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新聞元旦号にChatGPTの記事はなかった~今さら新聞各紙元旦号読み比べまとめ2023 Part2 【2023.6.11】

2023年上半期の今、世界中のメディアを席巻した話題といえば、人工知能(AI)による対話型サービス「ChatGPT(チャットジーピーティー)」だ。だが、ほぼ半年前の各紙の元日号を振り返ってみると、その記事は見当たらない。

念のため、各紙サイトでキーワード検索をして、初出を調べてみた(一番古い掲載記事。正しいとは限らないが、ご容赦願いたい)。

朝日:2022年12月22日  論壇時評での紹介…清水亮氏「チャットできる生成AI、ChatGPTが「そこまですごくない」理由。見えてしまった限界」(ビジネスインサイダージャパン 2022年12月8日)
読売:2023年2月1日 「AIの交響曲実験  芸術は人間だけの産物か?」
毎日:2022年12月14日   「坂村健の目 すべてを委ねるのか 対話AIの先にある怖さ」
日経:2022年12月13日  「無料で試せる対話AI登場 海外技術情報が重要な理由」
東京:2022年12月22日  <米重克洋 デジタルジャーナリズム研究>「ライターの仕事」と「検索エンジン」は消滅か ChatGPTの衝撃

列挙してみると、22年12月から23年2月にかけ、まずは海外での衝撃ぶりを伝えたコラムが起点になっているケースが多い。ChatGPTが、アメリカのOpenAIからリリースされたのが2022年11月。その1ヵ月後からニュースとして発信され始めたことになる。

新聞各社が新年号の製作に取りかかるのは、だいたい前年11月頃からなので、ChatGPTは残念ながら間に合わなかったのだろう。

私の調べた限り、生成AIについて書かれた新年号の記事は、日経の第二部:文化・スポーツ「AIアート 脅威か共創か 高まる精度、可能性広がる」だけだった。それについてご紹介したい。

記事は、2022年8月に米国コロラド州のアートイベントで、画像生成AIサービスの描いた一枚の幻想的な作品が優勝したことから始まる。「作者」はAIで描いたことを隠して応募。そして、イベント主催者側はそのことを見抜けなかった。作品の精細さが、衝撃を与えた。

その絵のタイトルは『Theatre D'opera Spatial』。舞台奥から客席側をのぞき見るような構図で、画面中央に大きく広がる円形の窓から差し込む光の中で、オペラが上演されている様子を描いたものだ。野外劇場のようでいて、屋根があるようにも見え、見たことのない劇場である。中世風の衣装を着たオペラ歌手たちの表情は逆光で見えない。

白昼夢のように不思議な絵である。斬新な構図、あり得ない劇場、それなのに古典主義的な技法が用いられていて、どこか懐かしい印象を受ける。画像生成AIとは、既知と未知のあわいを描くものなのかもしれない。記事の中で、現代アーティストの岸裕真氏は、「AIは単なるツールではなく、別次元の知的生命体」と語っている。

続いて、豊かな可能性への期待と共に、AIのモデルをつくるための大量の画像やテキストが許諾を得ないまま、「教師データ」として使われており、法整備が追いついていない現状を紹介。鏡としてのAIによって、人間とは、芸術とは何か、本質を問われる時代が到来し、「今後新たな芸術を生み出す糸口にもなる」と結んでいる。

生成AIに対する捉え方が、悲観よりも楽観の成分が多めの記事だ。2021/07/09 今頃、新聞各紙元旦号読み比べまとめ でも書いたように、20年の元旦号でも、「猫もしゃくしも「AI」を取り上げ、未来を志向した明るい新春記事が躍った」。元旦号は迎春ムードにあふれるからだと思う。

しかし、半年経ってみると、教育や行政、就活での実利的な活用法やガイドラインに焦点が移っている。衝撃的デビュー時の少々ロマンチックな記事を読むと、隔世の感がある。24年の元旦号に生成AIはどのように取り上げられるのだろうか? もしくは、もっと違うデジタル新技術が登場するのだろうか?

*すてきな画像は、みんなのフォトギャラリーからdaisaw33さんの作品をお借りしました。ありがとうございました。


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