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空間と体験を繋げるAR Cloud|たどり着く先は地球規模のデジタル化

2017年9月に行われたAR業界の二人の巨匠Ori Inbar氏Matt Miesnieks氏の会話から生まれた単語『AR Cloud』

リアルの上に積み重ねられたデジタルの価値を記録する技術であり、AR本来の価値を引き出すために必要な技術です。次世代のデジタルプラットフォームとして期待されている技術ではありますが、同時にまだまだ多くの課題を抱える技術です。

今ARCloudに注目が集まっている背景にある事実が「今僕らが知っているARはARの本当の姿ではない」ということ。

今回は『AR Cloudとは何か』そして『AR Cloudが可能にするAR』について探っていきます。

Matt Miesnieks氏のプレゼンより

6d.aiのCEO、Matt Miesnieks氏は昨年のAWEのプレゼンの冒頭でこう語っています。

AR is natively experiential and sensory. 

Miesnieks氏が思い描く本当のARの形とは、ただスマートフォンをメガネ型にすることではなく、五感を使って感じる体験そのものです。

このプレゼンの中でMiesnieks氏は現在のARアプリの問題点として、「それぞれの体験が分離してしまっている」と述べています。実際に現在ある多くのARアプリでの体験は個人単位で消費されており、特定の場所との繋がりを持ち合わせてはいません。

NianticがリリースしているPokémon GOでは個人のスマホの中でポケモンが登場するものの、出てきたポケモンは複数のデバイスで共有されていません。また、一度捕まえたポケモンも捕まえた場所との関係は失われています。

この問題を解決する技術がAR Cloud
散らばっているAR体験を結びつけるプラットフォームです。

そしてリアルに存在するモノ全てに新たな意味付けをする技術でもあります。

AR Cloudはすでに誕生している

AR Cloudの名付け親はAWEの設立者でもあるOri Inbar氏です。

昨年4月にMediumに投稿されたこの記事の中でOri Inbar氏はAR Cloudの誕生を宣言するとともに、AR Cloudを下記のように定義しています。

A persistent 3D digital copy of the real world to enable sharing of AR experiences across multiple users and devices. (複数のユーザーとデバイスがARの体験を共有するための持続性を持つ現実世界の三次元デジタルコピー)

現実に紐付けられたデータを絶えずアップデートをすることによって、現実をリアルタイムで反映したソフトコピーを作り保存することがAR Cloudの主な機能です。

現在、AR Cloudは大きな概念となって、様々な名前で呼ばれています。
デジタルツイン、リアルタイム地理空間マップ、パラレルデジタルユニバース、スーパーバース、メタバース、ミラーワールド、リアルワールドウェブ、スペイシャルウェブ等々。

いくつかの企業は独自のAR Cloudを構築するプロジェクトを進めています。
その中の一つ、Magic Leapは「Magicverse(マジックバース)」と呼ばれるARCloud構想を発表しています。

このコンセプトは昨年、Magic Leap Oneの販売が開始されると共に話題になりました。

(画像参考:Magic Leap

Magic Leapはこれを『モノとデジタルを結びつけるシステムの総体』と定義しています。

上の画像にあるように、世界が「Physical World」「Digital World」に分かれていて、その上に様々な層(レイヤー)が存在しています。AR Cloudは「Digital World」そのものであり、「Spatial Application Layers」を成り立たさせているプラットフォームです。

三次元デジタルコピーを創出することによって、現実の場所にも新たな意味付けと関連付けがなされます。それぞれの層はARデバイスを通して認識することができ人々に共有されるようになります。

次世代のコミュニティの基盤としてMagic Leapが提唱している「Magicverse(マジックバース)」はAR Cloudの一つの将来像です。

ARCloud実現に向けて

Open AR Cloud によると、AR Cloudに必要な要素は大きく3つ。

1. 現実に紐付けされ、拡張性と共有性を持ち合わせたコンピュータによって解釈されるデータ。

2. 位置やデバイス数に関係なく瞬時に現実世界とそのソフトコピーを並列化でき、かつローカライズできる機能。

3. 現実のソフトコピー上に置かれた仮想オブジェクトをリアルタイムでデバイスを通して操作できる機能。

現在すでにこれらの条件を満たす(であろう)AR Cloudの構築が始まっています。

【代表的なAR Cloud関連のスタートアップ】

6D.ai(英):スマートフォンに備え付けてあるRGBカメラを使って、大規模なメッシュを作成できる技術を提供。

Ubiquity6(米):限定的な空間で体験をリアルタイムで共有できるARクラウドプラットフォームを構築。

Blue Vision(英):対象の現実の位置を数センチの誤差で特定できる性能と複数人での高いインタラクティブ性を兼ね備えたARCloudを提供。

AR Cloudの理想形は地球規模のソフトコピーです。

その地球規模のソフトコピーを構築することによって、自動運転やドローンそして建築等の様々な分野で情報のプラットフォームとして活用されるようになります。

まだまだ発展途上なAR Cloudですが、将来的にはSpatial ComputingのOSになることが期待されています。

*Spatial Computingについては別記事で書いています!

サービスとしてのAR Cloud

ARを利用したサービスが世の中に出始めてきましたが、コンテンツが増えるに従って重要になってくる概念が『AR as a ServiceARaaS)』。AR Cloudをサービスとして構築していこうという試みです。

IT、特にクラウドに関わっている方は、「as a Service」という単語に馴染みがあると思います。「Software as a Service (SaaS)」「Platform as a Service (PaaS)」「Infrastructure as a Service (IaaS)」等の単語はクラウド技術が発展するにつれて世の中に広まってきました。

次に出てくる「as a Service」は『ARaaS』

現在、ARコンテンツを作るためには多くの障壁があります。
三次元でのUIは今までとは違いますし、システム構築の方法も複雑になってきます。その他にも既存のやり方が通用しない場面が多く存在しています。

そんな中で登場したいくつかのAR Cloudは、機能性や構造を含めARコンテンツを作る際の多くの技術的問題を緩和することを念頭に置かれ開発されています。

その一例がPokémon GOで有名になったアメリカのスタートアップNianticが打ち出しているプロジェクト「Niantic リアルワールドプラットフォーム」です。

(参考:Niantic

創業当初から「発見」・「運動」・「実社会でのつながり」の3つを企業の価値観として掲げる Niantic は 『地球規模のAR』を目指しARaaS の実現に力を入れています。

Nianticは昨年ARプラットフォームを開発するEscher Realityを合併し、さらに コンピュータビジョンと機械学習に強みを持つスタートアップ Matrix Millとも合併をしました。

この動きの裏にある目標が「デジタルの世界とリアルの世界の間をつなぐオペレーティングシステム」です。Nianticは独自のAR ネットワーク技術を地球規模に広げることによって、デジタルとリアルの垣根を下げようとしています。

AR Cloudをサービスとして提供することによって、現実世界とデジタル世界をつなぐコストを下げ、人々のARを用いた空間インタラクションを促進する。

つまり、ARaaSの実現は同時にARの社会実装を意味します。

AR Cloudの普及を拒む壁

AR CloudはARの本来の技術を引き出すために必要な技術であり、未来の社会で普及している技術です。

一方で、乗り越えねばならない課題も多く存在しています。

その中の一つが、オープンにするか否か

AR Cloudは未来の社会のインフラです。自動運転やドローン、そして建築現場や医療現場での活用がすでに見込まれています。

しかし、その機能性・利便性は同時に巨額のお金を産むことを意味しています。今の通信技術が生活に必需にも関わらず無料にならないことと同様に、AR Cloudは一大ビジネスになる可能性を秘めています。

一方で、社会の一部がAR Cloudの利益・利便性を独占しないようにオープンにすることを求める声も出てきています。この考えは主に公共の福祉の観点から支持されています。

個人的な意見としては、ARとAR Cloudの普及のためにはオープンにすべきだと思いますが、おそらく前者のような形態になると考えています。

もう一つが、プライバシー・セキュリティの問題

AR Cloudを利用するためには膨大な量のデータが必要です。

主にカメラとセンサーで取得されるそのデータはリアルタイムで更新されねばならず、個人の情報も必要とします。つまり、AR Cloudの利便性のためにプライバシーが侵される危険がある、ということです。

セキュリティに関しても、個人情報を他人に盗まれたりすることによって、AR Cloudを利用した新たな犯罪が生まれる可能性もあります。

この他にもAR Cloudによるリスクは存在します。
技術的問題に加えて倫理的問題にも対処せねばならず、AR Cloudの普及までにはまだまだ高い壁が立ちはだかります。

地球規模のデジタルへ向けて

重要なことは、「今僕らが知っているARは本当のARの姿ではない」ということ。

個々の体験が結びついた時に初めてARは真価を発揮するのであり、そのためにはAR Cloudの構築が必須です。

Magic LeapやNianticをはじめとした企業はすでにAR Cloudの構想を提示しています。それぞれの企業が別々のアプローチをとっている一方で、ARを社会に実装するという目的は同じ方向を向いていると感じます。

僕が所属するMESONでも以前AR Cloudを利用したAR City in Kobeという展示を行いました。

これから日本でどんどんAR Cloudを利用したサービス・プロダクトが出てくると楽しくなりますね!

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

僕が所属しているMESONは「Spatial Computing時代のユースケースとUXをつくる」をテーマに掲げて活動しています。様々なアセットを持つパートナー企業と組むことによってユニークなARサービスを提供しています。
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