許されないのは、裏切るより遅れをとること 求められたのはきつい抱擁より、愛された末の自分を知ること むせかえる金木犀の香、つきまとう晩秋の空気、でも新しい朝だ 洗面台に映る顔はそっけなく、ひとり黙々とヒゲをそり始めた 望まないのは、地べたを這うより足を止めること ―自己紹介
ふとした事で先輩にイジられ別れた嫁の話になった 俺は彼女が変顔をしてる写真を見せてやった 場が沸いて、いつもタチの悪い仲間達が、クソブスやねんか!と爆笑し、俺は思わず席を立った 古傷を笑い飛ばしてくれた先輩と、それでも世界一可愛いと思っていたあの頃に、目頭が熱くなった -Yell
安倍晋三が射殺された二時間後に十年来の友達から電話が来た 「やべぇな、これから日本はどうなっちまうんだろ?」 俺はピストルズのクソふざけた曲を止めて言った 「ハンズフリーでいい?」 「今何してんだ?」 「マニキュア塗んのに忙しいんだよ」 -Mind my own business
「自分の道だとか生き方とか、そんなのに夢中になる気持ちをさぁ、少しでも誰かに差し出す気はないの?!」と吐いて悔し涙を浮かべた彼女をシカトしてヘラヘラ笑ってた俺はいま、デートの時間に待ち合わせ場所で脂汗を浮かべながら、足元にもう20本の吸殻を捨ててる -チキンレース
十年前の自分の肩を叩き「お前は未だ自己表現の方途を探しあぐね彷徨っているんだよ」と伝えたらブチキレるかなと思いニヤけてたら、誰かが俺の肩を叩き、振り返るとどこかで見たよな、でも少し老けたツラと目が合って、互いに口を歪めた。でもそいつは俺より少しマシな笑い方だった -世の涯から涯へ