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丑之助の蜆売り三吉は、裸足で雪の庭を歩いたか?

 二月歌舞伎座第三部「鼠小紋東君新形」。

 大正十四年三月、市村座。九十七年前のことである。
 六代目菊五郎が稲葉幸蔵を勤めたとき、蜆売りの三吉は、七代目梅幸(当時の四代目丑之助)だった。雪の日に稽古したが、何度稽古しても、六代目は首をタテに振らない。

「バカヤロ、そりゃ畳の上の歩き方だ。おめえの役は蜆売りの三吉だぞ。最古の筒っぽを来て、紺の腹がけにひざの切れた股引きをはしょったわらじばきの蜆売りという役が、全然ハラに入ってねえじゃねえか。おれが見せるからよく見ておきねえ」(尾上梅幸『梅と菊』日本経済新聞 昭和五十四年)

 そののち現・菊之助の祖父梅幸は、雪のなかに突き出されて裸足であるけと言われた。見かねて母はとめようとしたが、「おめえは藝のことに口出しするな」と一喝されたのだという。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。