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公演台本「私ト彼」

私ト彼
 
                  
脚本・演出 長谷川優貴

クレオパトラ二人芝居「私ト彼」
2015年3月21日/22日 @池袋GEKIBA

クレオパトラの事務所を辞めてフリーランスになり、初めての二人芝居。
2日間で計4公演を行い、今までにない構成で観る人をクレオパトラの世界へ引き込んだ。

全ての役を二人でやりきり、一度も暗転せずノンストップで120分やりました。このころからお笑いなのかなんなのかもはやジャンルがわからない存在になっていきます。

今改めて読むと、凄くうまい構成になっていて本当に良い公演だったなと思います。


~あらすじ~
あるアパートから見つかったミイラ化した遺体。その遺体から考察し明らかになっていく幾重にも重なる真実。私と彼の二人だけの物語…。
登場人物

■セツコ

■ワタル(21)

■タツオ(26)

■フクロイ(31)

■デメガワ(38)

■父さん(26)

■アヤコ(24)

■ノボル(23)

■リョウコ(23)

■小林(35)
先輩刑事。通称身長デカ。セツコの死亡事件について調べている。

■栗林英夫(29)
後輩刑事。ちゃらくて適当。

~プロローグ~

舞台はボロアパートの一室。
ゴミだめだらけのゴミ屋敷の中にブルーシートがかかった死体が一体。刑事が二人で捜査している。

※ 小林(桑原)・栗林(長谷川) 板付き
M—FO
◆スモークIN〜
L—【夕暮れっぽい照明】

栗林咳き込む

栗林      ああ!ペヤング発見!すげえ!販売中止してるのに!
小林      勝手に証拠品に触るなよ。(しゃがみ込み死体をみている)
栗林      うわ!ゴキブリ!ペヤングまたやりやがった!
小林      それはこの家のゴキブリだ。
栗林      (辺りを見回し)THEゴミ屋敷…人が住む場所じゃないな…。電気つけよ…なんだよ紐かんけいないやつかよ。しかも電気止まってるじゃん!
小林      うーん…自分でナイフを使って…
栗林      少し前この近くの川で婆の水死体見つかったじゃないっすか。最近この辺で自殺はやってるんですかね? (項垂れている小林を覗き込み) ……自殺でしょ。
小林      なにかしっくりこないんだよな…。
栗林      人の死なんてしっくりこないもんっすよ。うわ、この死に方しっくりきたーってことないでしょ?
小林      そういうことじゃなくてだな…なんか見たことある感じが…
栗林      身長デカ!僕は早く帰りたいんです!地元のダチとクラブに行く約束があるんです!
小林      知らねーよ!
栗林      身長デカ!
小林      あとその呼び方やめてくれる?
栗林      え?刑事ドラマみたいにニックネームでよびたいじゃないですか!
小林      ニックネームはみんなが呼ぶからいいの! お前しか呼んでないニックネームはもはや悪口なの! わかるか英夫?
栗林      じゃあその英夫って呼び方もやめてくださいよ! みんな栗林って呼んでるんですよ! 英夫って呼ぶの小林さんだけっすよ。
小林      下の名前なんだからいいだろ。
栗林      元ヤンでしょ?
小林      はあ?
栗林      下の名前で呼びたがる先輩は大抵が元ヤンなんですよ。
小林      偏見だろ! とにかくもう少し現場検証していくからな!
栗林      こんなの科捜研の射手さんに任せとけばいいんですよ。
小林      そういうんじゃなくて……
栗林      どういうのなんですか?
小林      ……(恥ずかしがる)
栗林      どうしたんですか?トイレ?
小林      ……笑うなよ
栗林      はい。なんですか?
小林      ……刑事の感だよ…
栗林      ……爆笑
小林      やめろよ! ハズイだろ! やめろよ! だから言いたくなかったんだよ!
栗林      で、その刑事の……(笑う)感ってやつはなんなんですか?
小林      バカにしてるだろ。
栗林      してますけど、とりあえず話してください
小林      してるんかい……いやな、なんかこの部屋変なんだよな。
栗林      どこが変なんですか? 全然普通のなんの変哲もないゴミ屋敷ですよ
小林      害者は一人暮らしだったよな?
栗林      はい。
小林      ……うーん
栗林      だから! なんなんですか?
小林      ……誰かと二人で暮らしてた感じがするんだ

L【目つぶし】
M 主題曲 CI
OP演出へ
二人が交差して振り向きあったら
L【暗転】
曲を引っ張っている間に二人はける

~来世~
M 主題曲 FO
L【薄暗い照明】

            そこにノボル(桑原)帰宅(登場)

ノボル      ただいまー(服を脱ぐマイム 辺りを見回す 冷蔵庫からビールを取り出す)
M SE 缶ビールを開ける音

ノボル(桑原)リモコンを使ってテレビをつけるマイム

L【テレビがチカチカしているような照明】

少ししてからリョウコ(長谷川)登場

壁にあるスイッチを押して電気をつけるマイム
M SE スイッチの音
L【明転】

リョウコ     ごめん……寝ちゃってた。ご飯できてるから
ノボル      ああ、ありがと。
リョウコ     また、変な夢見ちゃった。
ノボル      夜空で誰かが待ってるやつ?
リョウコ     そう。
ノボル      今大事な時期だから精神的に不安定なのかもよ
リョウコ     でも、怖い感じではないんだ
ノボル      夢占いでもしてみたら?
リョウコ     占いだけでも信じられないのに夢を占うって……詐欺詐欺詐欺みたいな感じよ。信じられないわ。
ノボル      詐欺詐欺詐欺ってなんだよ。
リョウコ     もう最初からオレオレじゃなくて詐欺詐欺っていっちゃう詐欺よ。
ノボル      なんだよそれ。
           リョウコ食事の準備
ノボル      手伝うよ……今は安静にしてないと。
リョウコ     ありがとう。
             二人座って料理を食べだす
             ノボルテレビを見ながら食べる
リョウコ     ノボル! 行儀悪い。この子が真似したらどうするの?
ノボル      生まれるまでには直すよ。
リョウコ     まったく……
ノボル      渋谷区の閑静な住宅地で一家四人殺害……また殺人か
リョウコ     こわいね
ノボル      犯人は逃走中だってさ。こういう人ってどういう気持ちで逃げてるんだろうな
リョウコ     捕まりたくないからじゃないの?
ノボル      捕まらなくてもずっと日陰で暮らさなければならないのに…
リョウコ     幸せじゃなかったんじゃないかな。
ノボル      え?
リョウコ     幸せじゃない生活を変えたくて人を殺して、幸せを探して逃げてる
ノボル      その先には幸せなんてないのに
リョウコ     まあ、本当に不幸な状況の当人にしかわからない話だよね
ノボル      不幸か……でも快楽殺人とかもあるけどね
リョウコ     本当に快楽を得て幸せを感じたら逃げないんじゃない? もう人生おわってもいいって思うはず。でもまだ幸せが足りてないから逃げる。そして逃げてる状況は不幸。
ノボル      ……
リョウコ     って食事中に何の話してるのよ
ノボル      ごめん
リョウコ     ねえノボル
ノボル      なんだよ?
リョウコ     私といて幸せ?
ノボル      どうかな?

~一人暮らし~

L【紫っぽい薄暗い照明】

               
               40代のセツコがゴミ屋敷で一人暮らしをしている
               過去のセツコ(長谷川)セツコ(桑原)
               

過去のセツコ   幸せなわけないでしょーよ!
セツコ      まあまあ……怒鳴るなよ
過去のセツコ   40歳にもなってアンタなんかと二人暮らし。私の人生最悪よ。気持ち悪い。
セツコ      気持ち悪いは余計だろ。
過去のセツコ   気持ちが悪いのよ。気持ちが。体調が悪くても気持ちが良ければなおるわ。病は気からって言うしね。でも、気持ちが悪いときは体調良くても気持ちは悪いままなの。気持ちが悪いって最悪なのよ! ああ、気持ちが悪い!
セツコ      だったら、自分でその気持ち悪い毎日を変えようと努力すればよかっただろ
過去のセツコ   今更言われても遅いわよ。
セツコ      おまえのせいだぞ……見ろよこの汚い部屋

~ワタルとセツコ~

L【ピンクっぽい照明】

               21歳のセツコとワタル 同棲生活を始めたばかり
               セツコ(長谷川)ワタル(桑原)
セツコ     意外と広いわね。
ワタル     でも家具置くと雰囲気変わるな
セツコ     築30年とは思えないわね!
ワタル     ここにジョンのポスター張っていい?
セツコ     ダメよ! そこにはケロヨン置くんだから
ワタル     あの駅前の潰れた薬局のやつ本気で持ってくる気かよ?
セツコ     だって一人ぼっちで捨てられててかわいそうじゃない
ワタル     可愛そうって……
セツコ     2DKか……
ワタル     古い家は、広いくせに安いからいいな
セツコ     あ、歯ブラシとかトイレットペーパー買ってこないと
ワタル     あとで俺行くから、一旦休もう。疲れた。
セツコ     食器どこかわからないし、今日は、出前取っちゃおうか
ワタル     いいね!
セツコ     (財布を見て)辞めとこうか……
ワタル     そうだな。節約しないとな。あとでついでに買ってくるわ
セツコ     ついでにケロヨン持ってきてね
ワタル     いやだよ。
セツコ     ちえ……
ワタル     部屋にケロヨンいたら邪魔だろ?
セツコ     はーい
ワタル     俺達二人の部屋なんだからさ
セツコ     二人の部屋…二人の生活……
ワタル     なにセンチな雰囲気だしてんだよ
セツコ     ホントに後悔してない?

~親~
L【蛍光灯がチカチカしているような照明】
M SE電車の音

            ボロアパートの部屋で夫婦が喧嘩してる。旦那は泥酔状態
            アヤコ(長谷川)父(桑原)

父       後悔なんてするくれえだったら最初からギャンブルなんてしねえよ!
アヤコ     あのお金はあの子の学費なのよ!
父       知らねーよ! 小学校なんて金払わなくても卒業させてくれるだろ!
アヤコ     くさい!
父       はあ?
アヤコ     またお酒飲んできたの?
父       俺の勝手だろ!
アヤコ     働いてよ! もう私の稼ぎだけじゃ限界よ! このアパートの家賃だって何か月滞納してると思ってるの?
父       うるせー! (殴る)俺に指図するんじゃねえ!
アヤコ     すぐ叩かないでよ!

~刑事~
L—【夕暮れっぽい照明】

             小林(桑原)栗林(長谷川)

小林       叩くしかないだろ!
栗林       ゴキブリは死骸が一番嫌なんですよ……
小林       生きててその辺うろうろしてるほうが嫌だろ
栗林       じゃあ小林警部は、近くで嫌いな奴がうろうろ歩いてるのと、近くで嫌いな奴の死体が転がってるのどっちが嫌なんですか!
小林       そりゃ、死体だけどさ
栗林       該者の死体とゴキブリの死骸目の前に置いてよくいいますよ。
小林       わざと置いてるわけじゃないだろ。
栗林       あ!わかった!
小林       なにがだ?
栗林       ゴキブリと一緒に暮らしてたんじゃないですか?
小林       はあ?
栗林       さっき小林さんが言ってた、二人暮らし説ですよ
小林       ゴキブリと二人暮らし? 二人じゃないか。一人と一匹……いや、絶対違うだろ
栗林       しかし、さみしいですね。
小林       なにが?
栗林       だって、こんなミイラみたいになるまで誰にも気づかれないなんて…
小林       確かにな。気にしてくれる友達も知り合いもいなかったんだろうな。
栗林       異臭に気づいた隣人の通報で大家が発見か……
小林       どんな人間だったんだろうな
栗林       近隣に聞き込みしてみますか?
小林       おまえクラブはいいのか?
栗林       俺ちゃらくても刑事っすから
小林       本気か?

~来世~
L—【明転】

リョウコ     本気で聞いてるんだから真面目に答えて。
ノボル      幸せだよ。めちゃくちゃ幸せ
リョウコ     良かった
ノボル      どうしたの急に?
リョウコ     殺人事件のニュース聞いてたら気持ちが落ちちゃってさ
ノボル      変なの。。
リョウコ     この子と三人で幸せな家庭作ろうね。
ノボル      ……なあリョウコ
リョウコ     なに?
ノボル      俺の仕事とかでバタバタしてて新婚旅行いけてないだろ?
リョウコ     忙しかったし仕方ないよ。まさか出会って一か月で結婚するとも思ってなかったし。気にしないで。
ノボル      子供生まれて落ち着いたら母さんに預けて旅行しようか
リョウコ     ホントに! 嬉しい!
ノボル      どこいこうか?
リョウコ     青森がいい!
ノボル      青森? なんでだよ。海外とかじゃなくていいの?
リョウコ     なんでだろ? なんとなく思いついたのが青森だったの。変だね。

~ワタルとセツコ~
L【ピンクっぽい照明】
        
ワタル      変かな?
セツコ      変よ。なんで全く後悔してないの?
ワタル      一番幸せな選択だったからかな
セツコ      嘘よ。大学行ってたほうが良かったに決まってる。
ワタル      大学行くよりも君のほうが僕の人生には必要だったんだ。仕事もみつかったし問題ないよ
セツコ      ありがとう……私も看護の仕事頑張る
ワタル      きっとどうにかなるさ。世間から冷たい目でみられようが、世界が真っ暗闇になろうが、僕は君の手を離さない。ずっと一緒だ
セツコ      あーーーーー!
ワタル      なんだよ?
セツコ      大好き!

~タツオとセツコ~
L【緑っぽい照明】

             タツオ(桑原)セツコ(長谷川)
             ふたりの同棲するアパート 

タツオ      どうしたんだよ急に!
セツコ      タツオ愛してる
タツオ      お、俺も……ハズイわ!いえねーよ! 帰ってきたばかりなんだから服ぐらい着替えさせてくれよ
セツコ      今日は仕事だったの?
タツオ      いや、ダチに頼まれてクラブで皿回してきた。
セツコ      またクラブ?
タツオ      色々な人との出会いもあるしさ
セツコ      浮気しなきゃいいよ
タツオ      しねーよ!
セツコ      してもばれないようにしてくれればいいから
タツオ      だからしないって!
セツコ      本命が私なら……
タツオ      しねーよ! この顔だぞ!!
セツコ      …ご、ごめん
タツオ      俺のもてなさなめるなよ。
セツコ      その自身満々なところが好き
タツオ      それにな、俺の周りには浮気するやつはたくさんいる、それはそいつらの自由だ。でも俺は愛した女しか抱かねえ。
セツコ      タツオ……嬉しい

~刑事~
L【夕暮れっぽい照明】

小林       喜びすぎだろ……
栗林       刑事になってはじめて役にたったから
小林       ただ隣の住人の証言きいてきただけだろ
栗林       いつもサボってて聞き込みはじめてしたんで
小林       問題だぞ。でも重要な証言だな。この部屋からは毎日話し声が聞こえていた……
栗林       誰と話してたんですかね
小林       やはり誰かと一緒に暮らしていたのか? ……一度かなりの口論になってたとも言ってたな。もしかすると、その日が殺害当日だったのかもな
栗林       話すって面白い行為ですよね
小林       はあ?
栗林       だって誰かに伝えたいから言葉を話すわけで、ずっと一人なら言葉っていらないじゃないですか
小林       確かに人間の唯一のコミュニケーションだけの為のツールかも
栗林       あ! こいつとはなしていたのかも
小林       そんなわけないだろ
栗林       こいつ懐かしいですね。カエル男爵でしたっけ?
小林       そんな怪人みたいな名前じゃないだろ。
栗林       じゃあ、なんて名前なんですか?

~フクロイとセツコ~
L【青くて海っぽい照明】
M 波の音

             フクロイ(長谷川)セツコ(桑原)
             場所はフクロイの家

セツコ      名前はない。捨ててきた。
フクロイ     そう。
セツコ      深く聞かないのか?
フクロイ     誰しもが歴史を重ねて生きているから。
セツコ      歴史ね……どうしてこんな素性もわからない男を家に?
フクロイ     海を見つめていたあなたが美しくて
セツコ      女からのナンパなんて珍しい。
フクロイ     それに行く場所がなさそうな感じだったしね
セツコ      ふっ。で、あんたはあの海でなにをしていたんだ?
フクロイ     化石を採掘していたの
セツコ      化石?
フクロイ     私は、考古学者。あの海岸沿いに採掘場があって岩垣などからアンモナイトなどが発掘されたり、地層が見れたりするのよ。
セツコ      考古学者……
フクロイ     あなたはなにをしてたの?
セツコ      えー
フクロイ     フクロイよ。フクロイフクエ。
セツコ      フクロイさんは星好きかい?
フクロイ     好きよ。なんで?
セツコ      私もある本がきっかけで大好きになったんだ
フクロイ     ある本?
セツコ      銀河鉄道の夜

~一人暮らし~
L【紫っぽい薄暗い照明】

過去のセツコ   その本にさわらないで!
セツコ      こんな本もういらない
過去のセツコ   うるさい!勝手に私のものに触るな!
セツコ      星座に思いを馳せるような歳じゃないだろ
過去のセツコ   黙れ!
セツコ      おまえの星めぐりの旅はとっくに終わってる。いや始まってもいなかったのかも。現実を見ろ
過去のセツコ   ずっと見てきたわよ。現実しか私にはのしかかって来なかった。これ以上私にどうしろっていうの?
 

~親~
L【蛍光灯がチカチカしているような照明】
M SE電車の音

父        どうもしなくていいから酒持ってこい!(蹴る)
アヤコ      あの子が見てるから暴力はやめて! お願い!
父        ガキは寝てろ!
アヤコ      ごめんね
父        いいから早く酒持ってこいよ!(殴る)
アヤコ      お酒はもうないわ。お金がないの
父        嘘つくんじゃねえ!
アヤコ      本当よ!
父        おまえがヘソクリ隠してるのは知ってるんだよ!
アヤコ      やめて!
父        うるせー!
アヤコ      それはあの子の将来のために貯金してるものなのよ!

~ワタルとセツコ~
L【ピンクっぽい照明】

ワタル      貯金もしなきゃな
セツコ      そうね。子供も作りたいし。子供には不自由なく生活させたいものね
ワタル      仕事頑張るよ
セツコ      子供の名前どうしようか?
ワタル      気が早いな。
セツコ      名前は重要よ。ワタルの名前だって意味あるんでしょ?
ワタル      なんて言ってたっけな。多分親は世渡り下手だったから世の中をうまく渡れるようにつけたんじゃないかな
セツコ      そう。名前って親の果たせなかったものを託す意味もあるわよね
ワタル      それも重いけどな。セツコの名前はどんな意味があるの?
セツコ      節っていう字はさ、区切りとかそういう意味の他に、操と組み合わせて節操という言葉になる。最後まで自分を貫いて困難に負けない志を持つというう意味でつけてくれたみたい。
ワタル      いい名前だね。セツコのイメージにぴったりだ。
セツコ      私ね。シャボン玉と星空がすごい好きなの。でも夜にシャボン玉しようとすると親に怒られるのよ。だから一回夜に抜け出して、夜空にシャボン玉吹いてみたの。…夜にシャボン玉は全然見えないんだ。だから街灯の下で吹いてみたら、凄く綺麗で。まるで銀河鉄道のように空に消えていった。
ワタル      じゃあ、しゃぼん玉之助って名前はどう?
セツコ      役所が受理しないわよ。
ワタル      じゃあなんて名前にするんだよ
セツコ      ツバサ
ワタル      いいね。男の子でも女の子でもつけられるし
セツコ      なんの制約もなしに大空を羽ばたいてほしいの
ワタル      きっと素敵な子が生まれるよ
セツコ      楽しみね

~デメガワとセツコ~
L【赤っぽい照明】

               デメガワ(長谷川)セツコ(桑原)
               場所はデメガワのアトリエ

セツコ      ああ、出来上がりが楽しみだ
デメガワ     気が早いよ
セツコ      私はデメガワ君の作品大好きなんだ。あの絵も、あのオブジェも
デメガワ     今回の作品を見たらあんなの作品とは言えなくなるよ
セツコ      今回はなにがテーマなんだい?
デメガワ     それはできてからのお楽しみだよ
セツコ      期待してる
デメガワ     きっと気に入ってもらえると思うよ
セツコ      デメガワ君に出会えて良かった
デメガワ     急にどうしたんだい?
セツコ      君と出会ってから世界に色がついた感じがするんだ
デメガワ     どういうこと?
セツコ      私は一度死んだ。でも止まっていた時間が動き出した。君といると毎日刺激的だ。
デメガワ     僕も君と出会えて良かった。君は強くて素直で真っ直ぐだ。
セツコ      私は、弱くて嘘つきさ。
デメガワ     僕のことを必要として真っ直ぐに愛してくれる。それだけで充分さ。
セツコ      ありがとう。
デメガワ     人間はプライドの為に自分の欲さえも隠ない恥ずかしい生き物だ。もっとありのままに生きるのが真の人間。全てをさらけ出すのが真の芸術だ。
セツコ      さらけ出せというならば私は悪い人間だよ。
デメガワ     悪か善かなんて人間の作った勝手な価値観さ。悪とはなにか罪とはなにか。法律で裁かれなければ罪にはならないのか?全てにおいて真理をついていない。僕たちは真理を知らない。
セツコ      難しい話はわからないけど、私はひどい人間だと思う。
デメガワ     自分を憐れむという贅沢がなければ、人生なんて耐えられない。
セツコ      え?
デメガワ     イギリスの小説家ジョージギッシングの言葉さ。君がどんな過去を背負っているかは知らない。しかし、僕の愛してるのは過去の君でも未来の君でもない。現在の君だ。
セツコ      デメガワ君……愛してる
デメガワ     僕も愛してるよ

~タツオとセツコ~
L【緑っぽい照明】

タツオ      愛してるよ……て、ハズイな!
セツコ      嬉しい! タツオとずっと一緒にいたい。
タツオ      ずっと一緒さ
セツコ      ホントに?
タツオ      ホントさ
セツコ      一人にしない?
タツオ      しないよ
セツコ      私タツオの作る音楽好きよ
タツオ      ありがとう。そういえば、セツコの為にリミックス作ったんだ。聴いてくれ
セツコ      私の為に? 嬉しい! 聞かせて!
           タツオリズムを取る
リアクションセツコ
タツオ      これが俺の音楽さ!
セツコ      世の中にタツオの音楽が広まるように私も手伝うからね
タツオ      メジャーになるつもりはねえ。俺の音楽は、クラブに来る音楽のわかる奴らにだけつたわればいい
セツコ      でも食べてかなきゃならないし……
タツオ      金なんてなんとでもなる。大切なのは毎日が刺激的かどうかだ。刺激のない毎日じゃ良い音楽は作れねえ。
セツコ      そっか……そうだよね
タツオ      腹減ったメシは?
セツコ      ごめん……すぐ作る

沈黙

セツコ      そういえば、最近なんのバイトしてるの?
タツオ      詐欺詐欺詐欺(オレオレ詐欺の感じで)

~刑事~
L【夕暮れっぽい照明】

栗林       昔流行ってたらしいですよ
小林       なんだその詐欺、絶対ばれるじゃないか
栗林       地元の先輩とかそれで結構稼いでましたよ
小林       それはもう騙される奴が悪い
栗林       あ!
小林       どうした?
栗林       ケロヨンだ!
小林       はあ?
栗林       こいつの名前!
小林       どうでもいいわ! 全然いい証言えられなかったんだ。ちゃんと現場検証しろ
栗林       懐かしい!
小林       今度はなんだよ
栗林       ぎんかわてつみちの夜!
小林       もうわざとだろ。銀河鉄道の夜だろ
栗林       そうとも言いますね
小林       そうとしか言わないんだよ
栗林       身長デカは読んだことあります?
小林       あるよ
栗林       どんな内容でしたっけ?
小林       主人公ジョバンニが星を見ていたら寝てしまい。気づくと親友カムパネルラと一緒に銀河鉄道で星を旅をする。すると次々に消えてく人々。そんな中ずっと一緒にいようと誓い合うジョバンニとカムパネルラ。しかし最後にはカムパネルラも消えてしまう。目が覚めたジョバンニは、寝ている間にカムパネルラが命がけで友達を助け死んでしまったことを知る。…ざっと説明するとこんな感じだ
栗林       怖い話っすか?
小林       違うわ!

~フクロイとセツコ~
L【青くて海っぽい照明】
M SE波の音

フクロイ     絶対怖い話よ。だって死人が出てくるもの!
セツコ      フクロイさん銀河鉄道の夜読んだことないの?
フクロイ     ないわ
セツコ      考古学者なのに?
フクロイ     関係ないでしょ
セツコ      学者って色々な本読んでそうだから
フクロイ     私は本は読まない。物質が語ってくれる物語のほうが楽しいから
セツコ      怖い話?
フクロイ     違うわよ。過去があるから私たちは存在している。そして私たちがいるから未来がある。
セツコ      私がいるから未来がある……
フクロイ     その歴史の継ぎはぎを物質から想像するの

~ワタルとセツコ~
L【ピンクっぽい照明】

ワタル      想像しちゃうな
セツコ      なにが?
ワタル      子供が成長するの
セツコ      気が早いよ。まだできてもないんだから
ワタル      そんなこと言ったら名前つけるのも気が早いだろ
セツコ      確かに。でもまずは二人だけの生活を安定させないと
ワタル      女性は現実主義だな。
セツコ      未来よりまずは、今を生きぬかないといけないからね
ワタル      でも、たまには楽しい未来を想像しないと。想像はタダだろ?
セツコ      確かにそうだけどさ
ワタル      ジョンだって言ってるよ。想像してごらんってさ。
セツコ      またジョンレノンの話。もういいわよ
ワタル      言い続ければ想像は作るほうの創造に変わるんだよ。想像は今を生きる僕たちだからできるんだ。今を生きる人。イマジン。
セツコ      ダジャレじゃない。……でも子供の…ツバサとの三人の幸せな生活実現させようね
ワタル      ああ。
セツコ      二人で旅行も行きたいな
ワタル      いいね。行きたい場所あるの?
セツコ      青森!
ワタル      なんで?
セツコ      あそこって林檎食べ放題でしょ?
ワタル      違うよ!
セツコ      あととにかくねぶたが見たい! 一生のうちに一回は見ておきたいのよ!
ワタル      ねぶたは凄いけどあんまり若い子が見たいものじゃないよね
セツコ      お母さんが青森出身で小さい頃よくねぶたのマネしてくれたの
ワタル      ねぶたのマネ……見てみたい
セツコ      てゆーか早く買い物行って来いよ!

~親~
L【蛍光灯がチカチカしているような照明】
M SE電車の音

父        コンビニ行って酒買ってこいよ!
アヤコ      だから、お金がないって言ってるのよ!
父        この金で買ってこい!
アヤコ      このお金だけは絶対に使わせない!
父        なんだとー! 俺にさからってんじゃねえよ!
               プロレスみたいに闘う
               最後に父が蹴りを入れてアヤコ倒れる
               アヤコ睨む
父        なんだその目は?

~デメガワとセツコ~
L【赤っぽい照明】

デメガワ     良い目だ……(抱き寄せる)
セツコ      デメガワ君……
デメガワ     たまに僕たちは洗脳されているんじゃないかと思わないかい?
セツコ      どうしたんだい?
デメガワ     人が作るものに真理はない。人間の言うことは結局なにか起きたことについて理屈をつけてるだけ。愛情はあると思うかい?
セツコ      あるよ。私は君を愛してる。
デメガワ     ないよ。愛情だって後付けさ。なにかわからない感情が現れた時に怖いから名前をつける。殺意を愛情と感じる人間だっている
セツコ      なにが言いたいんだ?
デメガワ     本当は全てに理由なんてないってことさ。生きる意味、愛する意味、殺す理由、死が悲しいという理由、生まれた意味、全ては皆無。愛は美しい、死は悲しい、人を殺すのは罪、人は皆生まれた意味がある。そんな定説は、人間が生きやすいように作った洗脳。
セツコ      じゃあ、何が真実なんだ?
デメガワ     真実なんてないよ。脳が感じて体が動く。それが全てさ。
セツコ      それは少し危険な思想なんじゃないかな…
デメガワ     芸術には、そんな洗脳が邪魔なんだよ。全てをとっぱらいたいんだ。君ならわかってくれるだろ?

~タツオとセツコ~
L【緑っぽい照明】

タツオ      そんな危ない仕事じゃないよ
セツコ      詐欺なんでしょ? 犯罪じゃない
タツオ      俺はタダのバイトで電話番。良くしてくれてる先輩が大丈夫って言ってるから大丈夫
セツコ      でも、もっと普通にバイトしたほうが……
タツオ      俺の本業は音楽なの。ちまちま普通のバイトなんてしたくねえよ
セツコ      でも捕まったりしたら……
タツオ      うるせーよ! お前にバイトのことは関係ねえだろ!
セツコ      ……ごめん
タツオ      ……俺だって色々考えて行動してるんだよ!
セツコ      ……ごめん
           タツオ電話にでる
タツオ      ああ、母ちゃん? 元気元気。バカ言うな仕送りなんていらねえよ。ありがとな。あ、今度彼女さ連れてくからな。うん。じゃあ。おやすみ。
セツコ      お母さん?
タツオ      ああ……(不機嫌そうに)

沈黙
             タツオ覚醒剤をやりだす

セツコ      なにそれ?
タツオ      あれ?お前の前でキメたことなかったけ?
セツコ      それって……
タツオ      おまえもやるか?
セツコ      やるわけないじゃない!
タツオ      心配するな、そんなたかくないんだぜ。先輩がバイヤーしてて安く売ってくれてるからさ
セツコ      値段なんてどでもいいわよ
タツオ      おお!きたー!
セツコ      法律違反だよ?
タツオ      音楽やってるやつはみんなやってるさ。ハイになるとさ曲がふってくるんだよ
セツコ      ねえ、やめよ……
タツオ      はははなんでやめなきゃならねえんだよ
セツコ      逮捕されたら音楽できなくなっちゃうよ
タツオ      そうなったらその時だ
セツコ      そうなったら一緒にいられなくなっちゃうよ! 一人にしないでよ!
タツオ      いちいちうるせーんだよ! (殴る)
セツコ      タツオの体も心配なのよ……
タツオ      先のことなんてどうでもいい! 今が気持ち良ければそれでいいだろ!
セツコ      私のこと愛してないの?
タツオ      おまえこそ、俺への愛はそんなもんなのか? 薬ぐらいで否定するのか? 嫌いになるのか?
セツコ      愛してるから間違ったことしてほしくないの!
タツオ      間違ってるかどうかは俺が決める!
セツコ      法律違反なんだから間違ってるわよ!
タツオ      じゃあ、おまえを愛してはいけないという法律があったら俺はお前を愛しちゃいけないのか?
セツコ      屁理屈言わないで!
タツオ      俺は、おまえが法律違反だろうが、薬中だろうが、人殺しだろうが変わらず愛す。世界が敵になろうがお前の味方だ。お前の全てを受け止める覚悟はできてる。お前の愛はそんなもんか?

~来世~
L【明転】

リョウコ     私、ワタルが死んだら追いかけて死ぬ
ワタル      突然どうした?凄い覚悟だな
リョウコ     絶対に私より先に死なないでね
ワタル      死なないよ。俺は死なない。
リョウコ     うん…もしこの子が誰かに殺されたらどうする?
ワタル      考えたくもないな…
リョウコ     私は、人生かけてどんな手を使ってでも必ず見つけ出してこの手で殺すわ
ワタル      急にどうした!怖いよ!これから新しい命が生まれるのに死ぬ話なんてやめようぜ。

リョウコ     そうね。

窓を開けるマイム
M SE窓が開く音

リョウコ     星が綺麗。ワタルあれ持ってきて
ワタル      また?

~一人暮らし~
L【紫っぽい薄暗い照明】
過去のセツコ   そうよ。いいじゃない。
セツコ      もう悲劇のヒロインぶるのはやめようぜ
過去のセツコ   ぶってるわけじゃない。本当に悲劇しかなかった。それはあなただってよく知ってるはず
セツコ      気持ちはわかるけど
過去のセツコ   幸福な人生を送れるのは一握り。その他のその他大勢は本当の幸せを知らないまま死んでいく
セツコ      嫉妬か?
過去のセツコ   そうね。人のモノを、人の才能を、人の環境を、人の幸せを…全て羨ましく思う。

~刑事~
L【夕暮れっぽい照明】
小林       だって、おまえみたいキャラだったらなんでも許されるだろ。ずるいよな。私なんて昔から真面目に見られてさ。本当は適当でビビりなのに運だけでどんどん出世しちゃってさ。無理してるから未だに毎日プレッシャーだよ。
栗林       まさか小林警部が俺に嫉妬しているとわ!
小林       嫉妬なんて醜いんだけどな。他人と比べちゃうよな。
栗林       でも、俺は俺でちゃらく見られるのがいやで。小林さんみたいに仕事できねえくせに雰囲気だけで出世するやつマジずっけーなと思ってますよ。
小林       英夫はそんな風におもってたのか
栗林       だから、みんななにかしら悩んでるし、人のこと羨ましいって思ってるもんですよ。金持ちは、人の性格や、友人を。貧乏人は、人の富を、名声を。
小林       そんなもんかねえ。
栗林       まあ、誰からも嫉妬されないどん底の人間もいるとは思いますけどね。
小林       これは……
栗林       男女両方の服がありますね。
小林       やはり、該者は同棲かなにかしていたんだ
栗林       うわ! べたべた!
小林       どうした?
栗林       こんなところに変な液体が!
小林       シャボン玉か?
栗林       なんでこんなところに
小林       相当古いやつだな

~フクロイとセツコ~
L【青くて海っぽい照明】
M SE波の音

フクロイ     古いものを見るとね、生きてる実感がわくのよ
セツコ      そんな何万年も昔のこと想像がつかないよ。
フクロイ     それがね、化石をずっと見てると、過去の記憶が少しだけ出てきた気がするのよ。
セツコ      そんなわけないだろ
フクロイ     輪廻転生。私が思うにこの世界には、最初から限られた人数の魂しかなくて、それが死んだり生まれたりを繰り返してるだけなんじゃないかって思うの
セツコ      そんなバカな
フクロイ     今のが極論だとしても一人一人が地層のように過去を未来につないでるのは事実
セツコ      私でも?
フクロイ     人類はね、ネアンデルタール人の後に一度滅びて、五万年の氷河期の後に、また現れた。
セツコ      五万年も
フクロイ     今を生きる私たちは、その五万年をこの一瞬で話、過去と未来を繋ぐことができる
セツコ      過去と未来を繋ぐ……
フクロイ     そうよ。かつてお釈迦様はこの世界は苦の世界だといったわ。生きることは苦しいこと。そんな苦しい思いをしてまで私たちは、歴史を…時間を繋いでるの。どんな些細な出来事だってなくてはいけない。些細な出来事の連鎖が毎日を繋いでる。
               沈黙
セツコ      私の過去を話したらフクロイさんが未来に繋げてくれるかい?
フクロイ     あなたの過去?……いいわよ

~デメガワとセツコ~
L【赤っぽい照明】
セツコ      これ全部デメガワ君の過去の作品かい?
デメガワ     ……
セツコ      綺麗だ。全て余計なものを排除してキャンバスに均一に赤一色で塗り潰してある。赤だけでこんなに色彩を表現して、尚且つバリエーションがだせるものなんだな……
デメガワ     次の作品は君を被写体にしてもいいかい?
セツコ      私をかい? そんな恐れ多いよ
               デメガワ後ろからセツコを抱き寄せ
デメガワ     なにをいっているんだ。君じゃなきゃダメなんだよ。君が好きだ。君の作品作ってもいいよね?
セツコ      綺麗に描いてくれよ……
デメガワ     ああ、任せてくれ。
セツコ      お願いします……

デメガワセツコに何かをかけるマイム
M SE液体がかかる音

セツコ      な、なんだいこのぬるぬるした液体は?
デメガワ     綺麗だよ……
セツコ      絵を描くんじゃないのかい?
デメガワ     絵?そんなありきたりな作品を僕が作ると思うかい?
セツコ      だってこの作品たち……
デメガワ     その絵は作品じゃない。作品をつくったオマケさ
セツコ      オマケ?
デメガワ     さあ、始めるよ……

~来世~
L【明転】
ノボル      わかったよ。ほらもってきたよ。
リョウコ     ありがとう。
ノボル      毎晩よくやるよ。
リョウコ     今日の嫌なこととか空消えてる感じしてスッキリしない?
ノボル      今時、子供もやってないぞ

~刑事~
L【夕暮れっぽい照明】
栗林       ホントっすよね
小林       今時売ってるのかね
栗林       死ぬ前にシャボン玉吹いてたのかな…
小林       死体付近にあったということはそうなのかもな
栗林       だととしたら自殺はなさそうですね
小林       どうして?
栗林       だって、シャボン玉って楽しいときしかしないでしょ。死ぬ前にシャボン玉しますか?
小林       それは、人それぞれだろ

~一人暮らし~
L【紫っぽい薄暗い照明】
過去のセツコ   そうよ。人それぞれよ! だから、私の人生も否定しないで!
セツコ      否定なんてしてないさ。
過去のセツコ   え?
セツコ      二人の人生だろ? 嫉妬なんてやめよう
過去のセツコ   ……うるさい!
セツコ      受け入れるんだ。なんで邪魔するんだ。こんな細い紐ちぎれるに決まってるだろ!
過去のセツコ   ……そうよね。宿命なのよね。このゴミだめにも日は当たる

~ワタルとセツコ~
L【ピンクっぽい照明】
ワタル      ゴミまとめておいてね。明日捨てるから。
セツコ      はーい!
ワタル      コンビニどこにあったっけ?
セツコ      駅前の商店街のとこ
ワタル      あああそこか
セツコ      ケロヨンの近く
ワタル      しつこいな! 考えておくよ
セツコ      やったー!
            ワタルドアを見る
セツコ      どうしたの?
ワタル      いや、このドアを毎日開けたり閉めたりするんだなとおもってさ
セツコ      ドアってそういうもんだからね
ワタル      悲しいことがあっても、楽しいことがあっても、ここを開けて帰ってくる。そしてセツコがいる。
セツコ      そうよ
ワタル      なんて幸せなんだー! っただいまーっていうんだろ
セツコ      そうよ
ワタル      このあと初のただいまです! 乞うご期待!
セツコ      うるさいわね!早く行ってきて!
ワタル      ごめん

~刑事~
L【夕暮れっぽい照明】
栗林       え? 帰るんですか?
小林       今日結婚記念日だったの忘れてた
栗林       それでも刑事ですか?
小林       おまえに言われたくないよ! 遺体も回収されたしさ。あとは司法解剖を待とうか
栗林       わかりましたよ……
小林       ん? (電話取る)はい。なに! わかった。
栗林       どうしたんですか?
小林       DNA鑑定したら、あの遺体は数年前におきた殺人事件の容疑者で逃亡いている女だったらしい……
栗林       詳しい話を聞かせてください

~フクロイとセツコ~
L【青くて海っぽい照明】
M SE波の音

セツコ      わかった。話すよ
フクロイ     ……
セツコ      私の家は、凄く貧乏で、母が毎日頑張って働いてた。学校帰りに母の働く薬局の前で仕事が終わるのをいつも待ってた。さみしかった私は店頭にいたカエルの人形に弱音を聞いてっもらってた。
フクロイ     お父さんは働いてなかったの?
セツコ      父親は酒乱のDVだったから…
フクロイ     そう……
セツコ      父が暴れてる時はいつも現実逃避。外に出て夜中にシャボン玉をふいてた。そんなある日、事件はおきた。

~親~
M―せつない曲 FI
L【蛍光灯がチカチカした感じの照明】
M SE電車の音

アヤコ      ちょっとどこに行く気なの?
父        あのガキの金ならあのガキがいなくなれば俺が使っていいんだよな
アヤコ      なにいってるの! やめて!あの子には手を出さないで! お願い!
父        うるせー! (ふりほどく)
アヤコ叫びながら父を刺そうとする

~フクロイとセツコ~
L【青くて海っぽい照明】
M―せつない曲 FO
セツコ      家の中に戻ると母が父を包丁で刺していた。そして私を見た後自分を刺して死んだ。突然一人ぼっちなった…。なにかにヒビが入る音が聞こえた。施設に入れられた私は、自立したい一心で看護師を目指した。そんな中、高校でできた彼氏と卒業と同時に駆け落ちをして同棲を始めた。相手は金持ちの息子で成績優秀、有名大学への進学も決まっていた。彼は将来が約束されてるはずだったのに……

~ワタルとセツコ~
L【ピンクっぽい照明】

セツコ      お腹へったー!
ワタル      わかった。わかった。行ってくるよ。
セツコ      ペヤングは、やめてよね
ワタル      なんでだよ。この世で一番ペヤングがうまいんだぞ。もしペヤングがこの世界からなくなったら僕は生きて行けないよ……
セツコ      大袈裟よ。ワタルに頼むといつもペヤングなんだもん。もう飽きた
ワタル      わかったよ
セツコ      ケロヨン持ってきてね
ワタル      だからいらないって
セツコ      今の私には必要ないか……
ワタル      え?
セツコ      なんでもない
ワタル      じゃ行ってくる
              ワタルイヤホンをするマイム
セツコ      また音楽聴きながら出かける気?
ワタル      ジョンと話をしてるだけさ
セツコ      何言ってるのよ。危ないからやめなさい
ワタル      大丈夫だって。それより(キス顔)
セツコ      帰ってきてからでいいでしょ。
ワタル      えー! 冷たいなあ!
セツコ      これから何億回もするんだから
ワタル      (笑顔)
セツコ      まんざらでもない顔やめて。
ワタル      じゃいってきます
セツコ      いってらっしゃい

~フクロイとセツコ~
L【青くて海っぽい照明】

セツコ      私のペヤングはこの世界から消えた…
フクロイ     え?
セツコ      ワタルはそのまま帰ってはこなかった。
フクロイ     どうして?
セツコ      交通事故。信号無視した飲酒運転の車にひかれて死んだ…。…想像してごらん僕のいない世界を……そんな幻聴がきこえた。私はまた一人ぼっちになった。想像した美しい未来は消え。全てが意味をなくした。そして、私は、自殺を考えたが、そんなこういまでも意味がないように思えた。そして私は数年ひきこもった。しかし生きるためには働かなければならない。私を助けてくれる人なんていないんだから。最初はクラブで働いたが、できるだけ働きたくない私は、割のいい風俗で働くようになった。なにも抵抗はなかった。後ろめたいと思う人はいないから。ある日仲良くなったお店の友達とクラブに遊びに行った。その時衝撃をうけた。こんな世界があるのかと。閉鎖された空間でで爆音を聞いている時は、全てを忘れられた。過去を思い出さないように私は、遊び狂った。そんな中クラブで声をかけてきた男と付き合うことになった。もうどうでも良かった。一人にならないのなら。そんな軽い気持ちで付き合い始めたのに。もう誰も愛さないつもりだったのに……いつの間にかその男を愛してしまっていた……と思ってた

~タツオとセツコ~
M―せつない曲 FI
L【緑っぽい照明】

セツコ      愛してると法律は別でしょ! あなたが心配なの!
タツオ      うるせー! うるせー! おまえのそういうとこまえからムカついてたんだよ! 法律とか心配とか建前ばかり。本心でぶつかってこいよ! 法律とか音楽続けられないとか関係ねえ! おまえはどうしたいんだ?
セツコ      私は……
タツオ      結局おまえは俺のことなんて愛してない。依存してるだけ……一人になりたくないだけ。自分のことしか考えてないんだよ!
セツコ      ……
タツオ      なんとか言えよ! (殴る)そんなことない愛してるって言えよ!(馬乗りになってなぐる)俺はこんなにあいしてるじゃねえか! なあ? なんとかいえよ!
セツコ      うわー! (立ち上がり包丁を取るマイム 叫びながら刺そうとする)

~フクロイとセツコ~
L【青くて海っぽい照明】
M―せつない曲 FO

セツコ      自分の気持ちがわからなくなったのと、父の暴力のフラッシュバックで気づいたら包丁で刺してた。私は彼の心配よりも先に、捕まる心配をしていた。人生終わったとおもった。また自殺を考えたがやはり死ねなかった。体は生きようとしていた。気づくと逃げていた。そこから私の逃亡生活が始まった。驚いたかい? 私は人殺しなんだ。
フクロイ     ……続けて
セツコ      ……何故か私は逃げ続けた。途中テレビをつけると、指名手配になっていた。彼は母子家庭で母親を大切にしていた。そんな母親がインタビューをうけながら泣き崩れている。心が痛んだが、いつしか逃げ切るのが私の生きる目的になっていた。とりあえず風俗で貯めた貯金をはたいて整形をし、色々場所を転々としながら風俗で働き金を貯めついには性転換もした。とにかく捕まるのが怖かった。そんな中たまたま入ったBARで彼と出会った。彼は男の私を愛してくれた。彼の大きな屋敷での二人の生活がはじまった。
フクロイ     その人には過去を明かしたの?
セツコ      はじめて夜をともにするときに言おうと思ってた。どうせ裸になったら性転換してるのもばれるし。でも彼は誘ってこなかった。性欲がない人なのかとおもった。でもある日……

~デメガワとセツコ~
L【赤っぽい照明】

デメガワ     なぜ怯えているんだい?
セツコ      始めるってなにをだい?
デメガワ     (扉を開けるマイム)
M SE扉の開く音
L【赤に光が差してる感じの照明】
デメガワ     さあ、入って
セツコ      なんだこの部屋?
デメガワ     僕のアトリエさ……
セツコ      熱い! なんだいあれは?
デメガワ     作品を作るために必要な巨大コンロだよ。
セツコ      巨大コンロ? あの上に乗ってるのは?
デメガワ     巨大天ぷら鍋さ。ちゃんと油も入ってるよ。君の為に用意したんだ
セツコ      なにをする気なんだい?
デメガワ     君を天ぷらにして食べる。
セツコ      はあ?
M―恐怖の曲 FI

デメガワ     君を食べたいんだよ。
セツコ      変な冗談はやめてくれよ。
デメガワ     昔、とあるマンションのクローゼットから大量の男性の死体が見つかる事件があった。そこに住んでいた女が殺していたらしい。しかも愛した相手だけを……
セツコ      なんの話だい?
デメガワ     きっと彼女の愛情表現だったんだろうな……僕と一緒さ。僕は愛する人を食べてしまう……
デメガワ近づいてくる
セツコ      デメガワ君……変だよ
デメガワ     どこがだい? この世界に変なものなんてないんだよ。元々存在する全てのモノが変なのだから。
M―恐怖の曲 FO
セツコ      冗談はやめてくれ! (逃げる)
デメガワ     冗談でこんなこと言うもんか!
セツコ      デメガワ君……
デメガワ     僕は、人を愛すれば愛するほど食べたくなってしまう……。でも僕にはこれが普通で……頭ではおかしいと思っても体がいうことを聞かない! 幼いころ母親を食べた。大好きな母親を……。父親には、おまえは生まれてくるべきではなかったといわれたよ。人はどんな味か知ってるかい? 美味しくないんだよ……だから色々な食べ方を試した。でも美味しくはなかった。
セツコ      ならなぜ食べるんだい?
デメガワ     自分でもわからない。でもこれが僕なんだ。何を言われようが、こんな人間が存在している! 存在してしまったらそうやっていきるしかないんだよ。……好きな人を食べることなんてホントはしたくない。愛してるのに……この手でけしてしまうんだ。ずっと一緒にいたいのに。そう思えば思うほど、食べたくなってしまう。一人ぼっちになりたくないよ。なあ、どうしたらいい? 何故僕は生まれた?

セツコデメガワに抱き付く
M―悲しい曲 FI

セツコ      デメガワ君キミは何も間違っていないよ……
デメガワ     キミと僕は似てるな
セツコ      え?
デメガワ     ありがとう……愛してるよ
              デメガワセツコを突き離し叫ぶ
セツコ      デメガワ君―!

~フクロイとセツコ~
L【青くて海っぽい照明】
M―悲しい曲 FO

フクロイ     で、彼はどうなったの?
セツコ      巨大コンロに飛び込んだ。あんなに美しい炎は見たことがない……どうして私は、彼にこの体をくれてやらなかったんだろう
フクロイ     え?
セツコ      私なんてもう死んだようなものだったのに。愛する人の為なら死ねると思ってたのに……もう誰も私の人生に立ち入れさせない。思考が停止し気づいたら海を見ていた。そこであなたと出会った
フクロイ     あなたは病気ね
セツコ      え?
フクロイ     愛なんてありふれたものに過剰に期待し求めてしまう病気。
セツコ      ありふれてなんか……
フクロイ     そう、本当のところは当人にしかわからない。だから、他人はあなたには感情移入できない。どんなに親身になって聞いてる人でも心の中じゃあ、頑張れよ……お前が頑張ってないからだろと思ってる。だって、今私が不幸だって話をしても、あなたはそんなの私に比べたらたいしたことない。頑張れよって思うでしょ? みんな自分が主人公なのよ。地球の歴史から見たらあなたの不幸なんて不幸のうちにはいらないわ
セツコ      そうだな。小さな世界で苦悩してるだけかも……でも私にはこの世界しかないから。……自首しようかな
フクロイ     する気なんてないくせに。あなたの人生よ。自分で決めなさい。
セツコ      なあ……
フクロイ     なに?
セツコ      私は、地獄行きかな?
フクロイ     悪人だって天国にいけるわよ。だって悪人だってこの世に善人と一緒に生きてるんだから。ま、天国があったらの話だけどね。

~刑事~
L【夕暮れっぽい照明】
小林       天国も地獄もない。俺達が捕まえて罪をつぐなわせるだけだ。
栗林       償うって、被害者がスッキリしたいだけでしょ?
小林       はあ?
栗林       だって、捕まらなくても反省して罪を償うやつはいるんじゃないですか。
小林       世間的に罰さないとだめなの
栗林       でた! 世間! なんかあればすぐ世間! なんだよ世間って!
小林       うるさい! 何を言おうがもう死んじゃってるからな……
栗林       真相はわからずじまい
小林       この部屋でなにがおきたのか
栗林       そういえば、小林さんの刑事の感はどうなったんですか?
小林       バカにしてるだろ
栗林       はい
小林       してんのかい……ん?
栗林       どうしたんですか?
小林       これ……
栗林       なんですかその縄?
小林       首つりしようとしたんじゃないか?
栗林       あの天井の紐!
小林       きっとこれがちぎれたんだ。しかし死因はナイフで胸を一刺し……
栗林       死に方よくばりましたね
小林       そういうことじゃないだろ
栗林       じゃあ、優柔不断だったか……
小林       そういうことでもないだろ(電話)
栗林       どうしたんですか?
小林       妻からラインだ
栗林       とりあえず今日は帰りますか……
小林       そうだな。

~一人暮らし~
L【紫っぽくて薄暗い照明】
過去のセツコ   もう帰る場所なんてない。
セツコ      黙れ。受け止めろと言ってるだろ! 不幸ぶるな!
過去のセツコ   泣いても笑っても生まれる場所は選べない……最初からなにも望まず一人でいればよかった
セツコ      後悔するな! おまえが作った未来だろ!
過去のセツコ   結局私の人生は依存依存依存……いつも誰かに見つけて欲しかった。誰かと一緒にいたかった……
セツコ      でも、気づけばゴミだらけの部屋で一人ぼっち…さみしいから毎日自分と会話して、ついに私は自分と二人暮らし。過去の私が、男になった私に依存する……もうとっくに気は狂ってるさ。
M SEドアをノックする音
スモークIN
過去のセツコ   ドアをノックする孤独…… 私の人生は星めぐりの旅だった。失望、挫折、裏切り、近くなれば遠くなるカシオピア……気がづけばずっと雨。これじゃあ、星も見つけられないよ。ジョバンニは、カムパネルラが死んだあと、どんな人生を過ごしたんだろう
セツコ      もう邪魔はしないでくれ。私は死ぬ。
過去のセツコ   いやだ! もっと生きたい!
セツコ      ……本当に、そう思ってるか?
過去のセツコ   やり残したことが……
セツコ      あるか?
過去のセツコ   ……
セツコ      ないよな。俺達は、十分生きた。この場所より落ちる場所があるというなら、そこは地獄だ
過去のセツコ   ……どうして、どうしてなの?
   好きな人と温かい家族を作りたかった。私の夢はただそれだけだったんだ。なのにどうして? ずっと訴えながら歩いてきた。あの人が死んでから(心臓)ここにあったモノがなくなったの。そして違うものが入った。カリカリときりきりと爪で引掻かれるように痛むの。人を殺しても平然と生きる。償いもせずに逃げ続ける。こんな人生望んでなかったのに! 私は何故生まれたの? ああ、神様どうかこの胸をえぐり取ってください! どうか、私の五臓六腑をえぐりだしてください! この苦しみが取れるのなら私はなんでもする! ああ、いっそのこと私を狂わせてください! ……私は、真人間になりたかったんだ。本当の幸せってなんだろ
セツコ      わからない。でも、こんな人生だったんだ。最後くらい自分で決めよう。
過去のセツコ   そうね……
セツコ      人は死ぬ時の為に生きるんだな。いろいろ経験し良い死に方をするために。私たちは、生まれたときは不完全だ。死ぬときにはじめて完全になる。
過去のセツコ   もう死を怖がらない。
セツコ      きっと、ワタルが待ってくれてるよ。行こう。
過去のセツコ   うん。いっしょに行こう
M SEドアが開く音
L【ゆっくり何本か光が差し込む感じ】
過去のセツコ   孤独が迎えにきた
セツコ      さあ、殺してくれ
過去のセツコ    ……
セツコ      さあ!
セツコ叫びながら刺す
M SE刺す音
M―シャボン玉FI
~タツオとセツコ~
L【緑っぽい照明】

セツコ      は……どうしよう……嫌だ……捕まりたくない
タツオ      愛してた……ありがとう……

~デメガワとセツコ~
L【赤っぽい照明】
セツコ      デメガワくーん!
デメガワ     ありがとう……君のおかげで解放される

~ワタルとセツコ~
L【ピンクっぽい照明】
セツコ      ワタル! おいていかないでよ! ずっと一緒っていっつたじゃない! 一人にしないでよ!

~親~
L【蛍光灯っぽい照明】
父        てめえ! 畜生、ふざけやがって!
アヤコ      (子供に気づき ねぶたのマネをする ニコッと笑い)ごめんね。

M アップしていき
L Mと一緒に全ての色がチカチカする
M よきところでCO
L Mと一緒に元の色に戻す

タツオ母     やっとだよ。やっとだ。おまえのせいで、私は一人ぼっちになった……おまえのせいで!
セツコ       ……ごめんなさい
タツオ母     あやまったってあの子は帰って来ない! 憎かった……どこかでのうのうと普通に生きてるあんたが憎かった。復讐のことだけ考えて生きてきた。でも、これで私の復讐は終わった。(ふらふらとはける)終わったんだ

セツコ苦しみながらシャボン玉を取り出す
L【上手サス】
M―最後の曲FI
セツコシャボン玉をふく
L【下手サスもつく】
リョウコ登場しシャボン玉をふく
M よきところでUP
L Mに合わせて目つぶがゆっくりついていき、よきところで徐々暗転

終幕

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