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ウソはバレる―――「定説」が通用しない時代の新しいマーケティング(書評と感想まとめ)

【一言で】かれこれ5年くらい、もやもやと考えてた事が、バッチリまとまってる本に出くわした、という話。

「ウソはバレる」という本が2018年に読んだ中で一番良かった(タイトルは良くないけど)

年末、「今年のマイベスト本」を決めるにあたりノミネートを5冊くらい選定するという定例儀式をしつつツイッターを眺めていたら、ノミネートしたうち3冊くらいが含まれた「今年良かった本5冊」というツイートが流れてきて、この人と趣味が合うかも、と思って、自分がノミネートしてないうちの一冊を買ったら良かった本がこれ。

余談だが、この本自体は2016年に発売。(原著は2013年に発売)ビジネス書マニアの自分が、2018年末まで認知できなかったのは、おそらくタイトルのせい。残念過ぎる。これが原著(原題: Absolute Value)と同じ「絶対価値」というタイトルだったら間違いなく飛びついていたと思う。

書いてあること:超情報化時代に突入したので、消費者の意思決定は、相対評価から「絶対価値」に基づいてより的確な判断を下せるように変化している

本書に書いてあることは、ひらたくいえば、題名の通り「ウソはバレる」ってことなんだけど、自分なりのニュアンスで言うと、「ハッタリとか建前では人は動かせなくなる」とか、「価値はもう誤魔化せないぜ」みたいな感じ。

本書を引用すると、、

消費者が知識豊富な専門家や数々の情報サービスへと完璧にアクセスできる世界、過去のユーザーの意見を一発でずばり確かめられる世界では、製品やサービスのおおよその利用体験を予測するのはずっとラクになる。そう、つまり製品やサービスの「絶対価値」がまるわかりなのだ
絶対価値とは、ある製品についての何か普遍的な真実、という意味ではなく、特定の消費者が体験する製品の実際の質という意味だ。つまり、製品を実際に体験する前に、「たぶん使い心地はこんな感じだろう」とわかってしまうのが今の時代なのだ。

商品やサービスを体験する前の期待値と実体験(≒絶対価値)のギャップが、どんどん埋まっていくよって話。

注意しておきたいのは、「絶対」価値というと本質的で唯一無二の普遍的な真実として絶対的な価値があるように錯覚してしまいがちだけど、価値というのは体験を通じて知覚するものなので、体験とセットであり、人によって違うものであることはおさえておきたい。(本書でも繰り返し説明されている。)

まあひと言でいうなら、絶対評価を用いれば真実に近づける、ということなのだが、「真実」という言葉はここではちょっと強すぎる。製品に期待できる内容がわかる、と言ったほうがいいだろう。

「情報爆発時代に消費者に力が移った」なんて散々語られてきたことでは?

情報が増えて、情報を発信できる消費者が力を持って、というのはインターネットの登場以降、何度も何度も語られているのだけど、本書の主張でこれまでと違うと感じたのが「ブランディングの影響力が弱くなる」という見解。

企業にとってもマーケティングの意味は一変しつつある。消費者が絶対価値を簡単に評価できるようになれば、かつて多くの製品やサービスの体験の質を予測する手がかりとなっていた〝相対的要因〟(ブランディング、ロイヤルティ、ポジショニングなど)の影響力は急激に落ちる、ということ

「消費者は情報爆発により選択肢が増えすぎて選べなくなるので、よりいっそうブランドやロイヤリティが重要になる」的な見解がこれまで自分が目にしてきた定説。

それを覆す主張に、救われた思いがした。

もし、本当にそうであれば、自分がもやもやと抱えて来た理想と、現実の方向性が重なるなと。(今日はそのあたりを書いていきたい。記事下部で。)

ちなみに本書の主張、「ブランディングの影響力が急激におちるのはどうしてなのか」だったり、「とはいえ、まだまだブランディングが重要な領域があるよ」って話は、本書に事例も交えてしっかり書いてあるので興味のある方はぜひ買って読んでみてください。

そのうち、ちゃんと、自分の言葉で解釈した内容をまとめて書いていきたいと思ってますが、一旦、あとで自分で見返す用&SEOな意味合いも込めて、目次や参考になる書評をいくつか引用しておきます。

目次
1 時代は「相対」から「絶対」へ
・なぜソーシャル・メディアではマーケティングが効かないのか
 ―経済学者が夢見る「完全情報」世界の到来?
・消費者は本当に“不合理”なのか?
 ―意思決定を操作する「心理戦術」はすべて無効に
・ソーシャル・メディアが生んだ新しい「意思決定パターン」
 ―「情報過多で消費者は混乱する」のウソ
・「カスタマー・レビュー」がマーケターを凌駕する
 ―絶対価値の時代へのシフトが止められない理由
2 これからのマーケティングのかたち
・失われゆく「ブランド」の価値
 ―「ソニーだから安心」の終わり
・ロイヤルティと顧客満足度も「過去」のもの
 ―グーグルですら「これまでの実績」を見てもらえない
・製品の普及パターンもキャズムも消えつつある
 ―マイクロソフトが陥った「カテゴリー」の罠
・ポジショニングや説得はムダ?
 ―フェイスブック・フォンが「フェイルブック・フォン」に終わった理由
3 新しいフレームワーク
・「影響力ミックス」で考える顧客の意思決定パターン
 ―「P・O・M」の3つの影響力を見極める
・顧客とのコミュニケーションは適切か?(応用編1)
 ―「認知」ではなく、「関心」を呼び覚まそう
・市場調査の方法を180度転換しよう(応用編2)
 ―顧客の動きは「予測」するのではなく、「追跡」するもの
・顧客セグメンテーションを見直そう(応用編3)
 ―騙されやすい市場から騙されにくい市場への変化
・「絶対価値」はこれからどこへ向かうのか
 ―「テクノロジー×データ」でツールは加速度的に進化する
・「絶対価値」の世界で勝ち残るマーケターの新しい常識)

参考になる書評まとめ

【書評】『ウソはバレる〜「定説」が通用しない時代の新しいマーケティング』(ダイヤモンド社) | シェイプウィン株式会社

ウソはバレる(イタマール・サイモンソン&エマニュエル・ローゼン著)の書評 | 徳本昌大の書評ブログ!毎日90秒でワクワクな人生をつくる

【書評】ウソはバレる(イタマール・サイモンソン、エマニュエル・ローゼン) – R-style

いかがでしたでしょうか?

マーケティングに関わる人であれば必読の本書。まだご覧になっていない方は読んでみては。









・・・さて、記事が終った感を演出しつつ、流し読みの人を振り切ったところで、ここから、個人的な想いをつらつらと書いてみます。(小心者)

個人的な感想まとめ。(本書による自分にとっての気づき、学び。)

本書に「救われた」ないしは「自分の想いを代弁してくれた」と思う所を一言で言うと、

文脈やフレーミングを使った「心理操作」はどんどん効かなくなっていくというのが大きな方向性。

ということ。

もう「心理操作」はしなくても良くなっていく。そう思うと救われる気持ちがあった。

身の丈以上の「ブランディング」に対する葛藤

これまで、たまに「ブランディング」って行為(手法?)に違和感を持つ時があって。

「0のものを1と言うのはNGだけど、1のものを10というのは許される」
「消費者に魔法をかける」
「こう思ってもらいたいというブランドイメージから逆算してメッセージを発信する」

なんか、このあたり。なんな違うんじゃないかなーと思いつつ、そういうもんなのかなーと思ってきた人生だった。

もちろん「ブランド」に対する勉強不足・経験不足もあるだろうし、間違って理解していることもあるだろうけど、ブランディングという行為には、「心理操作」をして、消費者を騙して企業の養分にする、という側面が少なからずあることが、ずっと引っかかってた。

いち消費者からすれば、「マーケティング」なんてされたくないのが実感

さらに言えば、ブランディングのみならず、マーケティングという言葉には、(本当の定義は一旦置いておいて)その商品やサービスから得られる体験価値の期待値を実体以上に高めて、ある意味、騙して買わせる、という意味合いも含まれてしまっているのが現実だと思う時もあって。

「本音」と「建前」における「建前」をいかにキレイに磨いていくか、その建前が本音と乖離していればしているほど、消費者としては「騙されている」という印象を抱くわけで、そのあたりが、ずっともやもやしていた要因なんじゃないかと。

自分のことを「マーケター」と名乗りたくない理由

だから、ずっと、自分の事を「マーケター」という呼称で名乗ることに抵抗があった。(ってか、今もあって、実際に自分のことを自分でマーケターとは言ったことがない気がする。)

「消費者を心理操作して、本来なら選ばないはずの商品やサービスを買わせる仕事」とも受け取れてしまうのは、やっぱり不本意。

「自分だったら買わないな」という商品・サービスのマーケティングを手伝うことも多い現実

で、実際に、そういうことも少なくない、という現実もあって、

「いやー、これは自分なら買わないかもな、、、」って思う商品やサービスの売上を上げる仕事をこれまで何度となくしてきたはずだし、今もしてるんだと思う。(あんまり深く考えてないようにしてるけど、)

「このサービスであれば、類似のこっちを買った消費者のほうがよっぽと幸せになれるんじゃないか、、、」と思いつつも、広告費をお預かりしている企業の商品・サービスの売上が上がるように、ある種、消費者、ユーザーの心理ハックして、情報の非対称性を利用して、売上を上げてきた部分も少なからずあったんじゃないかと。(あんまり深く、考えないようにしてるけど)

唐突なんですが、昨日読んだ「破天荒フェニックス」で、一番印象的だった箇所は普通の人と違うかも知れないけど、私の場合、ここなんです。

「それで、理由はなんだった?」 
「はい。すいません。社員がみんな買ってました……」  
この思わぬ報告に、僕は思わず〝ぶちギレた〟。
 「はぁ? なんだよそれ! 『社員に強制的に買わせるな』って前にあれほど厳しく言っただろ! そんな、社員に無理やり自腹で買わせて作った数字になんて意味はねーんだよ! 何いらない気を勝手に回してんだよ! 今すぐに全員に返品させて金を返させろ!」 
「ちょ……いや、待ってください。違います! 違います!」
「何が違うんだよ!」
「誰も管理職は『自分で買え』なんて指示してませんよ! みんな欲しくて勝手に買ってるんですよ! 『こういうフレームを待ってたんだ』って『こういうのを掛けて俺たちはずっとお店に立ちたかったんだ』って言って」 

「え?」 

「以前、社長に言われてから、管理職は誰一人として、一度も部下に自分で買うようになんて指示はしてません。今電話したSVたちも、皆んな『思わず欲しくなって買っちゃった』と言ってます。どうしましょうか……? 一応、SVたちには、お客様が優先だから欲しくても、ちょっと待つようにとは言ってたんですが。全員一度、返品するように指示しますか?」 「いや、良いよ。そのままで……」  

僕は嬉しかった

いいなー、と、しみじみ嬉しくなっちゃう。

スタッフ社員が自腹を切ってでも買いたいと思える商品を扱えるようになったこと。だから、自信を持って、嘘偽りなく自社の商品を勧められるようになったこと。このシーンが本当に好き。

知らぬが仏。「やさしい嘘」もあるわけで

きれいごとすぎるのかも知れない。

実際には、価値は相対的で人によって受け取り方は違うわけで、「自分だったら買わない」ってのは、単なる自分の価値観とか趣味趣向の問題であり、ユーザーが望むのであれば、買うべきかどうかを自分が勝手に判断しているのはおかしい、という側面はある。

勝手にその商品を過小評価して自分では絶対に買わないって言ってるだけで、ある人にとっては幸せな選択肢である可能性があることは否定できないって言われたらそうなのかもしれない。

それでも自分を納得させきれられず、このあたりがずっともやもやしていた。

大きな流れは「絶対価値」

現実的には、「心理操作」を手段として選ぶことは仕事としては、引き続きあると思う。

それでも、「心理操作はアリ」という暗黙の了解の中で仕事をするのではなく、大きな流れは絶対価値にあるけれど、与えられた状況下による目的・ゴールを達成するための手段の1つとして「心理操作」を含めた施策を、自覚を持って選択肢として提示する、選択する、という話であれば、やることは同じであっても、気持ちとしては、かなり楽になる。

本書を読んで考えを深めることで、この「もやもや」に明確な指針を持てたことが、自分にとってスッキリしたポイント。

「絶対星」でも、その商品・サービスを選ぶであろう、選ぶべき人に届けたい。

「絶対星」とは、本書に出てくる比喩。

1つの惑星を想像してみよう。仮に〔絶対星〕と呼んでおく。〔地球〕とほとんど瓜二つだが、1つだけ違いがある。〔絶対星〕では、何かを買う前に魔法のボタンを押すと、知りたい情報が何でもわかるようになっている。製品やサービスの質の良し悪し、使って気に入るかどうか。経済学者はこれを「完全情報」と呼んでいる。 この〔絶対星〕の住人はどうやって意思決定を行うだろうか?

すなわち、知りうる情報をすべて与えても、その人がその意思決定をする(であろう)という場合には、いわゆる「心理操作」をしてでも、買わせることはユーザーのためになる、って言っていいいのかなと。(そんなこと本書には書いてないんだけど、暫定的な自分の見解として。)

この「絶対星でもそれを選ぶ人」に届けるのが理想、それ以外は(自分の中では)妥協になる。

今後も妥協まみれで仕事していくことにはなるだろうけど、理想となる指針を持てたことで自分にとっては幾分仕事しやすくなった気がする。

どういう世の中にしていきたいか

最近読んだどの本にも「志を持て」みたいなことが書いてあって。

自分には、そういうの特に無いなー、ただただ戦闘力を上げたい、とずっと思ってきたけれど。

「絶対価値」が高いものがちゃんと評価される世の中は良いなと。

むしろ世の中の消費者が「絶対価値」に基づいて意思決定する、だから(企業側も期待値を煽って心理操作して買わせるという営みではなく)その商品やサービスの体験における絶対価値を向上させる営みに投資していく、という世界が来るスピードを少しでも早めるために、自分の人生を使って貢献できたらいいな、と思う今日このごろ。というのが思ったこと(おしまい)

(最後に)このnoteについて

その週に気づいたことや読んだ本などをまとめていく週報note。
毎週書く!という強制力で文章を書くリハビリを進めていくのが目的。

※今回は、12月30日(日)から1月5日(土)分です。

翌週分はこちら

ダークサイド・スキル 本当に戦えるリーダーになる7つの裏技(書評と感想まとめ)|Satoshi Hasegawa|note

ソウルドアウト長谷川(@so_hasegawa)

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