ガツガツ働かない時代にしたい

 久々に私の師匠の湯川れい子さんに会った。30分ぐらいだけど、いっしょにお茶を飲んで、しゃべった。湯川さんは、私が20歳のときに「うちでバイトしませんか?」といきなりハガキをくれて、それから6年半アシスタントとして働いた(詳しくは割愛)。辞めてからも、なんやかんやでつながったり、はなれたり。かれこれ38年にもなる。

 去年の秋に、私がMCをするポリタスTVに湯川さんが出てくれて、あれこれ話した。

 このときは、湯川さんのこれまでの足跡、みたいな話をした。でも、お茶しながら話すのは、いつものように私の愚痴。アハッ。私は愚痴人生なのです。たいていいつも愚痴を言う。愚痴大好き。愚痴万歳。「もう疲れた」とか、「もう、やだ」とか。愚痴ぐらい好きに言わせてよ、といつも思うの。いいじゃん、愚痴ぐらい、ね? 愚痴とか悪口とか、言うのはよくないって、いやいや、そんな、好きに言わせてよって。

 でも、そうやって愚痴愚痴していたら、湯川さんが言った。
「和田はもっとガツガツしなさいよ。欲がないのよね。もっと欲張って仕事をいっぱいしなさい。私は60代がいちばん働いた。子どもも育って、おもうぞんぶん働けたんだから」

 えええええ。60代でガツガツ? マジか? つうか、60歳って、世の中では定年退職の年じゃないの? そこからガツガツ?

 本(50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと)にも書いたけど、ここ1~2年私は、前とは違う老いを感じている。疲れる。へたる。眠い。だるい。動悸、息切れ、めまい、オンパレード。なのに、これから人生いちばん働け? ええええ? マジですか?

 しかし、湯川さん、その通りに、50代、60代、いや、70代も、いつもスケジュール帳が真っ黒だった。ひとつインタビューが1時間半とかあると、次の仕事が30分後には始まる、みたいな。その合間には原稿書いたり。休みなく、それこそ、ほんと、ガツガツ働いていたのを、私は知っている。今は88歳。

 それからずっとしばらく、その言葉が頭にあって、私はもっともっとガツガツ働かないとダメなのか?と考えていた。

 思えば、40代、50代前半、私には仕事がなかった。ないから、コンビニとかスーパーとか、いろんなところでバイトばかりしてきたコロナ禍までの人生。昔の日記を読み返したら、こんなことが書いてあった。

「私は働いてお金もらうのがいっとう好きなんだ。働いてフウフウ言って、お金もらう のが一等好きで、一等興味のあることなんだなぁと思う。だから、ほかのことはすべて 後回しなんだな。  朝、そう思った。  もっともっとたくさん働きたいなぁ~~。  仕事がほしい。。。  仕事をずっとしていたら、けっこう幸せだ。。。  合間にこぴっとテレビを見て。こぴっとお絵かきでもして。こぴっとお散歩していた ら。それがいちばん幸せなんだ。」

 こぴっと。。。って、「花子とアン」ですねw あの頃、2014年ぐらい、10年ぐらい前、仕事がぜんぜんなかったんだよね。

 そうか、仕事をずっとしていたかったのか。ふ~む。じゃ、ガツガツすべきかな? もっともっとガツガツ働いて、こぴっと散歩するぐらいで? もっともっと?

 でも、正直、今の私はそんなにガツガツしたくない。ガツガツする元気がない。ガツガツすればするほど、自分のやってることが雑になるのもわかる。もう、そろそろ、少しゆっくりとしたい。もうちょっと自分を大事にして、自分を労わりたい。ずっと私は私自身をテキトーにしてきた。だから、そろそろ、自分をよしよししたい。

 でもでも。。。今はもっともっと働くべきなの? そもそも金ないだろう?おまえ。。。って。ガツガツするもしないも、しないと暮らしていけないだろう?

 だいたいこんなこと58歳にもなって悩んでる私って何? こんなこと悩むのは20代とか、30代だろ? だからダメなんだよ、とか。あれこれ自分をののしってしまう。ああ、いつもそうなるんだけど。。。

 そして、相撲に行った(唐突)。久々に作家の星野智幸さんと2階B席で並んで座り、竜頭蛇尾、相撲ヲタトークをしまくるという、スモオタな観戦だ。ここ2年ばかし、星野さんが新聞小説に忙しくて絶えていた「ヲタ活」が復活したのだ。

 伯桜鵬vs阿武剋の一番に「これから、これ、10年続くライバル対決よね」とか二人でうっとりしたり。。。「めいせーーーーーー」って叫びあったり。とことん、やるよ、ヲタ活!

 で、その合間にスルッと星野さんに言ってみた。「れい子さんにさぁ、もっとガツガツ仕事しろって言われてさ。でも、ガツガツできないんだよね」

 すると星野さん。「湯川さんたちの時代の女性たちがガツガツ働いてくれたから、今私たちはガツガツ働かないで良くなってるって言えば?」って。

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! そうだ、そうだ、そうだ。そのとおりだ。かつて女性は男性の2倍、3倍働かないと認められなかった。働いても、結局、うっとおしがられたり。女のくせにと言われたり、オバタリアンなんて言葉もあったなぁ。

 男女雇用機会均等法という法律ができてからは、均等になるどころか、女性たちはさらに追い込まれた。働いて働いてかがやけかがやけ言われて、ズタボロになった。体も、そして尊厳も。

 でも、でも、そうやって、、、湯川さんのような人たちが(湯川さんは1960年からフリーランスだ)ガツガツと働いてくれたおかげで、今、私たち女性は、そんなにガツガツしないで済んでいる、というか、いや、ガツガツしないでいいようにしていこうと、みんながしているというか。そんなにガツガツ働くだけじゃないのがいいよねという新しい視点を持てるようになったんじゃないか。そうだ、そうだよね。そうだよ。

 ああ、私はガツガツしないで、愚痴愚痴してw やっていこう。「もう疲れたよ、パトラッシュ」とか言いながら、やっていこう。テキトーに。私たちは今、21世紀を生きてる。新しい時代に、新しい価値観を作っている。ガツガツしないでいい。いや、もちろん、ガツガツしたい人はすればいいんですよ、ええ。でも、いいや、私、ガツガツしないで、にょろにょろ生きる。そうする。今夜も、もう休もう。

 ガツガツガツガツと生きるのは、私にはできない。それで、いい。そうしたい。ここのところ不眠症がひどいから、何はともあれ心療内科に行きたい。ガツガツより、自分を大事にしたい。そして、自分のやるべきことをコツコツやる。ガツガツより、コツコツ。そうする。

 ガツガツ働いてきた女性の先輩たちに、ありがとうを言いたい。みなさんのおかげです。湯川さんから見たら、まぁ、和田はほんとに。。。と思うだろうけど、てへへ、そんななんですぅ~。

 

 


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