風に恋う

『風に恋う』PV②

『拝啓、本が売れません』(KKベストセラーズ)で話題を呼んだ松本清張賞作家が挑む、デビュー作以来の吹奏楽×青春小説。

ぶつかり合いから、音楽は輝くんだ――。


『風に恋う』額賀澪
http://nukaga-mio.work/windgazer

『風に恋う』PV①

吹奏楽に賭けた青春
憧れの先輩が指導する吹奏楽部で全日本コンクールを目指す少年--
「やりたいこと」と「現実」のギャップ
「俺は、ブラック部活に洗脳された馬鹿な高校生のなれの果てですか」


『風に恋う』額賀澪
http://nukaga-mio.work/windgazer

風に恋う|番外編|栄冠は誰に輝く|04



 意図がわからない。

 ピッチングマシンから飛んでくるボールに向かって思い切りバットを振りながら、何度も何度も思った。

 「野球、やりにいくか」と突然言い出した瑛太郎に「遠慮しておきます」とは言えなくて、わざわざ電車に乗ってバッティングセンターまで来た。

 いや、確かに、野球の話はしてたけど。そもそも俺はオーディションのときのこととか、部長である茶園のことを先生に聞きたかったはずなのに

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風に恋う|番外編|栄冠は誰に輝く|03



 いつまでも音楽準備室にいたら「休息日に活動している」と他の先生から咎められそうで、瑛太郎は堂林を連れて特別棟を出た。

「手伝ってくれた礼にジュースでも奢る」
「いいですよ。脚立押さえてただけだし」

 彼はどうやら、話の続きをもう求めていないようだった。
 果たしてそれでいいものか。考え考え、正門へと続く並木道を二人で歩いた。黙っていれば堂林とはこのまま駅前で別れて、彼は明日以降もいつも

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風に恋う|番外編|栄冠は誰に輝く|02



「雨漏りがなあ、凄いんだよ。手伝ってくれる人がいてよかった」

 そのつもりで音楽準備室に来たわけじゃなかったんだけどな。錆び付いた脚立を両手で押さえながら、堂林は天板の上に立つ瑛太郎を見上げた。

 千間学院高校吹奏楽部のコーチに四月からなったばかりの不破瑛太郎の横顔は、小学生の堂林がドキュメンタリー番組で見た頃とほとんど変わっていない。

 テレビの向こう側にいたはずの瑛太郎が音楽室に現

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風に恋う|番外編|栄冠は誰に輝く|01

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 珍しく音楽準備室にやってきた三好先生は、カレンダーを眺めて「オーディションまであと五日か」と呟いた。

「みんな頑張って練習してますよ」
「瑛太郎の頃は部員が五十人しかいなかったから、全員がコンクールメンバーだったもんな」
「今頃になって先生の苦労が想像できるようになりました」

 実力が追いついていようとなかろうと。意欲があろうと、なかろうと。三好先生は全員を全日本まで引っ張っていっ

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風に恋う|番外編|サンライズ・マーチ

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 汗が目に入って、思わず舌打ちをしてしまった。

 いいところだったのに。
 いい感じに吹けていたのに。

 首にかけていたタオルで額を拭って、ついでに髪や首回りや腕も拭いて、水を飲んで、基はもう一度サックスを構える。

「暑い! 無理!」

 背後から堂林の苛々した声が飛んできて、基は振り返った。トランペットを片手に、彼は廊下と非常階段を隔てるドアに体を預けていた。「あ、ここ冷たい。気

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風に恋う|第1章|13

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 練習に集中しているうちに、気がついたら五時半近くになっていた。そろそろ合奏が始まる時間だ。楽器を抱えて第一音楽室に戻ると、瑛太郎がすでに指揮台の上に置かれたパイプ椅子に腰掛けていた。膝に頰杖をついて、ぼんやりとスコアを眺めている。

 すべてのパートが集まったタイミングで、普段だったら玲於奈が号令をかける。ところが、それより早く瑛太郎が立ち上がった。

「ちょっと教えてくれないか」

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風に恋う β版|第1章|15

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 同じフレーズを繰り返しているうちに、気がついたら五時半近くになっていた。そろそろ合奏が始まる時間だ。楽器を抱えて急いで第一音楽室に戻ると、普段は全パートが揃った頃にやって来る瑛太郎が、すでに指揮台の上に置かれたパイプ椅子に腰掛けていた。膝に頰杖をついて、ぼんやりとスコアを眺めている。似たような場面を昔、テレビで見たことがある。

 すべてのパートが集まったタイミングで、普段だったら玲於

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風に恋う|第1章|12

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「瑛太郎先生に、吹奏楽部のことどう思うかって聞かれたんですけど」
「池辺もか。それ俺も聞かれたわ」

 基と同じアルトサックスを吹く二年の池辺豊先輩と三年の越谷和彦先輩がそんな話をし出し
たのは、パートごとのチューニングと基礎練習を終えて、個人練習に移ろうとしたときだった。

「先輩達もですかっ?」

 パート練習で使っている二年一組の教室に、自分の声が予想以上に大きく響いた。

「もし

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