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三月国立劇場。菊之助の『盛綱陣屋』は、丑之助が鷹揚たる小四郎を見せる。

 私信ではなくても、封書を開けるのは楽しい。愛用のペーパーナイフを使って、のり付けされたベロの部分に刃を入れる。何か、新しい情報にふれるときの儀式として、とても大切に思っている。

 国立劇場から封書が届いた。

 なんだろう。いつも案内が届く時期ではないのにと思って開いたら、三月歌舞伎公演の案内だった。一月の国立劇場公演筋書で、「演目=鋭意選定中。出演=尾上菊之助ほか」と予告されていた内容が決まったとの知らせだった。

「歌舞伎名作入門」と銘打たれたシリーズで、昨年は『馬盥』だった。今年は『盛綱陣屋』を上演するという。

 もちろん菊之助にとって、佐々木盛綱は初役である。『義経千本桜』の知盛や『引窓』の南与兵衛をすでに演じた菊之助にとっては、この時代物の大作も、「まだ、出していなかったのか」と思えるくらいである。

 このニュースを聞いて、あれっと思ったのは、高綱一子小四郎の配役である。ご承知の通り、昨年の九月、歌舞伎座第三部に幸四郎の盛綱で、この演目が出ている。小四郎は、七代目丑之助、盛綱一子小三郎は、六代目小三郎だった。小四郎は子役屈指の大役だから、この月、コロナウイルス感染症のために、初日から六日が休演と成り、また、配役の一部は、十四日、十五日まで出演できなかった。このような変則的な上演で、小四郎を演じるのは、いかに困難であるかは想像にかたくない。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。