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サッカー記事キュレーションとは


サッカーメディアに関わるようになって気づいたのは、キュレーターがいないことです。

キュレーターという言葉は、元々は博物館や図書館の館長を意味しています。博物館の機能は、価値があるサンプルや資料などを収集し、保管や展示を行う場所です。

ただ、何でもかんでも集めればいいというものではありません。コレクターとキュレーターは違います。

ある程度の量を集めることは大切ですが、博物館の場合には、保管にはスペースが必要ですし、管理する手間や費用もかかります。また、展示する場合には、その資料の意義がわかるように説明する必要があります。

「日本の縄文時代」とか「齧歯類の進化と人間生活の関わり」とか「どのように深海生物が発光機能を得たのか」のように、意味づけしていないとわかりません。

何でもかんでも雑然と並べるだけでは珍品館とか、酷いときはゴミ屋敷のようになってしまうかもしれません。

集めてくること、一つ一つのサンプルに価値付けをすること、一般の人にも理解できるように展示すること。これがキュレーションという仕事です。

サッカーメディアにキュレーションという仕事が必要かと思った理由は3つあります。

まずは、インターネットメディアが盛んになったこともあって、記事の量が非常に多いことです。特にワールドカップなどの話題性が高いイベントの前後には、普段はサッカー記事を掲載していないメディアも、こぞってサッカー記事を出し始めます。

全部読めと言われても、探すだけでなかなか大変です。ワールドカップ期間の前後に関しては1ヶ月に100本以上は出ているはずです。小さなものや、内容が重複するものを含めれば500本くらいあるかもしれません。あるいはもっと!

次に、多数ある記事には、良記事からまったく根拠がないゴシップ記事までもが含まれています。その差が、普段サッカーを見ない人にはわからないような形で紛れてしまっています。

良記事とダメ記事の違いについて大まかにまとめました。ver.1(後で更新するかも)。すべての要素を満たしている必要はなく、良記事の条件が1つか2つ満たされていれば良記事と考えています。逆に一つもない場合には評価が難しいです。ダメ記事として紹介することはあるかもしれませんが。

かつては専門誌がキュレーターとして機能していた面もありましたが、近年の出版不況の影響もありプレゼンスは下がっています。

現在でも出版されている専門誌は非常に内容が濃いので、そちらを読むことを強くお勧めできます。ただ、サッカー界は動きが速いため、情報を伝える手段として専門誌が機能しなくてなっています。

なので、最近では専門誌もオウンドメディアを持っていて、雑誌機能を補完しています。

良記事かダメ記事なのかを見抜くにはある程度の経験が必要です。特に著者が何者なのかについては重要です。サッカーメディアでは記名記事を書くのが当たり前なので、サッカーファンは著者を見ただけでも記事の内容をある程度察することが出来ます。

普段どういう取材をしていて、誰と関係性が深くて、文章力はどのくらいあって、感情的なのか、冷静なのか、理論派なのか、感覚派なのか、人間味があるのか、冷たくビジネスライクなのか。

例えば、特定の選手と仲が良く、その選手にとってのポジティブな記事を書くことで有名な書き手もいます。それが一概に悪いとは言えません。しかし、その選手にとって都合の悪いことは書かないだろうという色眼鏡をかけて見ていく必要はあります。

このあたりの特徴を捉えておくと、記事がさらに理解しやすくなります。サッカークラスタの人たちは、概ね誰がどんな記事を書いてきたかを知っています。サッカークラスタにいつも賞賛される書き手もいれば、犯罪者扱いされている人もいます。

いわゆるサッカークラスタの人たちは、自分の興味に近い分野については、ほとんど全記事を読んでいます。そして、記者のほうも、変なことを書くとサッカークラスタにたこ殴りにされることもあり、どうしても専門的な内容に偏りがちです。普段はサッカーを観ていない一般向けに記事を書くことも可能なはずですが、器用に書き分けている人は多くありません。

また、サッカーについて書いていると過激な人格批判をされることはよくあります。スポーツという分野は多くの人が関心があるし、みんな我がことのように真剣に捉えます。そのため、過剰なまでの暴言が飛んでくるのは日常茶飯事です。

しかし、飛んでくる批判が気になっていたら何も書けなくなります。批判に負けないためには、強い信念を持つしかありません。信念を持てない書き手は、次々と筆を折っていきます。残っているのは、筋金入りの書き手ばかりです。

だからこそサッカーメディアは面白いのですが、記事を読み、体系づけていくには敷居が高くなっているように思います。

最後のポイントがキュレーターの腕の見せ所です。良記事を見つけてきた上で、ある程度のテーマ付けをして陳列していきます。

2018年の4月9日にヴァヒド・ハリルホジッチ日本代表監督が解任され、大きなニュースになりました。どうしてこれが起こったのかを理解しようと思うと、お金で揉めたとか、スキャンダルがあったという単純な話ではないことがわかります。

この件について学ぼうを思うと以下のように整理していく必要があります。博物館の展示に喩えます。

展示1「英雄ハリルホジッチの半生」

展示2「サッカー戦術の世界的潮流ー盤上ゲームとしてのサッカー」

展示3「ハリルホジッチを慕う選手と嫌う選手。それぞれの背景について」

展示4「日本社会の典型的な組織としてのサッカー協会と意志判断機構」

展示5「日本代表監督とサッカー協会の関係性の歴史を紐解く」

展示6「日本人監督の可能性と西野ジャパンの展望」

展示7「日本のサッカーの将来的な展望 W杯で優勝する日は来るのか」

……と、このようになります。それぞれのサッカー記事は、同じ「ハリル解任」について書いている記事でも、それぞれの狙いがあるわけです。なので、テーマごとに整理しないと、わけがわからなくなっていきます。

サッカークラスタに分類される人々は、記事を読むことはしていますが、このように「体系づけた整理」をしている人は少数しかしていないように思います。

また、サッカーライターも、自分の記事を書き上げて、紹介することが中心で、他人の記事を紹介したり、他人の記事と自分の記事を見比べながら、テーマを論じると言うことはあまりしません。そんなことをしても仕事にならないからです。

また、当然ではありますが、サッカーメディアも、よそのメディアの記事は紹介しません。

有名ツイッターアカウントなどは、ある程度キュレーターとして機能していますが、後から読み返す「アーカイブス」としての機能はありません。昔の記事を検索して探すことはもちろん可能ですが、現在流通しているものを探すよりも難度が上がります。そのため、記事をまとめておいて、後からでも読み返せるようにしておくことは、資料としての価値もあるのかなと思っています。

現在は、記事が多数生み出されカオス状態になったことで、その中から良記事を見つける難度が高まり、またテーマごとに分けて整理することをしないため、大きな流れが掴みづらいというのが現状です。

というわけで、私、中村慎太郎はサッカー記事博物館の館長に就任しました。キュレーター業務開始です。

大学院で4年間研究生活をずっとしていたので、キュレーションには慣れています。研究には、関連する論文のキュレーションが不可欠だからです。

中村慎太郎
作家/ライター/お喋り屋
クリエイティブ・スポーツ・ビジネスの三本柱をより所に活動中。

東京大学文科Ⅱ類から文学部思想文化学科に進学し、宮沢賢治の生命観について学ぶ。東京大学大学院大気海洋研究所に進学、アワビ類の行動生態および繁殖生態について研究。博士課程2年で中退。

ブログに綴った『Jリーグを初観戦した結果、思わぬ事になった』が、2日で10万ページビューのバズ記事になる。以降一連のJリーグ観戦を綴ったデビュー作『サポーターをめぐる冒険』(ころから)がサッカー本大賞2015を受賞。

ブラジルワールドカップへの1ヶ月の滞在を電子書籍『Jornada copa do mundo2014』(インプレッション)にまとめる(未完)。

2018年4月のハリルホジッチ日本代表監督の際に綴った『ハリルホジッチ解任でサッカークラスタが発狂している理由』が、30万ページビューを越えるバズ記事になったことから、サッカー界で起こっていることをわかりやすく伝える役割が必要だと気づく。


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2018年
4月14日公開 Vol.1『ハリルホジッチ監督の緊急解任の波紋
4月18日公開 Vol.2『ハリルホジッチとは何者だったのか
4月26日公開 Vol.3『ハリルホジッチ監督の会見直前に出た良記事まとめ



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