あだちあきこ

映画「天気の子」 〜不調和という名の調和

音もなく柔らかな雨の降る夜。初日の最終回に滑り込んだわたしがスクリーンで見たのは、雨が降り続く日本の首都だった。

都心のビルの灯も、なんてことのない坂道も、バス停も、新宿の夜も、むせかえるように生々しく美しい。気づけば東京の街にするりとダイブしていた。東京は時々ふらっと出かけるだけなのに、思わず目をこらすほどのリアルがそこにあった。もし毎日都内に通っている人・住んでいる人が見たならどう感じるのだ

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初日にみた【天気の子】ひとことメモ。

台風5号の影響でしとしと降り続く雨。響くセミの音。そんな日に見るのに、これ以上ふさわしい映画はない。このラストをどう捉えるかでその人の世界観がわかる。それが最高に楽しいことだと私は思う。
いまや、不調和と名付けられているものは、全部「調和」でしかない。そう思うようになった私にとって、雨のように染み込む映画だった。
「君の名は」が好きだった人にはちょっとした贈り物も♡スクリーンで見つけてね^^
 

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宵待草の指先

久しぶりに実家に帰ったら、玄関先に見慣れない花が増えていた。

「初めて見た? これは宵待草(よいまちぐさ)だよ」

母の視線の先に、ピンクの愛らしい花が揺れていた。

これが宵待草・・・? あまりにも可愛らしくて、わたしは少しがっかりした。もっと色っぽい花だと思っていたからだ。

宵待草は夕方に咲き、夜の間中ひらいて明け方にしぼむ。一晩だけの花。

その咲き様を思うとき、真っ先に浮かぶのは彼のこ

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わたしは針。

星の流れる夜、淡いランプの光の下で。

 ときには明るい太陽の日差しのもとで。 

 それはゆっくりと紡がれてきた。



 いまは12歳のシンがわたしの主だ。



「シン、そうではない。もうひと色、ここに」


「……こう?」

 シンは黄色の糸を通し、麻の生地にそっと刺した。


「そう。それでいい」


 祖母のしわだらけの手が、そっと刺繍をなぞる。
 テントの中に、外を走り回

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愛なき世界を生きていく

人は何をもって愛というのだろう。

そんなの人それぞれだってことくらいわかってる。考えてはみたものの、雲をつかむようで何も浮かばない。
もう考えるのはよそう。わたしはさっくりと諦めた。
なのにそれ以来、やたら「愛」という言葉が目につくようになってしまった。

ふとつけたテレビの中で、韓国ドラマの王子と侍女が夜の宮殿に佇んでいる。
「わたしはそなたを愛している」
潤んだ瞳で王子が告げた。
美しい顔立

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裏切りに満ちた、よき人生

「これだけは一生しないだろう」と思っていることに限って、やってしまうのはなぜだろう。
正確には「ないだろう」と思っている時点で、すでに意識を向けているのかもしれない。
私の場合「やってはいけない」といった甘い禁忌感はなく、あるのは「そういうことを自分だけはしない」という根拠のないただの思い込みだ。

私にとってそれは「妻帯者とは付き合わない」「一度別れた男とは決してよりを戻さない」の2つだった。

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2018年12月26日の告白

わたしはありとあらゆる方法で、自分を傷めるのが得意でしょうがないという人生を歩んできた。
その一つに、嫌われたくない、愛されたいという強烈な欲望がある。
それは好きではない人にも愛されたいという、なんとも奇妙な矛盾と恐れ。
わたしは長い間、この気持ちを誰にも絶対に知られたくなかった。
この欲望をもっている自分を恥だと思ってきたし、正直に言うと、いまもほんの少しだけ思っていたりもする。そんな自分の見

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自分の書いた話がこんなに生き生きするとは...ちくわさんの声に紡がれて、彼女のものになった瞬間は宇宙のはじまりのようでした。素敵なクリスマスプレゼント、あなたにも!
【朗読 ちくわな世界】あだちあきこ作「12月4日に僕が決めたこと」
https://note.mu/kfumi9/n/nf873cc3cd126

12月4日に僕が決めたこと。

今朝、お母さんとケンカをした。寝坊して朝ごはんを食べずに学校へ行こうとしたら「だから言ったのに」などという。
なんだよそれ。知らないし。
僕は1秒でも長く寝ていたかっただけだ。

ぎりぎりまで言い争いをして家を飛び出した。
ちくしょー。ちくしょー。
嫌な朝だ。

チャイムと同時に教室に滑り込む。
「ギリギリセーフ!」
振り向くと、よっちゃんがニッと笑っているのが見えた。

◇◆

僕にはお父さんは

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<亡き私>の生活と意見 【泣き虫あきこの人生大全】

地球を去ったのは、肉体を得て98年目の春だった。

最後に書き上げた大河ファンタジー「赤の少女と白い虎」の出版記念講演会の世界ツアーの最中のことだ。
無理をいって立ち寄った、ハワイ島のコンドミニアムの中庭。ソファに座り、ひと粒のぶどうを口にした瞬間、美しい虹がかかるのを見た。
「ああ、いまか」
そうしてゆっくりと目を閉じ、最後に息を大きく吸って絶えた。
粒子になって肉体からようやく解放された私は、

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