見出し画像

写真集 幡野広志

死ぬまえにやっておこうと決めたことが、ひとつづつ消化されていく。背負ったすこしおおきな荷物をおろしたときのような身軽さを感じるのだけど、写真集に関しては長年ノドにささった魚の骨がとれたようなスッキリ感や安堵感がある。

ぼくは肉派だし魚の骨が何年もささったことがないからわからないけど、ずっとなんとかしなきゃとおもっていた写真集をだすことができた。

初めての写真集だ。次の写真集をだすことはないだろうから、最初で最期のベスト盤のような写真集になるので「海上遺跡」「いただきます、ごちそうさま。」「優しい写真」の3つの作品を1冊にまとめた。

写真というのはスポーツに似ていて、やればやるほど質が上がる。だから過去の作品というのは未熟なものがおおくて、はずかしくて目を背けたくなる。卒業アルバムの個人写真を見ているような感覚ににている。

でもこの3つの作品をみかえしていてもそういったはずかしさは感じない。

写真集のタイトルは「写真集」です。

「幡野広志 写真集」が無難なタイトルかとおもっていたけど、デザインをしてくれた水野学さんが“それだと幡野が被写体になってる写真集っぽいよね、白石麻衣 写真集てきな。”と助言してくれた。

それを聞いたぼくも勘違いしちゃう人がいるかもしれないっておもったけど、そんな勘違いする人どう考えてもいないよね。

でもこれが正解だった。たしかにぼくの作品の写真集なんだけど、ぼくは写真を撮っただけだ。写真を撮るという役割をしただけで、ぼく一人の力で写真集ができたわけじゃない。

デザインや印刷、編集や進行など多くの人が関わってくれている。入院中は病室の壁に写真集の色見本を貼って朝から晩まで自然光で眺めていた、治療してくれた医療者もこの写真集に関わっている。そして書店で販売してくれる人や配送してくれる人、購入してくれる人がいるから成り立っている。

誰が欠けても成り立たないから、誰がえらいとか誰がすごいとかではなくて、役割の違いなんだと感じる。タイトルを「幡野広志 写真集」にしなくてよかった。ただでさえ写真集ってオレオレ感が出ちゃうのに、タイトルまでオレオレにしなくていいよね。

この写真集がぼくは好きだ。表紙の赤い文字も紙の質感も印刷の匂いも、手にしたときの重さや、本棚に入れたときの存在感もすごく好きだ。ぼくは写真にこだわったけど、それぞれのプロがそれぞれこだわってくれている。

やはり無難ではダメなのだ。

2月23日(土)から3月10日(日)までTOBICHI東京とTOBICHI京都で写真展をします、写真集も先行して販売しています。

写真集に入れなかった写真や、先週撮影したなどを展示しています。TOBICHIやほぼ日ストアで購入されると数量限定で「小さい優くんの写真集」がつきます。かわいいです。詳しくはこちら。

全国の書店、amazonでは3月1日発売です、じつはぼくの誕生日です、36歳になります。

ぼくは写真家だけど写真集を出版することに意欲的ではなく、むしろちょっと否定的だった。健康なころからいままでに写真集出版のお誘いはいくつもあったけどすべてお断りしてきた。

個展をやれば出版社の編集者が名刺を片手に写真集の話を持ちかけてくる。自慢話とおもわれるかもしれないけど、いままで一冊も写真集を出版していないのだ、まったく自慢話ではない。

今回の写真集はそんなことは全くないのだけど、写真集は一般的な書籍とちがって“やりがい搾取”のようなものがある。細かいことはここでは書かないけど売れない若手のミュージシャンがライブのチケットを自分で購入して手売りするよう構図とにている。

これだけ聞くと青春っぽいけど、写真業界でいちばん大きな賞を受賞している“先生”と呼ばれるような前期高齢者ぐらいの写真家でも手売りをやっているから夢がない。

写真学生や写真家を目指したいという人から“どうしたら写真家になれますか? ”というメッセージをよくいただく。

現実的な話をしてしまうのだけど、写真の世界は資金力が必要だ。機材の購入にも作品制作にも個展にも写真集にも費用がかかる。

なによりも写真を撮るために必要な経験、つまり旅や映画や音楽、恋愛や美味しい食事などインプットするためにお金が必要だ。

写真はアウトプットの作業なのでインプットがとても重要だ。インプットが感性につながる。

写真家を目指す若い人は技術や感性を気にするけど、おなじくらいお金のセンスも大切なことなのだ。

お金だけあれば、写真展だって写真集だってすぐにできる。ただし評価されるかどうかはまったく別の話だ。評価される感性だけあっても、しっかりとした技術がなければプロとしてお金は稼げない。

技術や感性やお金のセンスはどれが欠けてもいけない必要なもので、それぞれの役割がちがう。現実的なことをいってしまったけど、それがいま無いからといってあきらめたり、やけになる必要はない。これらは勉強することで養うこともカバーすることもできます。

写真家になるには、勉強することと、考えることが一番たいせつなことだ。

そんな写真の話を2月26日(火)にします。
ららぽーと豊洲にある映画館ユナイテッドシネマ豊洲でやります。
19時開場、22時退場です。席によって参加料がすこし変動するのですが5500円ベースです、学生は3000円。

写真集を一冊プレゼントします。

エモい写真の撮り方とぼくのRAW現像作業や、写真と文章の関係など、写真を撮りたい人向けのお話です。席は全部で60ほどあるそうです、ぜひ。

応募はこちらから。

席が埋まっている感じがしますが、シングル席がまだまだあります。


サポートされた資金で新しい経験をして、それをまたみなさまに共有したいと考えています。