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かわいらしいだけじゃない。諧謔がひらめく絵本。『イリオモテヤマネコ ほんとは どっち?』

 旧友のふじむらさんが、なんともユニークな絵本を出版した。『イリオモテヤマネコ ほんとはどっち?』(ふじむらなおこ ぶん くめさとえ え)で、西表島に住むイリオモテヤマネコが主人公である。
 天然記念物の指定を受けているイリオモテヤマネコを単にキャラクター化した本ではない。その愛すべき生態を、「ほんとはどっち?」と二択を提示し、読者に考える時間を与える。たとえば、最初の疑問は、イリオモテヤマネコと三毛の猫の顔が見開きのページにならんでいる。もちろん、正解はすぐにわかるわけだけれど、次の見開きでは、イリオモテヤマネコの顔だけではなく、全身が描かれて、耳や目や尻尾の特徴がわかる。わかるだけではなく、その存在に引き込まれる。
 次々に提示される「ぎもん」に応えうちに、めったに人の前には姿をあらわさないこの「存在」が愛すべき動物に思えてくる。
 なるほど、こんなふうにして、彼らは南の島で、楽しく、懸命に生きているのだとわかってくる。
 やがて、このイリオモテヤマネコは、なにかの暗喩ではないかと思えてくる。他人とまじわりたくない人間、夜にしか活動できない人間、きれいな水が流れている沢のちかくに住んで見たいと思う人間。都市の生活からは、距離を置いて生きていきたいと夢想している読者に、束の間のやすらぎを与えてくれる。
 お話や構成がまず面白い。さらにちょっと諧謔がこめられているしゃれた画風にも、なるほどなとうなずく。
 なんとも小粋な本が出たものだ。

 北品川のnanairo books and GALLERYで、手にとって楽しめる。https://www.instagram.com/nanairobooks/
 

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。