フレッシュ魔法おじさん AROUND☆FIFTY!!――6

「うわーっはははははは!! このJKは頂いたァ!」
「きゃーっ! だれか、たすけてーっ!!」

 女子高生……田中 節奈の悲鳴が特設ステージから響く。
 やや棒読み気味のそれは、これがお芝居であることを有り体に証明していた。

「この娘は高校卒業後、ウチの事務員として働いて貰うのだ! 弊社は女性社員が貴重だからなァ!」
「節奈、就職おめでとー」
「いやせめて大学くらいは入れさせてよ!?」

 舞台外からの野次に文句を言いつつ、節奈が拘束から逃れようと暴れてみせる。
 しかし、戦闘社畜によるセクハラにならないギリギリかつ丁寧な拘束により、そこから逃れることは叶わない——彼らは満員電車で痴漢冤罪から免れるプロフェッショナルなのだ。

「うわはははは……勿論、このJKだけではない! この高校にいる生徒達を我が社に大量入社させ、事業拡大を狙うのだ!!」

 声高に社長が叫び、高校生達の爆笑と野次を買う。
 否、その姿は最早あのでっぷりとした中年親父の姿ではない。
 その全身は社畜の運命を握るタイムレコーダーと化し、口からはバリバリと不帰の定時退社を宣告していた。

 それは悪徳経営者のなれの果て、違法残業怪人タイムカードッ!
 アッシュマンズ・タイムズが繰り出した悪逆非道の経営怪人であるッ!!

「弊社はいつでも定時退社! 和気藹々としたアットホームな職場なのだ——!!」

 偽りと悪逆に満ちた言葉に対し、観衆は苦笑と共に受け流す!
 反発の意志は現れず、顰蹙を買うことなく舞台は続く!
 誰もこの怪人の言うことに疑問を覚えないのは何故か? それは怪人が己の言葉は絶対であると信じて疑わないからである!!
 絶望の想像力が周囲に伝播することにより、人々は潜在的に従順な社畜と化しつつあるのだッ!!

「おねえちゃんをはなせぇーっ!」
「ぱぱをかえせーっ!」
「パパにおやすみをあげろーっ!」

 辛うじて対抗出来るのは、想像力豊かな子ども達のみ!
 彼らは今日という日のために集まった、戦闘社畜のご家族である!
 愛する父親を想う気持ちが絶望の想像力に抵抗し、戦闘社畜達はマスクの下で涙を呑んだ!!

「黙れェい、クソ餓鬼共がァっ!!」
「ひっ……!?」

 その涙ぐましい抵抗は、怪人の大喝により黙らされる!
 大人の醜いエゴの前に、子どもの抵抗は余りにも無力と刻みつける!

「貴様等を食わせてやる為に、社員総出で働いている! そしてその為には、納期には絶対に間に合わせなければならないっ!!」
「どんな無茶な要求にも答えねばならん! 全員が食っていく為にはそれが当然だ! なのに何故、私が責められねばならないのか!?」
「恨むなら社会を恨め! 真面目に働く我々を責めるのは、どう考えてもお門違いなのだから!!」

 自他共に偽る言葉は、既に腐り果てた社会の泥ッ!
 清々しい責任転嫁の裏には、どうしようもない現実に押し潰された経営者の嘆きが響く!
 彼も被害者の一人なのか? 考えるまでもなく否である!
 子どもの涙を嘲笑う者が、どうして被害者と言えようか!!

「さぁ、興味のある若き新入社員候補は、この後の企業説明会に是非出席を——」

 戦闘社畜達がバラまくビラにも、当然のように企業説明会に参加したくなる催眠パゥワーが込められている!
 卑劣な罠に子ども達が、高校生たちが、すべての観衆が晒されようとした——その時!!

「待てェいッ!!」

 一筋の声が学園に響く!
 舞台の下か、舞台上か、それとも舞台袖か? 否!!
 屋上からであるッ!!!

「天地人が知らずとも——無敵の検索エンジンはその悪名を知っているぞ、悪徳経営怪人タイムカードッ!!」
「何奴っ!」
「とォーうッ!!」

 その瞬間、舞台上へ三つの影が飛び降りた!
 軽い音を立てて着地したのは——三人の魔法少女であるッ!!

「道切り拓く力のかけら! 魔法少女——カーネ☆リアンっ!!」

 ツインテールの亜麻色の髪と、動きやすいバトルドレスは可能性の証。
 黄金色の魔法少女、カーネ☆リアンはまさに正義の魔法少女であるッ!
 その豊満な胸は大らかな母性、その逞しき背は大いなる父性を示していたッ!!

「己に輝く、意志のかけら——魔法少女、ハイパー☆シーンッ!」

 この世の悪徳に中指を立てるのは、破戒にしてパンクの象徴。
 漆黒の魔法少女、ハイパー☆シーンはまさに自由の魔法少女であるッ!
 その平坦な胸は気まぐれな少女性、そのしなやかな手足は風の如き自由さを示していたッ!!

「さぁ、新入り!」
「ばっちりキメちゃいましょう!」
「……は、はいっ」

 そして気まずげに、二人の魔法少女から押し出される一人の少女!
 恥じらいと戸惑いを見せながらも、勇気を奮わせて彼は叫ぶッ!!

「人と共にある希望のかけら……例えどんな事情であっても、今この時ばかりは許せないッ!」
「魔法少女——チャロ☆アイト! 娘を——ゲフン、その子を離せッ!!」

 濡鴉の黒髪を流し、強い決意と優しさを湛えた瞳は宇宙の紫!
 濃紫の魔法少女、チャロ☆アイトこそは新しき魔法少女であるッ!!
 温厚な彼であろうとも、家族に手をかけようという怪人に対しては果敢に立ち向かう意志を見せていた!!

「「「我ら魔法少女! AROUND☆FYFTEEN!!」」」
「おのれ、魔法少女めェ……ッ!」

 ちなみにここまでは台本通りである!
 唯一違うのは観衆の野次と子ども達の叫びのみ! 此処から先は、ルール無用の仁義なき戦いなのだ!!
 緊張感が舞台上を、子ども達を包み——怪人タイムカードが動いた!

「私、こういうものです」
「あ、これはどうもご丁寧に、私は——ハッ!?」

 卑劣! それは突然の名刺交換!
 社会的マナーを盾に、相手に行動を強制する悪徳経営怪人お得意の先制攻撃であるッ!!
 思わずチャロが名刺を差しだそうとして、その悪辣さに思わず呻く!!

「どうしたァ……? 名刺を受け取らないのかァ……?」
「くッ、卑怯な……!」
「卑怯? うわはははは、これは社会では当然のマナーだろう!?」

 そう、これは先制された時点でダメージを受けることが確定する、悪魔の選択肢!
 名刺を交換すれば「学生がこんなことをスムーズに出来る訳がない!」と年齢サバ読みの事実を追求され、交換しなければ「マナーがなっていない!」とレッテルを貼られPTAに睨まれるのであるッ!!
 卑劣! 余りにも卑劣!! 悪徳経営怪人は心を悪魔に売り渡した外道なのだッ!!

「さぁ、どうするチャロ☆アイト! 名刺を受け取るのか、受け取らないのか!?」
「くぅ……身体が、勝手に……!」

 刻み込まれた社会人としての掟が、チャロの手を名刺へと伸ばさせる!
 悪魔の罠にかかろうとしたその時、その名刺は風に舞い飛んだ!

「何ィッ!?」
「運が悪かったようだね、悪徳経営怪人っ!」

 突然吹き込んだ一陣の風。
 それはハイパー☆シーンによる魔法の突風であるッ!
 風は女子高生のスカートを巻き上げながら、名刺を天高く巻き上げていく!

「おのれ、魔法少女めェッ!」
「シーンさぁんッ!?」
「ただの風だから何も関係ないッ!」

 嘘である。
 理論を礎にした、巧みな魔法を得手とするハイパー☆シーンは、正確無比に周囲の物体を利用することができるのだ!
 ちなみに今の風はJKのパンチラを強く意識することで発生する魔法の風力である!!

「行けっ、戦闘社畜達ッ!」
「「「「ウオォォーッ!!」」」」

 戦闘社畜達がネクタイを手に魔法少女達を取り囲む。
 魔法少女を恥ずかしい形で拘束し、イメージダウンに繋げることが狙いなのだ!
 勿論、それに応じてやるカーネではない。彼は魔法少女の中でも一番の肉弾戦特化なのだ!

「チェストォーッ!!」
「ぎゃッ!?」
「ぐわーッ!?」

 魔法の拳が戦闘社畜達を打ち据える!
 魔法少女カーネ☆リアンは、その想像力を全て自らの強化に用いる魔法少女である!
 二つの胸の膨らみは、ダイナマイトなマッスルの証明だ!
 ブラック労働で衰えきった戦闘社畜達の筋肉では、十人がかりでも止められはしない!

「違法残業怪人、タイムカード! 貴様の邪悪な運営も此処までだッ!」
「フン! 経営の一つも知らん魔法少女風情が、弊社の何を語る!」
「子どもたちの涙を顧みない悪徳経営怪人に、語る言葉は持たないッ!」

 悪徳経営怪人の嘲りに対し、カーネが拳と共に応える。
 しかしその拳が届く前に、怪人タイムカードの位置が“ズレた”。

「何っ!?」
「ウワハハハハハ……! どうした、狙いが逸れたのか?」
「なんの、これしきッ!」
「ウワハハハハハ! 当たらん! 当たらんぞォ!」

 カーネが拳を振る度に、怪人の位置が右へ左へとズレる。
 その身体は邪悪なゆるキャラが如く動き難い造形をしているにも関わらず、カーネの豪腕を容易く避けていた。
 躍起になるカーネの後ろで、戦闘社畜達を縛り上げていたチャロがシーンへ声をかける。

「あれは、どうなっているんです?」
「怪人が魔法を使ってるんですよ」
「怪人が、魔法を?」
「そう。タイムカード……ってことは、時間を操るのか……?」

 シーン曰く、悪徳経営怪人の使う魔法は、当人の悪意とエゴイズムによって決まるという。
 違法残業怪人タイムカードの名の指す通り、彼の魔法は「自分以外の遅滞化」だ。
 定時終業を偽り、終電まで残業を強いる悪徳経営怪人の業は、一時的に自分に干渉するものを遅くさせるまでに至ったのである!

「そうなると、カーネだけじゃムズいな……」
「ど、どうするんですか……!?」
「拳が効かないなら、言葉で殴るしかないでしょう」

 悪徳経営怪人の弱点、それはエゴの崩壊だ。
 自らを起点とし、他者へ自分のエゴを強いる怪人魔法は、そのエゴが崩れると共に崩壊する。
 ヒビの一つさえ入れば、魔法は完全ではなくなるのだ。
 
「あの怪人に届くよう、言葉に魔法を乗せるんです。……チャロ、あなたがやってみませんか」
「わ、私が、ですか」
「多分、ボクよりもそういうのは得意でしょうから」

 背中を押しつつも、シーンはチャロの傍を離れずにいる。
 何があっても戦闘慣れしたシーンが庇うことで、後輩への危害を防ごうという心遣いであった。

「夜部さんと、浦戸さんから聞いてます……頑張って」
「……はいっ!」

 その気持ちを受けてしまっては、チャロも恐れを理由に退くわけにはいかない。

「……怪人、タイムカードッ!」
「——なんだァ?」

 勇気を振り絞り、チャロは声を張り上げる。
 役とはいえ、娘に手を出されたことにも怒りはある。
 しかしそれ以上に、チャロには言いたいことがあった。

「……当然や、しょうがないという言葉で、罪悪感を埋めちゃいけない!」

 それはチャロが魔法少女になるための、原動力とも言えるエネルギー。
 人を想う、優しさであるッ!
 辛さ、痛み、苦しみを受け入れ、人に語りかける魔法の力であったッ!
 
「な、何を……!」
「貴方がどんな人かは知らない。でも、私にもわかることはある」

 チャロが歩み寄る度に、言葉の魔法が風に流れていく。
 それは悪徳経営怪人にとって、最悪の毒に等しいものだ。

「貴方だけが悪いわけじゃない。貴方の言うとおり、どうしようもないこともある」
「や、やめろ……!」
「でも、それを理由に罪悪感から目を背けてしまえば、貴方だけが加害者に堕ちていってしまうんです」
「やめろおぉぉ……ッ!」

 それは労りであり、寄り添う想いだ。
 それを受ける度に、悪徳経営怪人は己の醜悪さを理解し、苦しむこととなる。
 エゴとは自己の肯定であり、自我の尊重だ。
 自己否定から逃避する場を失えば、あっという間に自己矛盾に陥ってしまうのである。

「まだやり直せる筈です。貴方の会社に残っている人達は、決して社畜になったから残っているだけではない筈です」
「黙れ、黙れェ……ッ!」
「いいえ、黙りません!」

 強い意志で、チャロは踏み出す。
 その目と怪人の眼が、初めて向き合った。

「真面目に働いている人を助けるのが、魔法少女の務めなんだッ!!」
「————!!」

 その瞬間、違法残業怪人タイムカードに亀裂が入る!
 怪人がよろめいた瞬間、チャロの胸に光が灯ったッ!!

「今だ、良い子の皆! 魔法少女チャロ☆アイトを、ラブリーライトで応援しよう!」

 それを目敏く見つけたシーンが、子どもたちへ呼びかける!
 事前に配られたラブリーライト(定価200円)を掲げ、子どもたちが応援する!!

「がんばれー!」
「まけるなチャロちゃーん!」
「パパをとりかえしてー!!」

 胸の内から輝く光に、チャロは戸惑いながらも力の高まりを感じていた。
 そんな彼の傍らに、カーネが寄り添う。

「大丈夫です、チャロさん!」
「カーネさん……!?」
「さぁ、可愛い必殺技を叫んでください!!」
「可愛い必殺技」
「はい!!」

 あんまりにもあんまりな助言を受けて、若干の脱力感を味わいながら、チャロは意を決して叫ぶ。
 その手のひらを、怪人の心に届かせるようにして——魔法を放った!

「マジカル——ライト、フラァーッシュ!!」
「グワーッ!?」

 魔法少女チャロ☆アイトのHAPPYビームが、違法残業怪人タイムカードへ放たれる!!
 その魔法少女パゥワーはチャロ☆アイトを応援する子どもたちのラブリーライトで増幅され、一万魔法少女パゥワーに達した!
 これは流れ星が大気圏で受けるプラズマと同じ熱量である!!!

「ざ……残業代の、支払いなど……認めんぞォォーッ!!」

 違法残業怪人タイムカードは、断末魔の支払拒絶と共に爆発!
 その悪の心は打ち砕かれ、彼は舞台袖へと吹き飛んでいった。
 それと共に、周囲を満たしていたUNHAPPYパゥワーが、HAPPYパゥワーへと昇華していく。
 悪徳経営怪人の崩壊によって、周囲を満たしていた絶望のエネルギーから開放されたのだ。

「……さ、チャロさん!」
「勝鬨、あげちゃってください」
「あ……は、はいっ」

 チャロの心配をよそに、カーネ達が勝鬨を急かす。
 だが安心して欲しい。悪徳経営怪人となった社長はこの後病院送りになるが、命に別状はない。
 復帰する頃には、残業代をしっかりと払う真っ当な経営者となっていることだろう。

「えーっと……正義は、勝つッ!」

 恥ずかしげに拳を掲げ、観衆の歓声を受けるチャロ☆アイト。
 そして開放された戦闘社畜達が、自らの家族の元へと駆け寄っていった。

「ありがとう、チャロ☆アイト!」
「これで久し振りに休めるよ! ありがとう!」

 歓喜の声と共に、戦闘社畜達は今年初めての定時帰宅をする。
 子どもたちの歓声を受けながら、チャロは戦闘社畜達にも手を振った。
 彼らにも、帰る場所があるのだ。子どもたちの歓声を受けられない彼らにこそ、魔法少女としての応援が必要だと考えたのである。

「……あの!」

 それを受けて、戦闘社畜の一人が言葉を発した。
 彼は勢いのままに、頬を赤らめながら叫ぶ。

「あの、俺……これからは、君のこと応援するから!」
「……ありがとう。でも、今日はゆっくり休んでね」
「あぁ……あぁ! 勿論だよ!」

 嬉しそうに、仲間達と去っていく戦闘社畜の背を見ながら、チャロはこれでよかったのだろうかと悩む。
 彼の想いを騙すような真似をして、よかったのだろうか、と。
 確かに、チャロは濡鴉の長い葉を揺らす、一輪の華のような美少女であるが、中身はただのおじさんなのだ。

「いいんですよ、別に悪いことじゃなし」
「シーンさん」
「生きる力になるものが、男であったって、女であったって、大して違いはありませんよ」
「……そうですね」

 その一言に励まされ、ようやくチャロも微笑む。
 苦しさ、切なさが少し紛れた後……節奈の視線を感じ、脊髄反射的にカーネの後ろへ隠れた。

「おつかれー! 魔法少女ショーってどんなんかと思ったけど、結構カッコいいじゃん!」
「魔法少女は、子どもたちのヒロインですからね!」
「急に協力してもらって、どうもありがとうございます」
「いいっていいって! ね、ね、写メ撮っていい? あとサインも!」
「勿論、いいですよ」

 被害者役として登場した節奈が、魔法少女達に語りかける。
 変身を解かなければバレっこないにも関わらず、チャロは物凄い気不味さを感じながら、ひたすらに素知らぬ振りをするのであった。
 
 しかし、彼は知らない。
 この戦いによって、アッシュマンズ・タイムズ証券との戦いが本格的に始まっていくことを。
 そして——。
 
「……魔法少女、チャロ☆アイト……か」

 ——校舎の窓から息子、田中 段が熱い視線を送っていたことも、田中 文雄は知らなかったのである——!!
 
【つづく】

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