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『氷焔』 消え去る事はなくとも、薄れゆくのが自然だろう。 忘れたくて忘れられない事もあれば、忘れたくないのに忘れてしまう事もある。それは、その願いに対する執着の成せる意地悪なのか、はたまた優しさなのか──それは私にはわからない。 ただ、ふとした時に引き留めるものは確かにある。

4年前

『氷焔2』 忘れたい理由はない。けれど、憶えていなければならない理由もない。 過ぎ去ったあの人の顔、声、あれほどに追い求めた後ろ姿さえ薄れた。手と身体のぬくもり、感触、そして何より、あの人自身の形さえ、次第に朧気になっているのに。深く深く刻み込んだ事さえ、いずれは風化して行く。

4年前

『氷焔4』 それは胸にくすぶる埋火が、焔の形を取り戻すも、燃え上がる姿そのままに氷に閉じ込められたかの如き。 心も身体も忘れていたのに、何かがどこかに触れた時だけ火柱を上げ、火傷の痕をむし返す。 それは熱さに焼かれた傷なのか、それとも冷たさに──? 答えは出ず、雑踏に立つだけ。

4年前

『氷焔3』 通り過ぎる匂いに、不意に心が立ち止まる。何の匂いだったか咄嗟にはわからないのに、自分がその匂いを知っている事、だけは憶えているのだ。 纏う人の全て──不思議なことに、直接的、つまりは物理的なもの──ばかりが薄れ、触れることなど叶わない匂いの方が己に刻み込まれている。

4年前

『もれなくついて来ます』 ◯県在住好青年Y氏が体験した話。 6月某日。Y氏は帳内会のMさんと、某テーマについて語り合う事を約束。 7月当日。約束の場所でY氏は、現れたMさんの背後に…見た! (…い、いる…!) そう。背後に憑いていたのは、唐揚げみたいな名前のヤツだった。 ~終~

4年前

『若桜』 若い桜を見下ろす。君が産まれた頃に植えられた桜も、年毎、見事に花を吹雪かせる様になった。けれど昨年まで共に眺めた君は、今年は隣にいない。成長した君は、まるで花びらか綿毛の様に未来へ飛び立った。私より遥か上空にいるはずの母さんと話しながら、今年はひとり桜を眺めるとするよ。

5年前

『鬼虎日記2』 ─青鬼が穿いてるパン2は、何とモノホンの『オニドゥカタイガー』ブランドなのであった。この虎柄パン2、一見して虎柄に見えない、ところがまたナウでヤングな若者にバカウケで、模造品は増える一方。そして、同じ柄の短パン2もあることから、重ね穿きがまたイケてるワケだ。(つづ

5年前

『戀衣』 気に入りの衣の如、心に纏い続けた戀衣。手放せずにいるうちに、絹のようだった感触はいつの間にか消え、代わりに感じるのはざらつき。その感触に驚いて払うと、肩から滑り落ちた衣が、知らぬ間に色褪せている事に気づいた。衣更えの頃合い──気づいた時、それは足下から空に散って行った。

5年前

『降り積もる祈りに』 夜更け──。静寂を妨げるかのように吹き上げた冬の風に乗り、降り積もっていた雪がきらきらと舞う風花となった。それは天より使わされ、何処へともなく散って行く数多の祈りの粒。再び出逢い、折り重なり紡がれる粒たちは、天の川とも見まごうほどに耀く繊細な光の結晶となる。

5年前

『鬼虎日記』 今日もオニガシマ国では、赤鬼頭領の指揮の元、鬼たちが労働に勤しんでいた。最近、若い鬼たちの間で流行っているのが超有名老舗高級ブランド『オニドゥカタイガー』のパン2。むろん、若い鬼たちには手が出る代物ではなく、再利用品だったり模造品だったり。だが、若き副頭領─(つづく

5年前

『真冬に流る天の川』 かつて、共に夜空を眺めた人が言った。「夏と冬の川……違いがわかる?」と。「向き?」と答えると「そうじゃない」と笑う。夏の川は魂をのせるものだよ、と。「じゃあ冬は?」と問うと、少し目を伏せて「祈りだ」と答えた。その人の祈りは、今、あそこを流れているのだろうか。

5年前

『熱冷え3』 当たり前だが、始めからこんな風だった訳じゃない。ただ、熱かった日々──熱に浮かされるような時を、思い起こせば思い起こすほど己の中心が冷たくなっているのを自覚するのだ。いつから?どこから?ふたりの始まりは。……ああ、そうだ。出逢ったのは冬も入り口の頃だった。三年前の。

5年前

『熱冷え4』 冬の冷えこみとなったあの日、陽差しだけはやわらかく眩しかった。色づいた落ち葉のクッションを踏み締めながら、まだ心持ち青の残った木々を見上げる。枝葉の隙間から差し込んだ光に、ふと目を細めた時、何かが背中に当たった。振り返った目に飛び込んで来たのは、光よりもまばゆい熱。

5年前

『冬孤立』 すっかり葉も落ち切った冬の日。ふと見上げた木は立ち枯れ寸前だった。その姿が、記憶の扉の向こうにいる人を思い出させる。己を鼓舞すると言えば聞こえはいいが、実は追い込んでいるも同然だった人。孤高─ひとり立ち、決して他に交わる事なく─孤独とも孤立ともつかず、ただ木立の様に。

5年前

『熱冷え5』 熱い──色と視線だった。決して互いにひと目で戀に落ちた、等と言う事ではない。その身の周りに纏う何か、その目から溢れる何かが、自分には酷く熱を帯びて見えたと言うだけ。今にして思えば、それは己の中で消却出来ない物を、誰かに肩代わりして欲しいと言う願いだったかも知れない。

5年前

『熱冷え6』 背中に当たったのは、落ち葉でよろけた拍子に藁を掴もうとした拳。何とか堪えた体勢で見上げる目と、驚いて見下ろす目が交差する。「大丈夫ですか?」かけた声に「ああ、ごめんなさい」と拍子抜けするほど感情のこもらない謝罪。思わず硬くなる己の表情に、容赦なく照りつける熱の視線。

5年前

『熱冷え7』 その熱に当てられたのは、恐らくはタイミング。本来なら近寄らない、危険過ぎると判断する熱量。間が悪かったのだ。たまたまその時、己の奥底に燻っていた炭に飛び火した──そうとしか考えられなかった。煉獄の業火の中、諸共に火達磨の日々。燃え尽きたのは、たったひと言が故だった。

5年前

『熱冷え11』 拳よりも先に氷の様に冷たい感触。次の一瞬で業火の熱に転じ、同じ熱さの何かを体から奪って行く。それは抜け出す傍から、指先と共に急激に冷えて行った。何が起きたのか判らないまま見下ろすと、見上げる瞳から涙が伝う。泣きながら微笑むその輪郭が、ゆっくりと少しずつ傾いて行く。

5年前

『熱冷え2』 熱量と言う物は、ある日突然に枯渇する物なのか。それとも偶然なのか。小さな擦り合わせがうまく行かない事など問題ではなかった。……少なくとも最初の頃は。『恋心のなせる技』と言うのは遮蔽幕だ。今までは何でもなかった『それ』が、ある瞬間いきなり鈍器のように襲い掛かって来た。

5年前

『土曜日の彼』 土曜日の午前。彼と彼女のタイムリミット。昨夜のように、見上げる彼女に微笑みながら、彼はゆっくりと背を向けた。「また来週ね」名残惜しそうな目をして、そうつぶやく彼女を置いて。彼女と別れた彼は、ひとり目的地へと足を運ぶ。毎週、行かなければならない。彼女と別れた後には。

5年前