【取材報告】東京の空に顔を浮かべる、現代アートチーム目 [mé] の「まさゆめ」

東京2020オリンピック・パラリンピック大会が行われる来年の夏。ふと空を見上げると、お月様のように人の「顔」が空に浮かんでいるー。そんな現実離れした、夢のような光景を生み出すアートプロジェクト「まさゆめ」が、現代アートチーム 目 [mé]によって進んでいます。

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現代アートチーム 目 [mé]「おじさんの顔が空に浮かぶ日」/制作:2013-2014年/制作場所:栃木県宇都宮市街地/主催:宇都宮美術館 館外プロジェクト

クラウドファンディングのページでもご紹介しているこの写真は、2014年に栃木県宇都宮市で実現した時のもの。目の荒神明香さんが中学生の頃に見た夢を具現化したものです。インパクトある光景はアートファンだけではなく、多くの市民の方々が偶然目にすることとなり、画像検索してみると、浮世離れした風景をおさめた写真をたくさん見ることができます。

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東京では年齢や性別、国籍を問わず世界中から広く顔を3月末から募集(6/30に終了)し、実在する一人の顔を選出した上で制作に臨むというもの。アートプロジェクトラボではそのプロセスにも注目し、まずは顔の募集中に行われた「顔収集ワークショップ」と、「顔会議」の様子を取材させていただきました。


顔収集ワークショップ in "東京芸術劇場”

日時:2019年6月26日(日)11:00〜15:00

会場:東京芸術劇場 公園側入口周辺(東京・池袋)

顔の募集はインターネット上でも行われていましたが、東京都庁、足立区役所、上野公園、巣鴨の商店街や銀座のお店、ライブハウス、カラオケ大会の会場など様々な場所で、目のメンバーやサポーターによるワークショップ活動を通しても収集されていました。

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この日の会場は、多くの人が行き交う池袋西口公園に隣接する東京芸術劇場周辺。劇場のお客さんはもちろん、待ち合わせ中の人、たまたま通りがかった人など。興味の有無を恐れず「顔を集めているんですけど…」「東京都の文化プログラムに参加しませんか…」と声をかけていきます。

実におかしな光景で、もちろん怪んで話も聞かない方、聞いてくれても「空に浮かぶのはちょっと…」と断る方がいるのですが、休日の和やかな雰囲気や場所柄もあってか、案外多くの方が「よく分からないけど面白そう!」と反応していたり、撮影(=候補となる顔写真の提供)に協力してくれていたのが印象的でした。

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同意が得られた方は、スタッフの方が手際よく、スマートフォンで正面、右側面、左側面、背面の4方向から顔を撮影。同意書の記入などをお願いしているうちに、写真をAirDrop(ワイヤレス通信)でパソコンに送り、参加者の顔を使った「顔パス」を発行、参加記念に差し上げていました。


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私も顔パス欲しさで撮影に参加。万が一、自分の顔が空に浮かんでしまう場合のことはなかなか想像ができませんが、こうして形になったものを手にすることで、作品の世界に入り込んだ気持ちになることができました。


顔会議

日時:2019年6月23日(日)13:00〜19:00

会場:SHIBAURA HOUSE 1F[リビング/LIVING](東京・芝浦)

登壇者:原島 博(東京大学特任教授、日本顔学会役員)、宮脇周作(法廷画家)、荒神明香(目 / [mé] アーティスト)、南川憲二(目 / [mé] ディレクター)、増井宏文(目 / [mé] インストーラー)

それでは集めた顔から、どのように実際に空へ浮かべる顔を選ぶのでしょうか。最終的には目の荒神さんが選ぶということになっていますが、その方針について、登壇者だけでなく、集まった参加者と共に考えるのが顔会議です。

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第一部は登壇者によるプレゼンテーションとクロストーク。ゲストはこのようなアートプロジェクトとは全く縁が無かったであろう原島 博さん(東京大学特任教授、日本顔学会役員)、宮脇周作さん(法廷画家)でした。

原島さんは開口一番、「ばかばかしくて素晴らしいので、すぐに出演を引き受けました(笑)」と語り、1980年代からテレビ電話の研究にはじまる人の顔やその表情についての研究内容、職業などの属性による平均的な顔の話などをまずお話しされていました。顔というテーマを突き詰めて研究されている方がいるんだな、と圧倒されるお話しでした。

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宮脇さんは、裁判所で被告人の似顔絵などを描く法廷画家という特異な仕事の内容、短い時間(入廷時の数秒間しか正面からの顔が見れない時もあるそう)の中でどのように特徴を捉えて描いているのか、描くときに先入観が反映しないように気をつけているなどのお話を聞くことができました。

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目の3人は、関係するこれまでの作品の紹介や、このプロジェクトをなぜやろうと思ったのかということや、意気込みを語りました。目は毎回チームで制作をしているのですが、荒神さんが構想したものを南川さんのディレクションのもと、目に見えて体験することのできる形に具現化していきます。その際、形にする部分を担うのが増井さんという分担になっています。

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クロストークでは、顔の本質について熱い議論が交わされていました。顔というものは必ずしもそれ単独という存在ではなくて、その人の姿全体があっての顔、人がまとっている雰囲気と密な関係にあるんだということでした。そんな中で顔だけが空に浮かぶこのプロジェクトー。その違和感と可笑しさはそこにあるのかもしれません。

第2部では、集まった参加者がグループに別れて、そんな顔を浮かべたらいいのかを話し合いました。方針としては、最終的に何かひとつのやり方を決めるというよりは、どんな決め方があるのかを考えてみよう、ということでした。

荒神さんからは「自分が見た夢の顔をよく覚えていないし、宇都宮でやったようなおじさんだったのかも分からない。自分よりも先入観のない皆さんの意見を参考にして考えたい。」という意図が説明されました。とにかく、切実に、どんな顔がいいのかをできるだけ客観的に考えたいということだけはよく分かりました。

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グループごとに、実際に応募された顔のファイリングを見ながら、それぞれに意見を出していき、最終的に会場の皆さんにも共有します。私が参加したグループには、取材に来ていた新聞記者の方、グラフィックデザイナー、広告プランナー、アートプロジェクトのお手伝いをするのが好きだという方、目のファンだという方などがいました。

・簡単には協力してくれなさそうな、下町の頑固そうなおじさんがいい

・キャンペーンだったら子供とか外国人が選ばれそうだけど、予定調和っぽくなるのは嫌だ

・このイベント自体をTwitterで偶然知って「何だこれ面白い!」と思って来たので、そんなくだらなくて面白みのある顔がいい

など意見とともに、それぞれがどのようにこのプロジェクトを捉えているのかがわかって、とても面白い時間でした。

最終的には、他のグループからも、

・造形されるのだからとにかく頭の形がいい顔

・実際に会ってみたいと思ってしまうような顔

・特徴があまり無くて万人に受け入れてもらえそうな、自分のような顔

・さすが荒神さんが選んだ顔だと思えるような顔

などと多様な考え方やプロジェクトへの期待が示されて、濃密な議論が交わされた4時間ものイベントは熱を帯びたまま幕を閉じました。

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写真のキャプション会議の様子はインターネットでライブ中継もされ、閲覧者からのコメントも共有されていました

アートプロジェクトの傾向と面白さは、このようにアーティストだけの手でつくられるのではなくて、様々な人が参加して出来上がっていくこと、作品が、言わばアーティストの想像を超えて参加した人たちのものにもなっていくというところだと思います。

プロジェクトの実現は来年の夏。「まさゆめ」は、東京都が東京2020オリンピック・パラリンピック大会に向けて芸術文化都市東京の魅力を伝える様々な取り組み「Tokyo Tokyo FESTIVAL」の一環として行われているそうです。

また機会を見つけてこれらの活動を取材していきたいと思います。

EDIT LOCAL LABORATORY 橋本誠

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