75回目の8月15日。あの戦争を振り返る。

8月15日、敗戦から74年。敗戦記念日の思いも繰り返されるごとにパターン化し、記憶が風化していくことにあせりを感じます。

昨年は、双子座三重奏団とのジョイントで10月に「戦争と音楽」というテーマでライブを行いました。拙作のほか、戦争に関わる音楽を集め、中でもシェーンベルク作曲の「ワルシャワの生き残り」の清水一徹さんの編曲版など貴重なものも演奏されました。その様子はYouTubeでご覧いただけます。

https://www.youtube.com/playlist…

日中戦争から太平洋戦争まで、日本人の死者は310万人と言われています。震災と比べること自身がおかしいとはいえ、先の東日本大震災の犠牲者数の150倍です。日本がなぜこれだけの犠牲を払う戦争に乗り出して行き、原爆を二つも落とされなければ降伏できなかったのか。永遠の問いかけです。日本だけでなく第二次世界大戦ではソ連、中国、ヨーロッパ諸国をはじめ多大な犠牲者が出ているのは周知の事実かと思います。

もっとも70年余経って、いろいろなことがわかってきたのも事実です。敗戦直後には言えなかったことも言えるようになりました。逆に、戦争の記憶をとどめる人が少なくなり、忘れ去られる部分も出てきました。しかし、厳然たる事実として日本にはいまだに米軍が進駐しているままです。この一時をとってみても、「われわれの戦争」はまだ終わっていません。

昨年の「戦争と音楽」ライブでは拙作『ポツダム宣言』の再演と「コラージュ~浦賀から真珠湾へ」の初演が行われました。『ポツダム宣言』は連合国、わけても米国の日本に対する最後通牒であり、降伏すれば日本に民主政治を打ち建て、その後は即刻連合軍は撤退すると明言しています。

ほぼ10分で「ポツダム宣言」を歌ってしまうという荒技ですが、さすが双子座三重奏団はこれを見事にこなしてくださいました。昨年3月の初演とあわせ、聴衆のみなさんと一緒にあの戦争の意味をもう一度考えるきっかけにできたと思っています。

『ポツダム宣言』(YouTube)

もう一曲の「コラージュ~浦賀から真珠湾へ」はペリー来航(1853年)から真珠湾攻撃(対米英宣戦布告)(1941年)までの約90年間を当時の音楽とともに40分ほどで振り返るという企画でした。最初の引用は端唄の「京(みやこ)の四季」。それはそれは典雅といっていいものであります。徳川300年の平和にまどろんでいた日本に、米国艦隊が捕鯨のための基地とするため、日本に開港を要求してやってきました。米国は今では日本の捕鯨に反対しているのですから皮肉なものです(笑)

しかし、日清・日露の戦役を経て、日本の輿論は大きく変わっていきます。アジアの後進小国から列強に伍する大国への道。壮士演歌を聞き、鴨緑江節を聞き、満州関係の曲を聴くうちに日本人のものの見方が偏狭で大きな誤解に基づいていたことがおのずと明らかになります。

途中で川島芳子作詞の歌も出てきます。日本名「川島芳子」は、清朝の皇族・第10代粛親王善耆の第十四王女。本名は愛新覺羅顯㺭(あいしんかくら けんし)。男装の麗人でありますが、溥儀とともに戦争によって大きく運命を変えられてしまったお一人といえるでしょう。中国もこの時期、アヘン戦争以来欧米列強に蹂躙され、さらに日本にも侵攻されたのにも関わらず、統一の取れた動きができずに徒に犠牲を増やして生きます。もっともそれが日本の侵略を正統化することにはなりません。

「コラージュ」は日本の「流行歌」史を追っていきますが、昭和初期までは庶民の反骨精神・批判精神というものが感じられます。ベルサイユ会議に出かける西園寺公についてもひややかな視線が感じられます。それが完全に姿を消すのが昭和10年代です。それでも日本の庶民の生活は苦しいながらも日々営まれていますが、十数年の総力戦が日本を完膚なきまでに消耗させるのです。

「コラージュ」最後の引用は斉藤信夫作詞・海沼實作曲の「里の秋」です。よく親しまれた童謡ですが、最後の聯は次のように結ばれます。「さよならさよなら椰子の島/お舟にゆられて帰られる/ああ父さんよ御無事でと今夜も母さんと祈ります」これは戦地に赴いた父を母と子が思いやる歌です。

もちろんたった40分ですべてがわかるはずもありませんが、「コラージュ」を通して聞いていただくと、日本の破滅へと向かった90年間の日本の「空気」がおのずと浮かび上がってくるように思います。まずは、強大な武力を持つ西洋列強に追いつきたい必死の努力、列強は近代化してきた日本を都合のよいように利用しますが、一線を越えて「増長」したと見るや今度はこれを叩こうとする。まったく勝手なものでありますが、感情的になってしまった日本の輿論はどんどん攻撃的になっていき自滅します。

敗戦記念日にあたって、もう一度、日本の歩んできた道を振り返ってみることも大事だと思います。「コラージュ~浦賀から真珠湾へ」双子座三重奏団の演奏はこちらで視聴いただけます。


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