芝居台本「色彩オーケストラ」

2011年に神保町花月用に書き下ろした台本です。クレオパトラが下北タウンホールでおこなった単独公演を原作に作った物語です。八年前に書いたのでかなり稚拙ですがよろしければお読みになっていってください。かなり恥ずかしいですが。

※台本からコピペしたので読みづらいところや行間がおかしいところがありますが御了承ください。



「色彩オーケストラ」

         作・長谷川 優貴

登場人物

■アラタ(18)
:記憶をなくしている少年。卑屈で人付き合いが苦手。

■タイシ(18)
しっかり者な少年。ラッコとは幼馴染。

■ラッコ(18)
天然で元気な少年。

■シホ 20代
花屋アルバイト。優しくて前向きな女性。

■小学生
小学生。無邪気で質問狂。

■中学生
中学生。妙に冷静、生意気なことばかり言う。

■カミムラ(18)
乱暴者で、なんとか生き残ろうとしている。女好き。

■イリヤス (35)
真面目で物知り。すごく行動力がある。

■エトウ(29)
なよなよしていて、なにをやってもダメな男。能天気。空気が読めない。シホの元彼。

■(謎の老人)
テンション が高く陽気な老人。見えない壁にずっとペンキで色を塗っている。

【あらすじ】人が生命の危機に瀕した時、極限まで視覚の情報処理を優先するよう、脳の回路が切り替わるという。スローモーションに見える、というのはよく聞く話だが、これは、一瞬にたくさんの視覚情報を処理が行われるためだ。同様に、音が聞こえなくなる、というのも視覚を優先した結果と考えられるし、白黒に見えるというのも、形の視覚情報が最優先されたため、と考えられる…。

ある日、世界から色が消えた。

アラタは、記憶をなくしている。気づくと全てが白黒になった。それだけではなかった。世界から、沢山の人々やさまざまなものが、色を無くし透明になるように、消えていく。舞台は、 そんな中、残っていた扉の前。そこに、生き残っている人々が集まってきて、話しは展開していく。世界が色を無くし、各々の気持ちなどの会話が繰り広げられる…。

~プロローグ~

中学生ナレーション
小学生の時、合唱コンクールの指揮者をした。僕の指揮に合わせて歌うクラスメイト。最初で最後の主役になれた日だった。
…僕はここにいるの?世界は存在するの?

アラタナレーション
ある日突然、世界から色が消えた…。

    ナレーション終わりで、明転。舞台上には真ん中にドアが1つ。全て真っ白。

~第一景~

■舞台上には、なにもない壁にペンキを塗る老人のみ。

    そこに、ドアからアラタ登場。ふらふらして出てきて、ドアの前に倒れ込む。。

    老人アラタを全く見ずに、ペンキを塗り続ける。

    そこにラッコ登場。

    老人と目が合う。

老人 …。

ラッコ …うぁー!老人だぁー!老人がいるー!

老人 …。

    タイシ登場。息を切らして、ラッコを追いかけてきた様子。

タイシ 待てよラッコ!どんどん先に行くなって!…

    老人と目が合う。

タイシ …。

老人 …。

タイシ うぁー!老人だぁー!老人がいるー!

老人 …。

ラッコ うわぁー!(ラッコ、アラタに気づく。)

タイシ どうしたラッコ?

ラッコ 人が倒れてる!

タイシ え!…大丈夫か!?(しゃがみ、アラタを膝の上に抱き上げる。)しっかりしろ!

アラタ …う、うん?(目をさます)

タイシ 意識はあるみたいだ!

アラタ こ、ここは?

ラッコ 真っ白なんだ。ここがどこかなんてわからねぇよ。

アラタ 真っ白?

タイシ どうして、こんなところで倒れてたんだ?

アラタ 俺は…痛っ!(頭を押さえる)…駄目だなにも思い出せない…。

ラッコ 記憶喪失か?

タイシ 落ち着いて。

アラタ …あんた達は?

タイシ 俺達は…

ラッコが割り込んでくる。

ラッコ 俺はラッコ!こいつがタイシ!親友同士だ!で…(老人のほうを向く。)

老人 …。

ラッコ あれが、ペンキじじい!

タイシ 見たところ俺達と同い年くらいだな。

アラタ 僕の名前は、アラタ。それ意外は思い出せない…。

タイシ アラタ…。

    ラッコがドアを開けようとしている。

ラッコ あれ~?

タイシ どうしたラッコ?

ラッコ (ドアを開けようとするが開かない。)なんだよドアのくせに、開かないじゃないか!

タイシ 壊れているだけじゃないのか…。

アラタ おかしい…。(目をこする)

タイシ どうした?

アラタ 目に映るもの全てが真っ白に見える…。

ラッコ そりゃそうだよ。全て真っ白なんだから。

アラタ え?

タイシ 突然、世の中から色が消えたんだ…。

アラタ 色が消えた?

タイシ ああ、ありとあらゆる物から色はなくなり、透明になり消えてゆく       物まで…。

アラタ ありとあらゆる物って…人間も?

タイシ あぁ、恐らく…。

アラタ 恐らく?

タイシ …俺はまだここにいる四人以外、人間を見ていない。…。

アラタ 見ていないって、周りにいた人はどうしたんだよ?

タイシ ラッコ以外、全員消えてしまった…。だから、俺たちは人をさがして歩いていたんだ…。

ラッコ やっと見つけたのに、記憶喪失とボケ老人だったなんて!最悪だよ~!

アラタ そんな!冗談だろ?夢だ!こんなの、夢に決まってる!世界から色が消えるなんてありえない!

ラッコ 夢じゃねーよ。ほら、辺りを見回してみろよ。一面真っ白だろ?雪じゃねーんだぜ。(アニメ タッチ風に)

    老人ペンキを塗っている。

アラタ …このじいさんはなにしてるんだ?

ラッコ ボケてんだよ。

老人 ボケとらんわ!

ラッコ わ、喋った!

老人 まったく、うるさい連中じゃ。

ラッコ じゃあ、なにしてるんだよ?

老人 ペンキを塗ってるんじゃ。

ラッコ 色ないのに?

老人 そうじゃ…。

ラッコ だから、色がないのにペンキを塗るなんてボケてるじゃん!

老人 うるさい!わしの勝手じゃろ!

タイシ あの、何故世界から色が消えてしまったのか、なにか知りませんか?テレビも真っ白でなにも映らなくなってしまったし…日本は今どうなってるんですか?…まったく状況がわからなくて…。

老人 …知らん。

タイシ …ちょっとした情報でもいいので教えてください!

老人 …。

タイシ (残念な様子。)

アラタ 夢だ!夢に決まってる!覚めろー!覚めろー!

タイシ …俺達も最初は、夢かと思った。でも現実なんだ。

アラタ 色が消えるってどういうことなんだよ?意味わからないよ!

ラッコ 俺たちが聞きたいよ!

タイシ 人がいなくて、情報が集められないんだ…。

アラタ …そんな。

ラッコ あんたは、まず記憶取り戻すほうが先決だろ?

アラタ …記憶がない上に、色がない世界って…パニックだよ…。

    そこに中学生登場。無表情でスタスタと現れ、座り込み本を読む。

ラッコ おっ!また人だ!

タイシ 良かった!まだ生き残りがいたのか!

ラッコ、中学生に近づき本を見る。

ラッコ 本なんて読んじゃって、かなり落ち着いてるね。

中学生 …。

    ラッコ本を覗きこみ。

ラッコ てゆーか、なにも書いてないじゃん!字の色まで消えちゃてるじゃん!

アラタ 文字の色まで消えてしまってるのか…。

タイシ 見たところ、中学生くらいか?

中学生 …。

ラッコ 話し聞いてんのかよ?!

中学生 (本から目を離さずに)もうみんな消えてしまうだけなのだから、ほっといてくれ…。

ラッコ ひねくれてるなぁ!

タイシ どこから来たのか知りたい。なにか色が消えていっている原因がつかめるかもしれない。なんでもいいんだ、知っている情報を教えてくれ。

ラッコ ほら、教えろよ!タイシが質問してるだろ!

中学生 色なんて戻らなくていいだろ?世界は、真っ白で良い。

タイシ 真っ白でいいわけないだろ?物だけじゃない。人まで消えてるんだぞ…。

中学生 他人なんてどうだっていい。

ラッコ このまま普通の生活に戻れなくて良いのかよ!

中学生 じゃあ、逆に聞くけど、あんたの言う普通ってなんだい?現在は、白い世界だ。だから、これが普通。色のある世界は過去の物だろ?君みたいな普通普通言うやつが、人種差別をするんだよ。あー、でも色がないから肌の色もわからないし差別もできないね。よかったね。はははっ。

ラッコ なにこいつ超ムカつくんですけどー!

アラタ てめー!!

    中学生に飛びかかり胸ぐらを掴む。

アラタ ガキが生意気言ってんじゃねぇぞ!

ラッコ えー?!なんであんたがキレてるの!?

タイシ アラタ!やめろ!

    タイシ止めに入る。

アラタ …。

タイシ どうしたんだ急に!

アラタ こういう奴見てるとなんか、すげぇ腹が立つんだ…。自分のことしか考えてないっつーか…。この中二病が!

中学生 リアルに中学二年生だし…。

アラタ うるせー!

タイシ やめろアラタ!

ラッコ 見た目そんな暴れるよなキャラじゃないのに!

アラタ …。(動きが止まる)

ラッコ どうした?急にとまったぞ?

アラタ 確かに…記憶はないけど、おそらく初めて暴れたり人に飛びかかったりしたのかも…震えが止まらない…。

ラッコ だってどう見ても暗いタイプだもんね。

中学生 なんだよ、同族嫌悪かよ…。頭が悪いから暴力しかできないんだろ。最低だな。メガネなのに頭が悪いなんて笑っちゃうね。はははっ。

アラタ なんだとガキが!マジ生き埋めにするぞ!テメーのケツの穴にプリッツつっこんで、ポッキーにしてろうかコラ!

タイシ あの子に対して厳しすぎるよ!

ラッコ ポッキー見たい!

タイシ 食いつくな!

老人 ケツポッキーか…。

タイシ じじいも食いつくな!とにかく、考えは人それぞれだから、これ以上は詮索しない。とりあえずは、アラタの記憶を取り戻すことを考えよう。

    少し間をあけて、そこにシホ登場。

シホ 人だ!よかったー!

ラッコ 女だ!

タイシ あなたは?

シホ 私はシホ!色がなくなって周りに誰もいなくなってしまって…。

ラッコ 俺達も一緒だよー!

タイシ よかった、俺達も人を探してたんです。

シホ こんなにたくさん。みなさんは、お友達?

タイシ 俺はタイシ、こいつはラッコ。他の人達はさっき出会ったばかりで、彼がアラタ。記憶を失ってしまっているみたいなんです。

ラッコ そして、ボケ老人に、ひねくれ中学生。

老人 ボケとらんわ!

中学生 …ほくろ。

ラッコ なんだとー!

タイシ やめろ!

シホ (笑う)

タイシ どうしたんですか?

シホ 久々に人が喋っているのを聞いたら、ホッとして。

ラッコ なに持ってるの?

シホ 花よ。私お花屋さんで働いていて、一人ぼっちの不安を紛らす為に、花を持ち歩いてたの。

ラッコ 色のない花って殺風景だね…。

シホ そんなことないわよ。色はちゃんとついてる。これは赤、これはピンク…

タイシ そう言われると色がついているように見えてくるかも…。

シホ そして、これは迷彩で、これがチェク…

タイシ そんな色の花ないでしょ!せっかく想像してたのに!

シホ 真っ白だから自由なのよ。自分の思った色にできる。

中学生 色がないのに花なんて美しくないだろ…。想像は、想像にすぎない。

アラタ テメーうるせーな!みんなが盛り上がってるんだから邪魔するな!ケツポッキーするぞ!

タイシ やめろアラタ!

シホ え?ケツポッキー?え?え?新しい味ですか?

タイシ そんなわけないでしょ!ケツポッキー新発売って言っても誰も買いませんよ!

シホ とにかく、真っ白な世界でも、目を閉じれば、花の色は頭に浮かぶし、香りも感じる。この壁の色だって凄く鮮明に浮かび上がる。

老人 …。

ラッコ タイシ!この女いっちゃてるよ!

タイシ やめろ。お前のその素直さが、時に人を傷つける。

シホ フランスの小説家ジュール・ヴェルヌが「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」といっていたわ。何もなくなっても、花のことを忘れなければ、元の世界に戻るきっかけになると思う。

タイシ 元の世界に戻るきっかけ…。

シホ 色が消えたのは、想像力を失った現代人への、神からのアンチテーゼなのかも…。

ラッコ うーん。全然色があるようには思えないけど。

シホ 目を閉じて、想像してみて。色々な物が見えてくるわ。

    ラッコ目をつぶる。

ラッコ 真っ暗だよ…。

シホ もっとちゃんと想像して!

ラッコ う~ん…。

シホ 想像の中なんだから、なにがあってもいいのよ!

ラッコ なにがあっても?…よーし!じゃあ、ここに松屋!ここに吉野家!ここにすき家!ここにらんぷ亭!

タイシ 牛丼屋ばかりじゃないか!

ラッコ そして、ここに牧場!

タイシ 直ぐに牛肉を仕入れられる!…やかましいわ!ラッコ!ふざけてる状況じゃないんだからな!

ラッコ タイシも想像してみろよ!楽しいぞ~!

タイシ 俺はいいよ!

ラッコ アラタもやれよ!

アラタ やるわけないだろ!想像は想像の域を越えない。

    中学生鼻で笑う。

アラタ テメー!今鼻で笑ったな!

中学生 さっき僕が言ったことと同じことを言ってるじゃないか。

アラタ …あっ。

中学生 僕のこと否定するわりに、自分も同じじゃないか。

アラタ うるせー!

    飛びかかろうとして倒れる。

タイシ アラタ!!

シホ 大丈夫?

ラッコ 急に怒ったり、急に倒れたり、なんなんだよこいつー!

シホ、アラタを膝の上にのせる。

シホ 少し貧血気味みたいね…。

タイシ さっきまで、倒れていたんだ無理するな。

シホ 大丈夫、少し安静にしてればすぐに良くなるわ。

    徐々暗転。

アラタナレーション
僕は、薄れゆく意識の中で、懐かしい心地良さと、花の匂いを感じた。

    SE:心電図の音。

    ドアに砂時計が映される。

~第二景~

アラタ、老人、タイシ、ラッコ、中学生が板付き。

タイシ 目覚めたか…?

アラタ …え?俺は?

タイシ 急に倒れて気を失ってたんだよ。

ラッコ 体調はー?。

アラタ 大丈夫…。いったいどれくらい?

タイシ 二、三時間くらいかな。

    中学生 笑う。

アラタ てめー!

タイシ アラタ落ち着け!…まったく。

アラタ クソガキめ…。あ、そういえば、あの花屋は?

タイシ あれ?そういえばどこいったんだろ?

    シホが花を持ってくる。

シホ 目覚めたのね!よかったー!

ラッコ どこに行ってたの?

シホ アラタ君にあげようと思って、取りに行ってきたの…はい!

    真っ赤な花を出す。

アラタ い、色がついてる!

タイシ え?

ラッコ なに言ってるんだよ!真っ白じゃないか!

アラタ え?いや、どう見ても真っ赤だろ!

中学生 気でも狂ったか…。

アラタ え?

シホ …そ、想像してくれてるのね!ありがとう!はい、あげる。

アラタ い、いらないよ…。

タイシ 照れてるのか?

ラッコ わー!色がないからわからないけど、きっと顔が真っ赤だぞー!

アラタ …なんで俺に?

シホ 花を見てたら、気持ちも落ち着いて、なにか記憶が少しでも、戻るかと思って。

タイシ 良かったな。アラタ。

アラタ …。

タイシ どうした?

アラタ よけいなお世話だよ!お節介やめろよ!俺のことなにも知らないくせに!

ラッコ 自分自信も知らないくせに。

シホ ご、ごめん。

アラタ …え、あ、違うんだ!なんか急に反発したくなっちゃって…。

タイシ アラタは、ちょっと情緒不安定だな…。

ラッコ こいつヤバイよー!

中学生 ダセェ。

アラタ なんだとー!

タイシ やめろアラタ!

アラタ …。

タイシ …そうだ、シホさんの話しをまだ聞いてなかった。シホさん世界が真っ白になったことについて、なにか知っていることは、ありませんか?

シホ 働いていたら、急に世界が真っ白になって、気づいたら私以外誰もいなくて…そして、人を求め歩いていたら、ここにたどり着いた。…それくらいしか…。
タイシ 俺たちと一緒か…。みんなここに集まってくる…まるで、このドアに引き寄せられているみたいだな…。

ラッコ 消えた人と生き残った俺たちの違いってなんだろうね…?

タイシ 確かに…何故俺達は消えないんだ?

袖からカミムラの声。
『おぉー俺以外に生き残ってるやついたんだぁ。』

    カミムラ登場。金属バットを持っている。

カミムラ お!女もいるじゃん。ラッキー!

ラッコ 馬の化け物!

カミムラ 誰が馬の化け物だ!馬面なだけだ!殺されてぇのか?

タイシ なんですか?

カミムラ 俺以外消えちまって、どこもかしこも真っ白になっちまったから、俺が世界の神にでもなったかと思ってたんだけどよ。他にも生き残りがいたんだな。

タイシ 俺たちも、人を探してここにたどり着いたんです。一緒に情報を出し合って、世界を元に戻す方法を考えませんか?

カミムラ 笑う。

タイシ え?

ラッコ タイシが真面目に話してるのになに笑ってるんだよ!

カミムラ 別に世界なんて真っ白でいいし。

タイシ なんだって?

カミムラ 俺みたいな人間は、ルールもなにもない世界のほうが生きていきやすいんだよ。

タイシ …なにが目的だ?

カミムラ 食料と、その女をよこせ。大人しく渡せば許してやる。

タイシ 断ったら?

カミムラ こうだ!

カミムラ、中学生を殴る。

中学生 ぐはぁ!

タイシ 大丈夫か!?

カミムラ 本気だってわかっただろ?さあ、食料と女をよこせ。

アラタ た、助けてー!(しゃがみこむ)

カミムラ 助けなんて来ないよ~。人いないんだからよ~。

アラタ 許してください…。許してください…。

カミムラ あーはっはっ!なんだよお前!それでも男かよ?ダセーな。ションベンちびってんじゃねーか?女の前で命乞いなんて恥ずかしくねぇのかよ?(セリフの途中から同じセリフをナレで重ねてリフレイン)

    カミムラ、アラタを殴る。

カミムラ へぇー、血も白いんだな。

    カミムラがシホに近づく。

カミムラ さあ、こっちへ来な。

シホ やめなさい!近づくな!

カミムラ 強気な女も嫌いじゃないぜ。

タイシ やめろー!

カミムラ 弱者はだまってろ!

    そこに、イリヤスが現れる。

イリヤス やめないか!

カミムラ なんだオッサン?あんたもやられてぇのか?

イリヤス (拳銃を取り出しカミムラに向ける。)嫌がっているだろ。やめたまえ。

カミムラ ふ、ふざけんな!どうせ、おもちゃだろ!

イリヤス 試してみるか?

カミムラ ふんっ!今日は、とりあえず許してやるよ。また来るからな!おまえ覚えとけよ。このままじゃ済ませねぇからな。

    カミムラはけていく。

ラッコ タイシ大丈夫か?

シホ タイシさん大丈夫?!

タイシ …アラタは?

    アラタうずくまってる。

    イリヤス、アラタと中学生を見る。

イリヤス 二人とも骨には、異常ないので大丈夫ですよ。

タイシ 助かりました。ありがとうございます。…あの、それは…?(拳銃を指差す。)

イリヤス あー!モデルガンですよ。趣味で沢山持ってたんで、護身用に持ってきたんです。

    みんなイリヤスにお礼を言う中、アラタは、恐怖でなにもできなかった自分に苛
立ちと不甲斐なさを感じる。

シホ アラタ君大丈夫だった?

アラタ …。

シホ アラタ君…。

アラタ …どうせ弱い奴だと思って心の中でバカにしてるんだろ!

シホ そんなこと…。

    アラタ走ってはける。

シホ アラタ君!

タイシ アラタ!

イリヤス 男心ですね…。あ、私の名前は、イリヤス。医者をしています。とりあえず、治療しましょう。

ラッコ ドクター!?カッコイイー!

タイシ 助かります!ありがとうございます!…あいつは一体。

イリヤス さっきの輩ですか?まあ、警察もなにもなくなってしまったわけですから、ああいう奴も出てきますよ。

タイシ …そうですね…。

イリヤス しかし、人がいてよかったー!

タイシ イリヤスさんの周りの人もみんな消えてしまったんですか?

イリヤス はい。

エトウ シホ~!

    エトウ登場。

イリヤス 言ってるそばから、また人が増えた。

シホ え、エトウさん…。

エトウ よかったー無事で!誰もいなくなっちゃったから、シホも消えちゃったかと思ったよ!

シホ …エトウさんも無事でよかった。

エトウ わ!男だらけ!お前たち、シホを狙ってるんじゃないだろうな!

ラッコ 狙ってる奴は逃げたよ。

エトウ え?なんだかよくわからないけど、シホは俺のものだからな~!ストーカー野郎共!

タイシ 彼氏さんですか?

シホ なに言ってるのエトウさん?私たちは、もう別れたでしょ?

ラッコ ストーカー野郎は、テメェじゃねぇーか!

エトウ そんなこと言うなよシホ~。

イリヤス しつこい男は、嫌われますよ。

ラッコ 手足長いのになよなよしてるから気持ち悪い~。

タイシ カマキリみたいだな…。

中学生 なよカマキリ…。

シホ 仕事は見つけたの?

エトウ こんな世界になっちゃったんだから、仕事どころじゃないだろシホ~。

シホ 真っ白になる前は、見つけようと努力はしてたの?

エトウ それは…シホ~。

ラッコ あいつ、語尾に絶対にシホってつけるな…。

タイシ 気持ち悪い…。

イリヤス なんなのでしょう。この嫌悪感…。

シホ 私は、あなたが、会社をリストラされたから嫌いになったんじゃないの、仕事を頑張って探さずに甘えてすごしているあなたが見ていられなかったの…。

エトウ 世界の色もなくなっちゃったし、色がないということで、無職でちょうどいいだろ…シホ~。

ラッコ 空気読まずに滑ったのを、語尾のシホでごまかそうとした!

タイシ 気持ち悪い…。

イリヤス 男は、やっぱり仕事や夢に向かって頑張ってないと!

エトウ うるせーチェリーボーイ!私たちの話しに口を出すな!

ラッコ イリヤスさんチェリーボーイなの?!

イリヤス …。

ラッコ そうなの!?

タイシ あのカマキリ滅茶苦茶だな…。

イリヤス よくわからないけど、楽しくなってきましたね!

タイシ チェリーボーイって言われてですか!?

イリヤス 違いますよ!久々に人に会えてテンション上がってきちゃいました!

ラッコ 確かに、いつのまにか、こんなに沢山の人が集まってる!なんか俺もテンション上がってきた!

タイシ ラッコまで…。

イリヤス よし!宴ですよ!宴をしましょう!

タイシ 宴?

エトウ お!いいですねぇ!シホ~。

シホ …まったく。

タイシ でも、そんな状況じゃ…。

イリヤス こんな状況だからこそ、ぱーっとやって、暗い雰囲気をなくしましょうよ!色々考えたところで、情報がなさすぎるし、なにも答えはでません。だから、今はこの奇跡的に出会えたメンバーで一致団結することが先決なんですよ!

タイシ 言いたいことは、わかりますけど…。

老人 よーし!酒買ってこーい!

ラッコ じじい、いつ乗り気になったんだよ!

イリヤス 手分けして、飲み物や食べ物探してきましょう!

タイシ そうだ!ちょっと待ってください!アラタを探しにいかないと!

イリヤス アラタ君ていうのは、先程の思春期丸出しの子ですか?

タイシ そうです。あいつ記憶喪失なんです。一人でいたら危ないので僕が見てきます。

イリヤス まぁ、一人になりたい時もありますよ!今は宴をしましょう!。

エトウ みなさんおごってくださいよ~…シホ~。

シホ …。

ラッコ 色ないんだから、お金なんて意味ないでしょ!

エトウ そっか!最高の世界じゃないかシホ~!

シホ 本当に、最低ね!

    ビンタ

エトウ こういうプレイも嫌いじゃないよシホ~!

    暗転

アラタナレーション
アラタ 真っ赤な花を見つめながら、僕は、自分の弱さや不甲斐なさをなんとか正当化しようと必死だった…。

    SE:心電図の音。

    ドアに砂時計が映される。

~第三景~

場所は、ドアから少し離れた場所。

    一人佇むアラタ。

アラタ …。(複雑な表情。)

    そこに、イリヤス登場。

    アラタ、イリヤスに気づくが無視する。

イリヤス こんな所にいたんですか。

アラタ なんだよアンタ。

イリヤス イリヤスです。

アラタ 別に名前聞いてねぇよ。なにしに来たんだよ。

イリヤス 今から宴するんですが、来ませんか?

アラタ 宴?全然状況がわからないよ。とにかく、ほうっておいてくれ。

イリヤス …さっきは、危なかったですね。

アラタ …。

イリヤス 他にも危ない輩がいるかもしれない。戻りましょう。

アラタ …弱いから一人でいたら危ないってことかよ。

イリヤス …。

アラタ 強いアンタに、俺の気持ちなんてわからないよ!

イリヤス …僕だって、強いわけじゃないですよ。エアガンなんて構えましたけど、実は内心ドキドキだったし、手震えてたし。

アラタ …。

イリヤス 恐くても、やらなきゃならない時があるんですよね。

アラタ …。

イリヤス (辺りを見回して。)…しかし、真っ白な世界って不自然ですね。
アラタ …。

イリヤス …僕ね、クラシックを聴くのが趣味なんですよ。

アラタ …あんたの趣味なんて興味ないよ。

イリヤス それでよく、オーケストラを聴きにいくのですが、音って色があるんですよ。

アラタ …いや、だから興味ないって。

イリヤス ほら、「音色」という言葉があるでしょ?音楽のきわめて大切な要素のひとつなんです。オーケストラには多彩な楽器があり、それぞれの組み合わせなどにより「音色」を変化させます。

アラタ だから興味ないって!聞いてる?

イリヤス 様々な楽器が奏でるから、色がでるんです。だから、僕みたいな無鉄砲な男がいたり、君みたいな慎重な人がいたり、色とりどりな人がいていいんじゃないですかね。

アラタ …(黙る)。

イリヤス オーケストラには、音色を上手くまとめあげる指揮者をたたえて「色彩感のある演奏」と言ったりもするんですよ。ね、音にも色があるでしょ。

アラタ …指揮者。

小学生ナレーション
僕今度、指揮者するんだ!主役だよ!(リフレイン)

    アラタ頭抱える。

イリヤス 大丈夫ですか?!(アラタに近づく。)

アラタ (イリヤスの手を振り払う)うるさい!とにかくほうっておいてくれ!

イリヤス …わかりました。みなさん待ってますから。落ち着いたら戻ってきてくださいね。

    イリヤスはける。

アラタ …。(頭を抱え踞る。)

    暗転。
~第四景~

明転

    ※イリヤスを中心にみんな飲み食いしながら盛り上がっている。距離を置いて、
上手の端に 中学生、下手の端に、アラタが座っている。老人は、飲みながらも
ペンキを塗り続けている。

イリヤス (缶ビール飲んで)いやーうまい!みなさんと、会うまでずっと不安だったんで、とりあえず気持ちが楽になりました。いやー、ビールは、やっぱり黒ラベル…いや、白ラベルか…。

シホ ハハハッ、楽しい!久しぶりに笑ったわ。

エトウ 僕もだよシホ~。

ラッコ あ~久々に飯食べたよ!うめー。

イリヤス 食事どころじゃなかったですものね。

ラッコ やっぱり最高だな、無色のきつねと無色のたぬきは。

タイシ そこは、別に赤いきつねと緑のたぬきでいいだろ。

ラッコ じじいも、せっかくなんだから、手を休めろって。

老人 うるさい!ほうっておけ。

エトウ 見ず知らずの人達が、こんな短時間で仲良くなれるなんて、宴恐るべしだね…シホ~。

ラッコ キモい…。

タイシ イリヤスさんは、お医者さんなんですよね?

イリヤス そうですよ。

タイシ 色が消えた時、どんな感じでしたか?

イリヤス 病院は、白いものが多いから、最初はなにがおこったのかわかりませんでした。…でも、僕以外、誰もいなくなってしまったから、これはおかしいと思ってそとに出てみたら、全てが真っ白で、さ迷い歩いていて、気がついたらここにいたんです。

タイシ 気がついたら…確かに俺たちも気がついたらここに来ていた。やっぱり、このドアに吸い寄せられているのか?

エトウ 君たちは、なんなの?幼馴染み?

ラッコ そうだよ!家が向かい同士で、小さいころからいつも一緒だったんだ!

エトウ へぇー良いねぇシホ~。

シホ そういうのって羨ましいな。私は、親が転勤族だったから…。

エトウ 俺がいるよ~シホ~。

イリヤス キモすぎですよ!

ラッコ 俺こんな感じで、自由だからさ、学校でいじめられててさ。そんな俺をいつもタイシがかばってくれてたんだ(笑顔で無邪気に話す)。

タイシ まあ、俺も結構、はぶかれてたけどな。

イリヤス タイシ君が?

ラッコ タイシは、真っ直ぐだから、不良とかにすぐ目をつけられるんだよ。

イリヤス タイシ君は、見るからに良い奴って感じですもんね。

シホ …アラタ君もよかったら、話しに入ろうよ。

アラタ …俺は、別に話すことないし。

シホ でも、話してたら色々記憶が甦るかもしれないし…。

アラタ うるさいな!お節介なんだよ!

タイシ アラタ!

エトウ おい!お前シホに怒鳴るなんて…

アラタ なんだよ!文句あるのかよ!

エトウ …シホ~。

ラッコ 弱っ!

タイシ あ、イリヤスさんは医者じゃないですか!アラタの記憶喪失についてなにかわかりませんか?

イリヤス 脳関係は専門外なんで…。

タイシ そうですか…。

イリヤス でも、なんとなくだけど、アラタ君は、自ら記憶を閉じ込めているように見えるんですよね。

タイシ 自ら…?

沈黙

ラッコ …ねえ、世界は、このまま色がもどらないのかな?

エトウ そもそも、世界から色がなくなったのかな?それとも、日本だけなのかな?

イリヤス テレビも見れない、ラジオも聴けない、ネットも使えない。情報がなさすぎますね。

エトウ 富士山が噴火したのかも!

シホ どういうこと?

エトウ 火山灰がふりかかって、色が消えたんだよ!シホ~。

イリヤス どう見ても灰じゃないでしょ!

ラッコ 消える人がほとんどだったのに、俺達は生き残ってる…消えた人と俺達はなにが違ったんだろ?

エトウ 運ですよ!運!我々は強運の持ち主!すなわち選ばれし者なんです!

タイシ 選ばれし…。

ラッコ なんだよそれ!おまえだまってろよ!キモいし!

エトウ なんだとー!シホ~!

タイシ …本当に選ばれし者なのかも…。

ラッコ え?

イリヤス どういうことですか?

タイシ みなさん、色が消えだした当日の記憶ってありますか?

シホ 最初説明した通り、覚えてるわよ。

タイシ 本当ですか?よく考えてください。周りにいた人達のことも思い出せますか?

シホ 言われてみると、色が消える前の記憶がない。

イリヤス 確かに明確に思い出せない。全てボヤけてる…。周りに人がいたと思い込んでいただけなのかも。

ラッコ どういうこと?

タイシ ずっと違和感があったんです。

シホ 違和感?

タイシ だって目の前で知り合いや大切な人が消えていたにしては、みんな冷静すぎる。

ラッコ 確かに…悲しみみたいのが全然ないかも。

エトウ 色々おこりすぎて、混乱しているから実感がわかないだけだよ!

イリヤス タイシ君、なにが言いたいんですか?

タイシ 僕達の世界から色が消えたんじゃない。僕達が色のない世界に迷い込んだんです。

イリヤス なんだって?

タイシ だから、きっとこの世界には、このメンバーしかいない。色のない世界に呼び寄せられたこのメンバーしか…。

イリヤス 確かに、そう言われれば、全て辻褄が合うかもしれない…。

シホ じゃあ、ここはどこなの?

タイシ そこまでは…。

イリヤス 仮説にしても、違う世界なら出る方法があるかもしれない!

エトウ 少し希望がわいてきたー!シホ~!

中学生 馬鹿馬鹿しい…。

ラッコ なんだと!てゆーか、お前も話しに入ってこいよ!(中学生に)

中学生 別に話すことないし。

イリヤス …なんか、アラタ君と、君似てるね。

アラタ そんなガキと、一緒にしないでくれ!

ラッコ 座っている位置も一緒じゃん!風神と雷神みたい!

タイシ 君も、少しはなにか自分のこと、話したらどうだい?

イリヤス 確かに、君の素性だけ全然わからない。

中学生 僕は、誰とも関わりたくない。

タイシ 関わりたくなくても、こんな事態なんだから、生き残っている俺たちで手を取り合わないと。

エトウ そうだ!そうだ!

中学生 死に損ないの馴れ合いでなにが変わるって言うんだよ。

タイシ いい加減にしろよ!

中学生 僕は、誰にも干渉されずに、誰にも干渉せずに一人で生きていくんだ。

ラッコ お前なぁ…

ラッコを制して、シホが中学生の顔を殴る。

エトウ …シホさん?

シホ 甘えてんじゃないの!人が一人で生きられるわけないでしょ!あなたが、今ここにいるのだってあなたのお母さんが産んでくれたからでしょ!一人でこれまで生きてきたなんて、とんだ勘違いよ!

    照明:アラタにサス

シホナレーション
一人で生きてきたなんてとんだ勘違いよ!なよなよしてないでしっかりしなさい!(リフレイン)

アラタナレーション
俺の気持ちなんてだれにもわからないんだ!!(リフレイン)

アラタ (頭を抱える)うぁー!

タイシ アラタ!どうした?

    一同呆気にとられる。

中学生 …ふっ。とにかく、あんた達に、僕の気持ちなんてわからない。

ラッコ わかりたくもないね!俺は、いじめられてたけど、そんな考えは一度も持たなかった。

中学生 僕は、所詮脇役なんだ。主人公にはなれない、なんの色もない少年A。僕は、なんの為に生きてるんだよ!僕は、本当に存在するの?

タイシ なに言ってるんだ。存在するに決まってるだろ。

中学生 僕には、この存在感のない曖昧な真っ白な世界が過ごしやすいんだ。だから、僕のことはほうっておいてくれ!

イリヤス 本人は望まなくとも、誰だって多かれ少なかれ、心の中に重荷を背負ってる。ここにいるみんなだって、きっとそうだ。無理をやめて、素直なあるながままの自分を受け止めてみたらどうかな?

中学生 …。

    中学生無言ではけていく。

イリヤス …いや~思春期ですね~。

シホ …ゴメンなさい。変な空気にしちゃって…。

タイシ シホさんは、悪くないですよ。

エトウ そうだよシホ~。叱るシホかっこ良かったよシホ~。

イリヤス …(みんなの顔色をうかがって)みなさん疲れているだろうし、少し休みましょうか?今話し合っても、きっと頭が回りませんよ。

シホ …そうね。ここにたどり着くまで不安で休めなかったし。

エトウ よ~し!シホが寝れるような綺麗な場所確保してくるね~。

それぞれはける。

タイシ アラタ、少しは休んだほうが良いぞ…。

アラタ …。

    暗転

アラタナレーション
俺もそうだ。いつも思ってた。俺は脇役。なんの色もない。存在意義もない。俺は、ここにいるの?なんの為にいるの?

    SE:心電図の音。

    ドアに砂時計が映される。

~第五景~

    アラタ板付き。塞ぎ込んでいる。

    少し間があって、タイシ登場。

タイシ アラタ…寝ないのか…?

アラタ …。

タイシ みんな疲れてたんだろうな。ぐっすり寝てるみたいだよ。

アラタ …。

タイシ …じゃあ、おやすみ…。

タイシはけようとす。そこにアラタ話しかける。

アラタ …少し思い出したよ。

タイシ え!記憶が戻ったのか!?

アラタ さっきあの花屋がガキ殴った時、なんとなく過去のことが頭に浮かんだんだ。

タイシ ショック療法!?…で、どんなこと思い出したんだ?

アラタ 俺さ、学校でいじめられていたんだ…。

タイシ いじめ…。

アラタ 無視されたり、暴力ふるわれたり…。なんとなく、それだけ思い出した。

タイシ …そっか。…でも、とにかく記憶が少しでも、戻ってよかったな。…ショック療法が一番効き目あるのか…(腕をまくり、殴ろうとする。)

アラタ やめて!そういうことじゃないから!

タイシ なんだよ。戻るかもしれないだろ。

アラタ 殴られたからじゃないと思う。

タイシ え?

アラタ 多分俺、ああいうふうに、いつも母さんに叱られてたんだ。

タイシ 母親?

アラタ 父親がなよなよしててさ、母さんが俺を強い子に育てたかったらしくて、凄く厳しく育てられたんだ。まあ、結局親父譲りの性格になっちゃったんだどな。

タイシ そっか。

アラタ だから、花屋があのガキに言うことが、自分が母さんに言われてるみたいで心にグサグサ刺さって…

タイシ それで、少し記憶が戻ったってわけか。もう少ししたら、全部思い出せるかもな。俺も強力するから一緒に頑張ろう。(握手をもとめ、振り払われる。)…え?

アラタ …なんで、俺みたいなどうしょうもない奴に優しくするんだよ…。

タイシ 当たり前だろ?

アラタ 当たり前?

タイシ だって、俺はアラタのこと友達だと思ってるから。

タイシのナレーション
『友達』という言葉がリフレインする。

    頭を抱え苦しむアラタ。

アラタ うぁあぁぁー!

タイシ ど、どうしたアラタ!大丈夫か?

アラタ はぁはぁ…。

タイシ すまない…。俺が、急に色々言い過ぎたからかもしれない…。

アラタ 友達?馬鹿馬鹿しい。さっき会ったばかりのくせに!

タイシ アラタ…。

アラタ 俺は、ずっと思ってた。本当にこの世界が存在しているのか?本当は俺一人、訳の分からない生命体が一つがポツンとある、何もない世界じゃないのか…。俺は、何の為に存在しているんだよ?俺は、存在してるのかよ?

タイシ なに言ってるんだよ!存在してるに決まってるだろ?

アラタ …あのガキが言ってることが全て共感できちゃうんだよ…。

タイシ え?

アラタ だから自分見てるみたいでイライラして…わかってる。わかってんだよ…。きっと、俺は嫌なことや、弱い自分を…そんな記憶を全部消し去ろうとしてるんだ。でもさ…、そんなん誤魔化さないとやってられないじゃん…。だって、毎日が真っ暗だったから…。

タイシ …無理すんな。色々押し込めなくていいよ。見ろよこの真っ白な世界。不自然だろ?色々な色の人間がいないと世界は成り立たないんだよ。

アラタ …色々な音色があってオーケストラか…。

タイシ え?

アラタ 俺も世界にいないと成り立たないか?

タイシ 成り立たない!

アラタ 俺にも色ついてるか?

タイシ ああ、俺にはアラタの色がはっきり見えるよ。繊細でいて強い色かな。

アラタ ふっ…なんだよそれ。

タイシ とにかく、お前はここに存在する!ちゃんと立ってる!

アラタ …タイシ。

タイシ え?

アラタ …ありがとう。

タイシ (笑う)照れ臭いこと言うなよ!よーし!(叫ぶ)アラタは、ここにいるぞー!

アラタ なんだよそれ!

タイシ こういう青春っぽい時は叫ぶって相場は決まってるんだよ!ほら、アラタも!

アラタ え?俺が?

タイシ お前がここにいるって、ことを叫んで示すんだよ!どうせ俺たち以外誰もいないんだ。思ってることぶちまけろよ。

アラタ …。

タイシ ほら!

アラタ うぁあぁぁー!俺はここにいるぞー!ここに存在してる!生きてるんだ!俺だって生きてるんだー!

    タイシ腕を広げる。

アラタ は?

タイシ こういう青春っぽい時は、最後に友達同士で抱き合うって相場は決まってるんだ!

アラタ それはちょっと…。

タイシ 早く!青春逃げちゃうぞ~。早くしないと青春逃げちゃうぞ~。

アラタ 遠慮しておくよ…。

タイシ 青春こちらからいきまーす。

    抱き合う。

アラタ 気持ち悪いなー!

タイシ でも抱き合えてるってことは、お互い存在してるってことだ!

    そこに、ラッコ登場。ビックリする。

ラッコ は!

    二人もラッコに気づく。

ラッコ そういう関係だったの!?

アラタ (タイシを振りほどき)違うわ!

タイシ 青春だよ。

ラッコ …青春?

アラタ なんか更に意味深になるだろ!

タイシ ところで、ラッコどうしたんだ?

ラッコ タイシ戻ってこないから探しに来たんだろ。

アラタ じゃあ、俺はあっち行くわ。

ラッコ 待てよ。せっかくだから三人でなにかしようぜ。

タイシ なにかってなんだよ?

ラッコ かくれんぼしちゃう?

タイシ 隠れる所ないだろ!なんで高校生にもなって、しかもこんな状況でかくれんぼしなきゃならないんだよ!

アラタ …。

ラッコ アラタ?

アラタ なんか、こういう、人に仲良くしてもらえるの初めてで…。俺なんかが仲間に入っていいのかな?

ラッコ お前面白いな。てゆーか、もう仲間だろ?

タイシ よし、青春だ!(腕を広げる。)

アラタ それもういいよ!

タイシ みんなで抱き合うぞ~!青春逃げちゃうぞ~。

ラッコ え?なに楽しそう!

    三人抱き合う。

タイシ 青春だー!

    カミムラ登場。抱き合うの見てビックリする。

カミムラ え!

    三人カミムラに気づく。

三人 あぁー!

カミムラ そうかお前らゲイだったのか…!

ラッコ ちがうわ!

アラタ …。(怯えている。)

タイシ なにしに来た?

カミムラ そりや昼間の仕返しだよ。

ラッコ 色がないから、昼間かどうかもわからないけどね。

カミムラ うるせー!

    殴りかかってくる。

    アラタ殴られそうになり、タイシかばう。

    アラタびびってしまう。

    ラッコ助けようとタックル。返り討ち。

    カミムラ、バットでタイシをボコボコ。

カミムラ お前、友達がやられてるのに助けないのかよ?

タイシのナレーション
『アラタ助けてくれ!』リフレイン。

    アラタ頭を抱え苦しむ。

アラタ うぁあぁぁー!

カミムラ なんだこいつ。気でも狂ったか?

アラタ はあはあ…。

カミムラ まあいい、あの拳銃を持った、おっさんに伝えておけ、次はお前の番だってな。

    カミムラはける。

    苦しむ、ラッコとタイシ。

    震えながらはけるアラタ。

    薄暗くなる。

    SE:ぴっぴっと心電図的な音。

    ドアに砂時計が映される。

    老人がゆっくり登場。ペンキを黙々と塗る。
    
徐々暗転。

~第六景~

    イリヤス、シホ、エトウ、老人板付き。老人ペンキを塗っている。

イリヤス いやー、暗くなくても意外としっかり眠れますねー。

エトウ どうして一緒に寝てくれなかったんだよシホ~。

シホ まったく、なよなよしないでよ。私達は今は付き合ってないんだから当たり前でしょ!

エトウ シホ~。

イリヤス おじいさんも少しは眠れましたか?

老人 …。

    アラタ登場。

イリヤス おはようアラタ君!

アラタ …。

イリヤス どうしたんだい暗い顔して?

エトウ その子はいつも暗いよシホ~。

シホ なにかあったの?

アラタ …どうしてだよ。

イリヤス アラタ君?

アラタ どうしてこんな俺にみんな優しくしてくれるんだよ!

エトウ キレる十代だよシホ~。

    タイシ登場。怪我している。
    アラタ気まずい顔。

イリヤス タイシ君どうしたんだ!大丈夫か?

アラタ …

タイシ みなさん聞いてほしいことがあります。

シホ なにかあったの?まさか、またあいつが?

タイシ はい。あいつが現れました。あいつは、イリヤスさんを狙っています!気をつけてください。

エトウ シホこわいよ~。

イリヤス 傷は大丈夫か?

タイシ そして…

イリヤス まだなにかあったのか?

タイシ ラッコが消えました。

アラタ え?

シホ き、消えたってどういうこと?

イリヤス どこかへいってしまったのか?

タイシ …いや、急に体が透けだして…。

イリヤス 透明になって消えてしまったってことか…。

シホ え?だって、人が消えたのは間違った記憶だったんじゃ?

エトウ 僕達もこれから消えていってしまう可能性があるのかな?シホ~。

タイシ ラッコ…。

    イリヤス タイシの肩を叩く。

イリヤス まだラッコ君が帰ってこないとは限らない!これ以上被害者が出る前に、元の世界に戻ろう!

タイシ そうですね!こんな世界、はやく抜け出しましょう!

シホ でも、ここが違う世界だというのは仮説にすぎないわ…。

エトウ も、もしかしたら、ここは、死後の世界なのかも!死後~。

タイシ 確かに…。

イリヤス 死後の世界。確かに可能性はあるかもしれませんね。

シホ 死後の世界…。

イリヤス …あれ?そういえば、あの中学生は?

エトウ シホに怒られてから見かけないなぁ~。

シホ …。

イリヤス もしかしたら、彼も消えてしまったのかも。このままじゃ、きっと私達も消えてしまう…。

タイシ …俺は、このドアが、俺達を集めたんじゃないかと思います…。

イリヤス ドア?

エトウ いやだ!消えたくないよー!シホ~!消える前に結婚してくれよ~!愛してるよ~!

シホ こんな時になに言ってるの?

エトウ 愛してるんだよシホ~!

シホ …わかった。あなたが、なよなよしなければ考えておく。

エトウ やったー!嬉しいよ~シホ~!

    エトウの体が光だす。

エトウ あれ?…なんだこれ?体が…体が消えてきたよ。嫌だよ~シホ~!

シホ エトウさん!

イリヤス 体が消えだしている!

タイシ ちくしょうどうにもできないのか?

エトウ シホ。ありがとう。

    エトウ消える。
    ※目潰し的な昭明とスモークで誤魔化しながら、暗転してエトウはけて明転する

シホ エトウさーん!(泣きながら膝から崩れ落ちる。)

アラタ …本当に…人が消えた…。

イリヤス どういうことなんだ?

タイシ …ラッコの時と一緒だ…。

シホ エトウさん…。

タイシ このまま、どんどん消えていってしまうのか?…どうすりゃいいんだよ!なんなんだよこの世界!俺達がなにしたっていうんだよ!(タイシパニック)

イリヤス タイシ君落ち着いてください!

タイシ …すみません。

イリヤス シホさん気を落とさないでください!なんとか方法を。

    そこに、小学生登場。アラタの目の前。他のメンバーは気づいていない様子。

アラタ え?小学生?どこから来たんだ?

小学生 ねぇ。なにしてるの?

アラタ いや、俺が先に質問しただろ。

小学生 ねぇ、あなたは誰?

アラタ アラタだよ。話し聞いてるのか?

小学生 ねぇ友達いる?

アラタ え?…い、いないかも…て、なんなんだよお前!

小学生 ねぇ、僕は生きてる?

アラタ 知らねぇよ。

小学生 うぇーん!

イリヤス アラタ君!その子誰だい?

アラタ なんか急に現れました。

イリヤス 小学生かな?どこから来たんだい?

小学生 ねぇ、時間ってなに?

イリヤス え?

アラタ まったく話しにならないんです…。

シホ まだ、他にも生存者がいたんだ…。

タイシ お母さんや、お父さんは?

小学生 ねぇ、あれだれ?(袖を指差す。)

    イリヤス振り向くと、突然金属バットをもって現れたカミムラに殴られる。

タイシ イリヤスさん!

シホ きゃー!

カミムラ この前は、どうも。

カミムラ、イリヤスの懐から銃を出す。

カミムラ ちっ、やっぱり偽物かよ。…なめやがって!なめやがって!(イリヤスをぼこぼこに殴るが、途中でバットを握り、ふらふらしながらも反撃)

    ふるえる小学生。かばうシホ。

カミムラ じゃあ、今度こそこの女は貰ってくぜ。

    シホをかばうイリヤス。

イリヤス くそ!こんな時に!

    イリヤス体が消え出す。

タイシ イリヤスさん!

イリヤス こんな大事な時にすみません…。

カミムラ なんだこいつ体が透けだしたぞ?

アラタ イリヤスー!

イリヤス アラタ君…強い人間なんていません。心の持ちようですよ…。君なら大丈夫…。

    イリヤス消える。

アラタ イリヤス!

カミムラ どうなってんだよ?気持ちワリィ。ま、いいや。

    カミムラ、シホに近づく。

    タイシ、シホを助けようとする。

    タイシとカミムラやり合う。

タイシ アラタ!シホさんを連れて逃げろ!

    アラタ動けない。

タイシ 早く!

    タイシ隙をつかれ、カミムラに殴られる。

    タイシ、カミムラにボコボコ。

シホ タイシ君!!

タイシナレーション
『助けてくれアラタ!』リフレイン。

中学生のナレーション
また逃げるのかよ?逃げてばかりでいいのか?それじゃあ、本当に存在してないのと一緒だぞ。自分で存在を示せよ!

アラタ うゎぁー!

    アラタ、カミムラにタックル。

カミムラ なにすんだテメェ!死にてぇみたいだな…。

アラタ もう俺は逃げない!

カミムラ ふん!じゃあ、思い通りに殺してやるよ!

タイシ アラタ!

    殴られるアラタ。しかし立ち上がる。

アラタ 俺は弱い…。でも、友達や大切な人くらいは守ってみせる!もう、後悔はしたくない!

    アラタ、カミムラにタックル。

カミムラ なんだテメェ!マジでぶっ殺してやる…な、なんだこれ?…か、体が!

    パニックになり、アラタをふりほどき、バットを捨て、ナイフをふりまわすカミ
ムラ。

カミムラ ちくしょう!消えるなら、全員道ずれだぁー!

    そのナイフがアラタに当たりそうになった時、タイシがかばいタイシが倒れる。

    カミムラの体が消える。

アラタ タイシー!

シホ タイシ君しっかりして!タイシ君!

タイシ アラタ…

アラタ 喋るな!今なんとかするから!シホさん!イリヤスさんの持ってた治療道具ありませんか?

シホ 待ってて!

タイシ アラタ…

アラタ なんだよ!

タイシ …ありがとう。

アラタ なに言ってるんだよ!俺は、おまえをを置いて逃げたんだぞ!怒ってないのかよ?

タイシ …そんなことで怒るかよ…だって友達だろ?

アラタ タイシ…。俺は、君のおかげで、初めて孤独から逃げ出せたよ…ありがとう…そして、ゴメン。

タイシ笑顔になり体が消えだす。

アラタ タイシまで!おい!待ってくれよタイシ!タイシー!

    タイシ消える。

シホ …アラタ君。

アラタ …タイシが。シホさん…俺どうしたら…。

シホ ごめんなさい…。

アラタ え?

    シホの体が消えだす。

シホ 私も、もう無理みたい…。

アラタ ちょっと、待ってくれよ!

シホ 強く生きて…考えるの。あなたのいるべき場所はどこ?

    シホ消える。

アラタ おい!待ってくれよ!どういうことだよ!うゎぁー!(膝から崩れ落ちる)誰もいなくなっちまった…。嫌だ!一人は嫌だよ!じいさん!おい!聞いてるのかよ!こんな時くらいペンキやめろよ!

老人 …。

アラタ ちくしょう!

    じっと見つめる小学生。

    そこに、中学生登場。

中学生 一人が良かったんじゃないの?

アラタ お、お前!消えてなかったのか?

中学生 他人と関わっても無駄だよ。

アラタ そんなことない!俺は、タイシそして、ここに集まった、みんなと一緒に過ごしてわかったんだ。こんな俺のことでも、気にかけてくれる人がいる。俺は一人なんかじゃないんだって。

中学生 そんなの綺麗ごとだ!結局他人は他人だ!ねぇ教えてくれよ!

小学生 僕はここにいるの?

中学生 …世界は存在するの?

タイシ …。

中学生 …いつも思ってた。本当にこの世界があるのか? 本当に自分は存在しているのか?この世界は、僕の見てる妄想なのかもしれない…。全部嘘なんだ。全て存在しないんだ。目で見える色。こんなものいくらでも作り替えることができる。そうさ、全部僕の妄想なのさ。だから、この真っ白い世界を作った。そして、いらない物は全て消してやった。あんたは、僕と一緒だと思って残しておいたのに残念だよ。

アラタ …わかったよ。全て思い出した。

小学生 なにがわかったの?

中学生 なにがわかったんだ?

    二人同時

アラタ お前らは、俺だ。

中学生 …?

アラタ 俺の中学時代と、小学生時代。この真っ白な世界は、俺が望んだ世界…。

    SE:心電図の音。

    中学生消える。

    老人ペンキを塗っている。

老人 生きたいか?

アラタ 生きたい!そして、大切な人達に会いたい!

老人 すぐに朽ち果ててしまうというのに、なぜ人間は、そんなにいきたがるのか…。

    ゆっくりペンキを置き。アラタに近づく。

老人 ギリギリじゃったな。

アラタ ギリギリ?

沈黙

アラタ そうか…思い出した。俺は…自殺したんだ。

老人 そうじゃ。お前は生死の際をさ迷っている。

アラタ あんた、何者だ?

老人 人間界でいう死神みたいなものじゃ。生きる気力がでなければ、お前の全てを真っ白に消しさる予定じゃったのに。惜しかったのぉ。

アラタ ペンキで色を塗っていたわけじゃなく、白いペンキであんたが世界を塗り潰してたってわけか…。これで、元の世界に戻れるのか?

老人 もうわしの仕事は終わりじゃ。さらばだ。あとは、自分で考えろ。

    老人はける。

    小学生ドアをあけ、タクトを取り出してくる。

アラタ …タクト。

小学生 今度、合唱コンクールで指揮者やるんだ。僕がみんなを動かすんだ。僕が主役なんだよ。

アラタ 指揮者…そんなことあったな。やるやつがいなくて押し付けられただけなのに嬉しくて仕方なかった…。

小学生 はい。(タクトをアラタにわたす。)

アラタ …。

    アラタ、タクトを構える。

アラタ …(タクトを見つめ)俺なんてちっぽけな存在かもしれない、目立たない存在かもしれない。でも、そんな俺を見ていてくれる人達がいる。だから、俺は示すんだ!ここにいるって!ここに存在するって!

    アラタタクトをふる。

    するとオーケストラがながれ、色がどんどん戻っていく。

アラタ 戻れ!俺はもっと生きたいんだ!

    色がどんどん戻り暗転
~第七景~

    SE心電図の音

    アラタ、母親、父親、板付き。真っ赤な花が置いてある病室。
    アラタがベッドに横になり、周りに両親
    徐々明転

母親(シホ) アラタ!あなた、アラタが!

父親 (えとう) アラタ!目が覚めたのか!やったよ、シホ~。(泣く)

母親 あなた!男なんだから私より先に泣かないでよ!

    アラタ笑う

母親 でも、とにかく良かった!まったく!心配かけて…。あなた、1週間も意識戻らなかったのよ!いつも、母さんたちになにも話してくれないし!どうしてあんなこと…。あなたは一人じゃないのよ!

アラタ …ごめんね…母さん、父さん…

母親 アラタ…。

父親 アラタ~シホ~。

アラタ …産んでくれてありがとう。もうあんなことしない。俺は、もっと生きて、もっともっと父さんと母さんと一緒にいたい。

    母親泣く。

父親 嬉しいよ。シホ~。俺ちゃんと仕事探すよ~。

母親 なよなよしないでよ!

    イリヤス登場。

母親 先生!息子が意識を!

イリヤス すごい!奇跡だ!

アラタ イリヤス!

イリヤス (笑う)私は、入江ですよ。イリヤスってなんですか?

アラタ 入江!?

イリヤス まだ、少し混乱しているようですね。もう数日、入院して様子をみましょう。

母親 はい。先生。よろしくお願いいたします。

イリヤス 世界に色が戻って良かったですね。(笑み)

アラタ え?

    暗転

~エピローグ~

    アラタ板付き。

    場所は、学校への登校中の道。

ラッコ おーい!アラタ待てよー!

    ラッコ登場。

アラタ おせーよ!遅刻しちゃうぞ!

ラッコ なんかアラタ退院してから変わったな。

アラタ そうか?

ラッコ 元気になったよ。

アラタ そうかな?

ラッコ 俺たちみたいなイジメられっこは、もっと暗くひっそり暮らさないと!

アラタ やだよ、そんな妖怪みたいな暮らしは(笑う)

タイシ お前ら早いよ!

    タイシ登場。

タイシ 待てよー!

アラタ タイシが遅いんだろ?

タイシ なんだと!

    笑い合う。

アラタ タイシ…

タイシ なんだよ。

アラタ 昔、俺が逃げたの覚えてるか?

タイシ 逃げた?

アラタ あの不良のカミムラに絡まれた時…。

タイシ ああ、俺とラッコがぼこぼこにされてるのに、お前だけ逃げたんだよな!懐かしいなー!

アラタ あの時は、ゴメン!

タイシ なんだよ急に。

ラッコ 変な薬でものんだか?

アラタ ずっと謝りたくて、でも謝れなくて…。心の中じゃ俺のこと、ムカついてるんじゃないかとか心配で…。

タイシラッコ笑う。

アラタ え?

ラッコ ばかじゃないの?

タイシ そんなことで、怒るわけないだろ?だって、俺たち友達だぜ。

アラタ そうだよな。(笑う)

ラッコ なんだよ気持ち悪いなー!そういえば、番長のカミムラ、昨日バイクで事故って意識不明の重体だってさ。良い気味だよな。

タイシ 意識不明?

ラッコ 良い気味だよな!

アラタ さすがにそれは…。

タイシ 笑えないわ。

ラッコ なんだよ!引くなよー!

タイシ あ。

ラッコ どうした?

アラタ あ。

ラッコ なんだよ?

タイシ 虹だ。

ラッコ 本当だ!

アラタ 綺麗だな…。

タイシ よし、青春だ!(腕を広げる。)

アラタ それいいよ!

タイシ みんなで抱き合うぞ~!青春逃げちゃうぞ~。

ラッコ え?なに楽しそう!

    アラタ逃げたり、わちゃわちゃしながら徐々暗転。

アラタナレーション
世界は色に溢れている。世界は希望に満ちている。俺が気づけば良かったんだ。…俺はここにいるよ。

~エピローグ2~

カミムラと老人板付き。
場所は真っ白な世界。

    明転

カミムラ マジどんどん人消えてくじゃん!マジやべーどうしよ!おいじいさん!これどうなってんの?

    セヤマと小学生登場。

カミムラ こいつらなんだよー?

セヤマ マジ俺の物は俺の物、人の物は俺の物だし!

小学生 暴力が全てだし!

カミムラ あ、マジわかった!こいつら、俺の昔だ!

老人 よく気づいたな。

カミムラ で、俺バイクで事故って今瀕死の状態っしょ?よし、この世界から脱出できるぞー!

老人 でもなんとなく意識取り戻させたくないなぁー。

カミムラ いやそれはないっしょ!(バットをタクトのように振って)色よ戻れ!

みたいなやりとりしながら幕閉まる。

終わり。

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