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諜報土地は本当にモダンを変えるのか?―モダンの特異点を見極める―

割引あり

はじめに

先週,日本・アメリカ・カナダの3か国で,地域チャンピオンシップが開催された。新弾『カルロフ邸殺人事件』のリリース直後とはいえ,開催フォーマットはモダン。新セットが果たしていかほどの影響を与えるかも注目だっただろう。

私は好きです

インパクトで言えば,やはり《ギルドパクトの力戦》は外せない。特に《ドラコの末裔》を絡めた構成は話題を呼び,大会直前も「《力線》は果たしてどの程度のものなのか」と思った人は多かったのではないだろうか。実際,アメリカでは《力戦》入り【ドメイン・カスケード】が,少ない使用者に対して高い勝率を誇った。

しかし,それ以上に多くのデッキに採用され,高いポテンシャルを発揮したカードがある。いや,カード「」というべきだろう。

諜報土地だ。

周知のとおり,諜報土地は各基本地形タイプを持つため、フェッチランドで持ってくることが可能。確定タップインのデメリットはあるものの,任意のタイミングでの諜報とあっては,「入れ得ランド」と称されるのも道理。世間的にもそうした評価は定まりつつある印象だ。

今回の地域チャンピオンシップは,『カルロフ邸』リリース直後だったにも関わらず,積極的に諜報土地を採用したデッキが試されていた。特にどの地域CSでも【カスケードクラッシュ】【リビングエンド】という2種類の続唱デッキは,目覚ましい戦果を上げた。

しかし、私はあえてここに批判的な見方を持ち込みたい。みんなが強いと言っているから,という風潮だけで判断していないか?本当に諜報土地を入れるべきなのか?
そして仮に入れるとしても,どういった構成が最適となりうるのか。リリース直後ということもあるが,まだ十分に検討がされていないと感じた。

そこで本記事では,日本・アメリカ・カナダで同時期に行われた地域CSから,【カスケードクラッシュ】【リビングエンド】の全リストをデータ化し,諜報土地の採用枚数細部の構成を纏めた。諜報土地の行方はもちろん,それら諜報土地を活かすための細部の構築について,詳しく見ていこうと思う。

諜報土地はモダンの特異点になりうるか。
その変化を見極める材料として,本記事がその一端となれば幸いです。

無料部分では,【カスケードクラッシュ】【リビングエンド】における諜報土地について,全容を記載しております。有料部分では,デッキリストのデータを取った中で特に気になったと感じた以下の2点について,軽く論じています。

①国別に見た【カスケードクラッシュ】における《宝石の洞窟》の採用枚数

②【リビングエンド】の黒マナ土地について

いずれも,諜報土地の詳細を論じる本記事の主テーマとは外れた,おまけ程度のものです。が,これらのトピックも十分に興味深いものであったので,興味のある方はぜひ購入くださると,次回以降の記事の励みになります。どうぞよろしくお願いいたします。

以前にも,データでMTGを論じる記事を書いております。合わせてご覧くださり,ご購入の判断などになれば幸いです。

諜報土地の性質

なぜ私が諜報土地の有用性について,あえて慎重な姿勢になっているか。それは,この諜報土地が,これまでモダンを変えた様々なカード達とやや異なる性質を持っていると考えたからだ。

諜報土地の大きな特徴は,次の2点。

①あまりにも無理なく採用できる

モダンを変えた,が

先述の通り,フェッチランドと併用する都合,既存の多くのデッキが,「何かの土地を1枚程度差し替えるだけ」で運用できる。《オークの弓使い》や《一つの指輪》といったモダンを変えたクレイジーなカードも,さすがに「フェッチランドが採用されるデッキ全部に入る」とはならない。そもそも土地とスペルでは比べる質の違うカードである。

革新的なようで,自ら構築を縛っている

似た役割として,各種トライオームを思い浮かべてもらえればいい。これらによって《不屈の独創力》《力戦の束縛》は大きく価値を増したし,多色化も進んだ。だがそういったデッキの多くは,別の制約が付きまとう(山タイプ以外不可,逆に色を絞れない)。結局はいかなるデッキで何も考えずに採用できる土地,とまではいかなかったはずだ。

その点で,諜報土地は既存のデッキにあまりに無理なく採用できる。その一点だけでも,非常に魅力的だろう。

②今までにない,事故防止性能

多くの人が,道を外した

真新しいものや,不可能を可能にしてくれるものは,誰にとっても魅力的だ。《ギルドパクトの力戦》+2ターン目《ドラコの末裔》は一度決めたらやみつき。ひとつ前の地域CSで話題になった【象発見コンボ】 【地質鑑定士コンボ】のようなデッキは,多くの人を虜にし,狂わせた

諜報土地は対照的だ。《力戦》や《クイントリウス・カンド》のように「最大値が凄まじい」ではなく,「下振れを防いでくれる」性質といえる。誰だって事故を起こさずゲームをしたいものである。プロスペクト理論というものを聞いたことがあるだろう。人間は基本的に,利益を取るためにとるリスクよりも,損失を被るリスクを大きく見積もる習性がある。デッキ内に任意のタイミングで使える事故防止機能が備わるなら,ぜひとも実装したいところだ。

以上の2点。これだけ聞くと入れない方がおかしいとさえ思う。

だからこそ…

ではここで、諜報土地のデメリットを考えてみたい。

言うまでもなく、ほぼ唯一にして最大のデメリットは、確定タップインであることだ。先に挙げた上記2点があまりにもローリスク・ハイリターンであるため,このデメリットが過小評価されている可能性はないだろうか?私の感覚では,1枚は良い。だが,それ以上はゲームの敗着にもつながりかねないのではと考えている。

というわけで,ここからはデータの出番だ。どれだけ仮説を立てたり,それに対して反駁を試みても,結局は実践と結果でそれらの仮説を確認することが重要なのだから。

今回のデータについて

今回使用するのは,日本・カナダ・アメリカの地域チャンピオンシップで使用された,【カスケードクラッシュ】と【リビングエンド】の全デッキリストと戦績だ。

どの大会でも,何を以て「成功デッキ」を定義するかの基準はどこか曖昧だ。ただ今回は,地域チャンピオンシップと銘打っている以上,「プロツアーの権利獲得」を一つ重要な基準と位置付けてもよさそうである。

さて,各国の地域チャンピオンシップは,参加人数・ラウンド数・プロツアーの権利ラインがすべて異なる。以下の表にまとめた。

プロツアー参加権利の獲得ラインを勝率ベースのみで考えると,カナダが最も過酷で,アメリカが最も緩い(もちろん,だからと言ってアメリカが楽とは思わない。ハイレベルなトーナメントである以上,+1ラウンドだけでも選手にとっては相当な負担だろう)。一概にプロツアーラインのみで分類すると,微妙に差が生じる。基準を揃えたいところだ。

ということで今回は,アメリカの地域チャンピオンシップでのプロツアー権利ラインの勝率(約72%)を参考に,日本・カナダにおいても同じ勝率での「プロツアー権利ライン」を設定し,そこで「成功デッキ」の線引きとした。(厳密には,上位入賞者が権利持ちの場合の繰り下がりもありうるが,本旨ではないので割愛)

日本のアーキタイプごと勝率

mtgmeleeのアーキタイプごとの勝率は,もちろんある程度参考になる。だが,勝敗数とそこから出される勝率は,真の勝率は少し異なる面がある。

例えば,日本は目無しになった場合,ドロップを選択する人が比較的多いが,アメリカは続ける人もそれなりにいる。そうなると,使用者の多いアーキタイプ程,mtgmelee上の勝率は落ちやすい。非常に言い方は悪いが,「勝率ベースだと,足を引っ張る人も増える」ためだ。

概観こんな感じ

そのため,本記事では先ほどの「PT権利ライン」,そして「初日は抜けた」「初日落ち」の3グループに分け,その中での構築の差異を見ていくことにした。勝ったリストから学べる事は確かに多いが,同じぐらい負けた側のリストもできるだけ検討することで,「何が良くて,何がダメか」を確認していこう。

【カスケードクラッシュ】の場合

基本データ

便利だったのに

最初に問題提起したとはいえ,【カスケード・クラッシュ】に諜報土地が採用される流れは,最初から容易に想像できる。なぜなら既存の【カスケード・クラッシュ】の多くには《ケトリアのトライオーム》が採用されていたからだ。

今更蛇足だろうが,【カスケード・クラッシュ】は続唱デッキのため,1~2マナ域のカードは基本的に採用できない。特に1ターン目はアクションもあまりないため,タップインで済ませても良いと考えやすい。その点,同じタップインなら流石に《トライオーム》よりは諜報土地の方が良いと考えるのは,全く無理がないだろう。

そんなわけで,大方採用されていると予想がつくわけだが,ひとまず今大会で枚数を問わず諜報土地を採用した型(以下,【諜報型】)と,従来のトライオームを採用した型(以下,【トライオーム型】)を集計した。実際のデータで見るのが一番だ。

日本・アメリカ・カナダの3つで【カスケードクラッシュ】の使用者は計363名。
諜報型:318名
トライオーム型:45名

これを,3つの戦績区分(PT権利ライン・初日は抜けた・初日落ち)ごとの分で見てみよう。

圧倒的ッ…

これだけでもう結論は出ただろう。諜報土地を採用した形は16名がPT権利ラインに達したにもかかわらず,トライオーム型は0人。こんなにも分かりやすく,非情な結果があるだろうか。初日抜けの戦績などを比較しても差は明らかで,圧倒的である。諜報土地は入れ得,以上!

厳密には,《トライオーム》+諜報土地の構成は【トライオーム型】に分類したので,「《トライオーム》を入れた人がみんな負け組」と言ったほうが正確だが,少なくとも諜報土地とトライオームのどちらが優れているかについては,異論の余地はなさそうだ。

とはいえ,せっかくなのでもう少し詳細まで見ていこう。まずは諜報土地の枚数から。

諜報土地の枚数(戦績別)

あくまで傾向だが,戦績が良いグループになればなるほど,複数枚採用していることがおわかりだろうか?PT権利ラインに至っては,1枚のみは0人。これではただの入れ得ランドであり、複数取り得ランドである。組み合わせもチェックしてみよう。

諜報土地の組み合わせ表

諜報土地自体は,合計2枚が最多。基本的には《迷路庭園》《轟音の滝》を1枚ずつ採用。3枚目を取る人は《商業地区》を入れる形がほとんどだった。これは,《ロリアンの発見》の島サイクリングに対応しているかどうかが大きいだろう。

スペルの工夫

さて,ここまでは諜報土地の採用枚数のみで,戦績に差が生じているかを見てきた。しかしここで待ってほしい,先に述べたように,諜報土地のデメリットであるタップインのリスクはどうなのか。これはひとえに唱えるスペルによって影響の有無が分かれる。

強いが…

例えば,こういった初手を想像してみてほしい。特段文句はない初手だ。だがこれで1ターン目に諜報土地を置くと,《足音》の待機ができなくなる。《足音》の待機のずれがゲームに影響するかどうかはマッチアップによるが,8点トランプル打点が1ターン早く出るかどうかは,無視するには少し危ない要素だ。かといって,2ターン目の《火/氷》を諦めてタップインを消化するのも,微妙なところだろう。

これ自体は《トライオーム》でも起こる結果は同じであり,むしろ3枚目の土地を探せるだけよいと言える。だが,「3ターン目の続唱は安定するが,やや序盤が手薄になる懸念」はあるかもしれない。そして諜報土地が複数入れれば,その分素引きの確率も上がるはずだ。

名誉1マナ枠(全員詐欺)

【カスケードクラッシュ】における1マナのアクションは,《衝撃の足音》の待機,《ロリアン》のサイクリング,《神秘の論争》《死亡》《四肢切断》の5つ。この内《足音》の待機と《ロリアン》は能動的、後の3つは相手へのリアクションカードだ。

できるだけ《ラガバン》《ダウスィーの虚空歩き》は即座に処理したいし,【カスケードクラッシュ】にとって,相手の先手2ターン目《帳簿裂き》を《神秘の論争》でカウンターできるかは,少なからずゲームへの影響がありそうである。諜報土地を素引きすることで発生するラグのリスクは,どのように考えるべきだろうか。

先に挙げたリアクションスペルである《四肢切断》《死亡/退場》《神秘の論争》の3種類について,メインボードでの採用枚数を見てみよう。

諜報土地採用者の1マナスペル枠(メイン)

大まかな傾向はどれも同じと言えるだろう。強いてい言えば,上位グループになればなるほど,「抜かりなく《四肢切断》は1枚入れる」「《死亡/退場》もしっかり3枚取る」を徹底する傾向は読みとれる。下位に行くにつれて,その意識がやや甘くなるといった印象だ。

(余談だが,こういった枚数の分布を取ると,上位になればなるほど,採用枚数で遊びの部分は減り,収束・洗練されていることがよく分かる。《神秘の論争》の枚数などはそれが顕著)

諜報土地のラグを巻き返すためにも,1マナ換算のスペルは6枚程度取られている。先ほどは,タップインのもたつきを懸念していたが,リアクションスペルであれば,相手が最高速度でブン回らない限り,3ターン目の続唱から巻き返せるという判断だろう。さらに言えば,《緻密》《否定の力》によって,そもそもラグを発生させない妨害も可能だ。

《帳簿裂き》への回答がやや薄いが,そもそも【イゼットマークタイド】がメタゲーム的には下火である以上,些細なリスクということかもしれない。


【リビングエンド】の場合

基本データ

次は【リビングエンド】を見ていこう。と思ったが…

日本の地域CSにて【リビングエンド】で見事優勝された井川良彦氏より,調整レポートが公開された。諜報土地についても語ってくれており,上記の記事でも十分ではあると思う。よって本記事では,彼の主張を補強するデータや,記事内では触れられていない点を中心に見ていくことにする。

【リビングエンド】は1ターン目から各種サイクリングクリーチャーを墓地に送りたいため,もちろん従来の構成に《トライオーム》が入っていたりはしなかった。序盤の能動的なアクションが少ない【カスケードクラッシュ】とは勝手が違う点もあるかもしれない。

日本・アメリカ・カナダの3つで【リビングエンド】の使用者は計113名。

諜報土地0枚:47名
諜報土地1枚:26名
諜報土地2枚:21名
諜報土地3枚:9名

先ほどと同様,3つの戦績区分(PT権利ライン・初日は抜けた・初日落ち)ごとの分布で見てみよう。

【カスケードクラッシュ】程,明確な差はない。PT権利ラインで見ても,0枚が5人,2枚以上が6人とほぼ同数だ。ただし,諜報土地が多い群ほど,全体の戦績は上がっている。特に初日落ちグループの中において,0~1枚と2~3枚との間には大きな差がある。

また【リビングエンド】全112名中,諜報土地0枚が47名と約半数であることからも,そもそも【リビングエンド】に諜報土地を入れるという発想・選択肢がなかったプレイヤーがそれなりにいた,とは言えそうである。

1マナサイクリング生物

ここで,先ほど述べた1マナサイクリング生物との兼ね合いも見ておこう。タップイン土地を入れる都合,1マナ域は減らしたいと思うが果たして。

数字がない部分は0人です
ちなみに,1人だけの10枚はcftsoc。意味不明

やや見にくいが,大まかな傾向としてやはり「諜報土地が多い構成ほど,1マナサイクリング生物の枚数を抑えている人の割合が多い」ことが分かる。

総クリーチャー数

【リビングエンド】が諜報土地を置いた場合,最も理想とする展開は何だろうか?

答えは簡単。「トップがクリーチャーで,それを諜報で直接墓地に送る」だ。単にサイクリング一回分を省略するだけでなく,それが結果的に3枚目の土地や続唱スペルのドローに近づけてくれる。サイクリングのマナのために,わざわざギルドランドをショックインする必要もなくなる。

トップに見えてそのままにしたいのは,《悲嘆》とサイド後の《忍耐》《基盤砕き》ぐらいだろう。それらですら落としてOKな展開はありうる。

となれば,デッキ全体のクリーチャーの総枚数は,チェックしておきたい。

総クリーチャー数

いずれの形も,最頻値は33枚。これは戦績区分に依らないが,諜報土地が増えるにつれて,0~1枚クリーチャーを削る傾向がみられる程度。元々,デッキ全体の33枚程度がクリーチャーなため,諜報は50%以上の確率でクリーチャーを墓地に落とせることになる。

《波起こし》の力

名誉サイクリング枠

サイクリング生物の中で,《波起こし》だけは2マナであるため,やや扱いが異なる。こちらも別途見てみよう。

《波起こし》の枚数

分かりやすく,諜報土地を多く取るプレイヤーは《波起こし》を4枚投入している傾向が大。諜報土地を投入する→タップインのラグをうまく受けられる《波起こし》は4枚→その分,全体の総クリーチャー数は少し削ってもOK,という流れだろうか。

正直,減ると思わなかった

ちなみに,枚数を削られた1マナサイクリングクリーチャーの筆頭は《意志切るもの》であった。《悲嘆》《緻密》のコストとして色が優秀なカードだが,パワーが3ということもあり,出力不足と判断されたのだろう。

《意志切るもの》+1枚サイクリングと,《波起こし》+諜報土地の墓地送り,の2者で比べると分かりやすい。後者の方が打点が高いことが多いだろう。対面によっては,諜報土地+《波起こし》でキープして《死せる生》を決めれば,それだけで十分な打点になることも多いだろう。デッキの安定感を高めている。

ひとまずの結論

少なくとも,続唱デッキでは入れ得。それも複数枚だ。
【カスケードクラッシュ】【リビングエンド】とも,元々ピッチコストで唱えられるカードが多く,諜報土地のタップインのリスクをうまく受けられるような構成を有していた。その点が大きかっただろう。

ただしそれに加えて,細部の枚数を調整すること(序盤の妨害札をしっかりとる,《波起こし》を増やす)ことも欠かしてはいけない。ピッチ以外にも,序盤の攻防を受けたり,何かで巻き返す手段を有しておきたいところだ。
今後は,諜報土地の強さとデメリットを受けとめられる構成や構築ができるかどうかで,モダン環境を生き残れるかの明暗が分かれるのだろうか。今後のリストの変遷が楽しみである。

モダンの諜報戦は,まだ始まったばかりだ。

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