Skeb納品作品:その神は完璧だった。

人は神をこのように語り継ぐ

 その神の名はなく、完全にして完璧を現していた。
 邪なる神によって荒れた世界を救うべく、我らが祖の求めに応じて降りしその神は、決して姿を現さず、その御言葉のみで世を救った。
「其方らの迷いを与えぬよう、我が姿は秘するものとする」
「我が声は其方らを導くもの。我が心は其方らのものとならぬもの」
「幸いを目指し生きよ。それは神の望みである」
 神がそうお唱えになると、人々は戦いを止め、懸命に努力し、荒れた大地を耕した。神の御言葉に沿って世界が富むと、我らの祖は神を崇め、その慈悲を称えんとしたが、神はそれを固辞した。
「我は取引をせず。其方らの掴んだ富は其方らで分け合うがよい」
「よく学び、よく励むがよい。築き上げることが其方らの歓びとなる」
 人々は神の教えに感銘を受け、従い、よく働き、よく世界を廻した。
 争いがなくなった世界の中で、人々は栄華を極め、そこへ導いた慈悲深き神へ感謝を伝えんとした。ある者は詩歌に綴り、ある者は石木を彫り、ある者は身振り手振りをつけて語り継いだ。
 しかし神はそのいずれにも言葉を返さず、ただ、災いへの警鐘や、人々の和平の証を認める時にのみ言葉を送るだけだった。
 これを神に問いかけると、神は厳かに人々へ伝えた。
「我が歓びを伝えることで、其方らは迷い、苦しみを受けるであろう。それは我を理解することで生ずる呪いである」
「人よ、神の為に生きることなかれ。神の為を想うことなかれ。
 隣に立つ人の為に生き、遠くにいる人の為を想え」
 神の御言葉を受け、人々は隣の人たちに語りかけ、遠くの人たちへ語り継ぐことに専心した。
 見ず知らずの人を人として想うようになり、知らぬことへの蟠りが減り、世界は更に廻り続けた。
 そうして世界が廻り続け、発展と開拓を繰り返した。
 星の遍くを拓き、最早余すこと無く、完璧に幸福であるとされた時、神は遍く人に向けて語った。
「我が導きがなくとも、其方らは立ち上がり、歩み続けるに至った」
「人よ、空の彼方を目指して進め。星の海の向こう、異なる神に寿がれた者どもに並び立つがよい」
「其方らは祝福なくとも立てるのだと、証明するがよい」
 こうして人々は星の外、未だ見ぬ人と並び立つ為に歩みを進めた。
 何度も失敗し、何度も挫けたが、人は決して止まらず、歩み続けた。
 そうして遂に宇宙へと人が旅立った時、神の声は止んだ。
 完全にして完璧なる神は、遂に一度も奇跡を齎さず、人を高みへと至らしめた。
 その御業に疑いはない。
 何故ならば、世界は今日も平和であり、廻り続けているからである。

神は人をこのように扱う

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