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サッカー旅の記事をどこに出すか超悩んでいる

実はサッカー旅系の記事が大量にストックされています。まだ成文していないものも含めると30本以上あります。字数にすると30万字なので書籍3〜5冊分の量です。

最初は書籍にしようと悠長なことを考えていたのですが、なかなかうまくいかないうちに、すごい量がストックされていきました。

書籍に出来なかった理由は所々ありますが、最大の理由はこれかなと思っています。旅の記事は軽快で楽しそうに綴るほうが読みやすいのですが、書籍原稿の場合はある程度の重さと深さが求められます。だからミスマッチでした。

もちろん名著『深夜特急』のように重厚なものもあります。しかしそれは、自身のアイデンティティを危機に晒しながらの捨て身の旅だったからこそ出来たことであって、国内のJリーグ旅で同じような要素を出すのは難しいです。裸足で徒歩の旅をしたとしても、切迫したリアリティは出せません。

「靴を履いて電車に乗ればいいでしょ」

と突っ込まれてしまうからです。国内をただ旅するという内容の場合には、「情報」や「データ」を網羅的に載せるという方法もありますし実際にそういうタイプの本も出版されています。

こちらは、スポーツビジネスという観点と共に、網羅的にJリーグ観戦のデータを載せています。当時としては役に立つ本だし、マニアにとっては見ていて面白いと思いますが、多くの人を巻き込むだけの迫力は持ちえません。

ぼくは、「どうしてうまく本の原稿を書けないのか」という苦しみに押しつぶされそうになりながら3年近く生きていたので、昨年一年は実際に書店の現場に務めました。ドロドロの現場仕事ではありましたが、書籍として出版されるために必要なものは何かという問いについては、自分なりに明瞭な答えが出ました。

そして、その答えです。Jリーグ旅の本はそう簡単には出せそうにありません。もちろん出すだけなら不可能ではないかもしれませんが、そうそう売れるものではありません。

ぼくの場合はデビュー作である『サポーターをめぐる冒険』という基準がありますが、どう考えてもこの作品を超えるだけの迫力は出せません。何度やっても駄目でした。狂った回数の書き直しをしましたが、根本的なテーマの問題なので直しようがありません。

であれば企画から考え直すという方法もあり、編集者とも相談しましたが、良いアイデアは出ずでした。むかし作家の田崎健太さんに「うまくいかないテーマは一回全部捨てたほうがいいよ」というアドバイスを頂いたのですが、その時はまだこだわりがあったので「もう少し頑張りたい」と答えました。

しかし、田崎さんのように文筆業で成功している先輩のアドバイスを一旦聞き入れて、全部捨ててみるほうが良かったのだと思います。最近読んだ本にも、「成功するやつは、言われたことをすぐにやる」というシンプルな原則が書いてありました。そういった理屈においては、ぼくは失敗のスパイラルに入っていたのでしょう。

もちろん、我がないと良い文章は書けません。ただ、アドバイスを頂いたときは、それに従って、しっかりと考え、シミュレーションしてみることが大事だったと反省しています。

サッカー旅についての記事は非常に魅力的だと思っています。

煌めくような旅の記録ですし、Jリーグ(あるいは日本代表)がなければ味わえなかった類の特別な喜びに満ち溢れています。一方でそれは、商品としてはニッチです。そうそう売れていくものではありません。そもそもサッカー本という分野自体がそれほど売れるものではないですし、その中でもJリーグの本はなかなか厳しいです。

そんな中、お笑い芸人の平畠啓史さんが、Jリーグの旅についての本を出版されました。

東京で一番さわやかなサポーターと言われている、ことぶきさんから「これって中村慎太郎がやりたかったテーマじゃないか」と突っ込まれたのですが、まさしくそのとおりです。もちろん書き口などは大きく異なりますし、同じテーマの本を出すことも可能でしょう。

ただ、この本はどれだけ人気が出てもそれほどは売れないと思います。ベストセラーになる可能性はゼロではないですが、極めて低いです。開幕時のような猛烈なJリーグブームが訪れない限り、いや、訪れたとしてもなかなか厳しいと思います。これは元書店員だから断言できることです(もっとも、書店員や出版社の人間の予測が裏切られることもよくあるのが、この業界の面白いところでもあります)。

そんなに儲からないのに本にしてどうするんだと思われるかもしれませんが、書籍というのは活動の名刺になります。サッカー解説をはじめ、豊富な知識をもとに仕事を増やしている平畠さんが、Jリーグの専門家であるということの証明になる一冊なのです。この本を切っ掛けに、今後さらに仕事を増やしていくことが最大の動機であって、本で稼ぐというのはあくまでも副産物なのではないかと思います。

ちなみに、この本の版元は「ヨシモトブックス」です。書籍の出版が仮に赤字になったとしても、タレント活動での売上と合わせて収支が取れれば、グループとしては損はしないという計算もあるのではないかと思います。そして、赤字にならない程度に売るのは、実は難しいことではありません。

こういった企画の本が出版できるのは、やっぱり有名なタレントさんであるからというのが大きいかと思います。だからといって本の価値が下がるわけではありません。好きな人にとってはかけがえのない本だと思います。ただ、本を出す上で大事なのは、特定の分野の人以外にも売れる本かどうかです。そういう意味ではかなり厳しい戦いになります。

サッカー本大賞を取った能町みね子さんの本も同様です。こちらも内容はとてもおもしろいのですが、無名の著者が書いたところで売れたかどうかというと怪しいです。あくまでも、能町さんがこれまで書いてきた文章と、能町さんのファンがいるからこそ出版され、売れていった本だろうと分析しています。


そんな中、まったくの無名の新人に、しかも「サポーター」というニッチなテーマで本を出させてくれた出版社「ころから」さんはやはり相当な攻めをしています。今思うと怖い話です。そして、そんなぼくが、一発目の本で賞を取れたのも、わけがわからない話です。それはそれで一つの成功譚なのですが、ぼくはタレントになったわけでもないし、多数のファンがいるわけでもありません。

文章を書く技能はある程度ありますが、認知度としては一般人です。つまり、芸能人では絶対にありません。そんなぼくがJリーグ旅の本を出すのは、非常にハードルが高く、同人誌として出すのが正解だったかもしれません。

「早く次の本を出せ」

と事あるごとに言われました。結果、人前に顔を出すことすら嫌になってしまったのですが、1冊の本になるだけの原稿ははるか昔に書き終えていました。

しかし、その原稿は本として出版されるだけの迫力を持たないのです。

とはいえ、ウェッブ記事としては十分すぎるほど強力なものばかりで、noteの有料記事として出そうかなとも考えています。

ただ、無料で出すとなるとは原稿料はないので、多額ではなくてもある程度のマネタイズは必須です。ただ、個人で有料記事を書ていくだけでは、あまり大きい話には出来ません。出して、売って、それで終わりです。それでもやらないよりはずっといいのですが。

フリーランスの書き手はとても脆弱な存在です。せっせと記事を納品して、記事が作れなくなったら誰からも必要とされません。それでも、一人で書くしかないので書いていましたし、旅の記事についても、いくつかは一人で出しました。

でも、このままじゃつまらないなぁということで、「共同編集マガジン」でサッカー旅について書くという企画を思いつきました。ぼくは主筆として書くとして、ぼく以外にも様々な方が記事を書いていくマガジンです。月額いくらのマガジンにすれば、マネタイズも出来ます。

ただ、収益額をどう配分するのかとか、原稿の依頼と締切などのスケジュール管理をどうするのかとか、そういったことを一人でやるのは無理なのです。ぼくの能力では絶対に無理です。ぼくはあくまでも、文章を書くスペシャリストであって、プロデューサーではありません。

面白くないですか?

色んな人の、色んな視点のスポーツツーリズムが読めるマガジンって。実は共同マガジンにするのが面白いよって、cakesの深津さんに直接アドバイスして頂きました。そんなところから、ぼんやりと生まれたアイデアです。

「もしやるなら寄稿するよ!」と写真家・ノンフィクションライターの宇都宮徹壱さんからも言って頂いています。我ながら魅力的な企画だと思います。こういった企画なら、ビジネス的に頓挫して続きが書けなくなっているブラジル本『Jornada』の続きを書いていくことも出来ます(これは別口でもいいんですけど)。

ただ、参加者が増えて、企画が魅力的になっていけばいくほど、ぼくのタスク管理能力では手に負えなくなります。プロデューサーと、スケジュールや実務を管理する人が必要です。売上の管理と振込なんて、ぼくのようなトンカチ頭には、東大受験よりもはるかに難しいことです。

また、輝くように素晴らしい記事が集まってきた場合には、それをまとめて出版するという方法もあります。Zin(ちょっとお洒落な同人誌)のような形出せば間違いなく実現できますが、それにともなう実務はなかなかハードです。本を作るのは本当に大変だからです。ただ、サッカー仲間と一緒に旅の雑誌を作るというのは、非常に魅力的な話です。

というわけで、共同マガジンを頑張って作るのか、それとも、えいやっと個人で出してしまうのかついて、考えるのですが結論が出ないまま、転がしています。

というわけで共同マガジンを一緒にやってもいいという方がいたら是非お声がけ下さい!!あるいは別の良いアイデアも歓迎です。

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この記事を読んだ円子文佳さんが声を掛けてくれたこともあって、プロジェクトは動き始めました。ここに書いてあるように、書き手として寄稿できるメディアがないから、自分で作らないといけないなという動機から始まっています。

そして、何度もディスカッションしたことによって、Project OWLが誕生しました。是非フォローをお願いします!



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