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刃物専門編集者の憂鬱 番外編 刃物じゃない本を編集しました、というお話。

『日本の警察』と『ブルーインパルスと航空自衛隊』という本です

 刃物専門編集者という肩書きは造語である。
 フリーランスになった際に、自身の特徴をわかりやすく紹介したいと思って、つくったものだ。
 で、刃物専門編集者の服部です、とInstagramに投稿したら、尊敬する古川四郎さんが面白いね、と言ってくれたので、ですよねと嬉しくなって使い続けている次第である。
 実際にフリー編集者として、ここまで刃物関係の本を数多く手掛けさせていただいてきている。
 が、今回は、刃物とは違う本を編集させていただいた。

 警察の本と、ブルーインパルスの本である。

 どちらも、実は「昔取った杵柄」で作ったものである。

 会社員時代、僕はミリタリー雑誌の編集長も拝命していた。
 思想的にはわりかしリベラルな(だと思う)僕が、この本に関わるに至った経緯は、書き出すと愚痴と言い訳をメインに最低100万字は必要なので割愛するが、一言で言えば、社命である。

 やってくれと頼まれて、やりますと返事したわけである。

 決めたんだったら、一所懸命やるしかない。

 だが、知識皆無で専門誌に飛び込むのは、なかなかにしんどいものである。
 若い頃ならいざ知らず、アラフォーだったから、元から少ない脳内メモリがすでにガラクタの如き無駄な知識でいっぱいになっている。
 あれだろ、増設とかできるんだろ、ほら、アップデートとかいうの、できるんだろ? とGoogleで仕入れた薄っぺらい情報で、なんかいい具合にしようしても、そもそも本体のバージョンが古すぎて諸サービスが終了している。
 今だから正直に言うが、プロパーの人たちもまるで頼りにならない。

 厳しい、厳しい闘いだった。

 ここで、ベテランライターやカメラマンたちにも冷たくされた、意地悪されたと書くと、倍返しに向けてひと盛り上がりするのだが、幸か不幸か、そんなことはまるでなかった。

 むしろ、親切だった、すごく。

 考えてみれば、当たり前の話である。
 フリーランスにとって、出版社側の人間に意味なく楯突くメリットはない。

 そんな前提があったとしても、とにかく、竹を割ったように気持ちのいい人ばかりだった。
 何もわからぬ、でもわかりたいし、面白くもしたい、と伝えると、誰もがアイデアを出してきて、それがどう面白いのか、どういった層に響くのか、を教えてくれた。
 みなさんも薄々気付いていると思うけど、部数がめっちゃ落ちていたところの立て直しである。
 あ俺なんねその係、というなんとも複雑な気分(勤め人ならわかっていただけると思う)を奥底に抱きつつ、とにかく、そのポストを何年か続けることができたのは、ひとえに常に前向きに”面白いこと”を考えてくれた人たちのおかげだった。

 そんな制作チームの中で、ひときわ信頼している人たちがいた。

 彼らの共通点は、自身を俯瞰して見る視点を持っていることだった。
 いずれも、その言葉、行動の端々から”好き”が、滲み出てくる。
 だが、それだけじゃなく、一方で、一般の人たちからどう見られるかを、クールかつかなり正確に捉えている。

 彼らの”好き”は、政治からファッションに至るまで世の中とリンクした上で構成されているので、客観視できている。
 だから、マニアはもとより、僕のようなシロートでも会話が成立するのだ。

 雑誌とはすなわち同人誌である、というコンセプトで編集をしていた僕にとって、客観と主観のバランスがとれた彼らは、間口を広げるために、欠かせない存在だった。
 実際、いろいろな企画をお願いしていた、と思う。

 前置きがめちゃくちゃ長くなった。

 ミリタリー誌編集長時代からひときわ信頼していた方。
 そのひとりが、今回の本づくりのいずれでもメインの文と写真を担当した菊池雅之さんである。

「ねえ、菊池さん」
「はいなんでしょう」
「これ、なんでこうなっているんですか?」
「それはですね…」

 初めてお会いしてからこのやりとりを何度したことだろう。
 「これ」の中身は、自衛隊、警察、世界の軍事情勢…、とにかくミリタリーと言われるもの一式。
 わからないところがわからない人特有の「あれはなんだ」「これはなんだ」と脈略のない質問を連発しても、嫌な顔をせずに一つずつ答えてくれるのが、菊池さんだった。

「今回の事件ってSAT出ています?」
「ええ、**県警の部隊が出動しています」
「あ、そこなんですか」
「そうなんですよ、なんでかって言いますとね…」

 ディテールを聞いただけなのに、いつしか全貌が見えてくるような会話。
 子どもの頃、質問に答えてくれる上に、そこからさらに先の世界を教えてくれる大人に会ったこと、みなさんもあるでしょう。
 あんな感じで、会話が続くのである。
 面白くって、しょうがない。

 この”楽しさ”を僕だけに留めておくのは、あまりにも勿体ない。
 僕も一応、編集者の端くれである。
 フリーランスになって、菊池さんに執筆していただいて本をつくった。

『知っているようで、知らなかった 自衛隊の今がわかる本』


 自衛隊全般について、総覧できるような読み物である。
 発行から時間がある程度経ったから、最新情報も変化してはいるが、それを差し引いても、今なお名著だと思う。

 ちゃんと、売れた。
 出版社の担当編集者がブッキングしたトークショーも盛況だった。
 でも、これだけではない、という思いがずーっと残っていた。
 今回の本の話が来た時に、改めて、そのことに気づかされた。

 それぞれの本を僕が編集することとなった経緯は(まあまあ複雑なのが)あるし、関わった方々(みなさん魅力的だった)とのエピソードもたくさんある。

 だが、僕にとっては、いずれの本も、自衛隊だけじゃなく、警察だって、ブルーインパルスだって「やっぱ、菊池さんに、教えてもらいたい!」という思いから始めたお仕事である。

 誰が手にとってもわかりやすく、が大前提。
 そして、一番、大事なこと。

「その先」に興味を持ってもらえるような余白をつくること。

 今回のようにマニアに限定せず、比較的広範囲の方々に向けた本の話にはなるが、一冊で完結させる書籍やムックと呼ばれるジャンルの本は、雑誌とは異なり、詳細に至るまで語り尽くすことは難しい。というか、やらない方がいい。
 同人誌的な要素は幾分か薄める必要がある。
 でも、その語り尽くしていない”何か”の存在を読者に意識していただけるような”しるし”を要所に置く。
 僕が幾分か気を使ったのは、そこらへんの匙加減くらいで、あとは、菊池さんをはじめとする方々の原稿や写真が導くままにページを組んでいっただけである。

 人を守るために人が人を殺めることは正義なのか。
 その命題については、多分、人類はこれからも議論を重ね続けるのだと思う。
 そして、少なくとも僕には、その答えは出ていない。

「でもハットリさん、やっぱりね、知ってもらうってことが、大事なんじゃないかなって、俺は思うんですよ」

 最後の判断は、それぞれが決めること。
 そう言って、菊池さんは、いつも余白を残す。
 彼には、その問いをはじめとする事象に対して、明快な言葉が用意されている。
 もしかしたら、答えも持っているかもしれない。
 だが、どれだけ、文章で何千字に渡って論を展開しても、彼は、最後に、あとはあなたが考える番です、という「決して明文化されない一文」を、必ず添える。

 それを優しさと取るか、厳しさと取るか、それもまた、手に取る人々が決めることだろう。

 ただ、僕は、そんな彼がいたから、あの暗い色調だった日々を過ごしていく中で、見えるようになったものが、確かにある、と思っている。

 ぜひ、お手に取ってみてください。

『日本の警察』

『ブルーインパルスと航空自衛隊』


追伸

僕にはぜひとも実現したい企画がある。
菊池雅之さんと僕が、少年時代を過ごした「昭和」のモノや人、事象を懐かしみつつ、色褪せない魅力や改めて見直し、良きところを交互に紹介する「昭和大好きかるた」というエッセイである。

下敷きとしているのは、若かりし頃の村上春樹と糸井重里が書いた夢で会いましょう

絶対面白いと思うんだよなー。
実現させましょうね、菊池さん!

「夢中になったバンドって何か、せーので言い合いましょうよ」
「いいすね、じゃあ、せーの」
「BOOWY !!」「TM NETWORK !!」
「わかるわー」「わかるわー」
「もう一回、せーの」
「TOMCAT !!」「REBECCA !!」
「わかるわー」「わかるわー」
 これだけで、30分は軽く過ぎていきます。


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