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連続小説 目線の下 #01


見える世界が少し違う―
それは僕にとっては”当たり前”の一つだった。

「なぜ?僕だけ・・・」
そういった思いはいつの間にか諦めの中に覆いかぶさっていった。

「ねぇ!ママー。あのお兄ちゃんどうしたの?」
「お兄ちゃんはね、怪我をしているんだよ。」

「あれなぁに?」
「こら!指差ささないの!」

この世界にいると何故か小さなお友達とよく目が合う。
僕だって最初は、「この乗り物かっこいいでしょ!」なんて言ってはいたものの、
大体、同じことを言われるので、FAQのようなどこか淡白な、けど少し感情が見えるくらいの返し方になってきている。

けど決してその子の好奇心というのは削いではいけないと思う。
もちろん、興味を持つことでその子の何かが変わるかもしれない。逆にそうなんだの一言で終わることもあるのかもしれない。
その子が大人になった時に。古い記憶が作用してくれれば。
そのための種をまく作業だと。そう思って答えているし、答えていくつもりなのだ。

そうした”お友達”の好奇心をよそに、大人はすみませんと一言おいて去っていく。
何に対してのすみませんなのだろう?
子供が不躾なことをお聞きしてすみませんということだろうか。それともお気を遣わせてしまってすみませんということだろうか。
僕は一番気を遣っているのはそういうことを発してしまう大人達だ。子供が不躾なのは当たり前で、というか不躾という考えになるというよりも好奇心の塊でしかないと思っている。
子供ながらにきっと、すみませんの一言が言っちゃだめだったんだと結果的に考えてしまうことはあると思う。
たまたま好奇心というボールが転がって言っただけなのにゴールに入れる前にルール違反としてしまう。
何とももったいないことだなと思う。

こうした光景や、実際に経験をしてみると、どの大人と出会うかということがどれだけ大事かということがわかる。
価値観形成という意味では、真っ白なキャンパスにどう筆をおいて色付けをしていくかというイメージに近い。

僕の目の前には、たくさんのどんと構えた身体と、大名行列の行進を歩くかのごとく、白線の手間で待つ車が数台。
まるで異国の地に来てしまったかのような、何かを置いてきてしまった気分になる。とはいえ、その何かが何を指しているのか立ち止まる時間はない。そこは大名行列。前向け前、右折をすれば右向け右。傍から見たら滑稽に写っているのだろうか。。。
ただ、僕はその行列に足をすくわれてしまわないために進むしかないのである。

大名行列を抜けると右にはカフェが2階にある本屋が見えた。目の前にはセンター街と書かれた道がある。まるで正解はこちらと手招きするように僕はセンター街の方へ足を向けた。センター街というくらいだから混雑しているのかと思えばそうでもなくて、いつも人はまばらで時間帯によるのかもしれないが今日のこの時間はそんなでもない。先程、人の波にのまれそうになり、時間がゆっくりと進んでいる気がした。自分の体内時計を合わせるかのようにスマホのホーム画面に目をやった。
13:45と表示されたスマホを僕は小さな相づちを打ちながらポケットにしまう。
そういえば、お昼を食べていなかった。その辺でお昼ご飯でも取ろうと僕はチェーン店に入った。さすがに14時近くともなれば、混雑もしていない。この時間を選んだのは吉とでた。スペースもあるから安心してご飯を食べられる。

最近のこの街は僕にとっては優しくない。
街並みも一つの理由かもしれないが、それだけじゃなくて、なぜだか置いていかれるような気がするのだ。忙しなく生きることが正解とされるこの街は目線の下に気を配る余裕さえないのだ。

焦燥感にまみれたこの街のひとつ下の世界で生きる人間の物語―

✏筆者プロフィール

橋口竜河 (はしぐちりゅうが)
1996.02.02 生まれ 神奈川県出身
車椅子での生活をしながらシンガーソングライターとして活動している。
《ハートフルシンガーソングライター》として心情に嘘のない歌を歌い続ける。
過去には自主企画ライブを開催し、ライブオーガナイザーとしての経験もある。
配信Single《ガーネット》がApple Musicをはじめとする各種音楽配信サイトにて配信中!!
公式サイトはこちら。

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