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初心者でも実感を持って「理解できた!」と認識し「この通りにやると成果が出そう!」という軽い興奮を提供できるようになりたい

はじめて読んだ時、これまでわかったようでわからなかった「ブランディング」という概念を、理解できた気がする!と認識(錯覚?)し、この方法論を応用すれば、自分のビジネスでも成果が出せるんじゃないか!?という軽い興奮を覚えた。

目指しているのは「本質的かつ実践的」な理解

この著者は、きっと現場の最前線で毎日、個別の具体的な状況に対して切った張ったをしている、その上、現場とどまらず、抽象度を上げて、本質は何なのか?という思考を重ねている、そんな雰囲気が、使う事例や先回りした懸念点の潰し方から、にじむように伝わってくる。「本質的かつ実践的」な本であることが読むとわかる。

実践的であることと、本質的なことの両立は難しい。実践的な現場人は、成果につながりやすい表層的なテクニックを重視してしまいがちだし、本質的なことを探求すると、抽象度が高く表層的な実践に落ちづらいが重要な概念を大事にせざるを得ない。

ゆえに「本質的かつ実践的」は絶妙なバランスの上にしか存在しないし、そんな理解の切り口や方法論にはなかなか出会うことができない。

しかも、その本質を初心者にもわかりやすく説明するという芸当を「ブランディング」というマーケティングど真ん中のテーマで成立させているという点で本当に尊敬すべき稀有な本だと思う。

初心者の市場は圧倒的に大きい

その分野にどっぷりハマると、世の中の大半は「初心者」ということは忘れられがち。

コンテンツマーケティングの仕事をしているので、検索エンジンの検索数を強く意識する機会が多い。そこでしみじみ思うのは、初心者の多さ。

ビッグワードと呼ばれる月間数万単位の検索数のあるキーワードの検索結果は初心者向けのコンテンツで溢れている。

ブランディングも月間検索数33,100回(Googleキーワードプランナー調べ)というビッグワードだが、検索結果には「基礎知識」「意外と知らない」「今さら聞けない」というタイトルの記事がずらっと並ぶ。「マーケティング」でも「リスティング広告」もそんな感じ。

ゆえに、市場のほとんどを占める初心者に対して、その概念の本質を捉えた上で、わかりやすく説明できることはとても需要が大きい。

伸び悩む中級者に求められるのも「本質」

実は、この本質を捉えた説明は、ある程度知識を得て表面的なテクニックにとらわれて伸び悩んでいる中級者が上級者にステップアップするために必要な考え方への答えとほぼ同じだったりする。

手を動かして経験を重ねてある程度パターン認識で成果を出せるようになった中級者が次に進むには、パターン認識を応用するところから、抽象度を上げて、メタ的に捉えるとどういうことなのか?という本質を考えて掴むことが欠かせない。

中級者が本質を掴んでこれまでの経験を位置づけなおせると、これまで経験したことのない領域でも成果が出せるようになる。これが上級者だと思う。

すなわち、中級者に気づきを与えられないような初心者向けの入門コンテンツは、本質を捉えられていないということ。それは、表面的な入門のための入門をわかりやすく説明しているだけで、実践的だけど、本質まではたどり着けていない可能性が高い。

この初心者から中級者まで一網打尽にできる「本質的かつ実践的」なわかりやすい説明こそ、カテゴリ特化型のコンサルティングビジネスを手がける者の一丁目一番地だと思う。

その点において、本書は秀逸。本書をメタ的に読むことで、「本質的かつ実践的」な初心者向けの説明のコツを掴むことに挑戦してみたい。

コツ1:サイエンスに特化しアートな領域は極力排除

サイエンスとアートの違いは「再現性」。どんなカテゴリでも最終的には再現性のないアートな領域におけるセンスが大事、という結論になる。

さらに、そのカテゴリの入門本を手がけられるようなスタープレーヤーは「アートな領域におけるセンス」があるからこそ、成果が出せている。

ゆえに、その重要性には、どうしても触れたくなるし、むしろ「アートな領域におけるセンス」に対する畏怖の念でコンサルフィを取っている人たちも多いので、その人達からの反論や「こいつわかってない」というマウンティングを想定すると、アートを排除してサイエンスに完全に振り切るのは怖すぎる。しかし、本書は冒頭でそれをやってのける。

ブランド戦略を、理念やロゴではなく、商品・サービスやプロモーションなど、マーケティング4P施策に落とし込んで市場競争力を高める“競争戦略的なアプローチ”で解説する。

大半のブランド本で「理念」は最重要テーマになってるし、なんなら中小企業向けの入門本だと理念のことしか書いてない本もかなりある。

しかし、理念はアート。策定プロセスを再現性あるように説明はできても、理念そのものは再現性がない。むしろ再現性がある時点で、それはもはや理念ではないという矛盾した概念なので扱いが難しい。この扱いが難しいが、ブランドの説明から一般的に切り離せないと思われている「理念」を冒頭の「はじめに」でスコープから外して、本文では一切触れないという徹底した割り切りが他のブランド入門本とは違うところだと思う。

ちなみに、以下の通り、ちゃんとリスクヘッジもできている。

念のためにいえば、私もCIと呼ばれる企業の理念やロゴの重要性は否定しません。実際に、私が経営するコンサルティングファームのインサイトフォースでも、理念やブランドロゴの刷新を含むコンサルティング案件がの2割程度は存在します。でも、理念やロゴを変えるのは、あくまでも“それらが市場競争力の阻害要因で、その変更が競争力向上に寄与する”と判断したときのみです。  逆にいえば、コンサルティング案件の8割は、市場競争力の阻害要因として、理念やロゴのインパクトは小さいと判断されるケースです。

コツ2:上位の目的の手段・道具として位置づけて、目的を押さえ続ける

さきほど引用した、「はじめに」の一文には、もうひとつ注目すべき点がある。

ブランド戦略を、理念やロゴではなく、商品・サービスやプロモーションなど、マーケティング4P施策に落とし込んで市場競争力を高める“競争戦略的なアプローチ”で解説する。

ブランド戦略を「市場競争力を高める」という目的に対する手段・道具として位置づけると割り切っている。これもなかなかできない割り切りだと思う。

さきほどの理念の話とも絡むが、理念を実現しているために企業が存在するのであれば、理念を具現化することが企業の存在意義となり、ブランド戦略自体が競争戦略よりも上位概念に位置づけられて循環参照になってしまう。これがブランディングにまつわる難しさの要因の1つだと思う。

本書は、市場競争力を高める、という目的の手段(下位概念)として割り切ることで整理している。その結果、常に目的に立ち返って、その目的達成に資する手段か、という観点で整理することで目的からずれない、道具としての「ブランディング」の役割を捉えることを実現できている。道具として扱えば実践的な説明からズレることはない。

そのカテゴリに惚れ込んだ人はそのカテゴリ自体の素晴らしさや正しさの説明に終始し目的化しがちである。そのカテゴリのファンや業界人を作ることが目的になっている「ブランディング伝道師」みたいな人は、ブランディングを道具として割り切れないが故に、目的に対する効果を基準に説明することができなくなってしまう。

以前触れた、「ざっくり分かるファイナンス」も道具としてファイナンスを割り切ったことで、本質をわかりやすく提示できていたな、思う。他のファイナンス本は、ファイナンス自体の素晴らしさを伝えることが目的化して、「価値の価格を決める」という目的に対する手段として説明しがちだったが、本書は「経営の道具」と割り切ることで、わかりやすく本質を捉えた説明をすることに成功していると思う。

コツ3:受け手として実感の持てる事例で共感を形成し導入に向けた地ならしをする

入門本を手にするからには、読者の大半は「なんだかよくわからない」という入り口に立っている。その状態の読者にいきなり本質をぶちかましても、入っていかない。重要なことを説明する前に共感を形成して、実感をもって本質を受け入れられる姿勢を読者側につくっていくことが入門本には欠かせない。

そういう意味で本書の「INTORODUCTION」のパートは秀逸。書き出しは以下。

「今日1日で、どれだけのブランドに接しましたか」と聞かれて、正確に答えられる人は恐らくいません。接触の定義や生活実態にもよりますが、 無意識に目にしている広告やロゴを含めると、数百から1000程度のブランドに接しているという調査結果や考察もあります。

そのカテゴリの送り手・提供者としては初心者である読者も、受け手、消費者としては現役バリバリのプロである。このプロの立場から実感のある例えをして共感を形成しているのでスムーズに話に入れる。

ありがちな手法ながら、とても有効だと思う。

この「INTORODUCTION」のパートでは、この他にもありがちな先入観を排除したり、デジタル化という多くの企業が直面する共通課題を提示するなど、全体の1割以上の紙幅を割いて、導入に向けた地ならしをしっかりしている。

この点も、初心者向けの説明を考える上で、おおいに参考になる。

本書が提示した本質的なブランディングのキモは「知覚価値」にある

ここまで挙げた3つのコツ以外にも、しみじみするあるあるネタを随所にぶっこんできたり、なるべく多くの人が知っている事例を用いて説明していたり参考になる点がたくさんある。

自分も5年くらい前に、リスティング広告スタートアップガイドという初心者向けの小冊子を作ったことがある。

この小冊子を書くにあたって、どうしたら本質をわかりやすく伝えかつ実践的な内容に落とし込めるのか四苦八苦した。だからこそ、本書の凄みが実感を持ってわかる。

本書が提示した本質的なブランディングのキモは「事実」と「知覚価値」を明確に区別してブランドを説明したこと

最後に本書自体の本質にも触れておきたい。あくまでも、読みての私にとって、の解釈だけど。

事実なんてものはなくって、知覚価値しか存在しない、この知覚価値を形成し、マネジメントすることこそがブランド戦略である、

これが本質だと受け取った。個人的には、いままでもやもやしていたブランディングに対する怪しさを一気に払拭するだけのインパクトがあった。

ブランド戦略の本質を一言で表現するならば、「ターゲット顧客にこう思われたら選ばれるであろうという価値を決めたら、そのような印象が残るようにすべての顧客体験や施策に一貫性を持たせるよう整える」 ということ。

先週紹介した、「どうせ死ぬのになぜ生きるのか」にも、仏教の世界観として、現実と現象という話が出てきた。この話に近いのではないか。

現象学では「現象の変化」をもたらすものには、現実の変化と、(現象を映す)僕らの心の変化の二つがありうること、そして両者を僕らは自分では区別できない、ということを指摘しています。

共感ポイントは「ウソはばれる」って言い切っていること

あと、追加でもう一つ。本書で全力でうなずいた箇所がある。

ここで伝えたいことは「品質が低くても、ブランドさえうまくつくれば売れるから、品質はないがしろにしてよい」ということではありません。 成熟した技術や市場では、メーカー視点からは「大きな品質差」と思っていても、消費者の大半からは「違いを評価できない」こともあるため、「よい品質を実現するだけでは売れない」ということです。
品質が低いものを高いものに見せるハリボテのブランディングは、一時的に成功しかけても、口コミが発達したインターネット社会では瞬時にメッキが剥げて短命に終わります。そのためモラルの問題だけでなく、経済合理性もありません( 図14)。

「絶対価値」が高いものがちゃんと評価される世の中と矛盾しない形でブランディングを位置づけられることは、自分にとって世界がいい方向に広がっていく。このあたりの話は以下の記事に詳しくかいてある。

初心者でも実感を持って「理解できた!」と認識し「この通りにやると成果が出そう!」という軽い興奮を提供できるようになりたい

本書を読んで得られた感覚を多くの人に提供できるようになること。「本質的かつ実践的」な説明ができるようになること。これが自分が目指したい場所。

そのためには現場の最前線で切った張ったを続けながら、異分野含めてインプットを増やして抽象化して本質的にはどういうことなのか、ということを考え続けていく必要がありそうだ、と思い知った本でした。おすすめです。

著者は以下の本と同じなのもすごい。

毎週、note書いてます

先週、あるカンファレンスに参加して、著者のブランディングについての公演を聞いて、会場の空気を一変させた現場に出くわして。

今週本書を選んだのはそれがきっかけ。

内容は初心者向けなのに、中級者でも気づきがある。そういうコンテンツを作るためには、どうしたら良いのだろう、という視点で本書を読み直しました。

そうすると、真っ直ぐに「ブランディングってなんだろう?」という読み方で読んだ時とは全く違う気づきがあって、本を読むって面白いなと再認識した次第。

※今回は、3月17日(日)~3月23日(土)分











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