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言葉で考えるな、ただ感じろ。前情報ほぼなしで『海獣の子供』を浴びてきた感想

(トップ画像は数年前に訪れた新江ノ島水族館)

「世の中にひとつくらい、わからないことがあってもいい」

『海獣の子供』を見た直後、そんな言葉が浮かんできました。

改めましてこんにちは、アニメ大好きライターのハシビロコです。
先日ようやく映画『海獣の子供』を見に行くことができました!

ほぼ前情報なしで行ったので、どのシーンも衝撃的。
見終わった後は水浸しになったかのような錯覚を覚えましたが、心はカイロを貼っているときのようにじんわりと温まりました。

作品の感想を言葉にしてしまうのがもったいないけれど、言葉にせずにはいられないのがライターの性(さが)。
そんなわけで今回は『海獣の子供』の感想を、ほぼネタバレなしで綴っていこうと思います。


もう考えるのはやめた

本作を見る前に私が頭の中に入れていった情報は4つ。

1. スタジオ4℃作品
2. 音楽が久石譲さん
3. 監督は『宇宙兄弟』などを手がけた渡辺歩さん
4. 主題歌は米津玄師さん

スタッフ情報ばかりで、世界観もあらすじもほとんど予習せずに行きました。
なるべくまっさらな状態で作品と向き合いたいので。原作も映像見た後に読みたい派。

そのため、冒頭は登場人物の名前や人間関係などを理解しようと努めていました。

「なるほど、主人公は中学生の女の子で、名前は流歌(るか)ちゃん。学校や家族に対して悩みを抱えているのか」
といった風に、心の中で言語化して整理するだけの余裕がこの頃はありました。

……そう、序盤の30分程度は。

日常的な描写から海のシーンに移ると、だんだんとセリフが減っていきます。
その代わり、映像の密度は増していく一方。
水の中を泳ぐ魚たち。呼吸を感じる泡。光を受けて輝く水面。
どれも「美しい」という言葉で表現してしまうにはもったいない景色でした。

目の前で何が起こっているのか、理解するのもままならない。
いや、そもそも理解しようという姿勢がおこがましいのではないか。
本能的にそう感じ、気が付けば考えることをやめていました。

水流に身を任せるように、ただ映像を浴びるように見る。
そんな極上の体験ができる作品になっています。

きっと何回見てもわからない部分が残る

『海獣の子供』をざっくり説明すると、「中学2年生の少女が不思議な2人の少年に出会い、海の神秘を体感する」という、言葉にすればなんてことのない物語。
それがなぜ、こんなにも魅力的で唯一無二の作品になっているのでしょうか。

もちろん原作者の五十嵐大介先生や渡辺監督をはじめとするスタッフのみなさんのおかげということは、言うまでもありません。

これはあくまで個人的な見解ですが、“わからないこと”が本作をより神秘的に感じさせるのではないでしょうか。

近年の作品は登場人物の言動で明確な想いや答えを語らせる、いわゆる“親切でわかりやすい作品”が主流になっていると感じます。
こうした作り方が悪いわけではありません。面白い作品も多いですし。

ただ、直接的ではない言葉、抽象的な映像などで語る“わかりにくい作品”がもっとあってもいいのでは、と思ってしまうこともあります。こればっかりは好みの問題なので賛否両論があるはず。

見終わった後は「いったい何だったんだろう」という、もやっとした気持ちを抱える。余韻がなかなか消え去っていかない。
時間が経つにつれてじわじわと心を侵食してくるような作品を、私は求めていたのかもしれません。

『海獣の子供』は、きっと“わかりにくい作品”に分類されると思います。
何回、何十回見たとしても、すべての現象を明確に説明することはできないでしょう。

解明できないことに多少の悔しさを感じますが、「ひとつくらいわからないことがあってもいい」と微笑むことができました。
そもそも世界には、わからないことがあふれているのですから。

世界のはじまりと終わりを見た

たしかに難解な作品ではありますが、それでもひとつだけわかったことがあります。
それはこの作品の中に、世界のはじまりと終わりを見た、ということ。

数々の命が出会い、別れ、つながり、輝き、終わっていく。
それをくり返すことで、世界は続いているのでしょう。
海の中で流歌や私たちが目にした出来事は、まぎれもなく世界がはじまり、終わる姿でした。
おそらく幼い子どもが見たとしても、その姿を本能的に感じ取るのではないでしょうか。

アングラードのポニテ最高でした。

さて、思うままに綴ってきましたが最終的に言えるのは「この作品の感じ方はひとそれぞれ」ということ。

それを言ってしまえば元も子もないのでは、と思うかもしれませんがいいんです。
受け取った人の感想や考察はすべて正解。国語のテストではないのですから。
「見どころはアングラードがポニテをしばるところです!」という、私のような人間がいてもいいじゃないですか(つまりこれが言いたかった)。

『海獣の子供』は、“わからないこと”への神秘、そして受容の多様性を感じさせてくれる作品でした。

ところで見終わった後に聴くと主題歌の歌詞天才ですね……!


『海獣の子供』公式サイト
https://www.kaijunokodomo.com/

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