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『レジャー白書』から見る麻雀の歴史⑥(2000年代後半)

6.「2007年問題」以降のレジャーのシニア化(2000年代後半)

2000年代後半の『レジャー白書』の特別レポートは、「2007年問題」を意識して、「シニア化」が大きなキーワードになっていました。

高齢化の推移と将来推計(『令和5年版高齢社会白書』より)

「2007年問題」というのは、1947年生まれが世代の中心となる「団塊の世代」の一斉退職によって、技術やノウハウが継承されず生産性の低下が懸念されたことを指します。
この「2007年問題」に対処するため、年金の受給年齢が60歳から65歳に引き上げられたり、定年後の再雇用が活発化したことで、「2007年問題」は「2012年問題」に先送りされました。しかし、2012年になっても懸念されたほど大きな問題は起きませんでした。「2000年問題」といい、「○○年問題」は肩すかしな結果に終わったものが多いですね。

高齢化に関しては、今後は、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となり社会保障費の急増が見込まれる「2025年問題」と、国内人口の3割が65歳以上になる「2030年問題」が待ちかまえています。


「シニア型余暇社会」の楽観論と悲観論(2006)

問題の2007年が到来する一年前に出版された『レジャー白書2006』の特別レポートのタイトルは、「団塊世代・2007年問題と余暇の将来」でした。
この特別レポートは、少子高齢化によって到来する「シニア型余暇社会」についての2つの考え方を検証していました。

①悲観論
 「パイの縮小と高齢化による活力低下により、余暇活動は低迷する」
②楽観論
 「かつての高齢者イメージと異なる『元気なシニア』が、余暇活動と消費を通じて世の中を活性化させていく」

『レジャー白書2006』 81ページ

各レジャーのシニア化

『レジャー白書2006』の調査年は2005年であり、日本が65歳以上の高齢化率が21%以上の「超高齢社会」に達する2007年を目前にしていました。そのため、多くのレジャーでかなりのシニア化が進んでいました。

『レジャー白書』の娯楽部門全21種目の中で、2005年時点で、50代以上比率が45%以上となるシニア化が進んでいたレジャーは以下の5種目でした。なお、後年には『レジャー白書』の調査対象は70代までとなりましたが、2005年のデータには80代以上も入っていたので、2021年の参加人口にも80代を含めています。
麻雀も参考のために追加しています。当時の麻雀は、50代以上比率が45%未満のそこまでシニア化が進んでいないレジャーでした。しかし、『レジャー白書』記載のデータと総務省の人口統計データから計算すると、後者のデータに差異があるせいか、50代以上比率が46.0%になってしまいました😅

2005年時点でシニア率が高かった娯楽部門のレジャー

これらのレジャーは、シニア化が進んでヤバいよ、と当時懸念されていたわけです。しかし、競輪・オートレースは、近年の公営ギャンブルの好調ぶりを反映して、大きく参加人口を伸ばしており、問題なさそうです。宝くじは、高齢者にとっては今のガチャみたいなものなのか、老後の不安を「夢を買う」ことでまぎらわせているのか、完全にシニア向けレジャーになってますね。参加人口の減少のわりに市場規模は安定しているギャンブル化が進んでいる宝くじは、今の高齢者がゴソッと抜ければ廃れることもありそう。若者離れが進むアナログゲームでは、将棋・麻雀はまだ持ちこたえていますが、参加人口が半減した囲碁はヤバそうです。

現時点の最新である2021年のデータ(80代を含む)では、娯楽部門全21種目の中で、50代以上比率が50%を超えているのは11種目と半分以上でした。シニア化よりも、むしろシニア化していないレジャーの方が希少であることに、超高齢社会を実感します。

シニア率の高い娯楽部門のレジャー(2021)

一口に「シニア化レジャー」と言っても、藤井八冠誕生が話題になった将棋のように、今の現役世代がシニア化してもやる人が多そうな「シニア向けレジャー」と、ディスコのように現在の高齢者とともに消えていきそうな「衰退化レジャー」に分かれそうです。

団塊の世代はどこに流れ着いたか?

『レジャー白書』では、団塊の世代を1947〜49年生まれと定義していました。つまり、年齢的には、2006年当時は57〜59歳の50代後半、2023年現在は74〜76歳の70代半ばとなります。2006年当時の団塊の世代の人口規模は約680万人であり、日本の総人口は約1億2800万人だったので、人口の割合は約5%、20人に1人がこの世代でした。

このボリュームの大きい団塊の世代が、2007年以降の一斉退職でレジャー界に解き放たれたことでどのような影響を及ぼしたかというと、麻雀については最近の10年間ではこんな感じでした。

麻雀の各年代の参加人口(2012〜2021)

あまり細かいデータがないので大雑把な区分となりますが、最も多く麻雀をプレイしている年代と団塊の世代は大体重なりますね。

最新の2021年のデータで、団塊の世代(70代)が最も多く参加している娯楽部門のレジャーは何になるかというと、以下の結果になりました。

70代に参加人口の多い娯楽部門のレジャー

ただ、これについては80代に人気のレジャーもまったく同じなので、こういった大雑把なデータから世代の特徴を語るのは難しそうです。あと、「トランプ等アナログゲーム」としているのは、正確には「トランプ、オセロ、カルタ、花札など」なんですが、種類が多すぎだろ。ポーカーは、まだまだ独立した項目が作られるほど普及してはいないですかね。

2006年から見た未来予測

この特別レポートには、少子高齢化が進むことで、レジャーの勢力図がどう変わっていくかという未来予測が載っていました。こういった過去の未来予測をニヤニヤしながら眺められるのが、まさに未来人の特権といったところです。

まず、全般的傾向として、以下の2点が指摘されます。

  1. そもそも日本の人口が減るため、長期的にはレジャー参加人口は減少基調にある

  2. 1991年のバブル崩壊でレジャー参加人口が急減したように、経済状況が大きく影響する

そして、「加齢効果」「世代効果」という2つの効果が強調されていました。

①「加齢効果」
「加齢効果による減少」が顕著な種目では、何も対応しなければ高齢化の進行とともに参加人口が減少傾向を強めていく。具体的には、スポーツ部門の「ボウリング」「スキー」「水泳」、娯楽部門の「パチンコ」「ゲームセンター」「家庭用ゲーム」、観光・行楽部門の「ドライブ」など。

②「世代効果」
特定の世代効果が抽出された種目では、その世代のピークが推移するタイミングとともに参加人口が影響を受ける。例えば「社交ダンス」「中央競馬」などは「戦前生まれ」世代の参加が特徴的に多く、登山は1930〜40年生まれ、ゴルフやパチンコは1940〜50年生まれにピークがある。

つまり、「加齢効果」は、超高齢社会では若者向けレジャーは縮小するということであり、「世代効果」は、特定の世代向けのレジャーはその世代と心中するってことですね。

娯楽部門で言うと、家庭用ゲームは高齢者にもファンを増やすことで「加齢効果」を脱し、中央競馬も戦前生まれは相当減っているはずなので、それ以外の世代のファンを増やすことで「世代効果」を脱しています。一方、ゲームセンターは「加齢効果」のため、パチンコは、この2つの効果はあまり関係なく、イメージの悪化等の理由で参加人口を減らしています。

部門別の予測のうち、娯楽部門を見てみると

娯楽部門では、2015年時点で15歳以上人口推移比率(0.95)と同程度の参加人口推移が予測されている種目として唯一「カラオケ」があり、他の種目はいずれも現状に比べて10%以上の減少傾向を示している。「パチンコ」「中央競馬」などギャンブル系の種目は、今後の人口減少や少子高齢化による参加人口の減少が懸念される。

『レジャー白書2006』 111ページ
コーホート分析による参加人口の未来予測

カラオケは思ったほど堅調ではありませんでしたね。また、確かにパチンコは衰退していったものの、中央競馬をはじめとする公営ギャンブルは、近年になって活況を呈しています。とはいえ、2020年のコロナ禍など見通せるはずもないので、未来予測としてはまあまあなんじゃないでしょうか。アシモフの『ファウンデーション』シリーズに出てきた、心理歴史学では予測できなかったミュールの出現を思い出しました。

結局、正しかったのは楽観論? 悲観論? ねえ、どっちなの?

「シニア型余暇社会」についての楽観論と悲観論のどちらが正しいのか、という冒頭の問いに立ち返ると、この特別レポートの中では答えは出ていませんでした。

①悲観論
 「パイの縮小と高齢化による活力低下により、余暇活動は低迷する」
②楽観論
 「かつての高齢者イメージと異なる『元気なシニア』が、余暇活動と消費を通じて世の中を活性化させていく」

じゃあ、現在から見るとどうなのかというと、もうすぐ出版される『レジャー白書2023』のサマリが公開されており、そこに余暇市場の推移グラフが掲載されていました。

余暇市場の推移(1994〜2022)

余暇市場の規模は、シニア化だけでなく、2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災といった、その他の経済的・社会的要因にも大きく左右されるはずです。しかし、このグラフを一見したかぎりでは、2007年以前は80兆円台を維持していた余暇市場が、団塊の世代が退職する2007年から2012年にかけて縮小していき、2012年以降、コロナ禍までは70兆円台で安定していたように見えます。とすると、余暇に費やす金額だけのことを言えば、悲観論が正しかったのかなあ、と思いますね。

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