最近のエンタメSFと最近のニンジャスレイヤー、ならびにちょっと手を出してみるときの中間目標について

先日見かけた、古橋秀之の手によるSF短編集『百万光年のちょっと先』のプロモツイートが下記です。横浜駅SF・百万光年のちょっと先・ニンジャスレイヤーが同時に言及されており、写真も壮観ですね。

『テスタメントシュピーゲル』や『天冥の標』といった傑作シリーズがクライマックスを迎える一方で、web小説発の『ソード・アート・オンライン』や『ニンジャスレイヤー』や『横浜駅SF』や『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』が人気を博し、その他『コップクラフト』・『明日の狩りの詞の』・『最初にして最後のアイドル』などなど、ここ数年のプロパーなSFとライトノベルとのあわいにおける有力作品の充実は目を見張るものがあります。

異世界ファンタジーが爛熟を迎える一方でSFエンタメも元気って光景は、富士見ファンタジアが黄金期を迎える一方で電撃文庫が台頭し徳間デュアル文庫登場していた90年代末~00年ごろに見かけたものとよく似ていますね。

そんななか、いまをときめくweb発の小説である横浜駅SFとニンジャスレイヤーとの間に挟まれて、同系統のひとまわり上の世代である古橋先生の久々の新刊が矢吹健太朗イラストで書籍化されてるのを見るのは、ファンとしてはとても嬉しく思います。

古橋先生の相棒であるところの秋山先生の未完の傑作『E.G.コンバット』にも、今度こそほんとに完結編が出るのではないかみたいな噂もありましたが、現実になってくれると良いですね。そしたらその勢いのまま『タツモリ家の食卓』も完結したら言うことありません。


さて、現実に刊行されている作品のなかだと自分は『ニンジャスレイヤー』がたいへん好きなんですが、『ニンジャスレイヤー』もなんだかんだで7年以上連載しています。

近年のSFエンタメの充実の中、ここ最近の『ニンジャスレイヤー』がどんな感じなのかと言いますと、まず16年8月に第三部が完結しました。

ソウカイ・シンジケートとザイバツ・シャドーギルドを滅ぼしたニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジのあらたな敵となったのが、暗黒管理社会を目指す陰謀秘密結社アマクダリ・セクトでした。病魔のように社会を蝕んだアマクダリとの戦いを通じて、都市に生きる人びとのパワー革命とは違う形で描かれました。ゆっくりと崩壊していくネオサイタマの日常を描いた第三部が、平成という時代の終わりが見えた頃に完結したことには、なんらかの相通ずる感慨がありましたね。また、カスミガセキ・ジグラット上でのアマクダリ・アクシスと新ザイバツとの激突は、ニンジャスレイヤーにおける多対多戦闘描写の集大成だったと思います。

その後、引き続きtwitterでの連載がスタートしたニンジャスレイヤー第四部は、第三部から10年後、ネオサイタマの技術の海外流出とまったく新しいエネルギー資源の発見によって発展を遂げた世界各地の異形の都市が舞台。変貌してしまった世界を巡りながら、謎めいた邪悪存在”サツガイ”を追って探索と復讐の戦いを続ける2代目ニンジャスレイヤーを主人公として、洋ドラっぽいサスペンスフルなドラマが展開されるのが第四部です。変貌してしまった世界を描くという点では『ベルセルク』の現シリーズに近いものがあるでしょうか。

また、それと同時期にニンジャスレイヤー翻訳チームによるオンラインパルプマガジン”ダイハードテイルズ”(→https://diehardtales.com/)もスタートしています。ダイハードテイルズでは、翻訳チームの携わる様々な作品のプロモートや月報とともに、コアなファン向けの記事として忍殺世界における世界設定を取り上げるコラムや、人気サブキャラクターを主人公にした様々なスピンオフ中編が連載されています。予想外の方向から飛んでくる多様なエピソードと、それによって浮かび上がってくる作品世界はニンジャスレイヤーという作品の特徴的な美点であり、更新頻度の高さと翻訳チームに直接お金を投入できる点からしても月額490円は誠にコストパフォーマンスの高い買い物になっていると思います。近作だと「ドラゴンドージョー・リライズ」や「クルセイド・ワラキア」における、悠久の眠りから目覚めた末に現代のSNSに過適応するリアルニンジャ(ニンジャソウル憑依現象によらずにニンジャとなった古の真祖ニンジャ)たちの姿など非常に印象に残りました。


ことほどさように、ニンジャスレイヤーは今なお様々な新しさと様々な達成を抱えています。しかしながら、いかにめちゃくちゃ面白い名作であろうと、これまで未読の人が気軽に読み始めるには少々長いですよね。

ジョジョだってキン肉マンだっていまなお時代の最前線を行く面白さですけど、だからって気軽に突撃できるかっていうとなかなかむつかしい。

なので、何かしら中間目標を持って読み始めると良いと思います。まるまる全部読まないでもある程度まで作品を理解できて、面白ければそのまま読み進んでもいいし、not for meと思われたのであればそこで引き返してもいいキリのいい地点。

たとえばニンジャスレイヤーは各部の独立性が比較的高いので第一部~第四部のどれかだけ読んでみるというのも良いでしょう。そしてあるいは、各部だけ読むよりもさらに少ないエピソード数で、作品に対するある程度のパースペクティブを得ることが出来る方法として提案してみたいのが、「サツバツ・ナイト・バイ・ナイト」と関連エピソードだけ読んでみるというやり方です。

「サツバツ・ナイト・バイ・ナイト」というエピソードは、「サプライズド・ドージョー」と「ラスト・ガール・スタンディング」という二つの名篇で生まれたサブプロットが交差・激突する屈指の人気エピソードであり、関連エピソードを集めると単行本1冊程度の分量で、第1部~第3部を横断して語られるひとつながりの物語を読むことができます。

ニンジャスレイヤーに興味があるけど全部読んでられるかはちょっと自信がないあなた、そんなときは次の6エピソードをとりあえずの中間目標としてみると良いかもしれません。

「ラスト・ガール・スタンディング」

      

ニンジャとして覚醒した女子高生ヤモト・コキと、彼女に迫るソウカイ・シンジケートを描く正調学園伝奇。とっつきやすくて人気キャラも多数登場するため、最初の1作としてオススメされる機会も多いエピソードです。

「ネオヤクザ・フォー・セル」


「サプライズド・ドージョー」のプロローグ的なエピソードですが、ニンジャスレイヤーという作品の中でも屈指のアイデアであるクローンヤクザという存在と、ネオサイタマ経済を牛耳るソウカイ・シンジケートの首領ラオモト・カン/暗黒メガコーポ筆頭ヨロシサン製薬/ラオモト配下のニンジャの関係がわかりやすく描かれています。

「サプライズド・ドージョー」

     

ソウカイ・シンジケートのエリート戦士団シックスゲイツ所属のニンジャの壮絶な戦いぶりと、ニンジャスレイヤーとその師ドラゴン・ゲンドーソーとの絆を描く、アクション重視の回です。

「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」

    

ソウカイ・シンジケートに追われるヤモト・コキは、病により余命いくばくもないフリーランス・ニンジャのシルバーカラスのもとに転がり込み、はじめて本格的なインストラクションを受けることに。ニンジャスレイヤーの登場しない番外編的エピソードです。

「ウェイティング・フォー・マイ・ニンジャ」

    

ネオカブキチョのニチョーム・ストリートにあるバー”絵馴染”に身を落ち着かせたヤモト・コキは、バーの主人ザクロとともに連続殺人事件を追うことに。ところがそのころ、キョート共和国でザイバツ・シャドーギルドとことを構えていたニンジャスレイヤーが一時帰国、それを追うザイバツのニンジャともども、ニチョーム・ストリートに姿をあらわすのでした。

「サツバツ・ナイト・バイ・ナイト」

        

ラオモト・カンの遺児ラオモト・チバを旗印に、ザイバツ崩壊後に瞬く間に勢力を伸長させた秘密結社アマクダリ・セクトは、ニチョーム・ストリートにもその手を伸ばします。ヤモト・コキと旧ソウカイ系アマクダリニンジャとのそれぞれの過去と未来、そしてそこに割り込むニンジャスレイヤーのインパクトある姿と凄まじいカラテが描かれる傑作回です。


ここまで読んでみれば、作品の特性についてある程度まで理解が及ぶと思いますので、合わなそうであればそこで止めるのもよし、合いそうであれば忍殺wiki(→http://wikiwiki.jp/njslyr/)でエピソード掲載順をしらべるなり、僕とかにおすすめを聞いてみるなり、書籍を購入してみるなりしてずんずん読んでいくとよいでしょう。


世の中には面白いものが満ちていて、直近ですと徳の高い王を描くインド映画『バーフバリ 王の帰還』とか女子高生たちが南極に行くテレビアニメ『宇宙よりも遠い場所』とかめちゃくちゃ面白くて、なかなか世の中のすべての面白そうなものに手を伸ばすことは難しいですが、『ニンジャスレイヤー』は現在進行形の面白いシリーズであり今後またいろんな展開があろうと思います。連作短編形式で手を出しやすい作品でもあると思いますので、縁や興味があった人はぜひ読んでみてください。以上!

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hatikaduki

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