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九段理江『東京都同情塔』の挑発。

 友人の編集者に勧められて、九段理江『東京都同情塔』を読んだ。
ザハ・ハディッドの新国立競技場が建っていた仮想未来を描いた作品で、「「犯罪者」に対するこれまでの偏見や差別を、まずは言葉から変えていく」旗印のもとに、都心に豪華なタワーマンションが構想される物語だった。

 こうしたディストピアアイデアとしては、松尾スズキが、ずいぶんまえに、覚醒剤の町を書いていたのを思い出した。全財産を寄付すると、覚醒剤が無限に供給されるポンプを装着できる。ただ、その町から出ることはできない設定だったように思う。
 作家で元暴力団員の阿部譲二が書いていたけれども、ヘロインや覚醒剤は、無限に使える財力があれば、とても愉快に過ごせる。お金が続かないと、犯罪に結びつく。なので、供給源にことかかない反社会勢力の親分のなかには、そんな生活を送っている人もいるとかいないとか。


 ところで、タワーマンションのディストピアとしては、J・G・バラードの『ハイ・ライズ』があり、階層による対立を描いて先駆的だった。今でもときどき取り出しては読み返す。Twitterアカウントで「たわわママ」アカウントが呟くのは、この『ハイ・ライズ』がベースにあるように思う。おそらく「たわわママ」の筆者は、差別主義者を装った教養人なのではないか。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。