第4回東奥文学賞 空襲の記憶が混在する、老人ホーム内の階級闘争

田辺典忠「健やかな一日」:大賞。老人ホームの4人部屋で暮らす「僕」は、なんとかオムツを外したくて、おねしょしないように水分補給も極力避ける日々。しかし、かつての青森空襲のあの日、防空壕の中であまりの恐怖で失禁した夢を見て――。見方によっては悲惨な暗い生活風景を見事なまでにユーモラスに描いて最後のページまで飽きさせません。比較的健康な人が多い3階と、寝たきりや重篤な認知症患者の多い2階という階層の違いや、家族の訪問頻度もしくは訪問者の数で患者同士のマウンティングが行われているという冷静な観察眼も随処に盛り込まれる中での、ラストの圧倒的などんでん返し。まさにウェルメイドな技巧派小説でした。

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