センチメンタルが止まらない

僕はセンチメンタルなところがある。
青春時代の恋愛をテーマにした映画をひとりこっそり見たりする。そして、すっかり感傷的になって、誰もいないところで泣いたりする。

泣く映画は時々見たくなる。
今がその時で、少しハマっている。

「ボクは明日、昨日の君とデートする」を見た。

続けて3回見た。
1回め。物語の経過に合わせ、二人の悲しみとともに終盤泣けてきた。
2回め。彼女の涙の意味に共感して、泣いた

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とある本を黒い袋で包んで人の家に置き去った話

その本と出会ったのは、去年の秋だっただろうか、はたまた一昨年のことだったろうか

恋愛小説らしいタイトル、そしてなんとなくタイトルからわかるラスト、帯。これは人々を感涙させて恋愛、切なっ…!でもこういう気持ち、いつか持てる相手がいたらなぁ。って思わせるに違いない!

いやいや騙されぬ。中学の時読みあさったのは江戸川乱歩、高校では湊かなえにはまり、受験前には日本の論点を読み、大学では日経トレンディや

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そうしてまで、優花が叶えたいこと。彼女の願う奇跡、それは――「天使は奇跡を希う」049



 星月優花は、駅前で彼と別れ、一人で歩いていた。

 彼女が毎夜、必ず立ち寄る場所へと。

 駅を越えた通り沿いにある、成美のパン屋。

 その隣に建つ、今治タオルの小売店である。

 閉店した店のわき、パン屋との間にある狭い通り道に優花は佇み――

 二階の窓を見上げている。

 そこには明かりが灯っていて、彼女の両親がまだ起きていることを示していた。

 ここは優花の家だ。

 だが今は

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その瞬間、彼女の姿が異様なくらい儚く映った――「天使は奇跡を希う」048

港では、横一列につながれた小型ボートが波に合わせて揺れている。

 ボート同士がぶつからないよう挟まれた発泡スチロールの浮がそのたびに擦れ、きゅきゅ、きゅきゅ、と鳴った。

「海鳥みたいに聞こえるね」

 隣で星月さんがつぶやく。夜の海を背景に、ほんのり青白く浮かんだ丸い頰。

 自転車を押しながら、彼女と二人きりで夜道を歩いている。

 この時間がずっと続けばいいのに。本気でそう思った。

 ど

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「送る」とっさに口にしていた。言い訳だと自分の中で感じながら――「天使は奇跡を希う」047



 深夜になって、新刊を買っていないことを思い出した。

 それを自覚すると、今の気分を紛らわせる刺激がほしくなって、ぼくはすぐに家を出た。

 暗い道を自転車で走る。商店街の書店はとっくに閉まっているから、ファミマに向かう。人気作だからコンビニでも置いてるはずだ。今は少し遠回りしたい気分で、ちょうどいい。

 港は人影もなく、夜の海が持つ原始の怖さを浮標(ブイ)や建物の灯りがちかりちかりと和

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「え」 ぼくがつぶやいた直後、唇にやわらかなものが押しつけられた――「天使は奇跡を希う」046

神社の前に自転車をとめた。

 部活が終わったあと、ぼくは成美に誘われて三島神社に来た。

 自転車に鍵をかけ、成美が先に歩きだす。鳥居の前でこちらに向き、目で促してきた。

 ぼくも鍵をかけ、仕方なく急ぎめに追いつく。

 対になった狛犬の間を通り抜け、境内までの長い石段に差しかかる。

 今日は楽しみにしていたコミック新刊の発売日だから、神社に寄ったりはしたくなかった。

 そのことを伝えたに

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左耳にふれる彼女の声が、ぼくの体の中をふわりとさせる――「天使は奇跡を希う」045



『今治タオル工場探訪記』

『フジグラン、ミスドがやたら強い問題』

 ノートパソコンの画面に、記事のレイアウトが表示されている。

 ぼくたちは部室で新聞の編集作業をしていた。

「写真、このへんか?」

「そうね」

 いつものように成美と横並びになってソフトを操作していると、

「おおー……」

 うしろからのぞき込む星月さんがストレートに感嘆する。

「すごい、ほんとの新聞みたい!」

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すん、と鼻をすする音が聞こえた気がした――「天使は奇跡を希う」044

ぼくは、星月さんが近くにいないことに気づき、姿を探す。

 いた。

 ちょっと奥のところで、タオルができていくさまをぼうっとみつめていた。

 機械の動作を見張っている作業員さんの前を通り、そばへ行く。

「どうした」

「あ、うん……」

 彼女にしては珍しくあいまいな反応をした。

 そのまなざしは、編まれていくタオルから動かない。

「こういうふうに作られてるんだなって」

「なんかすごい

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