ミッドナイトフール

第29話:不死身な奴ら

【前回のあらすじ】
 ついにアウラ奪還作戦は決行された。鬼神のような暴れっぷりのレイノンに呆れているタクヤのもとにヴェロニカが現れる。

 赤絨毯が敷き詰められた気品溢れる館内は、いまや狂乱の支配する戦場と化していた。

 王室ご用達の調度品で飾られた廊下は血で染まり、幾人もの警備兵が気を失って宙に浮いている。

 壁には無数の弾痕が残り、フロアは飛び散った空の薬莢と、硝煙で霞んでいた。

 それ

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第28話:点けるかい?

【前回のあらすじ】
 アウラとヴェロニカの出奔が、ついにレイノンの知るところとなる。タクヤはおのれの無力に涙した。そんななかいなくなったヴェロニカから重要な情報がリークされた。

 底冷えする火星コロニーの夜は、身体の芯から根こそぎ体温を奪う。それは防寒コートとプロテクターで着膨れした、大使館前の歩哨たちと言えども避けられない運命である。

「ハックショイ! ……あー、ったくよー。これだからド田舎

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第27話:決まってるじゃねえか

【前回のあらすじ】
 後悔と自責の念にさいなまれるヴェロニカは酒の力を借りてすべてを忘れようとしていた。だが胸中にあふれるのは、楽しかったここ数日の思い出だけだった。

 レイノンはリビングに入った瞬間、その様子がここ数日とは変わっていることに気付いた。

 室内では、いつものようにエイプリルが相変わらずの無表情で淡々と作業をこなしているのだが、外出前までは感じていた森の奥のような清々しさがどうに

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第26話:彼女にカクテルを

【前回のあらすじ】
 アウラを連れたヴェロニカが『連合』の大使館へとやってきた。待ち受けているディスポの姿を目にするや、自分の行動は果たして正解なのかと疑問が湧き上がった。

 街に夜が近づくと、安っぽいネオンの灯りが燈される。
 人生に疲れた鳥たちが一時羽根を休ませるために、今日も浮世を忘れて飲んだくれる。

 人間誰しも、へべれけになってしまいたい気分の時がある。そんな気分のとき、誰隔てなく受

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第25話:レイノンのため

【前回のあらすじ】
 ヴェロニカはアウラを連れて『連合』へと走るつもりだった。それをタクヤに咎めらたが、彼もまたアウラの正体を知り激しく動揺するのだった。

 火星が持つふたつの衛星が内のひとつ――フォボス。そのラグランジュポイントに建造されたスタジアム型スペースコロニーβ4は、人口二千万人の暮らす宇宙のゆりかごである。

 そのうちの九割はアジア諸国からの移民であり、戦後、財を失い落ち延びた中流

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第24話:アウラのため

【前回のあらすじ】
 ヴェロニカは死んだはずのディスポーザブルにアウラの身柄を引き渡すようにと取引を持ちかけられる。もともとの彼女の目的からすれば、願ったり叶ったりだが。

 回る回る地球が回る。
 アウラはミランダから貰った地球儀のペンを片時も手放さなかった。
 レイノンはあのままの調子で今日もどこかに出掛け、エイプリルはフール号の整備に追われている。

 タクヤも先ほどから姿が見えない。きっと

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第23話:商談〈Showdown〉

【前回のあらすじ】
 タクヤはレイノンがふさぎ込んでいるのを感じ、自分のせいではないかと思い悩む。だがそれはレイノン本人のPTSDによるものだった。暗い部屋のなかで嗚咽をもらす。ヴェロニカはそれを黙って聞いていた。

 気だるい午後のティータイム。
 ここにはあのエロガキも、無表情なメイドロイドも天然甘党娘もいない。無論、あのいじけた白髪の大男も――。

 海賊船に乗り込んでからこっち、気の休まる

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第22話:嗚咽

【前回のあらすじ】
 ミランダ夫人を狂気に走らせたのは、ディスポーザブルを名乗る『連合』のスパイだった。レイノンの過去を知り、アウラの正体をも知る謎の男。レイノンは彼に取引を持ちかけられるが、銃弾が返事となった。

【 5 】

 こんなテレビコマーシャルがやっていた。

『ハーイ、マイク! 今日はどうしちゃったの、そんなに浮かれて?』

 メリハリの利いたボディをした金髪美人が、黒光りする筋肉の

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第21話:ディスポーザブル〈使い捨て〉

【前回のあらすじ】
 戦友の遺品を家族のもとへ届けるのがレイノンの使命だった。恩師である上官の夫人ミランダは、彼に銃口を向ける。これが最後と覚悟したレイノンだったが、アウラの無垢な瞳に救われた。

 ミランダの屋敷を出たのはそろそろ陽も落ちようかというころ。

 彼女は自分の非礼をレイノンに詫びた。
 それから古い写真を引っ張り出して、在りし日の夫との思い出話に花を咲かせる。時間はあれよあれよと過

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第20話:遺品

【前回のあらすじ】
 怒りに我を忘れたタクヤは酒浸りのレイノンへと怒鳴り込んだ。感情のままに気持ちをぶつけるタクヤだったが、レイノンは意外にも世間が彼の父親を不当に評価していると諭すのだった。明けてアウラとふたり、レイノンは街へと繰り出した。

 低重力下の生活圏においてレイノンが「出掛ける」と言えば、移動方法はアレに限られている。

「うおーッ。レイノン、なんかバサバサするッ」

「風だよ! 気

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