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中央区 勝どき橋

その眺めは格別だった。

深夜、おバカな私は築地からの方が近いことに気付かず東銀座で地下鉄を降りてしまった。東銀座から真っ直ぐ晴海通りを行く。左手には歌舞伎座。どうせ1kmほどだもの。酔い覚ましにはちょうどいい。

銀座、有楽町を徘徊することは多いけれど、勝どきの方に渡るのは初めてだった。だから勝どきからどんな眺めが見えるか知らなかったし、彼が勝どきにいなければ決して勝どき橋を渡ることもなかった。

晴海通りをずんずん歩く。足早に。彼に会える楽しみを抱きながら、少し息を弾ませながら。今日はどんな話をしようか、どんな顔で会いに行こうか。にやけていただろう。周りの風景も行き交う人も見ずにずんずん歩く。

彼は、勝どきから見える東京タワーと築地市場の明かりを見せてくれた。とても東京らしい風景だった。真夜中も明け方も、築地市場の明かりは消えない。朝になっても東京タワーは真っ赤に輝いていた。

満月の4日前。月は東京タワーに重なり沈んでいく。幻想的な景色、風景。私たちは夜明けまで語り合った。南側から空が白んできた。そして橙色に染まる空。彼は言った。

「もっとも美しい時間だ」

私たちは手を重ねながら空を眺めた。

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