の再発見、そしてそれにとどまらず、ほかの地方の文化・歴史の解像度を上げる、最も地続きにある1つを得ることができる。

■展示概要
発酵デザイナー・小倉ヒラクが“全国取材旅”で出会った驚きの発酵食品の数々…見たことのない発酵食品に魅せられる展覧会!見るだけじゃない!食べて・買って・聞いて・体験できる「発酵づくし」の展覧会・47都道府県からそれぞれ異なる発酵プロダクトを一つずつ選定。

見て味を想像する、読んで考える、匂いで感じる

発酵デザイナーである小倉ヒラクさんが、全国の都道府県(!)を回り、自らの手で触れた発酵プロダクトの「実物」「作り手の写真」「製法」をコメント付きで紹介しているのが、この企画の特徴だ。

「あ、麹が呼んでる。」

エモーショナルな投げかけが、展示会場へ誘う。「伝統食」というと、堅苦しいもの・古臭い表現になりがちだが…ポップなデザインと親しみを感じさせる「作り手の写真」の数々が、退屈さを感じさせない。

展示のユニークなところで、展示品のいくつか(1/3ほど)は、実際の匂いを嗅げるようになっている。そうすることで、目でのインプットだけでなく、香りとともに、情報がインプットされ、一気に解像度が上がる。発酵食が、いかに「香り」と切り離せないものかが、実体験として伝わってくる。

会場内では「臭い!」「私は好きだけど…」「これ懐かしい~!!」みたいな会話が飛び交っていた。

展示では、食品ごとに利用されている菌もセットで紹介されている。同じ菌なのに、まったく風味が違う。でも、よく嗅いでみると共通する部分があったりする。

乳酸菌を使ったものは、比較的甘くまろやかな香り
酵母菌を使ったものは、どことなく木っぽい香り
複数の菌を作ったものは、柔らかいインパクト複雑な香り

そして「謎の菌」とあるものは、本当に謎の香りがするのが面白い。個人的には、青森県の「ごど」が面白かった。「嗅覚が混乱する」という得難い経験ができる。認識しているより多くの場面で「乳酸菌や酵母菌の香り」に慣れ親しんでいる自分を自覚する。

たくさんの従妹たち

そういった展示を見て、そして嗅いで巡っていくなかで、最初に思い浮かんだのは「多様性」という言葉だった。

発酵食品の【素材】にあたるもののいくつかは共通する素材を使っている。それなのに、製法や菌、そして環境が違うだけで、まったく違うものが出来上がる。

しかし、一方でどこか共通する風味もまた感じられる。いわば従妹たちが並んでいるようだ。長い日本の歴史のなかで、多発的に起こってきた「文化の融合と独自性が築かれてきた過程」を感じ取ることができる。

そして、その多様性は面白さを、呼び起こされる記憶の欠片は郷愁を誘う。
会場には、老若男女そして海外の人も多く訪れていて、普通の展示にはない「能動性」が観客側にもたらされていたように思える。「自分の土地ではこうだった」という会話が起こっていた。

小学校に「発酵」という科目が、あったら面白い

よく考えたら「発酵」は、食文化の基本だから、世代と人種を超えた共通の話題になりうるのだ。

日本食の根っこである醤油も味噌も発酵食品で、和食の代表料理である寿司も発酵がもとになっている。フランスは「ワイン」、スイスは「チーズ」、アメリカの食には欠かせない「ケチャップ」も実は発酵食品だ。

会場内で起こる会話から「発酵」が世代を超えた日本の文化への関心、国境を超えたほかの国に興味を持つ橋渡しになりうる可能性を感じることができる。

発酵が、小学校の必修科目だったら面白い。自分の土地の発酵食、そして違う土地の発酵食品を学び、他文化理解・世界への関心を育むことができる。発酵食品を作っているおじちゃんおばちゃんに出張してもらってもイイ!

学校の授業を通して、自分が育つ土地・県・国・星のロマンにどんどんつながっていけたら、スケールがでかい。

本企画を企画した小倉ヒラクさんはじめ、地方にプレイヤーが惹きつけられる理由が「ローカルってロマン」ということだと思う。まだまだニッポンには、たくさんの謎や面白い話題が溢れている。

そして、展示の最後の文章はぜひ見てほしい。小倉ヒラクさんの「この旅で思い出す光景の多くは、なぜか暗くて曖昧としている…」という一文で始まるメッセージだ。

それは、発酵して熱い息を吐く米麹のような、自らの身体で文化に向き合っていた人だけが語りかけることのできる生々しく強いメッセージだった。

※発酵ツーリズムは、2019年7月8日まで、渋谷ヒカリエにて開催。


この記事が参加している募集

イベントレポ

いつもサポートありがとうございます!サウナの後のフルーツ牛乳代か、プロテイン代にします。「まあ頑張れよ」という気持ちで奢ってもらえたら嬉しいです。感謝。