プリンセス・クルセイド #6 【悪意の足音】 6

「凄い……」

 アンバーは無意識のうちに息を飲んでいた。手元の水晶玉には剣を鞘に収めるイキシアの姿が映っている。

「一瞬で決着が付いてしまったな。勝負というものは得てしてそういうものだが……」

 隣で同じ様に水晶を覗きこんでいたメノウが、水晶を剣の柄頭に当てて消滅させる。

「いずれにしても、イキシア王女には物足りない相手だった。まるで格が違う」

「そういえば、メノウさん」

 アンバーは

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プリンセス・クルセイド #6 【悪意の足音】 5

「でえりゃあ!」

「くっ……!」

 およそプリンセスらしからぬ叫び声を上げながら襲い来る猛攻に対処しながら、シトリンは状況の把握に務めた。

 目の前に広がるのは緑が鮮やかな草原で、所々に石柱が立ち並んでいる。遥か遠くに見える湖は穏やかに水を湛えているが、その上空には何故か数台のベッドが浮遊していた。

「はあっ!」

 シトリンは強く大地を蹴り、そのまま飛び離れて間合いを取った。そして近くに

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プリンセス・クルセイド #6 【悪意の足音】 4

エアリッタの街には、2つの主要な大通りがある。1つは工房が立ち並ぶ職人街で、もう1つは市民の生活の要となる商店街だ。その商店街の中を、アンバーは当てどなく半ば彷徨うようにして歩いていた。

「……一体どうしろって言うの……」

 アンバーはため息交じりに不平をこぼした。商店街の道は、理路整然と区画が整えられている職人街と違い、複雑に入り組んでいて高低差も激しい。故にタンザナの財布を盗んだ犯人を捜す

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プリンセス・クルセイド #6 【悪意の足音】 3

ウィガーリーの王都エアリッタの市街地からやや離れた所にある職人街。その一角に位置する鍛冶屋の台所で、タンザナは思案に暮れていた。

「さて、どうしましょうか……」

 彼女の目の前の戸棚には、蓋の付いた壺が置かれている。壺は透明ではなかったが、彼女の持つ類まれなる嗅覚で中身はクッキーだと判明していた。

「……いただきましょう」

 タンザナは一言呟くと、壺に向かって手を伸ばした。壺はやや高い位置

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プリンセス・クルセイド #6 【悪意の足音】 2

ウィガーリーの王都エアリッタの郊外に、大きな屋敷が一軒建っている。屋敷は年月を経て十二分に古びており、周りを囲う石垣は所々で崩れている。しかしそれでも、その外観には気品が溢れ、木々がうっそうと生い茂る周囲の風景に不釣り合いな程だ。

 それほどの屋敷が、なぜ誰の手も入れられずに朽ち果てるのを待っているのか。また、誰も関心を払わないならば、なぜ今すぐに取り壊してしまわないのか。それを知るのは王都でも

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プリンセス・クルセイド #6 【悪意の足音】 1

ウィガーリー国王都のエアリッタ中心部にあるエアリッタ城。その玉座の間の中央に置かれた台座の上に、水晶玉がひとつ。その後方には、白く巨大な正方形のスクリーンが浮かんでいる。台座を挟んだ反対側には、煌びやかな衣服を身に纏った黒髪の青年が腰掛けている。彼の名はアキレア・シュワーヴ。彼は両脇に男性の従者を従わせながら、その茶色の瞳をスクリーンへと注いでいた。

 王子から見て右手に立つ男は長い杖を手にし、

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