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わたしのサイケデリックトランス卒業式 野郎二人で行ったタオ島・エクスペリエンスの思い出①


 昔、六本木アマンドの上に「ディープブルー」というクラブがあった。
 クラブといってもバーに毛が生えた程度の小箱なのだが、年中無休24時間営業、さらに多い時には店の4隅のうち3隅にプッシャーが待機していることも相まって、当時好き者の間では知らない者のいない究極のジャンキー箱として有名だった。
 そこで出会った生涯の友人に、Kちゃんという男がいる。米兵みたいなゴツい身体にスキンヘッド、日焼けガン黒とルックス的にはどこからどう見ても立派な極悪人ではあるものの、付き合ってみると暴力的なところは微塵もなく、むしろお人好しで騙されやすくて、目の前にネタがあると猿のようにやり尽くす。
「それ鼻からいった方が効くよ」とか言われると粉末にしたバイアグラですら1錠丸ごとスニフして、おでこの血管をビッキビキに怒らせながら「ちょっと鶯谷行ってくる」などと超熟ババアを買いに消えていくような憎めない男である(彼は重度の熟女好き)
 要は単なるジャンキーであることが判明し、それから彼とは20代、30代を通じてサイケデリックトランス界隈で絡み続けた。で、お互い40になったところで、彼を諭した。そろそろ我々もこの業界から引退すべきではあるまいか。
 いい年こいて捕まったらどうすんの、もう4つ打ちトランスもいい加減飽きたでしょ。自分にとっては偽らざる本音であった。というか自分は30半ばに差し掛かった時点で、既にやかましい電子音楽なんぞよりテレサ・テンの歌声の方がよっぽど心に染みるようになり、身体に負担をかけて一時の快楽を追うことに何の意味も見いだせなくなっていた。わざわざ卒業式などしなくても己は事実上引退していたのだが、ここらで長年連れ添った悪友にも引導を渡すべきと思ったというのが本音だ。 
 Kちゃんの答えは、捕まらないし飽きてないというものだった。
 この人、もう1回くらいパクられないと目が覚めないのかしら。なんて思っていたら、ある日本当に捕まった。なんでもネタをどっさり仕込んでクラブに行く途中、職質くらって激しく抵抗した挙げ句にそのまま連行され、しかも未成年の女子連れという三倍満。社会復帰した後に未成年女子のお宅へ謝りにいった際には、先方のお父さんがブチ切れて危うく刃傷沙汰(友人が刺される側)になりかけたと聞く。
 それから1年半。今度ばっかりはさすがにお灸が効いたらしく、お勤めを終えた彼の口から「もう最後にする」との一言を引き出すことに成功。Kちゃんもいよいよ、この世界から卒業する時が来たということだ。
 最後を、どこで飾るか。前から考えていたプランがあった。
 海外のビッグレイヴで、とことんやり尽くして、その思い出を胸にまっとうな人生を歩んでいく。嫁を泣かすのも前後不覚に陥るのも、本当の本当に、これで最後にしよう。
 そう心に決めて、男同士でとある年末年始、タイ湾に浮かぶパーティーアイランド・タオ島に旅立った。
 これは、野郎二人合わせて前科4犯の社会不適合おっさんコンビが、アジアの片隅でひっそりと挙げた薬物卒業旅行の私的記録である。前もって一応書いておくと薬物は犯罪。みんな、やめようね!

  全くトランスに関心のない方向けにまず説明しておくと、タイのタオ島は表向きダイビングやマリンスポーツの楽園と言われているものの、その実マフィアや薬物、わけの分からないカルト宗教の影がチラつく香ばしい場所でもある。特に年末年始にエクスペリエンスなる年越しパーティーがある時は、島まるごと薬箱といってもいいほどに、世界中から好き者が集まる。
 とはいえ、東南アジアは今やどこも薬物の取り締まりが厳しくなり、タオ島とてその例外ではない。無法ではありえず、アジアに強いライターの友人からは「今どきタイなんかにやりに行くのは情弱」と断言された。
 行くなら欧州、ポルトガルとかいいっすよ、空港のイミグレでコカイン見つかったのに量が個人で使用する範囲とか言ってお咎めなしだった友人知ってます、などというアドバイスをくれた奴もいた。今頃タオ島なんか行っちゃってどうすんの、ということらしい。
 理由は簡単で、タオ島の行きと帰りに、自分がバンコクやらサムイ島やらで夜遊びしたかったからである。
 実はタオ島では、自分は何もやるまい、やっても軽めでと決めていた。自分の関心はその時もはやエロ一本となっていたんである。少なくとも勃たなくなるものは、身体に入れたくない。とか思っていたら、結果から言ってしまうと最後のパーティーにもかかわらず、本当に何もせずに終わった。なぜならば、友人のKちゃんがあまりにも危うくて、一瞬も目が離せないということが現地で判明したからだ。
 タオ島にフェリーで渡る前、サムイ島で時間をつぶしている時にふらりと入った普通の薬局で、Kちゃんが「あ、注射器だ」とか行ってダース買いしようとしているのを止めたあたりで覚悟はしていた。とはいえ以前、二人でカンボジアのプノンペンに行った時、空港を下りて最初に乗ったタクシーの運ちゃんに「ドラッグ? ドラッグ?」とか言って何か買おうとしたり、自分が場末バーでクメール女子と猥談を楽しんでいるスキに子供のプッシャーに騙されて謎の錠剤を掴まされたりした前科を持つ男ゆえ予想の範囲内ではあった。
 タイもカンボジアも、犯罪はその場に一緒にいただけで手を汚していようがいまいが同罪になるという素敵な法体系のお国柄。保護者役をやらないと、彼はもう仕方ないにしても自分まで日本の土を踏めなくなる。異国でなかよく一緒に捕まる気は、毛頭なかった。
 事前に「明るいところではプッシャーとお金のやり取りをしない」「フェリーはいいけど飛行機に乗る前に持ってるネタは全部捨てる」など禁止事項満載の旅のしおりを作ってKちゃんにLINEで送ったが、器の大きい男だけに理解している雰囲気は皆無。結局、マンツーマンで常時マークを切らないために自分はシラフでいるしかなく、それを相手に伝えていらんプレッシャーをかけてしまうのもかわいそうなので、男は黙ってフォローに回ることにした。徹底的に相方を泳がせつつも、自分を殺して安全対策に全力投球、そんな旅。


 楽しくないじゃんそれ、と思われた方。断じて違う。間違いなく自分の人生でベストパーティー、かつ何も入れなくても脳汁出まくりの素晴らしい体験だった。なぜならば、Kちゃんの姿が遠くにかすんでしまうほど、タオ島に集まった世界選抜のジャンキーの皆さん、総じてレベル高すぎ。一目でまともではないと分かる人がこれだけ一箇所に集まる機会はそうそうない。本当にひとりひとり、普段どうやって生活しているのか、というかどういう人生を歩んできたらここに行き着いてしまうのか、言葉が通じるならじっくり聞いてみたかった(自分もKちゃんも英語は全然できない)
 そんなこんなで、始まったタオ島・エクスペリエンス。筆者の完全マークを天才的なフットワークですり抜けて、Kちゃんは初日から飛ばし始めたのだった。

〜次回にのんびり続きます〜


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もがき三太郎

スポーツ新聞・週刊誌ライター、エロ本編集長、老人向け雑誌編集長を経て現在海外の雑誌社に勤務。ここではいろいろな理由で他所に発表できなかった記事を公開します。もう少し真面目な記事はコンビニ流通の媒体か、もしくはKKベストセラーズ社公式noteの方に書かせてもらっています。
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