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ゆっくり沈む大きな客船

大きな大きな豪華客船。かつては栄えた場所だった。

だけど今はどうだろう? 古くなって劣化して、水が入ってきてるよ。危ないよ。

船の底に空いた穴、乗客みんな気づいてるけど、直せる人は一人もいない。

みんなここに慣れすぎた。美味しいお酒もお食事も、まだまだ倉庫に残っているし、楽しい宴はやめられない。ゆっくり沈むを見ないふり。

余生少ない老人たちは、逃げ切ることしか頭にない。「まだ生きる人はどうするのかね?」知らん顔して茶を啜る。

「ここにいたら危ないよ。降りようよ」家族や友人、大事な人に、必死になって訴えたけど「怪しい!」「宗教?」「スピリチュアル?」石を投げられ嘲笑われる。

信じてくれないことなんかより、愛する人との別れが辛い。それでも再び会えると信じ、一人で船を降りると決めた。

「船を降りたら危ないよ」「外にはサメがいるんだよ」小さいころからそう教わって、怖かったのに拍子抜け。

船を降りたその場所は、古い棲家が見えないくらい、広くて明るい場所だった。

「この先ずっと一人でも」覚悟を決めて出てきたけれど、先に抜け出た人たちが、明かりを灯して待っていた。

痛みを分かつ友人ができ、未来について語らった。出会ったころに泣いてた彼は、すっかり笑顔を取り戻し、小さいころから大好きだった歌を歌って暮らしてる。

大きな大きな豪華客船。ますます深く沈んでく。

大きな大きな豪華客船。乗ってる間は気づけない。

大きな大きな豪華客船。宴の終わりを知らせる朝日が、そろそろ昇る時間だよ。





Cover photo by Uta Scholl




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