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20.04.11アイスリボン無観客道場マッチ/鈴季すずと横浜文体、涙の“ドラマ”

 緊急事態宣言に休業要請で、先週はたくさんの団体が長期の興行中止・延期を発表した。無観客試合をやろうにも会場を借りるのも大変だ。


 そんな中で無観客試合を続けているのがアイスリボン。道場兼常設会場を持っているからフットワークもきくということだろう。5月4日には横浜文化体育館でのビッグマッチも控えているから、前哨戦など試合の流れを止めたくないところ。チケット収入が途切れている今、試合の生配信でニコ動チャンネルの会員を増やすことも重要だ。スーパーチャット(投げ銭)を使うYouTubeでの中継も新たに始まった。


 筆者が初めてアイスリボンの無観客試合を取材したのは4月11日。団体に取材可能か確認して、OKをもらった。気になったのは会場内の人数のことで、自分が行くことで“人口密度”が増えてしまうわけだからどうなんだろうと。そこはやはり迷うのである。


 道場の中は試合をする選手、レフェリー、中継スタッフにセコンド、中継MCのテキーラ沙弥さん、リングアナの千春さんに取材陣数名。これくらいならさすがに密集状態にはならない。試合中も撮影しながらなるべく距離をあけるようにして、もちろんリング上の選手、レフェリー以外は全員マスク着用だ。普段の道場マッチより寒いのは、お客さんがいないのと換気をしているからだろう。こういう“体感”もまた無観客試合だ。


 試合そのものも、やはり勝手が違う。「慣れない選手は慣れないみたいです」と藤本つかさ。とはいえこちらとしては、実感としてプロレスを見られること自体がありがたい。単純に、どの試合を見ても「あぁ、プロレス楽しいな」と思う。


 前にも書いたが、いま怖いのはファンの「プロレスロス」が「プロレス離れ」になってしまうことだ。だから自分としても、SNSだったり記事だったりで、できるだけ“プロレスの流通量”を減らさないようにと思う。もしかしたら自分のツイッターで「あ、アイスリボンは試合やってるんだ」と気づくプロレスファンがいるかもしれない。そういうわけで「会場に人増えちゃうのは申し訳ないけどなぁ」と思いながらも取材させてもらっている。


 試合の中でまず印象に残ったのは、誰よりもやりたい放題だった藤本つかさだ。つくしとのタッグ王者チームで世羅りさ&宮城もちと対戦。場外戦でMIOレフェリーのベビーカーを凶器で使用。試合が時間切れ引き分けに終わるとエプロンからリング下に世羅を首投げ。試合中は卍固めを決めながらカメラ目線も。どの選手もリング正面のメインカメラを意識して試合をしていたが、藤本はリングサイドの全カメラに気を配っていたようだ。ちなみに藤本は「無観客でもスイッチが入る」タイプだという。


 次の道場マッチ配信では藤本vs世羅の一騎討ちが組まれる模様。かつて後楽園ホールを飛び出して神田明神、さらに山手線車内で闘った2人である。無観客試合では何をやるのか。何かしら“企んで”いるんじゃないか。


 メインは雪妃真矢&星いぶきvs鈴季すず&星ハム子のタッグマッチ。5.4横浜文体では雪妃vsすずのタイトルマッチが組まれており、またハム子といぶきもタッグでの親子対決が決まっている。ダブル前哨戦だ。


 ただこの道場マッチを前に、5.4文体の延期が発表された。8月にあらためて開催する予定になっているが、タイトルマッチをその時にするのがいいのか、さすがにそれは延ばしすぎだから違うところでやったほうがいいのか、不透明だし難しい。8月まで前哨戦を続けたとして、選手の気持ちが保てるのか。


 この日の試合は、すずがいぶきをフォールした。ここまでの前哨戦は雪妃に連敗だったから久しぶりの勝利だ。だけどやっぱり、気分が完全に晴れるというわけにはいかない。MC席でコメントしながら、すずは声を震わせた。


「ずっと文体のことを考えて、勝つことをイメージしてきたので...」


 それはそうだろう。デビューしてまだ1年あまり。ビッグイベントでのタイトルマッチは、ここまでの人生で最大の大勝負だ。不安も期待もあるだろうし、何をやってやろうかと常に考えていたはず。「アイスリボンを引っ張る選手になりたい」と決意して、それを言葉にして、いよいよ現実のものにするチャンスがきた。目の前にあったそれが、しかし突然遠くに行ってしまった。泣くに決まってる。


「延期があるかもとは思ってました。タイトルマッチがいつになっても、私はそこにピークをもっていくだけ」


 そう言ったのは雪妃。さすがチャンピオンだ。だけど17歳の、まだキャリアとしては新人のすずはそこまで落ち着いていられない。目に涙をためて「下を向いてもいいことはないので。無観客でも試合はできるので、この気持ちを雪妃真矢にぶつけます」と語った。先は見えないけれど、とにかくすべての思いを試合にぶつけるしかないのだ。


 それにしても、すずと文体の“因縁”はどうなっているのかと思う。彼女にとって文体は一昨年8月にデビューを予定していた場所だ。それが自分のケガで流れ、デビュー戦は大晦日の後楽園になった。去年の文体では朝陽との若手ライバル対決が組まれていたが、直前になり朝陽が欠場。代打出場の川畑梨瑚に勝って「文体を乗り越えた」と語っていた。“因縁の文体”にケリをつけてステップアップし、団体の顔になろうと決意した。


 なのに、今回も文体のリングにすんなり上がることができなかった。本人は口にしなかったけど「またか」と思ったんじゃないか。いやこれ「私が何か悪いことした?」みたいな気持ちになるだろう普通。


 だけどハタで見ている人間に言わせてもらえば、ここまでくれば“因縁”はプラスだ。この会場と鈴季すずには何かある。彼女のプロレス人生に大きく関わるドラマが今回も生まれる。そういうふうに見えてくるのだ。「幻の5.4文体」を経て、鈴季すずの中でまた何かが変わると思う。彼女は見えない明日と闘うしかない。けれど我々には彼女こそが明確な“明日”ではないか。

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