JAM365

8.3 はちみつの日

はちみつ味のお酒を飲みながらチーズを齧る夜。

藍色と水色のグラデーションが窓枠の中を彩るけれどそれは知らない。

さっきブリキの月に流れ星が当たって角が曲がってしまった。

遠雷が鳴る。

口の細い瓶に入ったはちみつ色のお酒はあと半分。

グラスにつぎ足すと残りはあと三分の一。

夜の三分の一のところで、寝床で眠る蜜蜂の羽音が響いたのはきっと寝言であろう。

透明なちょうちょがチー

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8.2 パンツの日

喫茶店で珈琲を飲んでいると、目の前の男が汗を拭いているのが女物のパンツであることに気づいて、名取は口に含んだ珈琲を思いきり噴き出してしまった。

「ちょっ、名取くん、何してんの?あーもうっ、びちゃびちゃだよ!」

男は焦ったようにそれまで汗を拭いていたパンツで白いワイシャツに付いた黒い染みを拭いた。

「いや、アンタこそ何してんですか!それ、あれでしょ?いや、もしかして…」

丁度

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8.1 パインの日・島の日

南の島の大王が

パインを作りたいと騒ぎはじめた

南の島の民たちは

皆のんびりしているのが好きなので

新しいことを始めるのを億劫がったが

大王が言うのだから仕方がないと

とりあえず島で一番大きなヤシの木の下に集まった

南の島の民たちは

パインを食べたことがない

何やら仙人みたいなじいさまの持っていた文献で

黄色くて甘酸っぱいとの情報を得た

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7.31 パラグライダー記念日

首尾は上々である。

我らは今高い崖の上にいる。

ここまで来て飛ばぬという選択肢はないだろう。

景気付けにキウイとグレープフルーツのジュースも飲んだだろう。

最悪落ちてドボンだよ。
下は湖なんだ、大丈夫さ。

怖がるな。上昇気流に乗るだけさ。

身を任せて舞い上がれよ。

要はタイミングだ。
風を読むのを忘れるなよ。

そう言って、彼は先に空へと飛び立って

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7.30 梅干しの日

ばあちゃんの家に行くと、挨拶も早々に小皿に載せた梅干しを出してきた。

「え、ばあちゃん。何これ?」

俺はスマートフォンのアプリで読んでいたマンガから目をあげて尋ねた。
ばあちゃんは自分の分の梅干しをちびちびかじりながら、かじるたびに酸っぱそうな顔をしている。

「いいから食え」

俺のばあちゃんはもちろんばあちゃんなのだが、世間一般のイメージでいうところのじいちゃんみたいな頑

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7.29 福神漬けの日

カレーの横に添えてある福神漬けが、まさかこんな事態を引き起こすとは思っていなかった。
東海林は気まずい空気の中で、己の軽薄な思いつきによる愚行を実行したことを激しく後悔していた。

「三木くん、機嫌直してくれない?」

猿のように短い頭を金髪に染めている三木くんは、背中を丸めて不機嫌なオーラを放っている。
二人の間にある、リサイクルショップで買った角の剥げたちゃぶ台の上には、昼飯で食べ

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7.28 地名の日

桃の種を植えた人がいて、そこは元々田んぼだったので、その土地は桃田と名付けられた。

高いところで見晴らしが良かったその場所は、高見台という名前が付いた。

昔の人はシンプルだった。

シンプルな方が普遍的に支持されるということを知っていたわけでも無かろうに。

野原の中を野中と名付けるくらいの軽やかさで、この世界にある物をただそこに在るものとしてシンプルに見てみたい。

余計

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7.27 スイカの日

炎天下の中
僕は網に入れられてぶらぶらと運ばれた

八百屋の台で兄弟と別れ
僕は今ひとりだ

地面に近くてアスファルトの照り返しが熱い

このままうっかり落とされたら
ヒビの入った焼きスイカになってしまいそうだ

汗を拭く買い主の足取りはしっかりしている

こんなに大きなスイカは珍しいんだと胸を張ってくれた八百屋のおじさんに恥じないように僕は役目を全うするつもりだ

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7.26 幽霊の日

先月のある晩にですね、うちの子供が、見たっていってたんですよ。

私もそんなわけ無いでしょ、見間違いよって言ったんですよ?
でも、私の腰にひっついて震えるばかりで、話を訊いても要領を得なくて。

仕方がないからお母ちゃんが見に行くって言ったんです。
そしたら、やめてくれって。母ちゃんも連れてかれちゃうって泣くんですよ。

どうにも怖がってるんで、その日は一緒に寝たんです。もう来年は

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7.25 かき氷の日

近所の公園で夏祭りをやるらしい。

手書きのポスターにはイラスト付きで、かき氷を無料で配布しますと書いてあって、苑子はそれを携帯のカメラで収めた。

うだるような暑さの中、毎日毎日課外授業に通っている。
受験生の夏がこんなに暑いというのは、何だか他の国の受験生達よりも不利な気がしてしまう。
結局戦う相手は国内にしかいないのだが、何にでもいいから不満を言いたくなるような、そんな暑さなのだ。

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