「この世で一番美味いものは鯛飯である」 FC今治とは誰の夢なのか Part4


FC今治とHondaFCの熱戦が終わった。

試合というものは終わってしまうとあっけないものだ。熱気に包まれていたありがとう.夢スタジアムから、三々五々観客たちが帰途へと着く。

さあ行こう。次の現場が待っている。

ワカメ採集である。

宇都宮徹壱さんから紹介していただいた矢野さんに、翌日の月曜日、船釣りに連れて行って頂くことになっていた。その矢野さんから、試合前に電話がかかってきて、突然ワカメ採集の予定が入った。このことは、前にも触れた。

今ぼくがするべきことは、矢野さんと合流して、ワカメ狩りに連れて行ってもらうことだ。


1時間後……。



こんな服装になっていた。

砂場港に停泊してある矢野さんの船に荷物を積み込み出航の準備をしていると、隣の船に乗り込んでいた方が声をかけてきた。

どうやら一緒に行こうと言っているらしい。結局、隣の船の持ち主(お名前は失念してしまったが、焼き鳥屋さんをしている方のようだ)と、中学壱年の娘さんを加えて、出向した。

あ、そうそう。旅の道連れに横堀ミラノ(@milano_yk )さんも加わっていた。

前日、宇都宮徹壱さんとイベントに来場していた方なのだが、どういう経緯かワカメを採りに行くことになったらしい。

今治では摩訶不思議な出来事が次々と起こる。

女子大生が突然、ワカメ狩りに行くことになったとしても驚くには値しない。

漁港までの道々も色々なことがあったのだが、割愛する。とにかく船が出航したところまで話を進めよう。

そうだ、一つだけ説明しなければいけないことがあった。

ぼくは矢野さんのことを漁師だと思っていたのだ。

矢野さんは、自分の漁船を持っていて、毎日鯛釣りに出かけている。だから。漁師だと思っていたぼくに落ち度はないはずだ。

矢野さんは、「松本山雅的な人物」だと勝手に思っていたのだ。すなわち、FC今治というサッカークラブが活動し始めたことで、地元の漁師さんが生まれて初めてサッカー観戦に興味を持った。そんなストーリーである。

しかし、それは間違いであった。

間違いも間違い、大間違いである。


矢野敏宣さんは、FC今治の前身となる今越(いまお)フットボールクラブの創設者なのである。


FC今治のホームページにも、育成アドバイザーとしてプロフィールが掲載されている。

スタッフ紹介ー矢野敏宣


違和感に気づいたのは試合後のことで、矢野さんを探して今治サポーターの知人に声をかけると、「今、解説席だよ」と言われたのだ。

解説席?!


ここで矢野さんがサッカー関係者であることを初めて知ったのだ。どうやら今治のサッカーを語る上では、外すことのできない超重要人物らしい。釣りの話しかしたことがなかったので気づかなかったのだ。

さておき、ワカメ狩りである。

瀬戸内海、来島海峡のワカメをどうやって採集するのかには興味があった。ウェットスーツを着る気配はないが、矢野さんは胴長と呼ばれる腰まで入水できるスーツを着ている。どうやら潮間帯と呼ばれる引き潮時に海面に露出するあたりで採集するらしい。

漁港を出て、いざ来島海峡へ。

堤防には釣り人が見える。どうやら、メバルの類を釣っているらしい。ぼくの持ってきた釣竿をここで使えば、良い獲物が取れそうなのだが、さてここまではどうやってきたものか。


うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!


思わず声に出た。漁港の外は、明らかに異常な海流であったからだ。もっとも、異常というのはあくまでもぼくの感想ではあるのだが、未だかつて見たことがない流れであった。

あるところでは、昭和式のお風呂のように、ボコボコと海水が湧き上がっている。と思えば、その周りでは物凄い勢いの渦ができている。海流は速く、何がどう流れているのかまったく意味がわからなかった。

まるで渋谷のスクランブル交差点のように、あっちこっちへとケイオスティックに流れている。海洋研究者として何度も乗船したことはあるのだが、こんな光景は初めて見た。

極めて海流が速く、海底地形が複雑だからこそ、このような流れになるのだろう。ぼくが大声で叫んで驚いていると、矢野さんは少しニヤニヤしていた。ミラノさんは何に驚いているのか理解できない様子だったが、クルージング自体は楽しんでいるようだ。


20分ほど航行するとワカメ狩りのポイントへと到着した。

クイズ!どれがワカメかわかるかな?!

こういった場所は、「潮間帯」と言って、満潮時には海水に水没し、干潮時には海面上に露出します。ちなみに英語で言うとインタータイダルエリアです。

特徴は、横方向に帯状に生物が分布していることです。海水からの露出度が異なるためにこういった分布になる。

一番上のほうにはフジツボなどがあり、その下にあるモシャモシャした海藻がヒジキです。そして、海面ギリギリのところにあるのがワカメ。海水の中に見える緑の物体もすべてワカメ。

さて、このエリアに船を近づけてボートで上陸する。

こちらは一人戦力外通告を受けて母船でお留守番しているミラノさん。ちょっと寂しそうであった。

というのも無理もない話で、海藻の上はとても滑るので素人が普通の靴で来ると非常に危ない。濡れたヒジキの上を歩くのはコツがいる。ぼくはヒジキの上を歩くのに慣れているので、ヒジキの下の岩を見ながらしっかりと足場を選ぶことが出来るが、間違ったところに足をついたらツルっと滑って体中ズタズタになることだろう。

危ない場所なので子供などは間違っても連れて行かないほうがいい。とはいえ、今治で育った子供はたくましく、中学一年生のお嬢さんは軽々と動き回ってワカメを回収していた。


ワカメ採集は腰に悪い。

ということを身体で理解するまでにはあまり時間がかからなかった。

水面下に付着しているワカメを根っこのところから、鎌で刈り取る作業なのである。水面下ということは、つまり、足底よりも下にあるものをかがんで取らねばならぬのだ。田植え作業を超える、マイナスの腰曲げ作業である。

滑る足場でかがみ続けるのは非常に腰に悪い。ちなみにワカメの下部は太くなっていて、この部分をメカブという。刻んで食べると美味しい。

次から次へとワカメを刈り取り、コンテナへと移していく。


ワカメを見つける。刈り取る。ボックスに入れる。


ワカメを見つける。刈り取る。ボックスに入れる。


ワカメを見つける。刈り取る。ボックスに入れる。


ワカメを見つける。刈り取る。ボックスに入れる。


やっているうちにワカメがなくなるんじゃないかというのは無用な心配で、潮が引いていくため、次々に新しいワカメが露出していく。終わりなき作業である。

これがボックスに入ったワカメである。この倍くらいワカメが入る。

侮ってはいけない!!

ボックスに入ったワカメを侮ってはならぬ!!

どういうことかというと、濡れたワカメは非常に重いのだ。だから、ボックスにたっぷり詰めると凶悪な重さになる。おそらく20 kgちかくになっていたはずだ。

この鬼のように重いコンテナを、ツルッツルに滑るワカメの上を歩いて運んでいかねばならない。コンテナは確か6~8個くらいあったと思う。中一のお嬢さんは当然もてないので、大人の男が持たなければならない。

本当に重かった。この時の腰へのダメージは東京に戻ってからも1週間近く取れなかった。

このボートにワカメを積み込んで、ミラノさんが待つ母船へと戻るのだが、重量が重いと簡単にひっくり返りそうになるので必死である。

というわけで、潮も満ちてきたのでワカメ狩りを終えて、砂場漁港へと戻っていった。

漁港へ戻ると、長野先生が車で迎えに来てくれていて、ミラノさんは今治駅へ、ぼくはどこぞの焼き鳥屋さんへと連れていって頂いた。大変楽しい飲み会だったのだが、永遠に今治記事が終わらなくなってしまうので割愛させて頂く。

そして、翌朝はタイ釣りと、この世で一番美味しいごはん。これまで食べたことのあるどんな料理よりも美味しかった。最高の鯛めしについてレポートしようと思う。

この世で一番美味しいものをどうやって表現するべきなのか。正直言って表現力の限界を超えていると思うのだが、それでも格闘してみようと思う。


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壮絶だった今治紀行もこれでおしまい。年内にもう一度訪れるつもりではあるが、すべての予定は未定なので確たるものではない。

この旅を、「壮絶」という言葉で言い表すのが最適かどうかは正直よくわからないのだが、ぼくにとっては人生を変えるような「壮絶」な旅であったように思える。飲みに飲んで、食べに食べた。そして語るに語り、眠る時間はあまりなかった。

この今治紀行も書くのに随分と時間がかかってしまったのだが、それだけ多くのことを感じたからこそなんだろうと思っている。速さばかりが注目される世の中なのだが、自分の身のうちで何度も反芻してこないと出てこないものもあるし、それだからこそ生まれる価値もあると思っている。

こういった旅の結末は、無料部分に残したい気持ちもあるのだが、OWL magazineというプロジェクトは後半部分が有料になるシステムになっているので、どうしても最後の結末は購読者様に限定されることになっている。

いつか、OWL magazineの傑作選などを紙の媒体で出版できればまた話しが違ってくると思うのだが、よくよく考えると紙の媒体こそ有料である。

文章を書くにはそれなりの手間がかかり、精神的にも消耗するので、長く続けていこうと思うとどうしても有料にする道を模索するしかなくなるのだ。そういったコンセプトに賛同して頂ける方が毎月増えていることは非常に嬉しいことで、今後とも是非OWL magazineにお付き合い頂ければ幸いである。

というわけで、書いていこうと思う。

来島海峡での釣り、海原雄山もうなる究極のメニューと、FC今治とは誰の夢なのかについて——。

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中村慎太郎

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