ブルー03「夏影」

○夏影

//暗転

じいり、じいり、と蝉が鳴く。
緑色濃い竹藪の中、それに合わせ、私はひとりうめいた。
じいりじいり。じいりじいり。
叫ぶそれらにかき消えて、小さく頼りない私の声は、夏影の下、埋もれゆく。
喧噪も度を超せば静寂となる。
じいりじいり。じいりじいり。
…その音はすでに世界の一部だ。
私もなるのか。その一部に。

(ふむ、ならばここで死ぬのも一興か)

空にあるのは光。
細かな葉の合

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猫ト指輪ト蒼色絵本「エピローグ」

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○エピローグ

吾輩は猫である。
名前はまだない。
…というのは、すでに説明した通りか。
そう、名前は実はある。
が、その名前はもう呼ばれまいと決めた名前だから、呼ばれないだけ。
…頑固者だと笑いたくば笑え。
吾輩はかつて青い髪のあの人に助けられた。
大事な人を失って、ささくれて、もう一度罪を犯したそんな猫を助けてくれた。
そんな吾輩をあのひとは優しく抱いて、ミルクと寝床をとれて、名前を

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アクア03「Aqua Notes」

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○Aqua Notes

//暗転

遠く遠く、遙か遠く。故郷から離れ、失い、彼女はここへやって来た。
愛する場所はどうしてなくなったの?
そう聞くと、彼女は微笑みながら言った。

【金色の少女】「その前に、あの星がどんなに美しかったかを話していい?」

//一枚絵 金色の少女

彼女は語る。青い空と、海のこと。緑の大地。人の声、営み。
回る輪廻。繰り返す歴史。何かのために死んだ人。

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ユニシス03「導く者」

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○導く者

//暗転

クルクル、クルクル。回る運命。
それをただ、見つめたあの頃。

【ヨハン】「そんなに欲しいなら、買ってあげましょうか?」
【ユニシス】「え?」

//港 セピア

初めてアロランディアに下りた時、バザーで目についたそれ。
別にねだったつもりはなかったんたけど。

【ヨハン】「風車(かざぐるま)って言うんですよ。見た事、ないですか?」
【ユニシス】「あ、はい…ないで

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ヨハン03「指輪」

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○指輪

//暗転

手がかりは、私が初めて作った『金』。
天然のものとはやはり違う、銀に近い、その薄すぎる色合い。
成分は確かに本物と変わらないのだけど、偽物はやっぱり偽物だという事か。
それでも初めて練金に成功したのは、奇跡としか言いようがなく、私は大事にそれを箱にしまった。

//ヨハンのロケット

それがこの世に再び出たのは、私と一緒に生きてくれると言ってくれた彼女のため、結婚指

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葵03「雪月花」

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○雪月花

//暗転

雪、月、花。
四季折々の美しいもの。
戦い疲れ、くたくたになった私の心を、それらはどれだけ癒やしてくれた事だろう。
…目覚めの端、いつも枕辺にはそれがいた。

//一枚絵 寝ている子ども(葵) 枕元に花 侍女バージョン。

【葵】「けほけほっ…けほけほっ…」
【侍女】「大丈夫でございますか、姫様」
【葵】「……頭がいたい……」
【侍女】「お熱が下がりませんものねえ

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リュート03「Three years after.」

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○Three years after.

//暗転

君を力一杯抱きしめた。
三年は長かったね、と思う。だって背がとても伸びてる。
僕も伸びてたから、本当によかった。
並んで低いと格好がつかないでしょう、恋人同士としては。
右手の星は相変わらず。
特別な意味はもうないから、別に付いていても構わないんだけど、個人的には嫌な感じ。彼女が今でも手の届かない、特別な人になってしまいそうな気がして

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ソロイ03「紅の夢」

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○紅の夢

//夕焼け空
//テキストフェイスは紅丸です

遙かを眺める。千里の果てを。
海の向こうには何があるだろうと。
…我のような者だけがある、楽園があるかと。
その光景を夢想する。
けれど、それはほどなく淡い吐息と一緒に、消える。
皿のように目をこらしても、そんな場所はどこにもない。
では、我のようなものはどうしてここで生まれたのだろう。
人ならざる者が生きるにはそぐわぬ土地なの

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マリン03「天球図」

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○天球図

//暗転

親愛なるあなたへ

//一枚絵 マリンの手紙が机の上にある 汎用

突然のお手紙でごめんなさい。
思えばあなたにお手紙を書くのは、これが最初かもしれません。

こんな手紙を書いたのは、私のお願いを聞いて欲しいからです。
わがままかもしれないけれど、あなたにしか出来ない事なので。
口で言うには、ちょっと難しい事です。
かといって、視線で伝わる事でもありません。
だか

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シリウス03「蒼星」

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○蒼星

//暗転

生来、手紙というものは好きな方じゃない。
インクで手が汚れるのも嫌だし、書き間違いをするんじゃないかという余計なスリルもうざったい。
近くの人ならば会いに行けばよいのだし、遠くの人でも旅気分で出かけたっていいじゃないか。
何より顔の見えないやりとりでは、自分の武器である「顔の良さ」だって通じないのだし。
…だから手紙はずっと苦手だった。
極力人生から排除してきたもの

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