フレッシュ魔法おじさん AROUND☆FIFTY!!――1

「マジカル――ライト、フラァーッシュ!!」
「グワーッ!?」

 魔法少女チャロ☆アイトのHAPPY♡ビームが、違法残業怪人タイムカードへ放たれる!!
 その魔法少女パゥワーはチャロ☆アイトを応援する子どもたちのラブリーライトで増幅され、一万魔法少女パゥワーに達した!
 これは流れ星が大気圏で受けるプラズマと同じ熱量である!!!

「ざ……残業代の、支払いなど……認めんぞォォーッ!!」

 違法残業怪人タイムカードは、断末魔の支払拒絶と共に爆発!
 その悪の心は打ち砕かれ、違法残業怪人タイムカードは元の経営者に戻っていく。
 復帰する頃には、残業代をしっかりと払う真っ当な経営者となっていることだろう。

「ありがとう、チャロ☆アイト!」
「これで久し振りに休めるよ! ありがとう!」

 歓喜の声と共に、戦闘社畜達は定時帰宅する。
 子どもたちの歓声を受けながら、チャロは戦闘社畜達にも手を振った。
 彼らにも、帰る場所があるのだ。子どもたちの歓声を受けられない彼らにこそ、魔法少女としての応援が必要だと考えたのである。

「……あの!」

 それを受けて、戦闘社畜の一人が言葉を発した。
 彼は勢いのままに、頬を赤らめながら叫ぶ。

「あの、俺……これからは、君のこと応援するから!」
「……ありがとう。でも、今日はゆっくり休んでね」
「あぁ……あぁ! 勿論だよ!」

 嬉しそうに、仲間達と去っていく戦闘社畜の背を見ながら、チャロはこれでよかったのだろうかと悩む。
 彼の想いを騙すような真似をして、よかったのだろうか、と。
 確かに、チャロは濡鴉の長い葉を揺らす、一輪の華のような美少女である。
 しかし――

 ――魔法少女チャロ☆アイトの中身は、おじさんなのだ!!!
 
 本名は田中 文雄(たなか ふみお)、性別は勿論男! 年齢は四十七歳!!
 妻と二人の子ども、そして愛犬を持つ家庭持ちのおじさんなのである!!!
 救急車に運ばれていく、元怪人の経営者とそこまで変わらない、普通のおじさんなのである!!!!
 そう、これは魔法の力で人々をHAPPYにする魔法おじさんの、愛と勇気と世知辛さで彩られたマジカル☆ハッピー☆ストーリー!!

 「フレッシュ魔法おじさん AROUND☆FIFTY」なのであるッ!!

***

「……リストラ、ですか」
「はい。残念ですが、会社のためです」

 そう言われたのが先月のことで、退職したのがつい先週のこと。
 商社勤めすること二十余年の田中文雄には、正に青天の霹靂であった。

 文雄は妻と二人の子供、そして愛犬を持つごく普通……よりは恵まれたサラリーマンだった。
 決して管理職として有能だった訳ではないが、部下に無理を強いることなく真摯に接する男であった。そのせいで帰りが遅くなることが常ではあったが、家庭に注ぐべきものを惜しまず、妻にも子供達にも不自由のない生活を送らせてきた男であった。

 そんな彼がリストラを受けた理由は、単に「効率が悪いから」である。
 不景気による経営悪化、そして経営コンサルタントのアドバイスを受けてのリストラ。
 ありふれた不幸が、田中文雄の人生を真っ暗にさせたのだ。

「……はぁ」
「あらお父さん、また溜息出てる」
「あぁ、ウン……大丈夫」

 退職までの一ヶ月の間で、不幸に対する恨み辛みは飲み込んだ文雄だったが、溜息は尽きることがない。
 二人の子供達……高校生になる息子娘は、大学受験を控えているし、自分達の老後に備えた貯蓄も必要だ。
 金、金、金。とにかく稼がねばならないのである。
 さりとて、五十を迎えようとしている中年を、好き好んで雇おうという企業はそういなかった。

「どうしたもんかなァ……」
「ウンウン悩む前に、早く朝ご飯を食べて。片付けなきゃいけないんだから」
「はいはい……いただきます」
「どうぞ、めしあがれ」

 田中家の妻、章江が朝御飯をよそってくれる。
 味噌汁を一口飲めば、曇りきった心が和らぐのはまだ余裕がある証拠だろうか。そんな取り留めのないことを考えながら、文雄はこんがり焼けたトーストに手をつけた。

「……何かあったの?」
「何でもないよ」
「そうなの?」
「そうなの」

 リストラされたなど、とても言えたものではない。
 とはいえこの切れ長の目をした女房は、昔から文雄の隠し事など簡単に見抜いてしまうのだ。
 お陰で浮気をすることも――元より美人で通った章江であるため、若い頃は文雄も相当にお熱だったのだが――なかったが、今はなるべくバレたくはない。
 見栄半分、心配をかけたくない気持ち半分の悲しい隠蔽であった。

「段と節奈は?」
「節奈はまだ寝てて、段は朝勉強中ですって」
「朝抜いて勉強になるもんかね」
「ハーバード大学の研究がどうこう言ってたわよ。その方が効率がいいんだーって」
「そういうもんなのかなァ」
「そういうもんなんでしょ」

 取り留めのない会話を肴に、二人は朝御飯を済ませていく。
 片付け終われば、文雄は仕事の時間だとばかりにスーツを着て、いつも出かけていた時間に家を出るのだ。
 反抗期なのか親を煙たがる息子娘には、顔を合わせない方が喜ばれるだろうし、無職を悟られまいとする文雄にとっても都合がよかった。

「じゃ、行ってくるよ」
「いってらっしゃい」

 仕事を装い外に出ては、世知辛さに溜息をつく日がまた始まる。
 待遇を選り好みする気はない……と言いたいものの、家族四人を養えるだけの給金は、安売りしても手に入らないものであった。

「はぁ……」

 待遇を見て次へ、業務を見て次へ、条件を見て次へ。
 ネットの海に浮かぶ求人はピンからキリまであり、大抵にして面白味はない。
 こんなことなら株にでも手をつけておくんだった、と愚痴をこぼしていた文雄だったが、ふとある求人に目が留まった。

「……魔法少女相談事務所?」

 妙ちくりんな名前であった。
 「魔法少女」という単語と、「相談事務所」という単語が頭の中でどうにも繋がらず、文雄はついつい詳細を見てしまう。

「……月給三十五万以上、四十代以上歓迎!?」

 目を離せない待遇であった。
 若手より中年を希望する理由は気にかかるが、今の自分にとっては都合がいい。

「業務内容は……現場作業員? マネージャーか何かかな……?」

 手短に過ぎて要領を得ない文章だが、何にせよ見なかったことにするにはあまりに惜しい。
 居ても立ってもいられず、文雄は電話を入れてみることにした。
 ワンコール、ツーコール……やや遅れて、繋がった。

『はい。こちら魔法少女相談事務所です』

 若い女性の声だった。
 耳から頭の中へ月光が差していくように、落ち着いた高い声。
 それに促されるように、文雄は努めて落ち着いて話そうとする。

「私、求人を見てお電話差し上げました、田中文緒と申しますが……」
『あら……御丁寧に、ありがとうございます』
「あ、いえ……! こちらこそ、ありがとうございます」

 上品な声が頭を下げたように思えて、文雄は思わず携帯電話越しに頭を下げてしまう。
 それに気を良くしたかは定かでないが、先程よりもやわらかい口調で声の主は語りかける。
 
『もしかして、求人の内容で気になることがありましたでしょうか』
「えぇ、と。気になることはあるのですが、是非御社を志望させて頂きたく思い、ご連絡をと思いまして」
『まぁ……少々お待ちください』

 気が逸り過ぎただろうか。面倒な輩だと思われただろうか。
 保留音のメヌエットは、落ち着いたメロディに反した耳障りな甲高い音で、文雄の頭をかき乱す。
 腕時計の秒針が一巡し――文雄には短針が一巡したかのように思えた――再び、彼の脳に静寂が戻った。

『お待たせしました。ご都合のよろしい日などはありますか?』
「いつでも! すぐにでも大丈夫です!」
『そうですか。……丁度、所長が時間を空けられるとのことですので、本日の昼など如何でしょうか』
「ほ、本当ですか!」
『はい、本当ですよ』

 あまりにも早い話に、文雄は仰天しつつも了承する。
 怪しさもあったが、時間を開けても得はない。なら、玉砕覚悟でも挑んでしまおうという心持ちであった。

『では、お待ちしておりますね』
「は、はい! よろしくお願いします……!」

 女性の声を噛みしめながら、文雄は通話を切る。
 ふと、星座占いの広告が目に入った。
 
“乙女座のあなたは、今日は人生が変わる日かも! ラッキーカラーは紫!”

 文雄はふと、スーツのポケットを探る。五年前に妻から貰った、紫色の万年筆がきらりと光った。
 意気揚々と、文雄は魔法少女相談事務所の最寄り駅へと移動した。
 それが彼の、今後の人生を大きく変えることになるとも知らずに――。

***

 魔法少女相談事務所は、文雄の自宅から電車で三十分ほどの場所にあった。
 その外観は、女子なら誰でも一度は夢見る「まほうのおうち」である。
 
「お、おしゃれだなァ……」

 うさぎのドールハウスを大きくすれば、このような西洋館になるだろうか?
 白磁の壁材は目に眩しく、一点のくすみも見られない。
 庭園はきちんと管理されているようで、見事な花園が広がっている。玄関へ続く敷石さえもぴかぴかだ。
 門戸には、メルヘンチックに「おなやみ何でも承ります ~魔法少女相談事務所~」と金属プレートがあしらわれている。
 小さい女の子の夢と希望が詰まった、とても素晴らしい館であった。

「……ははは」

 率直に言って、キツい。
 少なくとも自分のようなおじさんが来るようなところではないというのが、文雄の極めて理性的な判断であった。
 しかし、逡巡していても仕方がない。約束の時間は、十五分前に差し掛かっているのだ。

「あのォ、ごめんくださーい!」
「……んん?」

 門にインターホンの類は見あたらないため、文雄は意を決して大声を出す。
 それに反応するように、彼の後ろから甲高い声がかかる。

「あ、お客さんですか」
「うんっ……!?」

 振り返って、文雄はややたじろぐ。
 声の主は節子よりは年下、中学生ほどにみえる華奢な少女であった。
 髪は短い黒髪で、節奈とはまた違う若さ――その装いは所謂パンクスタイルだが、文雄には判別がつかないことである――を見せつける。
 目つきはやや鋭いため、端から見れば不良少女だが、顔立ちから伺える愛嬌は特筆すべきものがあった。

「えぇ、と。今日こちらで面接の機会を頂いてます、田中と申しますが……」
「あー、そうなんですか。ウチはインターホンないんで、これ鳴らせば誰か出てくれますよ」

 事務所と言うからにはアイドルだろうかと、文雄が少女を観察していると、少女はどこ吹く風といった様子で門についたベルを鳴らす。
 どうやら飾りではなかったようで、程なくして玄関から一人の少女が現れた。

「――田中文雄さんですか?」

 一度聞いたら、忘れられない声であった。
 その月光のように透き通る囁きは、電話越しに応対した若い女性のもので間違いない。
 しかしその声の主が、まさか銀糸の長髪を一束に揺らし、フリフリの修道着に身を包んだ……ネコミミの御令嬢だとは、誰が思うだろう。

「え、えぇ……田中です」
「はじめまして。私は当事務所の魔法少女相談課、魔法少女ラピス☆ラズリと申します」
「ンンッ」

 戸惑う文雄に、とんでもない言葉の力が降り注ぐ。
 流麗で堪能な日本語での会話にあるまじき、ネオンで彩られたかの如きコテコテのパワーワードに、彼は甘ったるいホイップクリームを山ほど食べた時の様に呻かざるを得なかった。
 美少女の発言では隠せないキツさが、そこには確かに存在した。

「所長がお待ちしております。どうぞ、中へ」
「は、はァ……」

 言われるがまま、文雄は事務所の中へと進む。
 内装は意外にも素朴な色合いで、シックな調度品は高級感は感じるものの、胸焼けするような甘ったるさは感じない。
 廊下を抜け、「応接間」と銘打たれたプレートをラピスが叩けば、中から高い声がどうぞ、と響いた。

「では、私共はこれで」
「所長はだいぶアレですけど、悪い人じゃないんで大丈夫ですよ」
「もう、黒宝石さん?」
「冗談ですって」
「ど、どうも……」

 手を振りながら立ち去る二人に、照れ笑いとも苦笑いともつかない顔で文雄は頭を下げた。
 テレオペがラピスだとすると、どうやらこの事務所は女性職員が多いらしい。場違いだっただろうか? などと不安が過ぎるが、文雄は努めて勇気を振り絞り、姿勢を正して応接間へと入った。

「し……失礼します!」
「やぁ、どうもどうも! ようこそ、魔法少女相談事務所へ!」

 文雄を迎え入れたのは、スーツのよく似合う、妙齢の女であった。
 彫像のような顔をひん曲げたような、怜悧で、美しくもユーモラスな笑みを浮かべた彼女が、この事務所の所長であるという。
 彼女は文雄の来訪にいたく感動したと言わんばかりに、全身で歓迎の意を示していた。

「いやぁ、中々志望者も来なかったので、求人にかけた費用がムダになるかと危惧していたところです! 待つばかりで非効率だと思っていましたが、意外と捨てたもんじゃないですねぇ!」
「はは……折角来たのがこんなおじんで、期待はずれでないといいんですが」
「いえいえ、とんでもない! 四十代から五十代のナイスミドル、大歓迎ですとも!」

 思わず卑屈な言葉が出てしまったが、所長のにこやかな言葉に文雄はホッと息をつく。
 彼は早速履歴書と職務経歴書を渡し、出された紅茶を頂きながら、所長がそれに目を通すのを待つこととした。
 五分、十分。他の企業よりもじっくりと、丁寧にそれらを読む彼女の姿は、文雄より二回りは若いだろう外見に反し、老練ささえ感じられる。
 そうして十五分後、所長は文字に潜るのをやめて、息継ぎをした後に語りかけ始める。

「リストラされたことについては、どう思ってらっしゃいますか?」
「えっ?」
「前職は会社都合の退職ですよね? それについて、どうお考えですか?」
「どう、と言われましても……」

 文雄は困惑した。
 最初はてっきり、自己紹介や志望動機についてだと思っていたところに、予想もしない質問が飛んできたのだ。
 少しだけ言い繕うか悩み、当たって砕けろだと思い出し、そして一息おいて、答える。

「……後から考えてみれば、私でよかったなァ、と」
「……よかった?」
「最初は、なんで私がと思ったんですけどね。でも、今度ようやく子供が生まれるって後輩や、結婚したばかりの部下のことを思えば、私は首を切られてもマシな方かな、と思ってます」

 それは一ヶ月の間で文雄が抱いた、限りなく諦念に近い安堵であった。
 自分がリストラに遭って、誰かの助けになったなら、自分の転落にも慰めはあるというものである。

「会社や上司を、恨んだりは?」
「していません。いや……したくないんです」
「どうして?」
「それを妻や子供達に見せるのは、格好悪いじゃないですか」

 彼はただありのまま、取り繕わずに胸の内を語る。
 一言一言を吐き出す度に、くすぶる想いは霧散した。

「父親として、そのくらいの見栄は張りたいんです」

 たとえ、何度現実にそれを否定されようとも。
 決して父親としての矜持だけは忘れたくない。だから、せめて胸を張っていよう。
 それが、文雄の偽らざる決意であった。

「……成程ね」

 所長が、頷く。
 柔和に開かれていた目が細まり、猛禽のそれへと化けた。
 文雄が固唾を飲んで間もなく、所長は口を開いた。

「田中さん。貴方がウチで働くのは、大変だと思います」
「……ッ」

 来たか、と文雄は心中で呻く。
 発言に悔いはない……とは言い切れない。くよくよだってするし、きっとこの後落ち込むだろう。
 しかし今この場では真摯に受け止めようと、彼は歯を食いしばる。

「だから、もしウチで働いて頂けるなら、前職より良いお給金で働いて頂くことになります」
「えっ」

 所長の口から飛び出した言葉は、文雄の予想からは大きく外れたものだった。
 思わず姿勢を崩しそうになる文雄を見て、所長はくすくすと笑いながら続ける。

「だって、そうでしょう。ウチは社名が社名ですし、仕事の内容だって特殊です。田中さんが胸を張れる職場かと聞かれれば、怪しいところです」
「ですが私は貴方に、ここで働いて頂きたい。私共の働きは、世に胸の張れるものだと信じているからです」

 それは確信に満ちた言葉だった。
 己の言葉に疑いを持たない者の、狂的なものではない。
 何度も失敗と研鑽を重ねて、それでもと言える言葉である。

「だからこそ、待遇は前職より良いものを保証します。是非、私共の魔法少女相談事務所で働いて頂けないでしょうか?」

 その言葉が、文雄を求めている。
 彼にとっては訳のわからない事態であった。いくら何でも、話が美味すぎる気がしてならない。

「……何故、そこまで仰るんです? お気持ちはありがたいのですが、こんな中年をどうして……」
「決まっています!」

 だから聞かずにはいられなかった。
 情けなく意地の悪い質問だと思いつつも、己の価値を他人に問う、愚かな真似をしてしまったと文雄は自省する。
 しかし、それを上回る勢いで、所長は文雄の手を握りしめた。

「貴方が、いい人だと思ったからです!」

 力強い言葉だった。
 不安や自分への否定が吹き飛んでしまうような、強い想いの篭もった肯定だった。
 この上で距離を置けるほど、文雄も強情な人間ではない。
 
「……では。こんな私でよければ、是非お願いします」 
「やったーぁっ!!」

 諸手を挙げて喜ぶ所長に手を揺さぶられながら、文雄は悪いところではなさそうだと胸を撫で下ろす。
 そんな彼が新天地への思いに耽る間もなく、俄に部屋の外から人が雪崩込んだ。
 
「――おめでとうございまぁっす!!」
「新人増えましたか! 良かったぁ!」
「ね、言った通りでしょ。受かると思ったんですよ」
「ふふ、上手くいって何よりです」

 それは色も鮮やか、花も恥じらう四人の乙女であった。
 その内の二人は、文雄が先程会った茶髪の少女と、魔法少女ラピス☆ラズリである。
 彼女たちは思い思いに文雄の採用を喜び合い、文雄の入社を歓迎しているようだった。
 
「田中さん。彼らがウチで働いている魔法少女の皆さんです」
「ま、魔法少女……」
「はい! みんな、整列ーっ!」

 所長の紹介を受けて、魔法少女の一人が号令をかける。
 すると少女たちはそれぞれ等間隔に距離を取り、思い思いのポーズを取り始めた。
 威勢よく名乗りを上げる様は――正に、魔法少女のそれである!

「心を照らす魔法のかけら! 魔法少女――トル☆マリン!」

 長い赤毛に合わせた桜のドレスは、和を想わせる調和の証。
 春色の魔法少女、トル☆マリンは正統派の魔法少女である!
 号令をかけ、一番に名乗りを上げた彼女こそ、魔法少女のリーダーシップだ!

「迷いを晴らす月のかけら。魔法少女――ラピス☆ラズリ」

 銀糸の長髪を一つに束ね、修道着に包むさまは聖なる証。
 月色の魔法少女、ラピス☆ラズリは神秘的な魔法少女である!
 穏やかに微笑み、恭しく頭を下げた彼女には、並々ならぬ魔法少女力を感じる!

「道切り拓く力のかけら! 魔法少女――カーネ☆リアン! よろしくっ!!」

 二つに束ねた明るい亜麻色の髪と、動きやすいバトルドレスは可能性の証。
 黄金色の魔法少女、カーネ☆リアンは驚愕的な魔法少女である!
 豊かな胸を揺らしながら、快活に笑う彼女こそ、この中のムードメーカーだ!

「えーっと……ボクもやるんですか」
「勿論です!」
「いつもやってるじゃないですか!」
「そうですけど……ま、いいか。サービスですよ」

 最後の魔法少女は、玄関先で会った黒髪の少女だ。
 彼女は渋々と、しかし真剣な面持ちで名乗りを上げる。

「己の内に輝く、意志のかけら――魔法少女――ハイパー☆シーンッ!」

 不敵に微笑む黒の瞳、型破りなパンク・ファッションは自由の証。
 闇色の魔法少女、ハイパー☆シーンは破戒的な魔法少女である!
 誰よりも我を示し、自由に羽ばたく彼女こそ、魔法少女のパイオニアだ!

「「「「我ら、魔法少女! AROUND☆FIFTEEN!!」」」」
「お、おぉ……!」

 戦隊モノも恥じらう程に、見事な決めポーズを披露する四人!
 これには文雄も思わず拍手! 四人は照れくさそうに喜んだ!!

「いやぁ、凄いですねぇ……!」
「そうだニョップ? 彼らはゴイスーな魔法少女なんだニョップ!」
「えぇ、それで私は、彼女たちのマネージャーか何かを……」

 ふと、文雄は魔法少女たちに向けていた目を、ユーティリティへ向ける。
 そこには緑色の、なんかよくわからないぬいぐるみめいたものが置かれていた。
 ……否、置かれていた訳ではない。そのぬいぐるみは動き、跳ねていた!

「えっ」
「改めましてこんにちはでニョップ! ワタシこそ、この魔法少女相談事務所の所長にしてマスコットキャラクターの、ユーティリティちゃんでニョップ!!」
「えぇっ!?」

 なんと、スーツ姿の美女は仮の姿!
 その正体は謎のぬいぐるみ生命体、自称マスコットキャラクターのユーティリティだったのである!!
 目の前で美女がぬいぐるみになった衝撃に混乱する文雄に、更に追撃が襲いかかる!
 
「タナカさんは、これから魔法おじさんになってもらうんだニョップ!」
「魔法おじさん!?」
「そうだニョップ! 魔法少女を装い、魔法のパゥワーで、チキュ~ジンに幸福をもたらす魔法のおじさん!!」

「それが、魔法おじさんだニョップ!!」

 そう言うや否や、四人の魔法少女が光り輝き、姿を変えていく!
 美しく綺羅びやかな魔法少女たちは、みるみるうちに――文雄と同じ、おじさんへと変貌した!!
 
「選挙に敗れて早二年! 今では魔法おじさんのリーダー、夜部 邦彦!!」

 薄い毛髪に合わない桜のドレスは、和を乱す不調和の証!
 春色の魔法おじさん、夜部邦彦(よべ くにひこ)は元政治家のナイスミドルな魔法おじさんである!!
 この大惨事をわかっていて号令をかけ、一番に名乗りを上げた彼こそ、真に勇気のある魔法おじさんだ!!!

「服屋を娘夫婦に渡して早二年。これらの服は全て私が作った――浦戸 公三郎!」

 白髪頭を撫で付けて、修道着に包むさまは冒涜の証。
 月色の魔法おじさん、浦戸公三郎(うらと こうざぶろう)はシルバーバックな魔法おじさんである!
 にやりと微笑み、恭しく頭を下げた彼には、この並々ならぬ大惨事に対しノリノリ感を感じる!!

「スポーツ選手からスポーツ教室の先生を経て魔法おじさん! 五十嵐 光樹です!! よろしくッ!!」

 二つに束ねられない茶髪と、動きやすいバトルドレスは不可逆性の証。
 黄金色の魔法おじさん、五十嵐光樹(いがらし こうき)は驚愕的なマッシブさの魔法おじさんである!
 豊かな胸筋を揺らしながら、快活に笑う彼こそ、この中で一番暑苦しい男だ!!

「えーっと……僕もやるんですか」
「勿論ですとも」
「いつもやってるじゃないですか!」
「いや戻るのは初めてじゃ……ま、いいか。すいませんね、どうも」

 最後の魔法おじさんは、玄関先で会った茶髪の少女だったおじさんだ。
 彼は渋々と、しかしかなり悪戯っぽい面持ちで名乗りを上げる。

「技術なら誰にも負けない――日本の企業の非効率さについていけなかった男――スドー・ジーンッ!」

 不敵に微笑む黒の疲れ目、型破りなパンク・ファッションは脱社畜の証。
 闇色の魔法おじさん、須藤ジンは破戒的なインテリ魔法おじさんである!
 誰よりも個性が強く、自由に日本社会を羽ばたけなかった彼こそ、魔法おじさん唯一のIT技術屋だ!!

「「「「我ら、魔法おじさん! AROUND☆FIFTY!!」」」」
「お、おぉ……もう……」

 戦隊モノが捕まえる程に、見事な決めポーズを決める四人!
 これには文雄も思わず気絶! 四人は慌てて駆け寄った!!

「せ、世知辛すぎる……!」

 そう、これは魔法少女モノではなく、魔法おじさんモノである!!
 田中文雄は魔法おじさんとなり――美少女となって、世のため人のために奮闘することが決定したのだった!!
 
【つづく】

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