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LGB「T」にまつわるちょっとした話(3)

昨年、長年の戦友であるいずみちゃんのイベントで『くたばれGID学会』というタイトルでトークライブを行った。まぁ、あたしは例のごとく、トランスジェンダーの歴史の話をしたのだけどね。

でっ、このフライヤーを見たGID真理教な人達に火が付いたようで、未だに鬼のように怒っていらっしゃるようで…。

でもね、昨年このイベントを行った時にすでに『性同一性障害』の死は決定していたのよ?なんでそれで怒るのだか意味が判らないのですよ。当然、私が殺した訳じゃ無く、これを殺したのはICD11の編集に関わった医師などの専門家の方々、そして、勿論、そういう風な方向にもっていったのはトランスジェンダーの活動によってだけど。

・性同一性障害が登場したのは1975年のICD9から

突然降ってわいたようなLGBTブームの中で『多くの人が何で後ろにTが付いているのだ?Tは違うじゃないか?』なんて思っている方が多いかと思います。

2022年に発行されるICD11で、性に関する医学的な考え方が大転換されますが(これはトランスジェンダーだけではなく、遂に同性愛が完全非病理化になるなど、大きな変更点があります。)この転換に至った流れこそがゲイリブによるものなのです。

ゲイリブの本格的な動きは、Stonewallの暴動で警察に抵抗した人達が『GAY POWER』と叫び、これが当時の活動の標語になった所から始まります。

※Stonewallというゲイバーは、当時のニューヨーク市では数少ないドラァグクイーンやトランスジェンダーの出入りを許可していた店舗で(当時のニューヨーク市では、異性装が犯罪だったため)この暴動の中心人物はトランスジェンダーでした。※ちなみにGAYという言葉じたいが指す人も、この当時はドラァグクイーンや、トランスジェンダーの事で、白人男性同性愛者の活動家などはhomosexualを使用、それ以外はカムアウトをしていませんでした。

3日3晩の暴動が終わり、逮捕された仲間の保釈やら弁護やらの資金集めの募金活動や、Stonewallで蜂起した人達のデモなどを行う『Gay Liberation Front(ゲイ解放戦線)』が組織されGAY POWER運動が活発化していくわけです。

そしてこの時に大きく声を上げていたのが『私達は精神疾患などではない!』といった非病理化です。この活動により1973年に当時発行されていたアメリカの精神医学マニュアルDSMⅡからHomosexualが削除。一方で1975年に発行されるICD9のコード302性的逸脱の項目にTransSexualizmとGenderIdentityDisorderがFetishismや、Homosexualと並べて登録されて、トランスジェンダー関連の病理化が進んだ訳です。

この病理の流れを受けて、50年代にSRS(性別再判定手術)を行って一躍有名になった、クリスティーン・ジョーゲンセンはインタビューで『私はトランスセクシャルではありません、トランスジェンダーです』といった答え方をするなど、精神疾患としての扱いがスティグマであるという意識が病理化された時から強かったことが窺えます。

・性同一性障害という項目ができるまで

1966年にジョンホプキンス大学にジェンダークリニックが開設され、ホルモンセラピーや、SRS実施が本格的に行われるようになっていきます。

ちなみに、60年代はすでにホルモン製剤で体の変化が得られることが判っていたので、多くのトランスジェンダーがホルモンを使用していましたが、前記のようなクリニックではなく、色々なルートから手に入れて使用するケースが多かったそうです。※Stonewallで有名なミス・メジャーは、サンフランシスコ時代に占い師からホルモンを入手したとか答えていました。

1979年にハリー・ベンジャミンやジョンホプキンス大学などでホルモンセラピーや、SRSを行った対象者のその後を調査がまとめられ、それらを行った人達と、行わなかった人達の差異が認められず、むしろ自死を選ぶなどネガティブな行動に出るものが多く見られたとの結果が確認され、これを受けてホルモン、手術などを行うためのガイドライであるスタンダード オブ ケアーが作成されます。

この79年のガイドラインの考え方がベースとなり、1980年発行のDSMIIIで、性同一性障害、Transsexualismが独自の精神疾患カテゴリーに分離されます。

そして1990年に発行されたICD10で性同一性障害が精神疾患のカテゴリーとなり、この下に、TranssexualismとTransvestismが移動。この変更を受けて、1994年に発行されたDSMIVで、性同一性障害が1つの疾患としてまとめられます。※現在、日本で性同一性障害といわれる疾患は、DSMIVに書かれている疾患を指すことになります。

・ガイドライン発行以後に起きるより強い反発

1980年に発行されたガイドラインの考え方が長く使われる事になるのですが、精神科医や心理カウンセラーによる2年間の観察の後、ホルモンや手術へと移行できるといった流れが作られ、この状況に当時の当事者がより強く反発を始めます。

1つは日本でも見られますが、本来ガイドラインには無い『対象者の性別を判断しようとする医師が多く出現』。色々なパターンの心理テストが作られ、非情にステレオタイプな感覚でIdentityを男女分けしようとする医師が続出し、これに当事者が猛反発。とりあえず、質問内容のリストなどを作り、医者受けする答えを共有するといった行動もありました。

また、これはガイドラインの最新版で改訂されていますが、無駄に時間がかかるカウンセリング期間にうんざりしていたということもあり、結局は独自ルートでホルモンを入手するなどといった状況も変わらずといった所だった訳です。

・非病理化への運動が世界的な人権の考え方に波及

トランスジェンダーのグループが『私達は精神疾患じゃない!』との声を上げていったことが、段々と人権と言う形で語られるようになり、これが2008年に発行されるジョグジャカルタ原則に盛り込まれます。

『第18原則 医学的乱用からの保護
万人は性的指向や性同一性により医学的、心理学的治療や臨床検査を強要されない。あらゆる分類(DSM-IVやICD-10)の規定に拘わらず、個人の同性や両性への性的指向や身体とは異なる性同一性はそれ自体は病気ではなく、その意識を治療されたり抑圧されない。 ジョグジャカルタ原則から抜粋』

その後、アメリカの精神医学神経学会がDSM5の編集作業を始めていることを発表し、これに合わせて2010年にStop Trans Pathologization(トランスの病理化を止めよう!)という運動がスタートします。

2012年にはWHOがリプロダクティブ・ヘルス/ライツの考えにのっとり、個人の身体的な統一性(bodily integrity)を侵害するような事が事象を排除するための勧告を、国連の各人権機関と連名で発表。

これらの流れを受けて、DSM5では以前からやり玉に挙がって居た『性同一性障害』という疾患名称を、大もめに揉めた末に『性別違和(Gender Dysphoria)』に変更し、その疾患イメージも従来より緩く、またそれまで2年の観察を必要としていたのを半年に短縮と大きな変更を行います。

この編集に携わった医師のインタビュー記事によると『非病理化もしくはZコード(疾病では無いという扱い)も検討されたが、アメリカでは受け入れられないと考えた』と答えていました。

・性同一性障害の削除

そして遂に昨年、WHOの最新版・疾病分類マニュアルICD11の編集終了が発表され、この中で特に大きな変更となる性同一性障害の削除についての説明が行われました。

形としては、これまで精神疾患の中の性同一性障害という項目だったトランスジェンダーに関する疾患の考え方を大きく転換し、新たに性の健康という大項目を設置、その中に性別不合(仮)という新たな枠組みを設置することとなったのです。

トランスジェンダーはホルモンや手術などの医療行為と密接に関係するために、それらを行うための何かしらのモノが必要であるとの位置づけで作られた枠組みですが、これは従来の精神疾患的な考え方ではない事をWHOが明確に表明しています。

・そして「くたばれGID学会」へ

さて、私は1996年のトランスジェンダーカフェ開設以後、トランスジェンダーという疾患ではない言葉を使って活動を行ってきたわけですが、これまでに説明したとおり世界的な潮流なども受け『私は精神疾患ではない!』との立場をずっと取ってきました。

また、DSM5の発行、ICD11編集作業終了と発行年決定が決まり、また、WHOが『性別変更に関する法律などに手術要件を含むこと止めるように強く勧告』しているにも関わらず『この話をすると、手術などの保険適用にブレーキがかかるから言えない』と、医療関係者にあるまじき言葉を吐いたりする始末です。

先日の手術要件に関する最高裁決定に関してでも、GID学会としての声明も無く理事長が新聞のインタビューで

『性同一性障害の治療を多く行う岡山大大学院の中塚幹也教授は「手術要件がなくても性別変更を認める選択肢があっても良いのでは」と話す。』

何、この他人事な答え?

昨年のGID学会で、こんな質問をしたのですが…。

『WHOの勧告を受けて、全米医師会は即座に「全ての州に向けて、性別変更の法律から手術要件を削除するように」と勧告しました、日本では同様のことが出来ないのですか?』

この質問に嘲笑されましたよ…。『日本はねぇ~』だって…。

当たり前な話だと思っているのですが、医療という現場では最大限個の人権が尊重されなければ成らない所では?疾病イメージがすでに古い物になっているのに、ガイドラインの変更すらできない。

WHOの勧告がでているのに学会としての提言も出ない。世界中で真剣に議論されていて、すでにICD11の発行を待たずして非病理化に踏み切った国まである状況で、すでに過去の疾病となっている『性同一性障害』やそれの略語であるGIDをお題目の様に唱えているだけの学会にたいして「くたばれ!」と声を上げるのは、まっとうな抗議であると考えています。

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